738 名前:おめでとう そして ありがとう【SS】前編:2012/10/23(火) 02:30:08.16 ID:Tp84eUh+O
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「また着られるとは思わなかったな……」
あたしは、あの時以来の衣装を身にまとい、モノレール千葉駅にいる。またもや美咲さんからの依頼だ。
『モノレールでウェディング』
貸切にしたモノレールや駅を使って結婚式をやるという企画の宣伝用の撮影とのことだった。
駅の更衣室で、懐かしい思いが残る衣装、あの時と同じデザインのウェディングドレスの支度をしてもらい、準備万端。
「桐乃ん、おまたせー」
「あれ、ランちん。何その格好は?」
「へへ、カッコいいでしょ」
あたしの前に姿をあらわしたランちんは、なぜかモノレールの会社の制服を着ていた。胸には「宮本」と記された名札が光る。
「ランちんは、ドレス着ないの?」
「今回は桐乃んのアテンダント役だからね。この格好なワケ。さっ、行こうか」
ホームではあたしたちを最新型のモノレールが待っていた。そしてそこには……「よっ、」
「きょ、京介……何でいるの?」
そこにはタキシードを身にまとったあいつがいた。なんで???
「どうやら美咲さんの仕業のようだな。俺は撮影のエキストラ要員として呼ばれたんだが」
美咲さんの仕業…… そういえば撮影のはずなのにスタッフさんたちの姿が見当たらない。でもランちんがいるし……
「と、ここでネタばらし」
ランちんが叫ぶと同時に発車ベルがホームに響く。
「続きは車内だね。さあ、乗って乗って」
ランちんに急かされるままにあたしたちは乗り込む。間もなくドアが閉まり、モノレールは駅を離れていく。
「ランちん、これはどういうことなのか説明してよ」
「分かったから、まずはそこの中吊り広告を見てみてよ」
言われるままに目をやると、そこには……
「おいこれ、俺たちじゃないか」
普段は雑誌やショップの広告が吊り下がってるところ全てに、あたしたちをモデルにしたイラストや漫画が貼られていた。
「何これ……」
「これはね、桐乃んのファンの人たちが書いた作品の数々なんだってさ」
「すげえな、こんなにあるのか」
「正直、私もビックリなんだけどね。まるでプロの漫画家やイラストレーターが描いたみたいじゃん」
一枚一枚の作品には、紙一杯にあたしや京介のいろんな姿が描かれている。
「きっと、これを描いた人たちは、桐乃んやお兄さんのことが大好きな人たちなんだろーね」
ランちんの言うとおり、描かれてるのは、ものスゴく照れくさくて、ものスゴく恥ずかしい内容なんだケド、
あたしたちのことを愛してくれてる、その思いがひしひしと伝わってきた。
「……京介、何見てるの?」
「ああ、これか。こっちは小説みたいだな」
京介は座席に置かれていたノートの中身を読んでいた。
「これはショートストーリーとかサイドストーリーって言う文章を集めたものなんだって。
やっぱり桐乃んやお兄さんを好きな人たちが、あんなことやこんなことをウヒヒ、妄想しながら書いた作品みたいだよ」
やけにニヤニヤしながら話すランちん。あたしも試しに一冊手に取って読んでみることにした。
「…………。」
ランちんがニヤニヤしたわけがわかった。てか、あたし、小説の中で何をやらされてるワケ??
チョー恥ずかしいんですけど!!!
「……ところでランちん」
「なになに?」
「そろそろこのイベントの本当の目的を説明してくんないかな?」
「そういやそうだな。撮影じゃないわけだろ」
「桐乃んとお兄さんに『おめでとう そして ありがとう』と伝えたい多くの人たちが企画したイベントだよ」
「俺たちに?」「あたしたちに?」
739 名前:おめでとう そして ありがとう【SS】後編:2012/10/23(火) 02:32:11.30 ID:Tp84eUh+O
「そう。二人のことが大好きでたまらない人たちによるイベント。その前半が終わったとこ」
ランちんが話し終わるとモノレールはちょうど終点の千城台に滑り込んだ。
千城台に付くと、作業員の人が何人も入ってきて、吊してあった作品やノートを回収していく。
「取っちゃうの?」
「後でまとめて桐乃んの家に送るから心配無用だよ。後半戦の邪魔になるしね」
「後半戦??」
「そっ、愛する二人の旅はまだまだ続くのだっ!!」
「ランちん……」
「桐乃ん、水臭いじゃん。
桐乃んにとって、一生を添い遂げる大事な人が決まったってことは、あたしにも早く伝えてくんなきゃ。親友だろ?」
「うん、ゴメンね」
「ま、大人の事情って奴があるからなあ。それはとりあえず置いといて、今はお二人さんの門出を祝おうぞ!」
ランちんが一旦ホームに降りると、笛をピイっと吹いた。
すると無人だったホームに沢山の人たちが上がってきた。
「きりりんおめでとう!」
「京介、きりりんを頼んだぞ!」
「きりのおねえちゃん、きれいだね。お花をどうぞ」
あたしたちを取り囲むかのように、みんなが口々にお祝いの言葉やプレゼントをくれる。
たちまち車内はプレゼントでいっぱいになった。
「それでは、二人の門出を祝して、みんなで歌を贈りましょう!」
ランちんが言うと、突如駅のホームには場違いな音楽が流れだした。
「この曲は……」
「知ってるっしょ。定番の歌だもんね」
「♪京介ときりりんが 夢の国 千葉モノレールの 千城台で 妹婚式を あげました
照れてる京介に あたし達が くちづけせよと はやしたて!!!」
そこでみんなは急に歌うのを止めてじっとあたしたちを見つめる。
「そういうことか」
思わず呟く京介
「そ、そういうことだよお兄さん」
ランちんがニッコリ笑いながら言う
「桐乃、大好きだ」
そう言って京介は、あたしに、キスをしてくれた。
「♪そっと京介は くれました!!!」
歌声やヒューヒューなどと囃し立てる喚声の中、あいつのキスは、思ってた以上に長く続いた。
発車ベルが鳴ってドアが閉まるまで、それは続いた。
「妹婚バンザイ\(^O^)/」
「末長く爆発しろー\(^O^)/」
様々な祝いの言葉を受けて、モノレールは走りだす。
歓迎はそれからも続いた。沿線の道路や建物から手を振ってくれる人たち。
通過する駅に立つ人が掲げる横断幕。
みんなみんな、あたしたちの門出を祝ってくれた。
「ほんと、嬉しいよね」
ランちんが呟く。
「こんなに沢山の人たちから愛されてる桐乃んと親友でいられて、私はとても幸せなんだなって」
「ランちん………」
きりりん 京介
おめでとう そして ありがとう
これからも よろしくね
最終更新:2013年01月28日 05:08