937 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/13(月) 04:30:40.06 ID:PmBij0jC0
【SS】ある日差しの強い日
それはとても日差しの強い、真夏のある日のこと。
「おにい……ちゃん……?」
突然掛けられた声に、俺ーー高坂京介は振り返る。
小学生くらいだろうか、顔は帽子で隠れていてよく見えないが、その声は忘れるはずもない。
「桐乃……?」
「ごめんなさい……!ひ、ひとちがいでしたっ。」
その少女は驚いた様子で逃げ出すように立ち去ろうとする。
「おい、待てって!」
慌てて引き止めて顔を確認してみると、やはり桐乃だった。
だが、それはいつも見ている桐乃ではなく、ちょっと弱気な目をした幼い頃の桐乃だった。
「きり…君は、どうしてここに?」
ごく当然の疑問を聞いてみると、幼い桐乃は、一緒に出かけている最中にちょっとした喧嘩を兄としてしまったこと、
そして兄とはぐれてしまったことを話してくれた。
「あたし、お兄ちゃんに嫌われちゃったのかな……。」
うっすらと瞳には涙が浮かんでいる。
どうにかしなければと考えていると、可愛らしい服装に不釣り合いな野球帽が目に付く。
「その帽子、もしかして誰かから借りてるものじゃないか?」
「うん。お兄ちゃんの。」
目を伏せつつも答えてくれた。どうやら正解だったようだ。助かったぜ俺。
続く言葉は自分でも驚くほどスムーズに出てくる。
「大丈夫だよ。君のお兄ちゃんもきっと君のこと心配してるよ。だから帽子を渡したんじゃないのかな。」
すると、桐乃の顔がぱぁっと明るくなる。
「そっか……。えへへ。」
どうにか最悪の事態は回避できたようだ。
…
……
それからしばらくして。
遠くから中学生くらいの少年が慌てた様子で走ってくる。
その姿を見つけた桐乃は、少し名残押しそうにこう告げてくる。
「今日はありがとね。「京介」おにいちゃん。」
帽子を取り、俺に渡してくる。今日のお礼ということなのだろうか。
在りし日の兄妹は遠くで手を取り合い、彼方へと消えていった。
(おまけ)
それは、ある兄妹の帰り道。
「あやせに聞いたんだけど、あんたが幼女に手を出そうとしてたって話、ホントだったら殺すから」
声の主は、俺のよく知っている今の桐乃。
可愛くねぇ。さっきの天使からどう育ったらこうなるんだろうな。
何か、反撃できるようなものはないだろうか。
「……今日は暑いからな。」
と、手にある帽子を桐乃に被せてみる。
「な……、やめてよね。セット……くずれるから……。」
深くかぶり直された帽子の下の表情は、俺には分からなかった。
おしまい。
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最終更新:2012年09月11日 22:31