851 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 00:57:59.67 ID:kPYdpkWF0



「ほしくずういっちめるる~はっじまっるよ~~~~」

テレビの画面では、子供向けアニメのオープニングが流れている。
本当はあんまり好きじゃない。
だって、あたしが物心付いた頃から、何度も何度もしつこい位に見せられてるんだもん・・・

今だってそう。
お母さんが、あしたまでの宿題とか無理言って・・・
あたしだって、色々やりたい事があるってのに・・・
それに、お父さんも無理矢理勧めてくる。正直マジうざい。

つーか、そもそもあの親、子供たちの前でイチャイチャしすぎ!
確かにさ、二人は言葉に出来ないくらい凄い恋愛で結ばれて、
やっとお互い素直になれたとかいってたケドさ・・・
でも、毎日毎日あんなにしてなくたっていいのにさ・・・

「メ、メルちゃん、ど、どうする!?」
「大丈夫っ!魔法の力でなんでも解決だよっ!」

画面では、恥ずかしい服を着た少女が、無茶苦茶なことを言っている。
こんなんだから、子供向けアニメは嫌いなんだ・・・
つまんない、つーか、マジ眠い・・・

「それじゃあ、優乃ちゃんっ!いったい何をお望みかなっ?」

・・・・・・・・・はぁ!?
慌てて飛び起きると、なぜか目の前にメルルがいた。

つーか、マジワケわかんないんですケド!?

「ふむ、よくわかったよ!」
「何も言ってないしっ!?」
「それじゃ、いっくよーーー」
「ちょ、ちょっと・・・!?」

気が付けば、あたしの手足はピンク色の紐みたいなので縛られて、身動きが取れなくなっていた。

「いっけーーーーーー」

そうだ、この後って・・・
いつも敵役が、極太レーザーで消滅するんだっけ・・・

「めてお☆いんぱくとーーー!」

あたしは、ピンク色の光に包まれ、そして・・・・・・・・・





「あっ、あいたっ」

いきなり尻餅をついてしまった。
いったい何が起こったのかわかんないまま、周りを見渡してみる。

「・・・あたしの・・・部屋?」

ふぅ、と一息つく。
あんな夢を見てしまうなんて、あたしも大概どうかしてる―――と

「えっ・・・?」

よく、周りを見渡すと、明らかに何かがおかしい。
たしかに、あたしの部屋と同じように見えるけど・・・

「でも、メルルぐっずの山が無い・・・」

つーか、やけにスッキリとした自分の部屋に、あたしは戸惑ってしまう。
メルルフィギュアも、メルルのポスターも、メルルの抱き枕も無い。

「あたしが無意識のうちに片付けたとか・・・ないか」

自分で突っ込んで虚しくなる。
それでも、ここがあたしの部屋である事を確かめるため、あたしは部屋中のものを探してみる。

机の上のノート、教科書、それに鞄、etc・・・
全部に共通してある名前が書いてあった。私のじゃ、無い。

『高坂桐乃』

あたしのお母さんの名前だ。

「あたし、もしかして、過去の世界に来ちゃったとか・・・」

メルルの魔法に飛ばされて、過去の世界にきちゃった・・・?
あまりにも突拍子もない設定。アニメだってもうちょっとマシな事考えるはずだ。

あたしは、ここが自分の部屋だと、自分の世界だと証明するために、さらに部屋の中を探してみる。
そうだ!あの隠し扉の中に、あたしのアルバムとか隠してたはず・・・
早速、棚の本を脇に寄せ、隠されているふすまを開ける。

「なっ、なによっ、これェ!」

つい、叫んでしまっていた。
だって、しょうがない。
隠し扉の中は、まさにカオスだったのだ。

まず、メルルグッズ。あたしの部屋に飾られていたものが、狭い収納の中に所狭しと並べられている。
そして、多数のアニメDVD。なぜか分からないけど、殆ど全部見た事がある。
そ、そして・・・え、エロゲーっていうんだよね?こういうの?
パッケージにでかでかと描かれた少女たちの痴態・・・
こんなもの見て叫ばない方がどうかしてる。

あたしが、『それ』らを見て固まっていたとき、突然部屋のドアが開いた。

「どうしたっ!桐乃っ!」

振り向けば、髪の黒い涼介がいた。
いや、ちょっと違うかな?
どちらかと言えばお父さんを若くしたような・・・

「えっ?あっ、だ、誰だ?桐乃・・・の友達?」
「つーか、あんた、誰?」

『黒い涼介』は、妙に慌ててる。なんかカワイイかも・・・
というか、やっぱり『桐乃』って言った。
ここ、本当にお母さんの部屋、なのかな?

「ただいまー、ってあんたなにやってんの?てか、それ、誰?」

そして、続いて現れたのは・・・お母さんだ。間違いない。
でも、とっても若い。あたしと同じ、中学生の服を着ている。

「い、いや、桐乃。お友達・・・じゃねーのか?」
「・・・いや、知らないんだけど?」

なんか、お母さんマジ切れモード?
このままじゃやばいんで、とりあえず一言。

「あ、あのっ、あたしこっ・・・えと、ちとせって言います」

危ない危ない。
もし、この人が本当にあたしのお母さんだったら、あたしの正体が知られたら不味い事になる。
たしか、映画でもそんな事言ってたはずだ。

「え、えっと・・・ちとせちゃん?はじめまして」

えーと、ど、どういう設定にしようかなっ?

「そ、そのっ、なんか、目の前が白くなって、気が付いたらここにいて・・・」
「記憶喪失?ファンタジー?なに、それ!なんか萌えてくるんですケド!」

やっぱ、お母さんだ。この感じ。
それにしても、この男の人は誰だろう。
涼介に似てるって事は、お母さんのお兄さんなのかな?

「まあ、とにかくあれだ。落ち着いて話でも聞いてみようじゃないか」
「・・・分かった。でも、ちょっと可愛い子だからってあんた鼻の下伸ばしすぎ。
 つーか、こんなときばっか兄貴風吹かせて、自分をアピールするとかマジサイテー」

ああ、やっぱり、お兄さんなんだ。
お母さんにお兄さんが居たなんて初耳。
お母さんの事を知ることができて、なんかちょっと嬉しい感じ。
でも、なんかちょっと情けないお兄さんかも?

「えっと、ちとせちゃんもそれでいいよな?」
「いいです。つーか、初対面でちゃん付けとかキモいんですけど」
「・・・・・・・・・」

あ、またやっちゃった・・・
なんでかな?ついついお父さんに反抗してるような気分。

「えっと、覚えてるところだけなんですけど」
「ああ」
「あたし、家でアニメ見てたんです。ほしくずなんとかっていうタイt―――」
「メルルっ!?ちとせちゃんメルルみてたんだっ!?ねっ、面白いよねっ!!!」

あー、しまった、タイトルは隠せばよかった。

「おい、落ち着け桐乃。そんなんじゃ、話も聞けないだろ?」
「えっと・・・ありがとうございます」

なるほど、暴走するお母さんを止めるのがこのお兄さんのお仕事か。
で、そのお兄さんが居なくなった現状ではあの有様と・・・
その上、同じようにメルル趣味のお父さんと結婚なんかしちゃって・・・

それにしても、暴走を止められたお母さんは不満そう。
・・・というか、すごく面白く無さそう。

「で、見てる間に急に眠くなっちゃって」
「はぁ!?メルル面白いじゃん!!!眠くなる事なんかないって!!!」
「待て、だからお前はもうちょっと落ち着け!」
「あー、あたし、子供の頃から親に見せ続けられて、さすがにもう飽きてきました」
「よく分かるぜ、その気持ち。俺もこいつに何度見せられたか・・・」
「・・・・・・・・・」

あ、やばっ、お母さん、超面白く無さそう・・・
ここは、ちょっと話題変えようか?

「え、えっと、おか・・・桐乃・・・さん」
「・・・何よ」
「なんで、桐乃、さんって、そんなにメルルが好きなんですか?」
「お、おいっ!」

わかってるよ、お兄さん。
これ聞いちゃうと、お母さん止まらないって・・・

「いやーよく聞いてくれたっ!」

さっそく上機嫌のお母さん。
自分の母ながら、マジ恥ずかしいです・・・

「まずねー、この変身シーンマジかわいいよね!メルちゃんの肌が露出していく様とかもうエロいっていうかかわいいって言うか
 つーかこの構図!この構図でぬるぬる動くあたりがもうね!あたしの琴線に触れすぎって言うかーあ、でもこっちのシーンも
          ―――(長文略)―――
 ということなのっ!分かった?」
「・・・とても、よく・・・」

まあ、あたしはいつもの事なので、大した事ないんだけど・・・

「それと、ね」

突然、お母さんの声が変わる。
さっきまでのはしゃいでた声じゃなくて、何かとても愛おしいものを前にしているような・・・

「この趣味があったから、あたしと京介は、また本当の兄妹になれたんだ・・・」

えっ、『京介』?・・・お父さんの、名前・・・?

そう言えば、あたしはとてもおかしな事があった事にようやく気が付いた。
まず、お母さんの苗字。結婚前の姓も『高坂』だ。結婚後も『高坂』・・・
それに、桐乃さんのお兄さん。あたしのはじめの印象も、あたしのお父さんにそっくりって・・・

も、もしかして、このお兄さんが、あたしのお父さん?
で、でも、お母さんのお兄さんって・・・???

「あ、あたし、いきなり何話してるのかな!?」
「あっ、すごく面白い話なので、もうちょっと聞いていたいです」
「う、うん・・・あたしと京介ってね、ずっと昔はとっても仲がよくって、
 でも、一年くらい前まで、とっても仲が悪くって・・・
 それでも、あたしの趣味がきっかけで、ようやく前と同じくらい仲がよくなって・・・」

よく見ると、お母さん、少し目が潤んでる・・・
それに『京介』だなんて、自慢の彼氏のことを喋ってるみたい・・・

やっぱりお母さんは、お母さんのお兄さんが好きで好きで好きで、
それで、結局二人は結婚して・・・それで、あたしが生まれたんだ・・・

「な、なあ、桐乃。なんか恥ずかしいし、それくらいにしようぜ?」
「うっさい!あんたは黙ってて。それでね―――」

お母さんは、話し続ける。
メルルのDVDケースの話、エロゲーの話、留学の話・・・

よく見ると、お兄さん・・・ううん、お父さんも、少し目が潤んでる。
お互いが、お互いに愛されている事を、よく知っている・・・

でも、まだ二人には壁がある。
乗り越えなければいけない、最後の壁。
だから、あたしはちょっとだけ、二人の背中を押してみる。

「えっと、それから―――」
「ねっ、桐乃さん」

耳元に口を寄せ、そっと囁く。

「桐乃さん。京介さんに愛されてるから、もっと素直に、ね」
「なっ、なっ、なっ!?なにを―――」

今度はお父さんに!

「京介さん。桐乃さんもあなたのこと大好きなんだから、一生大事にしてあげてね」
「はっ!?まっ、待てっ!いったいなん―――」

二人に言葉を告げた瞬間、あたしの目の前はピンク色の光に包まれる。
ふと目に入った腕時計を見て納得する。メルルの決め技の時間だったよね。





そして、あたしは自分の部屋に帰ってきた。

メルル1色に染め上げられた、あたしの部屋。
テレビ画面では、メルルのエンディングテーマが流れている。

あたしは、階下に駆け下り、こう言うのだった。

「お父さん、お母さん。次は一緒にメルル見よっ♪」



End.


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最終更新:2012年07月05日 08:56