381 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/23(金) 23:03:22.10 ID:EYTBNhMPP [4/4]
俺が一人暮らしを始めてしばらくたったある日の夕方のこと。
「ただいまっと」
「ただいま~」
「おい、ここは桐乃の家じゃねえだろ」
「いいじゃん。あんたの家ならあたしの家も同然でしょ」
なんつー理屈だ。
彼氏の家に来た彼女かお前は。
桐乃が彼氏の家に・・・・・? 嫌な想像しちまったな。
とりあえずこれ以上は考えるな俺。ほら、顔が歪んでんぞ?
「? あんた何怖い顔してるわけ?」
「いや、何でもねえ」
「ふ~ん、あっそ。んじゃ、それ冷蔵庫に入れといてね」
「了解。お前はどうするんだよ?」
「そんなの決まってんじゃん」
桐乃はいつの間にやら台所に常備されるようになったピンクのフリフリのエプロンを付けつつ
「夕飯の支度」
そう言ったのだった。
話がいきなりで戸惑ってるやつもいるかも知れないが、話は別に難しいもんじゃない。
桐乃が俺の家に来て夕飯を作る。それだけの話である。
週に何度か桐乃が俺の家に来て夕飯を作っていくというのは、もはや日常の一部みたいなもんだ。
あん? 桐乃の料理なんか食って大丈夫か、だと?
俺の桐乃をなんだと思ってやがる、と言いたいところではあるがその心配はわからんでもない。
確かに初めのころはそれはそれは酷いもんだったが、そこは要領のいい桐乃。
すぐにコツを掴んでぐんぐんと腕を上げていきやがった。
今となっては俺の心配なんてまったくいらないほどだ。
密かに俺が桐乃の手料理を楽しみしているのは、絶対に桐乃には内緒である。
「んで、今日は何作るんだよ?」
「今日は~、マトンのホワイトシチュー」
「シチューか。今日は寒いし、体があったまっていいかもな」
「でしょ? あんたあたしに感謝しなさいよ」
「おう。いつもありがとな。」
「へ? ど、どういたしまして・・・・・・」
どうやら俺が素直にお礼を言ったのが相当以外だったらしい。
トントンと包丁を動かしながらちょっと顔を赤くしてるのが超可愛い。
嫁にしてえ。
「しかしまあお前も料理上手くなったもんだよな」
「何よいきなり」
「いや、何で料理をしようなんて思ったんだろうってな」
「スッゴイ今更じゃない?」
別にいいじゃねえか。
「まあなんていうの? あたしもそろそろおよ・・・・・・家が建ったときの練習もしないとって思っただけ」
「家が建ったとき?」
「そ」
家が建つ? つまり一人暮らしってことか?
「そんなところかな」
「ふうん」
どうにも含んだ言い方だが、桐乃にも言いたくないこともあるだろう。
あんまり突っ込んで機嫌悪くするのもアレだし、これ以上はやめとくか。
それに、そのうち話してくれると思うってのは俺のうぬぼれかね。
「そういえば、ホワイトシチューだっけ? お前作ったことあんの?」
「ん? ん~、本で読んだことぐらいはあるよ?」
「ダメじゃん!」
いきなり作ったこともないもの作るって大丈夫かよ!?
今でこそマシにになったものの、俺は昔の惨劇を忘れたわけじゃねえぞ!
「なによ、なんか文句あんの?」
「文句って言うかなんていうか、だな・・・・・・」
「だったらあんたはあっちで座って待ってなさいよ」
「いや、でもだな・・・・・・」
どうにも心配でならない俺をよそに桐乃の手はとまることはなく、流れるように作業を進めていく。
「ああもう鬱陶しい!」
いかにも面倒くさいといわんばかりのセリフである。
しかし俺としても自分の胃腸を守る、ひいては桐乃を守る責任があるのだ。
だからここでひくわけには―――
「ちゃんと練習してきたんだから大丈夫なの! だからアンタは向こうで待ってろ!!」
――――――。
言った後に自分の失言に気付いたのか、桐乃は顔を真っ赤にしながらワナワナと肩を震わせて俺をぐいぐいと台所から追い出してしまっ
た。
ふうん。そっか。練習してきてたのね。そっかそっか、ふうん。
どうにも顔が緩んでいるような気がするが気のせいだろう。
口端がつりあがってたり、まなじりが下がってる気がするがまあありえないな。ありえないありえない・・・・・・。
そんなこんなで出来上がったシチューは実に上手いものだった。
美味い美味いと俺が桐乃の料理に夢中になっていたのだが、そのせいで俺は気付くことが出来なかった。
「まったく・・・・・・羊を食べるのも、家を建てるのもアンタの仕事なんだから。
ちゃんとしっかりしてよね。京介」
と桐乃が呟いたセリフに。
その後、とある式の前夜に出された夕飯が、この日だされたシチューなどの羊肉料理で溢れていたのは別の話である。
-END-
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最終更新:2012年04月01日 09:55