915 : 名無しさん@お腹いっぱい。: 2012/04/01(日) 17:42:15.03 ID:c5iDLt0+0

SS『4月1日のあやせ』



こんなの絶対おかしいよ!


言うまでもなく、私の親友の桐乃と、変態お兄さんのことです。

前々から、仲が良すぎるのを必死で隠していた二人ですけれども
最近はもう、ところかまわずいちゃつくのが普通になっちゃってるんです・・・

昨日だって、桐乃の家に遊びに行ったのに、お兄さんの世話をするって出かけちゃったって。
桐乃のお母さんもなんだか諦め気味に言ってました・・・

でも、このままじゃ・・・桐乃までアレな子になっちゃう・・・

お兄さんがどうなろうと、わたしの知った事じゃないですけど、
桐乃だけは・・・わたしの親友の桐乃だけは、道を踏み外させるわけにはいかないです。

でも、あんなに仲の良すぎる二人、どうやったら正常に戻せるんでしょう・・・

ピピピピッ、ピピピピッ―――

と、考え事をしている間に、携帯が鳴り出しました。
えっと・・・お姉さん!?

「はいっ!新垣です。お姉さんですかっ!」
「う、うん、田村です。あやせちゃん、き、今日も元気だね~」

お姉さんは、何故かちょっと引きつったような声です。
でも、ちょうど良い所です。

「お姉さんっ!聞いてくださいっ!」
「えっ、あ、ふぇっ!?な、何かな~」
「お兄さんと、桐乃のことですっ!」

電話の向こうでハッと息を呑むような音が聞こえました。
やっぱり、お姉さんも、知ってるんですね。

「お姉さんも知ってるみたいですけど、お兄さんと桐乃が、仲が良すぎるんですっ!」
「な、仲が良いのはいいことだよ~」
「そうじゃないんですっ!桐乃が、お兄さんの手にかかろうとしてるんですよっ!」
「えっ、えっ、えっ?」

お姉さんには難易度の高い言い方だったかもしれません。

「桐乃が、お兄さんのものになっちゃうんですよっ!」
「あっ、えっと・・・うん、そうなのかな?」

がくっ・・・
お姉さん。本当に意味分かってるんですか?

「あのー、お姉さん。お兄さんの事、好きなんですよね?」
「えーと、うん、そうだね~」
「それで、お兄さんが他の女の子に夢中で・・・なんとも思わないんですか・・・?」
「う、うん。わたしがきょうちゃんのことが好きでも、
 きょうちゃんが別の女の子の事が好きなのは仕方のないことだよね」

・・・やっぱり、この人だけは、底が知れないです・・・
わたしの目標とすべき人ですけれど、正直、この域に達する事ができる気がしません・・・

「そ、それでね、あやせちゃん。」
「はい!なんでしょうかっ!」
「え、えとね。きょうちゃんを怒らないであげてね」

挙句に怒らないで、なんて・・・
お兄さんが一方的に悪いのに、まるで仏様みたいです・・・

「桐乃ちゃんが、きょうちゃんの事を普通じゃないくらい大事に思うのも、
 きょうちゃんが、桐乃ちゃんのことを普通じゃないくらい大事に思うのも、
 たぶん、半分くらい、わたしが原因だと思うし・・・」

お姉さん・・・

「それに、五更さんが焚き付けちゃったみたい―――」
「お・ね・え・さ・ん」
「はっ、はいっ!」
「やっぱり、あの泥棒猫が悪いんですねっ!」
「ちょ、ちょっと待ってあやせちゃ―――」
「よく分かりました。今から、どういうことか説明を求めに行ってきますね!」
「あ、あやせちゃ―――」

プチッ

人の良いお姉さんの事ですから、あの泥棒猫も悪くないとかばうつもりだって事は良くわかります。
でも、もう我慢の限界です。
自分で足に鉛を縛りつけてもらって、東京湾にシンクロナイズドスイミングの物真似しながら飛び込んでもらいましょうか。

ピピピピッ、ピピピピッ―――

わたしが準備をして出かけようとしたその時、携帯が再び鳴り始めました。
多分、また、お姉さん・・・と、今度はメールのようですね。

『件名:あやせちゃーへ
 本文:さきぬきようちゃんにあつてくださあ』

・・・多分、『先に、きょうちゃんに会って下さい』でしょうか?
大慌てでメールを打ったのがすごく分かります。
・・・さっきから20分は経っていますけど・・・

でも、確かにその通りですね。
まず、大本を絶たないといけないですから。
そして、桐乃にもお話をする必要がありそうです。

それにしても、どうしましょう・・・
正面から、『お兄さんと恋愛なんておかしいよ!』なんて言っても、
桐乃は桐乃で『好きな事は絶対にやめない!』なんて言うでしょうし、
お兄さんはお兄さんで『妹の事が好きで何が悪い!』とか開き直りそうですし・・・

せめて、桐乃がお兄さんに幻滅してくれれば楽なのですけど・・・そうだっ!
あのお兄さんの変態性を利用しない手はありません。
お互いを変態だと思うように仕向けて、ケンカをさせればいいんです。

幸い今日は4月1日。嘘をついても大丈夫な日です。
それに、桐乃を正しい道に戻すためです。きっと、桐乃だっていつか分かってくれるはず・・・
桐乃に嫌われちゃうかもしれないですけど、でも、親友として、やるべきことをやらないと!


手順さえ決まれば、やるべきことは簡単です。
まず、桐乃の家の洗濯カゴから、桐乃の下着を取り出します。
そして、すぐにお兄さんの家に向かい、お兄さんがだらしなく散らかした下着と混ぜます。
汚くって、本当なら消毒したいくらいですけど、これも桐乃のためですっ!
幸いお兄さんは外出中だったので、簡単に作業は済みました。

・・・ところで、作業を終えてから気がついたのですけど、
なぜこんな事をする必要があったのか、少し自分でも不思議な気がしました。
桐乃の家で取り出して、そのまま桐乃の部屋に向かえばよかったのに・・・

とりあえず、疑問点はさておいて、桐乃の家へと向かいます。


「あやせ?どうしたの?」

何も知らない桐乃は、わたしを快く家に上げてくれました。
ゴメンね。桐乃。でも、どうしても必要な事だから・・・

「あ、あのね、桐乃。わたし、桐乃に隠してたことがあって・・・」
「えっ・・・う、うん」
「この前、お兄さんの部屋にみんなで上がったとき、見つけちゃったものがあるの」
「ぇ・・・・・・・・・」

あ、あれ?
そこでなんで、桐乃が青い顔をしてるのっ!?
・・・もしかして、いつぞやの薄い本みたいな・・・
じゃなくって!今は、桐乃の趣味を問い詰めてる場合じゃないのでした。

「こっ、これなんだけどっ・・・!」

わたしの手には、先ほどお兄さんの下着と混ぜた、桐乃の下着が載ってます。

「これ・・・あたしの下着?」
「そ、そうっ!」
「これが、どうかしたの?つーか、なんであやせが持って・・・」
「だからね、この前お兄さんの部屋に上がったときに見つけたの」
「ま、マジ?」
「う、うん」
「ちょっと匂い嗅がせて」
「えっ!?・・・う、うん・・・」
「ホントだ、あいつの匂いがする・・・」

き、桐乃!?・・・匂い・・・?
でも、良かったのかな?お兄さんの部屋にあった事を簡単に信じてもらえたわけですし。

「それにね、あ、あの変態、桐乃の下着を、嗅いだり、舐めたり・・・」
「きっ、キモっ!キモすぎっ!あーーートリハダだってきた~~~っ!」
「それだけじゃなくって、そのっ・・・お、おな・・・・・・『使った』り・・・」
「あ、あいつっ、マジ変態っ!!!あ、あたしの下着でなんて・・・!!!」

桐乃の顔は、りんごより真っ赤になっちゃった。
こんなに激怒しちゃって・・・ちょっとやりすぎちゃったかな。
でも、これなら、お兄さんとの仲がこじれて、ちょっと冷めてくれるよね。

「そ、それじゃ、ね、桐乃」
「う、うん・・・・・・・・・・・・」

わたしは、最後に、桐乃の口が『あいつ・・・問い詰めてやらないと』と動くのを見て一安心しました。
とりあえず、桐乃の方は終わりです。


今度はお兄さんの方です。

「おっ、あやせ?どうしたんだ?」
「お兄さん。桐乃の事で、言っておきたい事がありますっ!」

単刀直入に切り出します。

「えーと・・・き、桐乃のこと、な?」
「わたし、お兄さんのこと誤解してました。
 お兄さんの事、変態だの、近親相姦上等のクソ兄貴だの考えてごめんなさい」
「俺っ、やっぱりそういう風に考えられてたのっ!?」
「当然じゃないですか」

途端にしょぼくれるお兄さん。
でも、今日はそれだけじゃ済まないんです。

「それで、桐乃の事なんですけど」
「ああ」
「その・・・むしろ、桐乃の方が近親相姦上等で、
 お兄さんの事を想いながらえっちなゲームをプレイしたり、お兄さんの下着を集めてたり、
 お兄さんの匂いでえっちな気分になってたり、お兄さんとえっちをしたがってたりっ!」
「ま、まじかよ・・・」

ごめんね、桐乃。本当はお兄さんが変態だってちゃんと分かってるから。
でも、さすがのお兄さんもドン引きですよね。

「それだけじゃないです。
 わたし達とお泊りのときも、寝言で『お兄ちゃん、お兄ちゃん』ってあえいでたり、
 恋人にするんだったら誰が良い、って質問にも『お兄ちゃん』って言ったみたり、
 とんでもない変態だって事がわかりましたっ!」
「へ、変態・・・だな・・・はぁ・・・はぁ・・・」

なんか息が荒いですね。
さすがにショックが大きすぎて、呼吸困難に陥ってるんでしょうか?
でも、お兄さんが苦しむのはむしろ当然です。

「とにかく、そういうことです。
 もちろん、わたしは桐乃と友達のままでいるつもりですけど、
 お兄さんは、ちゃんと桐乃との関係を考え直したほうがいいんじゃないですか?」
「・・・ああ、そうする・・・」

よしっ!
これで、お互いを変態扱いして、ケンカになってくれるはずです。

ほんとうにごめんね、桐乃。
でも、これで、桐乃だって後ろ暗い事が無くなるんだよね。


そして、私は何かをやりきった清々しい気分で、山へと向かいました。
もちろん、桐乃がこんな事になったもうひとりの原因を埋めるためです。
ザクザクと土を掘り返すわたしの足元から、声がかけられました。

「あやせサマァ?今度は誰が埋められるんだってよぉ?」
「あ、加奈子?今度はね、泥棒猫さんだよ♪」
「で、加奈子は、助け出してもらえんだよな?」
「・・・お話する人が増えて、寂しくないでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「あ、そうだ。その人ね、先に東京湾で泳いでくる予定だから、
 もしかすると、肺に水が入って、ちゃんと喋れないかもしれないかも」
「・・・・・・(((( ;゚д゚)))」
「匂いもきついかもしれないけど、加奈子なら我慢できるよね?」
「・・・・・・ハ、ハイィ・・・」

良かった。はじめは加奈子でも我慢が出来ないかなって心配したんだけど。
やっぱり、泥棒猫だもんね。内臓なんて真っ黒だろうし、血だって青いかも。
でも、加奈子が我慢できるなら、安心だよね。

そして、空が夕焼けに染まるころ、わたしはまた、一人分の穴を掘り終わりました。
そろそろ、桐乃とお兄さんのケンカも始まった頃かなぁ?

「・・・・・・うへぇ~」
「えっ?加奈子?どうしたの?」

突然加奈子が、妙な声を出しました。

「えっ、加奈子ぉ、今なんか喋ったのかよ?」
「う、うん。『うへぇ』って」
「『うへぇ』?んな変な声だすわけnうへぇ~・・・いま、声が勝手に」

加奈子ったら、何を言ってるのかな?
勝手に声が出るなんてあるわけがないのにね。

「・・・・・・・・・うへぇ~」
「加・奈・子?」
「ちょっ!まっ!だ、だってとまんnうへぇ~~~・・・」

もうっ・・・仕方ないなぁ・・・
たぶん、しゃっくりみたいなもので、
『特別な偶然』が重なったときに、止まんなくなるのかな?

「うへぇ~~~」

さすがにちょっとご近所迷惑な気もしますけど、きょうのところは許してあげますね。
だって、今日はとても気分がいいんです。
お兄さんと桐乃が、普通の兄妹になってくれるハズなんですから
そして、この戦争(泥棒猫埋め)が終わったら、わたし・・・

「うへぇ~~~」



End.


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最終更新:2012年04月12日 07:34