419 名前:ss 1/2 安心できる匂い[sage] 投稿日:2012/02/01(水) 10:55:44.04 ID:x56kxsNo0 [1/5]
あたしは今、とあるミッションを果たす為、京介の部屋の前に立っていた。
あの日から、幾度となく訪れたこの部屋。
やっと歩み寄れたあたしにとって、以前は嫌悪すら感じていたこの部屋は、今ではむしろ居心地の良さを実感できる居場所となっている
――しかし。
あたしがメルルのDVDを探すために京介の部屋に入ったあの日に感じた違和感。
それを、そのままにしておくわけにはいかない。
その違和感とは。
京介の部屋の、匂いである。
男性の匂いに慣れていないあたしは、久々に入った京介の部屋の香りに強い不快感を感じたことを覚えている。
京介はそんなに部屋の匂いなんか気を遣うほうでもないので、やはり男性特有の汗の匂いが残ってしまうのだろう。
まったく、年頃の高校生なら、ちょっとは考えろっての。
ただでさえ、毎日みたいにチョー可愛いあたしが遊びに来るってのに……。
ん、まぁ、最近は行き慣れ過ぎてあまり気にした事は無かったんだけどね。しかし今日は「匂いの日」。
折角のこの機会に、京介の部屋をあたし色に……じゃなく、清潔な香りに変えてやろう、というワケ。
手にはファ○リーズと、見慣れた芳香剤。あたしの部屋に使っているものとおんなじヤツだ。
京介にはあらかじめエロゲーの調達を命じておいたので、小一時間は帰ってこない。
部屋に入ったら、まずはファ○って部屋の香りをリセット。その後芳香剤を置いて出てくる。
そう、たった数分の作戦。失敗なんか有り得ない。あたしの作戦は、カンペキ。
あいつ、帰ってきた自分の部屋があたしの匂いになってたらどう思うかな? 桐乃の匂いがする、とか考えて興奮しちゃったり?
うひゃああああヤバイヤバイヤバイって! ほんっとシスコンは始末に負えないんだから! キモっ♪
一通り悶えてから、あたしはおもむろにドアノブをひねった。
既に見慣れてしまった京介の部屋。いつも呆れた顔で振り向いてくれる部屋の主がいないその光景は、なんだか少し寂しく感じる。
一歩足を踏み入れると、確かに廊下のそれとは違う香りが、あたしの鼻をくすぐる。
だけど。
あれ? 全然嫌な匂いじゃなくない?
汗の匂いもしなくは無いケド、それよりも強く「京介の香り」を感じる。それは全然、ホントに全く、不快感なんて感じなかった。
420 名前:ss 2/2 fin 安心できる匂い[sage] 投稿日:2012/02/01(水) 10:57:13.87 ID:x56kxsNo0 [2/5]
そりゃそうだ。あたしは、この香りにどれだけ助けられてきた事だろうか。
昔の大好きだった京介を求めて相談したあの日。泣いているあたしに、俺に任せろって微笑んでくれたときのあの笑顔。
そして、アメリカでの再会。
全部全部、あたしにとっての宝物だった。この思い出が無くなったら、あたしじゃなくなってしまうほどに。
そしてその全ては、この香りと共にあったのだ。どうしようもなく困ってるとき、切羽詰ったとき、会いたい時。
この香りが、あたしの心を鎮めてくれた。
あたしはファ○リーズを取り落とす。
あたし色に、なんて傲慢だったかもしれない。あたしにはあたしの、京介には京介の香りがあって当たり前なのかもしれない。
――だって、あたしはこんなにも落ち着くんだから。
「あーあ。なにしてんだろ」
一人ごちて、ベッドに横たわる。
と同時に、濃厚な京介の香りが溢れ出した。
心臓が一瞬で鼓動を早める。顔が熱い。
な、な、なにこの破壊力……! さっきまで安心できると思っていたこの香りは甘美な麻薬と化して、あたしを興奮の坩堝へと誘う。
ベッドの上は濃度が違う! 京介が毎日ここに身を沈めて眠っているんだ、当然のこと、当然の事なんだケド……!
鼓動は鳴り止まない。目を閉じると京介に包まれている錯覚に陥る。ちょ、ヤバイって! 兄妹だよ? そんなに強く抱きしめられたらお
かしくなっちゃうって!
不意にあたしの部屋の香りが混じり出す。ああそうか、芳香剤は封を開けて持ってきたんだったっけ。
あたしの香りと京介の香りが交じり合って、つまりあたしと京介が交じり合って、ああなに言ってんだろあたし。
違う違うだけど違くなくて、抱きしめられた体がどんどん敏感になっていって、んぅ、なんか下腹部がムズムズするし、何か頭とかふわふ
わして何も考えられなくて、ふぁああ。なのに京介のヤツ全然離れてくれないからもう……もう……!
ヘブン状態!!
…………
……
「ただいまー」
あれ? 桐乃のやつ、部屋にいないのか?
いつもなら帰ってきた瞬間に「買えた!?」って飛びついてくるはずなんだが。
妙な静けさに違和感を覚えながら、とりあえず俺は自分の部屋のノブをひねる。
そんな俺の目に飛び込んできたものは――
「ん……なぁっ!」
甘い芳香剤の匂いに包まれた俺のベッドで、痙攣しながら笑う妹の姿だった。
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最終更新:2012年02月02日 23:42