447 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/02(木) 00:32:24.97 ID:KRJEhNGa0


SS『パンツの日』

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○パンツの日

下着メーカーの磯貝布帛工業(現在のイソカイ)が1984年に、自社ブランド『シルビー802』の商品名に因んで制定。
後に、トランクスメーカーのオグランも「パン(8)ツ(2)」の語呂合せでこの日を記念日とした。
女性が本命の男性にこっそりパンツをプレゼントする日。
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今日は8月の2日。
そして、わたしは・・・お兄さんのベッドの下に潜んでいます・・・

だって仕方ないじゃないですか!
今日は「パンツの日」なんですから、お兄さんに見つからないように、
こっそりパンツをプレゼントしなければいけなかったのに・・・


途中までは完璧だったんです。
いつもの隠し通路を抜けて、誰にも気づかれずお兄さんの部屋に入りました。
そして、お兄さんのタンスを開けて、買ってきた新品のパンツを入れようと・・・
そこまでは良かったんです。

でも・・・お兄さんのタンスには、パンツが一着もなかったんです・・・
誰がこのような事をしたのかは考えたくもないですけど、それでも一つ困った事が出てきてしまいます。

だって、パンツが一着しかなければ、誰かが入れたってバレちゃうじゃないですか。
あ、でも、わたしが入れたって気づいてもらえないと意味ないですし・・・

そんな事を悩んでいるわたしの耳に、階段を上ってくる数人の足音が聞こえてきたのです。
入ってきたのは、お兄さん、沙織さん、そして、『お兄さんにきっぱり振られた』泥棒猫でした。


―――そして、今に至るというわけです・・・
ベッドの下からは三人の声しか聞こえません。

「で、どうしていきなり訪ねてきたんだ?桐乃もいないってのによ」
「いやー、京介氏は一昨年、昨年と頑張ってもらってばかりでしたからなー
 少し、きりりん氏を居ない所でお話をしたかったのでござるよ」
「ふっ、それに異端者の儀式も無事終了したと聞いているわ」
「・・・前期の試験の事か?」
「ええ、人語ではそうとも言うらしいわね」

早速狂った言い回しで人を煙にまこうとする黒猫さん。
ふんだ。どうせ、お兄さんの心の中の人は、もう桐乃って決まってるんですからね!

・・・認めたわけじゃないですけど。

「つか、いまいちよくわかんねーんだが?」
「まあ、兎に角ですな、京介氏。この2年頑張った京介氏へのお礼ということでござるよ」
「お礼?いや、お礼なんてされる事は無いだろ?」
「いやいや、あの2年間。我々も京介氏のおかげで色々変わりましたからなー・・・ねえ、黒猫さん」

あ、眼鏡取ったみたい。
わかってしまう自分も相当に毒されているようで、なんともいえない気分になってしまいます。

「ええ、そうね。それに・・・まだ、私たちは諦めたわけじゃないのよ?」
「お、おい」
「そうですわ、京介さん。
 京介さんは、桐乃さんの事が一番大事とは言いましたけど、まだそれ以上進めてないみたいですわね?」
「お、おまえらっ、答えにくい事をっ!」

・・・とりあえず、お兄さんをブチ殺すのはまだ先のことになりそうですね。
『いかがわしい事をしたら』ってはっきり言ってしまいましたし・・・

「ふふっ、あせっている京介さんも素敵ですよ」
「・・・はあ、褒め言葉だと思っとくよ」
「ええ、そうしてください。それじゃあ・・・黒猫さん?」

そう言うなり、ガサガサと何かを取り出すような音が聞こえてきました。
たぶん・・・紙袋―――プレゼントのようですね。

「さあ、受け取りなさい」
「京介さんへのプレゼントです」
「おおっ・・・ありがてえ!
 年下の女の子二人からプレゼント受け取ったなんて聞いたら、赤城のヤツ、血涙流して悔しがるだろうよ!」
「どういたしまして、京介さん」
「10倍返しを期待しておくわ」
「ああ、ホントありがとうな」

顔は見えませんけど、お兄さんがデレデレしてるのは明らかです。
わたしは震える手を押さえながら、ベッドの下に隠れ続けます。

「では、今日のところはここで帰らせて頂きますね」
「おいおい、さっき来たばかりじゃねえか」
「んっふ、今日は崇高な使命があるのよ。前世の魂を失った抜け殻には分からないでしょうけど」
「わたくしも、残念ながら今日は行かなくてはならない用事がありますの」
「そっか・・・それじゃ仕方ねーな」

お兄さん、寂しそう・・・
無二の親友と別れるような口調に、わたし、なんか悔しい気持ちでいっぱいです。

でも、どうなんだろう。
わたしのこと、お兄さんが嫌ってないのはよく分かってます。
でも、わたしは、お兄さんが大好きな桐乃の友達で、それだけじゃなくってお兄さんに仕事を頼んだりする間柄ですけど、でも・・・

仮にあの時―――そんな事はありえないですけど―――お兄さんがわたしを選んでいたなら、
多分今頃、わたしはお兄さんの『彼女』になってたんだと思います。

わたしは、お兄さんにとって『妹の友達』なのでしょうか?
『雇用主』なんでしょうか?『後輩』なんでしょうか?『友達』なんでしょうか・・・

気が付けば、桐乃の二人の友人は、すでに立ち去った後でした。

「えーと・・・ぱんつ?
 まあ、俺の下着はなくなりやすいし、有っていいっちゃいいんだが・・・
 普通、プレゼントって言ったら実妹ゲーだよな?それか実妹本か」

そして、さっそくロクでもない事を言い出すお兄さん。
プレゼントの中身を見てそれですか?
せっかく貰ったんですからもっと喜んだらどうですか?
というか、お兄さんの言うプレゼントのチョイスは有り得な・・・ああ、桐乃ですね・・・

「まあ、とにかくもらっとくか!」

早速パンツをタンスにしまいこむお兄さん。
自分のパンツが一切無い事に何も動揺していません。
やっぱり、普段から・・・

「チーッス、きょーすけー!」

か、加奈子っ!?

わたしが考え事をしている間に、いつの間にか家の中に入り込んできたみたいです。
加奈子は来れない事が前提だったのに・・・

「か、加奈子ぉ!?」

お兄さんも驚いてます。
当然ですよね。たぶんこの子、呼び鈴も押さず、勝手に入り込んでるわけですから・・・

「おい、加奈子おまえ」
「なぁ、きょーすけぇ。今日ってぇパンツの日っていうんだろぉ?」
「な、何!?・・・ああ、そういうコトか」

この子・・・やっぱりお馬鹿な子です・・・
そして、お兄さん。ようやく分かったんですね。

「だからよぉ~、ほれ」
「・・・」
「どーだぁ、これで加奈子のコト、少しは見なおしたっしょぉ?」
「・・・・・・」
「つぅかぁ、『彼女居ない暦=年齢』確定のきょーすけにぃ、わざわざプレゼントまであげるってぇ、
 加奈子ぉ、ちょーやさしくね?」
「・・・・・・・・・」

加奈子がプレゼント・・・驚きました。
でも、加奈子もお兄さんの事が大好きですし、当然なのかもしれないです。

ただ・・・お兄さんの反応が妙ですね?

「なあ、加奈子」
「どーしたよぉ?加奈子にぃ、ちょー感謝したいってぇ?」
「ちげーよっ!おまえ、コレ、どこで買ってきやがった!?」
「んー・・・アキバのぉ、ブルセラショップぅ?」
「―――ぶふぉっ!?」

っ・・・
も、もう少しで噴出すところでした・・・
加奈子、恐ろしい子。
というか、これはあまりにも・・・

「えっとぉ、加奈子の姉貴ぃ、しりょーあつめーとか言ってぇ、よく見に行くんだってぇ」
「いや、そこを知ってる事が問題なんじゃなくってだな?」
「じゃー、なにが問題だっつーの!」
「あのな、加奈子」
「・・・んだよ」
「パンツの日ってな。男物の下着をプレゼントする日だぜ?」
「マジぃ?」
「マジマジ」

それにしても、ほんとに仲良いですね。この二人。
頭にくるくらいです。

「・・・そっかー」

声からもわかります。
加奈子、しょげかえってしまってますね。

「ごめんな、加奈子」
「や、ちゃんとしらべてなかった加奈子がわりーんだしぃ」
「・・・ありがとうな、加奈子」
「んだよぉ、みずくせーよぉ。
 つーか、おぼえてろよぉ。つぎわぁ、ぜってーきょーすけをビックリさせてやるかんなー」
「おうっ、期待してるぜっ!」

そうして、加奈子も帰っていきました。
色々言いたい事はありますけど、わたしが帰り次第すべき事ができた事に変わりはありません。



加奈子が去ってからは、何事も起こりませんでした。
お兄さんもただ勉強をしてるだけで、でも、時折何か考え込んで・・・

それにしても、桐乃はいったいどうしたんでしょう?
先週あれだけパンツの日の事を話していたのですから、忘れてるわけがありません。
それなのに、プレゼントも何もなく、お兄さんの部屋に現れようともしません。
もうすぐ夜になってしまうのに・・・

「そっか、やっぱり、そういう事なんだよな・・・」

突然お兄さんが何かを納得したように呟きます。

お兄さんはおもむろに、ズボンを脱ぎだします。
そしてパンツも・・・!

ベッドの下だったのが幸いでした。
汚らしいものが見えなかったので、なんとか悲鳴を堪える事ができたんです。

「あと一枚、足りなかったって事なんだよな。」

な、何を言っているんでしょう?この人は!?

「おまえの気持ち、よく分かったぜ。
 全部あげるってことかよ、可愛いな・・・」

そういうと、お兄さんは、その姿のまま部屋を出て行ってしまいました。
(改めて言うまでも無く、正真正銘の変態です。)

わたしは混乱した頭のまま、急いでわたしのプレゼントをタンスにしまいこみ、
そして、見つからないようにすぐに高坂家を後にしました・・・


だから、この後なにが起こったのか、なにが起ころうとしてたのか、
わたしには分かりませんし、想像することすらできません。

わたしに分かっていることは唯一つ。
加奈子を・・・お兄さんが何らかの決心をする切っ掛けを作った加奈子を、
このままにしておくわけにはいかない、ということだけです・・・



End.



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最終更新:2012年08月10日 23:18