570 :annular eclipse【SS】前編:2012/05/21(月) 01:53:31.15 ID:qJX9lVZp0
……なにやら気配を感じて、俺は目を覚ました。まあ、こんな早朝に俺の間近に近づいてくるのは決まってるけどな。
「チッ、もうちょっとだったのに」
わけのわからんことを言う桐乃。なに唇尖らせてんだか?
「おはよう」
「ああ、おはよう………天気は?」
桐乃が黙ってカーテンを開けると、願いもむなしく、そこには一面雲に覆われた空があった。
「京介の日頃の行いが悪いから、こんな天気になってんじゃないの?」
「俺がいつ悪いことをしたんだよ」
「胸に手を当てて聞いてみろってーの」
「そうか、わかった」
むにゅっ
「ば、ば、バカ! アンタなんであたしの胸に触ってくんの?? マジ信じられないんですけド!!」
「だって胸に手を当てろって言ったのは桐乃だろ」
「バカじゃん。寝言は寝てるときに言って!」
「そんなことよりだな」
「なに話を誤魔化そうとしてるわけ?」
「桐乃のおっぱい、前より大きくなったな」
「!!!」
「俺はお前の尻も好きだが、おっぱいも好きだぜ」
「おまわりさんこいつです!!!」
……幸い、親父は仕事で留守だった……
『♪指輪をくれる? ひとつだけ 2012年の金環食まで待ってるから とびきりのやつを忘れないでね♪』
「懐かしいわねえ」
テレビから流れる曲を聞きながらお袋がつぶやく。なんでも20年も前の曲らしい。
「そろそろ行こう、京介」
「この天気じゃ無駄足かも知れないけど、もし見えたら教えてね♪」
お袋の言葉を背にして、俺たちは庭に向かう。
「なんだよそのグラスw」
「うっさい、コメントは受け付けておりません!」
桐乃が取り出したのは、メルルのお面……正確にはメルルのお面に遮光グラスを組み込んだ代物だった。
「それ、売ってんの?」
「こんなの売ってるわけないじゃん。オタなめんな」
「キモオタをなめるのは勘弁だが、桐乃ならむしろペロペロしてやりたいわけだが」
「!!!」
絶句する桐乃の後ろからなにやら「うへぇ」という声が聞こえてきたような気がした。
571 :annular eclipse【SS】後編:2012/05/21(月) 01:54:00.65 ID:sXsvbClk0
「しかし、雲は消えないな……何やってんのお前」
空に向かって手を広げる桐乃。おまえは異邦人かよ?
「祈ってるの。こうして手をかざして、祈れば、きっと雲は消えるから」
「あのなあ、そんなのインチキ宗教の……」
「お願い、京介も一緒に祈って!!!」
「桐乃………」
「せっかくのチャンスだから、見たいじゃん。金冠日食……あたしは見たいの。京介と一緒に見たい!!!
だから、一緒に祈って。お願い!!!」
「わかった、祈ってやるよ」
「神様仏様気象庁様お願いします。なんとか雲を退かしてください。桐乃の願いをかなえてやって下さい」
「……て、なんであんた土下座してるの???」
「これが俺のスタイルだからさ(ドヤァ」
「ま、まあ…祈りのスタイルは京介にまかせる…」
「ちょ、京介、頭を上げて、ほら!」
「…嘘だろ、おい…」
……後の世に「千葉の奇跡」とも「ジャンピング土下座効果」とも伝えられた瞬間は、確かに訪れたのだった。
「綺麗……」
「ああ、そうだな」
それはほんの僅かなひとときに過ぎなかったが、確かに俺たちは、金冠日食をこの目にしたのだった。
「なんか、あっけなかったね」
そりゃそうだ。再びすぐに雲が空を被い隠したのだからな。
「京介、予定入れといて」
「ん、次の休みの日か?」
「決まってんじゃん。2030年の6月1日、北海道で金冠日食を見るの」
「あのなあ」
「京介……あたしと見にいくの、イヤ???」
「……イヤなわけないだろ、ただ……」
「ただ、なに?」
「加奈子、頼むからちょっと目をつぶっててくれよ」
「ケチくせーな、減るもんじゃないだろ?
まっ、金冠日食っていいモン見せてもらったから今回だけは特別に目をつぶってやんよ!」
え、ナニをしたって?
まあ、目をつぶりながらも、加奈子がこれまでにないくらいのうへぇを連発したことから察してくれw
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最終更新:2012年05月25日 14:11