907 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/02/13(月) 19:03:48.50 ID:/ryLjRWLP [3/6]
『兄枕』
眠い。ちょー眠たい。
やっぱり昨日調子に乗って夜更かししすぎちゃったよね・・・。
だって昨日は一時間ぐらいしか寝てないし。
あんな先の気になるエロゲは久しぶりだったもん。ついエンディングまでノンストップでやっちゃった。
おかげでこんなことになってるわけだケド。
学校でも居眠りしかけちゃって先生に注意されちゃうし。
普段の行いがいいから注意だけで済んだからよかったけどさ。
あやせにも心配かけちゃって、誤魔化すのに苦労したもん。―――もしかしたら気付いてるかもだケド。
学校からの帰りの道すがら、眠気でぼーっとする頭でそんなことを考える。
その足取りはとてもしっかりしてるとは言えない。
フラフラと体が揺れているのが自分でわかるほどだ。
「・・・・・・マジでやばいカモ」
部屋に戻る余裕、あるかなあ・・・・・・。
瞼が下りてくるのを必死でこらえて帰り道を急ぐ。
途中、赤信号で歩道を渡ろうとしたり、電柱にぶつかりそうになったりと
普段ではまずしないようなことを連発する。眠気って怖い。
「――やっとついた」
そんなこんなでようやく家に到着する。
家がこんなに遠く感じたのはいつ以来だろうか。
「ただいま~・・・」
ガチャリと戸を開けて、挨拶も程ほどにリビングに向かう。
もう階段を上がる気力もない。リビングのソファでちょっとだけ寝よう。
お母さんやお父さんに怒られるかもしれないけど、今日だけはそんなことはどうでもいい。
限度を超えた眠気はもはや頭を正常に働かせてはくれなかった。
とにかく早く横になりたい。
それだけが頭を占めていた。
「おう桐乃。おかえり」
だから聞こえてるはずのその声もまともに認識できない。
フラフラとした足取りのままソファに向かう。
「桐乃? お前大丈夫か?」
ああもううっさいなあ。あたしは眠いの。ほっといてよもう。
鞄を机の上に放り投げてソファに座る。そのままゆっくりと体を倒して横になった。
「ちょ、桐乃!?」
やっばいこれ。こんなのすぐに眠っちゃうって。
それに丁度イイ枕があったみたい。
ちょっと堅いケド、いい匂いがして、なんか安心する。
コレなら、よく・・・眠れ・・・・・・そう・・・・・・・・・。
「お~い、桐乃さん? ちょっと、お前このまま眠るつもりか? お~~~~い!」
どこか聞きなれた声を子守歌にして、あたしは眠りに落ちていった。
「お兄ちゃん!」
「ん? なんだよ桐乃」
あれ? あたし・・・・・・どうしたんだっけ?
確か家に帰って、ソファで横になって・・・・・・・。
「あのね」
「おう」
え? あれって・・・あたし? それにもう一人の男の子は・・・・・・京介?
・・・・・・ああ、そっか。コレは夢だ。
凄く懐かしい、まだあたし達が、あたしと京介が仲がよかった小さいころの夢だ。
「ひざまくらして?」
「はあ?」
それにしてもあたしってば可愛すぎ!
こんな子がいるならあたしが妹にしたいぐらいだっての!
「何でそんなことしなくちゃいけないんだよ?」
「だめ?」
「だめっていうか・・・・・・」
京介のスカタン! こんなかわゆい妹のお願い聞かないとかバカじゃないの?
「あのね、きのうおかあさんがひざまくらしてくれたの」
「・・・・・・」
「それでね、それがすっごくきもちよくて、あったかくて・・・・・・」
そうそう。たしかお母さんの膝枕で寝ちゃったんだよね。
それでたしかあたしは・・・・・・
「だからお兄ちゃんにもしてほしいなって思ったの」
「だからのつながりがおかしくないか!?」
うん、なんか見ててちょー恥ずかしくなってきた。
子供ならではの支離滅裂さって言うか、つながりが見えにくい会話よね。
「あ~・・・・・・どうしてもしてほしいのか?」
「うん」
「むむむ・・・・・・し、しかたないな。こんかいだけだからな?」
「うん!」
「それじゃ・・・ほら。気持ちよくなくてもおこるなよ?」
「えへへ」
座って自分の膝をポンと叩く京介の膝に嬉しそうに頭を乗せるあたし。
あ~もう、あんなに幸せそうにしちゃって。
見てるこっちが照れちゃうじゃん。
「・・・どうだ?」
「・・・かたい。おかあさんみたいにやわらかくない」
あ、京介傷ついたって顔してる。
「・・・わるかったな。やわらかくなくて」
「でもね、おにいちゃんはすっごくイイにおいする。
あたしね、このにおい好きだな」
「そうなのか?」
自分の顔が赤くなるのがわかった。
ちっちゃい自分が京介のことくんくんしてるのがわかってしまったからだ。
べ、別にあたしは京介の匂いなんて好きなんかじゃ・・・・・・・・・・・・ないかんね!
「うん。おにいちゃんのにおいは、すごくほわってなるの」
「ほわ?」
「うん・・・・・・それがね、すごく、きもちよくて・・・・・・」
「桐乃?」
そうだ。たしかこの後あたしは・・・・・・
「すー、すー・・・・・・」
「桐乃? ねちゃったのか。・・・・・・これじゃ俺うごけないじゃん」
あはは。あたしが寝ちゃって京介ってば動けないでやんの。
妹を起こさないために動かないとかこの頃からもうシスコンすぎっしょ。
でも懐かしいな。こんなこともあったね。
安心しきった顔をして寝てるその顔を見てると、つられてこっちも眠くなってきた気がする。
あたしもちょっとだけ、寝ようかな・・・・・・あ、でも夢の中で、寝るって・・・・・・
そのあと・・・どう、なっちゃうんだろう・・・・・・
「ん・・・・・・」
「あら。桐乃、おはよう」
「おふぁようおかあさん・・・」
ぼやっとした視界の中にお母さんが見えた。
なんだか楽しそうに、自分の膝に頬杖をつきながらあたしをニコニコと見つめてる。
ああ、そういえばあたし帰って来てすぐに寝ちゃったんだっけ。リビングのソファで。
なんだか懐かしい夢を見てた気がするけど、よく思い出せない。
「よく眠れた?」
「え? う、うん」
今何時だろうか。
お母さんが帰って来てるってことはもう夕方かな。
横になったまま見える範囲には時計がなくて正確な時間が分からない。
夕飯だからあたしを起こした、っていうわけでもなさそうだ。
帰ってきた時間を考えればそれほど長い時間寝てたわけじゃないみたいだケド。
「それより桐乃」
「なに? お母さん」
「まだ眠たい? 夕飯までは時間があるからもう少し寝ててもいいわよ?」
「そんなことないケド・・・」
眠くはない。むしろ一晩眠ったんじゃないかってぐらいにスッキリしてるぐらいだ。
だけどこの枕が気持ちよくて起きる気にならない。
いい匂いもするし、もう少しだけこうしてたいカモ。
「お母さんとしては全然構わないんだけどね? でもそのままじゃ京介が困るんじゃないかしら?」
「え?」
お母さんの顔がニコニコとしたものからニタニタとした意地の悪い顔に変わる。
どうしてそこで京介が出てくるんだろう。しかも何その顔。
なんとなく居たたまれなくなって、視線を外そうとゴロっと寝返りをうって天井を見上げた時、京介と目が合った。
ああ、京介もいたんだ・・・・・・――――――――へ?
「よ、よう」
「な、な、な・・・・・・」
な、何で京介が!?
そりゃここはリビングだから京介がいること自体おかしいことじゃないんだケド!
でも、でも、ええとええと・・・・・・とにかく何で!?
「よかったわねえ京介。桐乃、アンタの膝枕でよく眠れたんですって」
「あんまりからかわないでくれよ・・・・・・」
ぽりぽりと頬を指先で掻きながら居心地悪そうに顔をしかめる京介。
そっかぁ膝枕かぁ。だから京介の顔がこんなに近い場所に・・・・・・ってひざまくらぁ!?
「うお!?」
「あら」
がばっ! と体を起こした。
改めてさっきまであたしが寝ていたところを見てみれば、そこには京介が座っている。
え、うそ、マジ? あたし京介の膝枕で寝てて、しかもそれをいい匂いとか・・・・・・!?
「な、なんで起こしてくれなかったわけ!?」
「いや、なんかスゲー気持ちよさそうに寝てるし、起こすのも悪いかなあと」
「うぐ・・・・・・」
ぐぬぬぬぬ・・・・・・実際寝ていた手前京介ばかりを悪くいうことも出来ない。
そもそも京介は何も悪くないんだから責めることがお門違いなわけなんだケド。
「ううう・・・・・・」
「き、桐乃?」
「桐乃?」
「京介の・・・・・・」
「え?」
「ばかぁ!!」
どうしようもなくなったあたしはそう叫んで部屋へと駆け込んだ。
その後、落ち着いたあたしは夕食の前に京介の部屋に行き、さっきのことを謝ったのだった。
そしてその日の深夜。あたしは京介の部屋の前にいた。
何故かといえば、とあることを検証するためだ。
京介の膝枕で眠った夕方。
部屋に戻ってから改めてわかったけど、想像以上に体が軽かった。
それはつまり、あの短時間で疲れが一気落ちていたということだ。
コレはあたしにとって非常に重要なことだ。
もしコレがあたしの勘違いじゃなければ、あたしにとって革命的な事実であるといえる。
何しろ短い時間眠るだけでいいのだから、その分を他にまわせるということだ。
それは勉強だったりエロゲだったりエロゲだったり。
そう、理由はそれだけであって、別にあたしが京介と一緒に眠りたいとか、
なんとかしてその理由をこじつけたいとかということはまったくない。・・・・・・・・・・・・本当だかんね?
まあ説明はコレぐらいでいいよね。
とりあえず、京介のベッドじゃあたしの枕を置くスペースなんてないだろうし、しかたないから
アイツの腕枕で我慢してやろう。
ベッドが狭くて密着しなくちゃいけないだろうケド、コレはあたしにとってのエロゲライフ、
ひいてはこれからの生活に関わることだからそれぐらいはしかたないよね。
湯たんぽだと思ってればそれほど問題ないし。うん。
そんな感じに誰に対するいい訳かわからないものを色々と考えながら、あたしは扉のノブをひねった。
「桐乃ぉ。最近調子よさそうじゃん。なんかあった?」
「え、別に? そんなことないよ」
「ホントに? ここのところの桐乃、以前にも増して調子よさそうだよ?」
「そうかな? だとしたら枕を変えたおかげかな?」
よく眠れてるもんね。
朝早くに抜け出さなきゃいけないのがちょっと面倒だケド。
「枕変えたの?」
「うん」
「へ~。どんな枕? 私にも教えてくれない?」
「秘密。コレばっかりはあやせにも教えられないかな」
「ケチケチすんなよ~」
「ダーメ! でも、最近は忍び込むのが面倒になってきたんだよね・・・」
京介もここのところ勉強で遅くまで起きててタイミングが掴みづらいし・・・・・・
こうなったらもう―――。
「忍び込む? なんのこと?」
「な、なんでもないよ! こっちの話! それよりもこれからどうする?」
「ちょっと気になるけど、まあいっか。そうだね、それだったら久しぶりに――――」
「ただいま」
「おう、お帰り桐乃」
「あ、アンタいたんだ」
丁度いいや。この際ここで言っちゃおうかな。
お母さんもいないみたいだし、言うなら早いほうがいいしね。
「・・・・・・いちゃ悪いかよ」
「別に悪いなんて言ってないでしょ。それぐらいで拗ねないでよ」
「拗ねてねえよ」
「はいはい」
そんな顔して言っても説得力なんてないっての!
「ねえ」
「んだよ」
「ちょっとさ、お願いがあるんだケド」
「あん?」
「京介、あたしの枕になってくんない?」
最終更新:2012年02月16日 08:14