343 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/05(土) 21:15:45.53 ID:zjCYu/jI0

【SS】再戦・乙女ロード!


「ねえ、せなちー。あたし読モやってるじゃん?」
あたしは再びサンシャインのカフェでせなちーとお茶をしていた。
「そういえばまた再開したらしいですねー。
 あたしも桐乃ちゃんが載ってる雑誌買いましたけど、ウェディングドレス綺麗でしたよ?」
うっ。せなちー、あの雑誌を見たのか。
ということは、あのコラムも読んじゃったんだよね?
せなちーから何か言いたげな視線を感じるけど、それは無視して、先にあたしの用事を済ませることにする。
「それで時々あたしへのファンレターが編集部宛に届くんだけどさ」
「へーそうなんですか。それで?」

「この間あたし宛に届いたファンレター15通の内、12通が腐女子からだったんだけど!
 しかも桐乃くんに関しての感想とか、考察とか、イラストなんかまで書かれてるし!」

あたしは持ってきたファンレターのうち一枚をせなちーに突きつけた。
そのファンレターの中心には、美化128%の京介の胸に力強く抱かれ、幸せそうな表情をするあたし―もとい桐乃くんが耽美なタッチで描かれている。
「これは・・・・・・許せません!」
おお、せなちーが怒ってる。
せなちーが発端だから言うだけ無駄かと思ったけど、ちゃんと迷惑だって事を分かってもらえた!
「そうだよね、許せないよね!」
「当たり前です!」

「高坂せんぱいと桐乃くんは、絶対に桐乃くん攻め、せんぱい受けに決まってるじゃないですか!」

「問題はそこじゃないから!」
それに、あたしとしては、京介に優しく攻められてる桐乃くんの方が好きだし!
「ファンレターは直接あたしに届くんじゃなくて、編集部で確認されてからあたしのところに来るの。
 知り合いにニヤニヤされながら手紙を渡されて、すごく恥ずかしかったんだからね!」
おまけに、美咲さんが『サブカル的なイメージキャラを作って売り出すのも面白そうね』とか言い始めちゃうし!
あと、BL好きなの?って聞かれたけど、もしかして美咲さんも腐女子なんじゃあ・・・・・・怖いから、これ以上は考えないでおこう。
「そもそも、なんで『桐乃くん』の元があたしだって知られてるの?」
「桐乃ちゃん、腐女子も普段は大人しい女の子なんですよ?」
うん。その大人しいせなちーは見たことないけど、多分そうなんだろう。
「女の子ならティーンズ雑誌くらい見ますって」
「そうじゃん!あたし知られちゃってるじゃん!」
考えれば当たり前のことだった。
うーん、あたしは京介と違って目立つし、これからはアキバとか池袋に行く時も、言動とかファッションとか、色々気をつけなきゃ。
「それなら桐乃くんがあたしに良く似てるのはわかるんだけど、なんで相手の京介は厨二病全開のナルシストな痛いヤツになってるの?
 pixivで桐京を見てたら、あいつがマスケラの漆黒コスしてるのよく見かけるんだけど」
「設定上、高坂せんぱいは桐乃くんがピンチの時に颯爽と駆けつける、格好いいお兄ちゃんだからですね」
「そうだとしてもさ、何で漆黒なの?」

「だって、夏コミの五更さんの同人誌で漆黒コスを披露してたじゃないですかー」

「ぎにゃぁぁぁぁああ!」
そうだった!あいつのコスはいろんな掲示板に貼りだされてるんだった!
ワザワザ黒歴史確定の痛い写真を参考にBLイラスト描かれるなんて、なんて羞恥プレイ!?
もう止めて!京介は何も悪いことしてないじゃん!
「桐乃ちゃん、平気?」
頭を抱え込み悶絶していたあたしを心配し、せなちーが話しかけてきた。
「あたしは平気だから・・・・・・それより、あいつには絶対にこのこと話さないであげて」
たぶん泣いちゃうから。
「う、うん。わかりました」
あたしはお茶を一口のみ気分を落ち着ける。
ふぅ。
「あ、そういえば桐乃ちゃん」
「なに?」


「今度桐京のオンリーイベントあるんですけど、一緒に行きましょう!!」


「ぶっ!」
なにそれ!
オンリーイベントってあれだよね?
好きな人たちが集まって、そのテーマの同人誌とか販売したりするアレだよね?
「なんでオンリーイベントなんて企画されてんの!?
 桐京カップリングなんてまだできて2ヶ月くらいじゃん!
 腐女子ってどんだけアクティブなの!?」
「いやー、あたしも驚いたんですけど、思いのほか人気が出ちゃったみたいで・・・・・・
 結構有名な人が喰いついちゃってるみたいですよ」
「それでもBLだけでそんなに人集まるの?」
「いろんな方面で人気が出ちゃって、女体化とかもされてるみたいですね」
「女体化?」
それってアレだよね?
桐乃くんを女体化して、京介×桐乃ちゃんを愛でたりしてるってことだよね!?
なにそれ!まじヤバいんだけど!
「腐女子なのに女体化なんてするの?」
とりあえず、そこが気になったので聞いてみる。
「やおいとか抜きに、二人をイチャイチャラブラブさせるのが好きって人が多いみたいですよー。
 だから自分がハマりやすいように設定を改変してるって感じですね」
へ、へぇ~。
あたしと京介がラブラブなのを見るのが好きな人がそんなにいるんだ。
あたしとしては止めてほしいけど、京介は喜んでくれるのかな?
それならあたしとしても京介×桐乃だけは認めてあげても……

「あたしも気になって見てみたんですけど、ブラコンな京子ちゃんが桐乃くんを誘惑したりとか、
 桐乃ちゃんと京子ちゃんのラブラブ日常百合モノとか、バラエティ豊かですよ」

「なんで無理矢理性別変えるの!?
 男×女でやりたいなら素のままでいいじゃん!」
あたしが男になって女になった京介に迫られるとか、京介が女になって一緒にお風呂入ったり、一緒にハダカで寝たりとか、
すごい倒錯的じゃん!
……あれ?それはそれでありかな?
いや、ダメなんだけど!
そんな話は認められないけど、一応話のモデルなんだから、後で調べないとね。
仕方ないから。
「実在してる人物をそのまま使うのは気が引けちゃうんですよぉ。
 いくら桐乃ちゃんがブラコンでも、桐乃ちゃんもお兄ちゃんとそういう話書かれるの嫌ですよね?」
「それは……嫌だけど……でも、ヘンに弄繰り回されるよりはマシというか……絵師さんの愛があるなら受け入れられるというか……
 あと、あいつと違ってあたしはブラコンじゃないからね」
これだけは言っておかないと。
「…………」
あたしの『ブラコンじゃない』発言に対し、せなちーが何か言ってくるかと思ったけど、そんなこともなく、
「あ、でも、いくつかのサークルは『桐乃×京介』本を書くみたいですよ」
と言うと、例のイベントのパンフレットと思わしきものを取り出した。
「え!?どこどこ!?どこのサークル?」
あたしはせなちーが取り出したパンフレットを身を乗り出して覗き込む。
「えっと……有名所だと『めいどちょう』と『EBS』ですね」
「御鏡さん、なにやってんの、あの人!!」
妹好きでイラストも書けるの知ってたけど……とうとう同人誌にまで手を出し始めたか……
それにしても、よりによって対象があたしと京介なんて……
『しゅーてぃんぐすたー号』のこともあるし、これからあの人にどう接すればいいのか本格的にわかんない。
もう一つの『めいどちょう』は、確かあたしが夏コミで『兄妹SM本』を買ったサークルだよね。
あのキャラがあたしと京介にチョー似てて、SMなのにすっごいラブラブなやつ。
前作が気になってとらで買っちゃったけど、あの本のモデルってやっぱり……
とすると、今度のイベントで三作目を発表するつもりなのかな?
絶対に買わないと。
でも、イベント自体は開いて欲しくないんだけど……
「……ねえ、今度のオンリーイベント、肖像権を主張して止めさせる事できると思う?」
「うーん。できるとは思いますけどぉ、もう色んな人がイベントに関わっちゃってますし、楽しみにしている人も多いですよ」
「楽しみにするのはいいんだけど、こういうのって最低限他人に迷惑をかけないようにするべきでしょ?」
好きな趣味に没頭するのはいいケド、ちゃんとTPOをわきまえて、誰にも迷惑をかけないようにしなくちゃいけないと思うんだ。
相手のことも考えずに『好きなんだからいいでしょ』て押し付けるのなんかサイアクだし。
「それにあたしの場合なんか、モデル活動にも影響しかねないしなぁ」
例えば美咲さんがこの件を知ったら、いろんな意味でヤバい影響が出てきちゃうよね。
『これはいいわね』とか言って。
……もしかして、このイベント裏であの人が糸を引いてたりしないよね?
イベントの協賛関係の名前に目を通したいような怖いような……
「……ねえ、桐乃ちゃんは絵を書かれるの自体はイヤじゃないんですよね?」
「書かれるのもイヤだけど……でも、あたしとか他の人に迷惑がかからなかったらいい、かな?
 そりゃ確かに京介とのイチャラブを書かれるのはイヤだけど!
 でも、同姓同名の人だと思えばそれはそれで萌えられるというか、京介×桐乃はあたし的にド真ん中ストライクというか……
 だからちょっとくらいなら認めてあげるのもやぶさかじゃないと言うか……
 でも、どうしてもって言うならだけどね!?」
「…………なるほど、そうですか。
 それなら、桐乃ちゃんが開催側について最低限のルールを決めたらいいんじゃないですか?」
えっと……つまり、出品される同人誌の内容についてあたしが決めるってこと?
「イチャラブはいいけど、陵辱モノとかの暴力的なのはダメとか、多少エッチでもいいけど、成人向けになっちゃうのはダメとか、
 本人の人格を無視したもの、奇抜すぎる設定はアウトとか……
 あと、『この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません』とか記載してもらえばいいんじゃないですか?」
「う、う~ん。あと大々的に宣伝したりするのもダメかな?
 あんまり人目につきたくないし……
 それと、最終的にはあらかじめ各サークルに何冊か提出してもらって、あたし直々にセーフかアウトを判断させてもらえれば……」
そうすれば欲しい本があってもサークルに行かなくてすむし。
さすがのあたしも自分がモデルになってる同人誌を売ってるところに顔を出す勇気はないしね。
『めいどちょう』とか『EBS』のは絶対に欲しいけど、人気だろうし直接買いにいけないからそうしてもらえると助かる。
委託販売があるとも限らないし、欲しい本はちゃんと早めに手に入れておかないと。
発禁対象のエッチなやつも確保できるしね!
「でも、そうすると自由に書けなくなっちゃうけど平気かな?
 こういうのってほとんど成人向けでしょ?」
「さっきも言いましたけど、二人をイチャイチャラブラブさせるのが好きって人が多いんですよー。
 だから成人向けがダメでも問題ないと思いますよ。
 さすがにハグしたりはOKですよね?」
「うん。直接エッチなことしちゃうのはダメだけど、愛の篭ったキスしたり、ギュッとして一緒に寝たり、
 恥ずかしがりながら一緒にお風呂入ったり、結婚式挙げたりするのはOKかな。
 あとボテ腹妊娠ENDとか」
少年誌でもそれくらい書かれてるしね。
「…………」
あたしの提示したシチュエーションに、せなちーは少し顔をしかめてこちらを見る。
むむ。ちょっとライトすぎたかな?
「もっとハードな方がいい?
 これ以上だとちょっと恥ずかしいんだけど……」
「え?
 えっと、あたしが気にしてるのはそうじゃなくて……」
ん?
それじゃあ、なにが気になるのかな?
「とりあえず、混浴がOKなレベルなら全然問題ないと思いますよー。
 それなら桐乃ちゃん的にも平気なんですよね?」
「うん。
 さっき言った他の用件も満たしてもらえるならね」
あたしに迷惑がかからないならむしろ楽しみ、かな?
もちろん、あたしと京介のイチャラブ話が楽しみというわけじゃなくて、『京介×桐乃』というジャンルが楽しみってだけだからね?
妹のために頑張る兄と、健気な妹とか最高だし!
「ところで、その辺りはどこと話をつければいいのかな?」
「それならあたしが連絡先知ってますんで……」


「……という感じでどうです?
 結果は明後日にでも桐乃ちゃんに報告しますんで」
「うん。問題ないね」
詳細も煮詰めたし、これで一安心かな?
「それじゃあこの件はこれで終わりですね。
 ……それで、次の話なんですけど」
あたしの話が終わって、次はせなちーの番。
この間買った同人誌のことかな?
まあ、宿題だったし、せっかく買ったから読んだんだけどさ。
これくらいならいいけど……せなちーには悪いけど、次の実践編はついていける気がしない。
「前回はあたしと桐乃ちゃん、どっちのお兄ちゃんがシスコンか対決したじゃないですか」
「う、うん」
そういえば、あの後家に帰ってどうしたんだろう?
やっぱり、お兄ちゃんに甘えてエロゲーみたいなことしちゃったのかな?
「だから今日はあたしと桐乃ちゃん、どっちがブラコンか対決しようと思ってたんですよー」
「なにそれ!?
 どっちが勝っても勝った方が恥ずかしいだけじゃん!
 それに、あたしはシスコン勝負に負けて
 『お兄ちゃんに言いつけてやるんだからあああああーーーーッ!』
 て叫ぶせなちーに勝てるほどブラコンじゃないし!!」
そりゃあちょっとはブラコンかも知れないけどさ。
でも、負けたからってお兄ちゃんに慰めてもらうなんて恥ずかしいことできないし。
「あ、あれは忘れてください!」
せなちーは顔を赤くし、手をブンブンと振った。
ちなみに手を振るたびにたゆんたゆんと揺れるその胸って何カップ?
京介が揉みたがるサイズらしいけど。
「それで、お兄ちゃんから高坂せんぱいの『妹自慢話』を聞いて、桐乃ちゃんがどれだけブラコンか調べてきたんです!
 ……五更さんとの真偽も確かめたかったですし」
せなちーのお兄さんから京介の『妹自慢話』を聞いた?
それって、京介があたしのことどう見てるのかも聞いたって事だよね!?
そんで、今からその惚気話について延々と聞かされちゃうんだよね!?
「その結果、あたしはある仮説を立てました。
 そして今日、桐乃ちゃんと話してその仮説は確信に変わりました」
せなちーの仮説とやらは後で聞くからさ、まず京介の『妹自慢話』とやらについて詳しく聞かせてくれない?
「まず初めに言わせて貰います。

 ブラコン勝負はあたしの勝ちです」

「……はぁ?」
せなちーなに言ってんの?
「それどこ情報~?どこ情報よ~?
 確かにせなちーはドレッドノート超過級のブラコンで、それに対してあたしはブラコンと言えなくもないかなってレベルだよ?
 でもさ、あたしだって京介のこと結構気にかけてるし、京介が嫌がるから絶対に彼氏とか作んないし、京介が超シスコンでマジ嬉しいしで、
 それなりにせなちーに対して善処はしてると思うんだ。
 あたしはほんのちょっとはブラコンだけど、せなちーと違ってまだまだ精進が足りてないから、京介にあまり素直に接することが出来ない時があるの。
 京介が色々と勘違いしちゃってることがあるのもわかってる。
 だからさ、そのせいであたしが京介にどう接しているのかが正しくせなちーに伝わってないってことも考えられるでしょ?
 まあ確かにせなちーの言うとおり、せなちーの方がブラコン勝負には勝ってるよ。
 あたしそんなにブラコンじゃないし。
 というか、兄貴のことなんか嫌いだし。
 あいつもあたしのこと嫌ってるし。
 だけどさ、だからといってどちらの方が兄貴のことを強く想ってるかは別問題だよね。
 別に京介のことなんかどうでもいいけど、あたしの方が兄貴に対する想いが小さいと思われるのは心外だから。
 まあ、京介はシスコン勝負でも妹への想いでもせなちーのお兄さんと比べ物にならないくらい圧倒的大勝利だけど。
 なにが言いたいかと言うとね、確かにせなちーはお兄さんのほっぺにちゅーするくらいお兄さんのことが大好きかもしれないけど、
 あたしだってちょっとは京介のこといいかなって思ってるし、これからもずっと一緒にいたいと思ってるし、
 京介が彼女を作るのなんか絶対に認めないし、あたしが京介以外とくっつくとかマジありえないし、京介があたし以外とくっつくとかマジありえないし、
 京介にはいつも感謝しっぱなしだし、京介にしてもらった色んな事は絶対に忘れてなんかやらないし、
 京介にされたことをいつか絶対にやり返してやるし、京介にだっていつかちゃんと絶対にあたしの気持ち伝えるし、

 というか、あたしが一番京介のこと大切に想ってるし!」

せなちーが当たり前のように勝ちを宣言してきたことが気に入らなかったから、
あたしはついちょっとだけ力をこめて反論してしまう。
まあ勝ちたい勝負ってわけじゃないけど、あたしともあろうものが簡単に勝ちを譲るのはしゃくだからね。
……ホントに勝ちたいわけじゃないよ?
「だからなんです」
あたしの反論を聞いて、せなちーが眼鏡を光らせる。
「へ……?
 どういう意味?」
「簡単ですよ。


 つまり―桐乃ちゃんは高坂せんぱいを兄として好きなんじゃなくて、男として好きなんです。
 だから桐乃ちゃんはブラコンじゃありません。
 よって、ブラコン勝負はあたしの勝ちです!」


せなちーは揉みしだきたくなるような乳を強調するように胸を張ると、勝ち誇ったようにあたしを睥睨した。
「は?」
あたしはというと、とりあえずそう口に出すのが精一杯だった。
「まあ、あたしもブラコン勝負に勝つのはあんまり嬉しくないですけど、
 今回はあたしの勝ちということで」
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待って。
 ど、どこをどう解釈したらそんな頓珍漢な答えに行き着くワケ?
 ワケわかんないんですケド!」
勝利宣言をしてどことなく嬉しそうなせなちーにあたしは顔を赤くして詰め寄る。
ちなみに顔が赤いのもちょっとどもってしまったのも怒りのためだ。
それ以外の理由なんてない。
「桐乃ちゃん、今更どう言い繕っても無駄ですよ。
 桐乃ちゃんが高坂せんぱいを兄以外としてみてるのはバレバレなんですから」
はぁ?なに言ってんの?
いい加減なことばっか言ってるとおっぱい揉むよこの雌豚。
「いいですか、桐乃ちゃん。
 まず一つ。

 いくらブラコンでも妹は兄のことを名前で呼びません。
 というか、ブラコンならおにいちゃんとか兄貴とか、そんな風に敬称で呼ぶものですよ」

あれ?
あたしせなちーの前でも『京介』呼びしてたっけ?
「むっ。
 でも、ゲームとかだと時々いるよ、名前呼び」
「でも桐乃ちゃんはこの間までは『あいつ』とか『バカ兄貴』って呼んでたって話じゃないですか。
 今更になって名前を呼び捨てにすることなんてありえません」
「ぐぬぬ……」
元々あたしの中では京介って呼んでたから、それを表面に出しただけなんだけど、それだとその理由について聞かれちゃうよね?
なにか、何か納得してもらえる理由を言わないと……
「だって、ほら、『兄貴』だとあいつをあたしとの相対関係だけで認識してるみたいで嫌じゃん?
 きょ―あいつだって一人の人間なんだから、ちゃんと人格を尊重して一人のひととして見てあげたほうが良いというか……」
「つまり兄として見ないって事ですよね」
「ちがっ!そうじゃなくて」
「じゃあ、桐乃ちゃんはお父さんのことも名前で呼んだりしてるんですか?」
「うぐっ……
 それは、してないけど……」
「つまりそういうことなんです。
 そして二つ。

 普通兄とのカップリングはもっと拒否反応を示します。
 あたしだってさすがにお兄ちゃんとカップリングされるのはイヤですもん」

「自分がされていやなことをあたしにやったの!?
 しかも悪びれてないどころかどんどん焚きつけてたし!」
さすがにそれは酷いよね!?
「せなちー、前にあたしのこと性格悪いって言ってたけど、せなちーも十分性格悪いよね」
「……と、とにかく!
 ホモが嫌いな女の子なんていないんですから、男体化した自分と兄との絡みに萌えるのは問題ありません。
 あたしだって『浩平×瀬菜くん』なら萌えられる自信があります」
「いや、十分気持ち悪いけど」
「ですけど、自分たちのTSモノに萌えるどころか、素のままの自分と兄とのカップリングに萌えるのは問題です!」
あ。スルーされた。
「でも、ほら、あたしってシスコンじゃん?
 だから兄妹モノならオッケーなの!
 だから『京介×桐乃』は嫌いじゃなくて、むしろ好きというか……
 京介に優しく愛されてる桐乃ちゃんマジ可愛いというか……
 でも勘違いしないで欲しいけど、あたし自身と京介のイチャラブ話が楽しみというわけじゃないからね」
「桐乃ちゃん、そんな言い訳が通用するわけないじゃないですか。
 それにもしそうだとしても、兄×自分のイチャラブで萌えられるのって、そうとうヤバいですよ」
「だから、あたしが萌えてるのは『京介×桐乃』というジャンルであって、『京介×あたし』じゃないと何度言えば……
 それに、もし、もしもだよ?
 もしも万が一にでも、せなちーがお兄さんを好きなのの1/500くらいあたしがあいつのこと好きだったとしても、
 あたしがあいつのことを男として好きなはずが―」
「それです」
それ?
あたしなんかマズいこと言った?
「第三の理由です。

 先ほどあたしは桐京本の表現で、兄妹の愛情表現のつもりでハグはいいかと聞きましたけど、
 桐乃ちゃんはハグやキスどころか、エッチと結婚、妊娠までいいって言ったじゃないですかー。
 これもう明らかに男と女の関係を望んでますよね!?」

「はぁぁぁぁぁあああああ!?
 なななななななナニ言ってんの!?」
あたしは周りの目も気にせずにせなちーに詰め寄る。
腐女子の集まるここで『桐乃くん』として知られ始めたあたしが目立つのは良くないんだろうけど、そうも言ってられない。
「あたしせなちーに全然負けるし!
 あたしは京介と一緒に腕組んでプリクラとったりしただけで、京介にキスなんて恥ずかしくて出来ないもん!
 それにお兄さんが自分そっくりのらぶドールを買おうとしてたって嬉しそうに言ってたし!
 それって、お兄さんに女として見られて嬉しいって事だよね!?
 だからせなちーの方がエロエロなんですぅ!」
あたしは勢い良くせなちーを指差す。
そして指差しついでにせなちーの乳を突いてみる。
むぅ。これが京介とせなちーのお兄さんが惑わされる乳力か……
あたしだって、来年にはこれくらい……は無理にしても、再来年にはこれくらいには!
「そ、それを言うなら桐乃ちゃんはせんぱいに妹もののエロゲを買いに行かせてましたよね?
 それってせんぱいにそういう風に見てもらいたいって事なんじゃないですか?」
せなちーもずずいと身を乗り出してくる。
ぐぬぬ……なんという乳力……まさか減り込むとは……
「そ、それは……別に関係ないもん。
 京介もそう言ったらちゃんと納得してくれたし!」
あたしはせなちーの乳力にうろたえながらも反論する。
「ふ~ん、そうなんですか」
ふぅ、京介と同じで、せなちーも納得してくれた様だ。
なんかニアニヤしてるけど。
「ところで、せんぱいにヤダって言ったら、せんぱい五更さんと別れちゃったんですよね。
 せんぱいに彼女が出来るのの何がそんなにイヤだったんですか?」
せなちーがしれっと言ってくる。
「そ、それは、その、あたしが一番じゃなきゃイヤだっていうか……」
「この間自慢するように『夜這いされかけた』って言ってましたよね。
 それも嬉しそうに」
戸惑うあたしに追撃するせなちー。
「うぐっ」
「桐乃ちゃんが留学した時、せんぱいに『おまえがいないと死ぬ』って言われて帰ってきたんですよね?
 そんなに嬉しかったんですか?」
「…………」
あたしは黙った。
せなちーは数秒の間を開けてから、ぼそぼそっと問う。
「ねぇ……どう思います?」
「き……ッ」


「京介に言いつけてやるんだからああああああああーーーーーーーーッ!!」


あたしはつい、その場から逃げ去ってしまった。
後ろから
「せんぱいに言いつけるって……
 はっ!ま、まさか、お兄ちゃん大好きとカミングアウトするつもりなんですか……!
 ふひひひひ……!これは、新たな桐京の世界への扉が開く予感……!!」
と聞こえた気がするけれど、気のせいだろう。


そして後日、あたしはまたもやせなちーからスカイプの通話モードで話しかけられていた。
『桐乃ちゃん、やってくれやがりましたね』
開口一番にそう言うせなちー。
「やってくれたって何のこと?
 あ、この間のことはごめんね。せなちー一人置いて言っちゃって。
 でもその前はあたしがせなちーに置いて行かれたんだし、これでお相子だよね」
『それもですけど!
 でもそれじゃなくて!
 あの事を高坂せんぱいに伝えたの、桐乃ちゃんですよね!?』
「あの事?
 ああ……」

「せなちーがあたしとのブラコン勝負で勝ち誇ったってこと?」

『そうです!
 何でそんな根も葉もないことを高坂せんぱいに言うんですか!
 高坂せんぱいからお兄ちゃんに伝わって、そりゃあもう凄かったんですからね!』
そう、あの後あたしは帰ってから京介にせなちーにブラコン勝負に負けたことを伝えたのだ。
「あの時ちゃんと言ったじゃん。
 『京介に言いつけてやる』って。
 そもそもブラコン勝負を持ち出したのがせなちーなら、勝ちを宣言したのもせなちーでしょ?
 根も葉もない話どころか、せなちーが言いだしっぺじゃん。
 自慢したくてしょうがないんだと思ってたわー」
『ぐぬぬ……
 一応あたしもお兄ちゃんに『桐乃ちゃんはお兄ちゃんのことを愛してる』って伝えましたけど……』
「京介なら『おまえって俺のこと愛してるの?』って聞いてきたから、
 『はぁ?ナニ言ってんの?バカじゃん?』って言ったら、納得してくれたよ」
さすが京介。
『そうだと思いましたよド畜生!
 ……やっぱり、桐乃ちゃんて性格悪いですよね』
「んなことないって」
失礼な。
「それで、今回の用件はそれだけ?」
『それだけって……あたしがどんだけ苦労したかと……
 まあそれはそれとして、この間桐乃ちゃんに伝え忘れてたことがあるんですよ』
伝え忘れてたこと?なんだろう?
『えっと……このURL見てもらえますー?』
チャット画面にURLが表示される。
あれ?このURLって……
「なに?例の桐京の絵師の人がまた何かやらかしたの?」
このURLには見覚えがある。
前回せなちーに紹介された、桐京のカップリングの絵を書いていた人のホームページだ。
ブックマークしてあるから覚えてる。
ここ何日かチェックしてなかったけど、またなんか書いたのかな?
『見てみればわかりますって』
「はぁ……」
イヤな予感を覚えながらも、そのURLをクリックしてみる。
トップは相変わらずホモ画像。
けれどそこに躍る字は……
「はぁぁぁぁああああ!?」
『でゅふふふふ……
 どうです!?楽しみですよねー!?』
男体化したあたしと京介が絡み合う画像……その上にはこんなことが書かれていた。


桐京オンリーイベントにて、新作ゲーム発表!!


「ゲーム化ぁぁああ!?」
なにそれ!?この人どんだけあたしと京介を絡ませたいの!?
ってか……
「このゲーム、シナリオとスクリプト担当あんたでしょ!」
『あ?わかります?
 色々とシチュエーションを考えているうちに作りたくなってきちゃって……
 絵師の人に相談したらすっごい意気投合して、即日GO!ですよー』
つまりこれが……これがあの日あたしを桐京オンリーイベントに誘った本当の理由!
つまり、遠まわしにあたしの了承を得てゲームを販売するための……!!
せなちー、恐ろしい子!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
『人生相談を通じて不器用に甘えてくる桐乃くん……ツン9割の中に見え隠れする1割のデレ!
 やればやるほど桐乃くんの本心が伝わってくる……
 タイトルはその名も
 『俺の弟がこんなに可愛いわけがない』
 美形にしすぎず、ちょっとショタ入れたのがミソですねー。
 あ、安心してください。
 直接エッチなことはせず、愛の篭ったキスしたり、ギュッとして一緒に寝たり、
 恥ずかしがりながら一緒にお風呂入ったり、結婚式挙げたりしてるだけですんで。
 残念ながらボテ腹妊娠ENDは無いですけど。
 友人に諭され、お兄ちゃん大好きとカミングアウトするシーンとか最高ですよフヒ』
「腐海へ帰ってもう二度と出てくんなぁーーーーーーッ!?」
バンッ!
はあ、はあ、はあ、はあ……
スカイプを叩ききって、肩を上下させるあたし。
「ったく……せなちーめ……どうしてくれんの。
 はぁ……ぁあ~~あたしのトラウマがまた1ページ……」
がっくりと突っ伏してため息を吐く。
なんか、せなちーと関わると毎回こうなっているような……
なんとかこのゲームの発売は阻止したいけど、阻止しても別の形態で販売されるから無駄だよね……
あたしは突っ伏したまま、机の上に置いておいた桐京オンリーイベントの作りかけのパンフレットを手に取る。
一体どれだけのサークルがこれほどの猛者なのだろうか。
せなちーの所だけが特筆ならいいんだけど……
あたしは列挙されたサークル名を確認しながら顔を顰めた。


-END-






タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月17日 12:06
添付ファイル