878 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/11(土) 14:54:00.34 ID:HE3/g4+bP
「えへへ。あんたってやっぱ、いい匂いするよね~」
「そ、そっすか」
現在、俺こと高坂京介は妹、高坂桐乃により強烈(主に感触的に)なハグを受けている。
一体どういうことだコレは。誰か助けてくれ。
『正しい? カンちゅーハイの飲み方』
俺は高校を卒業し、大学に進学した時一人暮らしをすることを決めた。
一人暮らしの大変さは受験勉強の折に一時的に(半強制的ではあるものの)一人暮らしをすることで
わかっていた。が、それでも俺は実家を出て一人暮らしをすることにした。
そこにはもちろん、自己責任とはいえ自由な生活への憧れや実家から出ることでの開放感を求めて
いた部分もある。けれどそれだけということでもなく・・・・・・
『ねえ京介』
『ん?』
『あんたさ、大学進学したら家出るの?』
『あ~、そうだな・・・・・・それも悪くないかもな。でも――』
『そっか。じゃあ仕方ないからあたしが面倒見てあげる』
『は? いや、俺は別に』
『まあ? あんただけじゃどうせろくでもない生活するのは目に見えてるし? 腐海の中で倒れるあんた
とか冗談じゃないし。そんなことされちゃ妹としてあたしの面目も立たないじゃん?』
『お前は俺を何だと思ってるの!?』
『それに・・・・・・』
『それに?』
『あ、あんたの家に行けば、その、誰にも邪魔されずにふ、二人きりでいられるし・・・』
『――――――』
などという会話が交わされたというのが俺を決断させたなどとは口が裂けても言えん。
そんなことがあり、まるで通い妻のごとく俺の家へと入り浸る桐乃という日常が出来上がった。
なお、そのことに対して親父から恨みがましいメールが時折送られてくるのだがスルーしている。
そんな生活がしばらく続いた頃のある日の晩、どういうわけか冒頭のような状況が発生した。
どういうことなのかこの状況。桐乃に抱きつかれてるのは嬉しいことは嬉しいのだが、どうにも腑に落
ちない部分が多すぎる。一体何がどうしてこうなった。
確かにそういった雰囲気になるときはなるのだが、今日に限って言えばそんなことはなかったはずだ。
というかここのところはそういった雰囲気になることはほとんどなかった。
その手の欲求がなかったわけではないんだが、もとよりなかなか素直になれない俺達である。切欠と
はなかなか掴めないものなのだ。それがたとえ兄妹から恋人へと関係が変わった今となってもそれは
変わらない。
「きょうすけ?」
「お、おう。なんだ?」
「ん~? 呼んでみただけ」
えへへとふやけたような顔で笑う桐乃。
何この超可愛い生き物。俺の妹がこんなに可愛くて俺死にそう。
「んっ、きょうすけ、ちょっと強いよ」
「! す、すまん」
思わず思い切り抱きしめてしまった俺を誰が責められようか。
しかし桐乃は一体どうしたというのか。と、自分を落ち着かせるために部屋を仰ぎ見た俺の視界に見
慣れないもの、しかし最近見たものが目に入った。
げっ、あれは――――っ!
「ちょっと、あたしを差し置いて何見てるわけ? こっち見てよ!」
「桐乃、もしかしてお前アレ飲んだ?」
いかにもあたし怒ってますと言いたげに頬を膨らませてる桐乃に顔だけで『ソレ』を差して聞く。
「え? あ、うん。ちょっと苦かったけど、わりと悪くない味だったよ?」
やっぱりかーーーーーーーーーー!!!!
さっき目に入ったもの。それは机に置かれたチューハイの缶だった。
どうやらこっそり興味本位に買っていたそれを桐乃が飲んでしまったらしい。
そうか。ということは桐乃はアレを飲んで酔っ払っちまったってことか。それなら急な桐乃の今までの行
動も納得できる。さっきから顔が赤いのもそれが原因か。桐乃は思っていた以上に酒に弱かったらしい。
・・・・・・ん?ちょっと待て。それはおかしいだろ。そもそもあれは――――
「なに? もしかしてあんたも飲みたいの?」
俺の返事も聞かずにスッと俺に抱きつくのをやめる桐乃。離れていく温もりが名残惜しいと思ってし
まった自分が恨めしい。
なんとなく立ち尽くすを放ったままチューハイを手に取る桐乃。そのまま俺に渡してくれるのかと思いき
や、何を思ったのかコクコクと自分で飲みだし、空になったのかそれをぽいっと投げ捨てる。
カン
と軽い音を立てて床に落ちる空き缶。
人に聞いておいて自分で飲むのかよ! と思ったその時、グイッと頭がひっぱられた。
ちゅ~
次の瞬間に来るのは口を覆うように与えられる熱い感触。
目に映るのはドアップの桐乃の顔。
何をされているか理解をする暇もなく、今度は口を割って入ってくるぐにぐにした物体と冷たい液体。
口移し。そう理解するまでに数瞬の時間を要した俺は、あまりの出来事にふらふらと足元をおぼつか
せてしまう。それでも桐乃が離れないのは、その両腕で俺の頭をガッチリとホールドしているからだ。
ぼふっと近くにあったベッドに倒れこむ。俺は下に、桐乃は上に。
苦い、けど、甘い。
桐乃の口から流れてくるものの味をそう感じながらコクコクのみ干していく。
そうしてどれだけの時間がたったのか。ぷはっ、と桐乃がようやく俺を解放する。
「ハイ おいしかった?」
赤い顔で、トロンとした表情をしながらそんなことをいう桐乃。
体勢をそのままに、俺の胸に頭を預けるようにして抱きついてくる。
「明日は休みじゃん。だからさ、今日はお父さん達に友達の家に泊まるって言ってきた」
おいおい、それじゃあまるで彼氏の家に泊まる口実をでっち上げる彼女のセリフ、ってまんまか。
てかまさかその友達ってあやせじゃねえだろうな。どっかから話が漏れたらシャレにならないぞ。主に俺
の命が。
「だから、さ。今日はずっと、ぎゅってしほしい、な」
そんな桐乃のお願いを俺が断れるわけもなく。
「あと、もっと・・・・・・じゅーでんして?」
今度は俺からと、桐乃を抱きしめて顔を近付けて――――。
翌日。
昨日遅くまで起きてたせいか、珍しくおきていない桐乃を寝かしたまま俺は床に転がる缶を手に取った。
その缶を眺めつつ、俺はぼやく。
「ノンアルコールチューハイなのに酔うことってあるんだな・・・」
ちなみにこの後、チューハイを買ってくると二人で飲むのが恒例となるのは別の話である。
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最終更新:2012年09月04日 23:22