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 とある11月の某日。

「なあ、知ってるか? 高坂」
「あん? 何をだよ?」
「今日の夜は流星群が見られるらしいぜ」
「へえ、それは初耳だな。そんなのどこで知ったんだ?」
「ニュースでやってたぜ。今晩は瀬菜ちゃんと一緒にみようかと思っててな!」
「そうかい」
「なんだよ高坂、随分つれないじゃねえか。
 ・・・ああ、そういや今お前一人暮らし中だったっけか。俺が妹と一緒に過ごせることをひがんでるんだな」
「んなわけあるか!」
「相変わらず素直じゃないなぁ高坂は」
「だからそんなじゃねえっての!」



     『流れる星に願うもの』



 そんな会話をしたのが今日の昼のこと。
 ふと、勉強の合間の時間にそんなことを思い出した。

 くっそう赤城の野郎、あいつ結局誤解したままだったな。
 別にそんなんじゃねえってのに。何で俺がひがまなくちゃいけないんだ。
 桐乃と一緒だろうが一緒じゃなかろうがそんなの関係ないっての。
 第一、俺が一緒に見ようぜ、なんて言ったところで「キモ!」とかって拒否するに決まってんだろうが。
 まあ、別に? 拒否されたところで俺はどうとも思わねえけどな。

 窓から外に視線をよこすと、昼間の雨が嘘のように晴れていた。
 流れ星を見るには絶好の天気だろう。
 ちらりと時計を見ると、もうじき日が変わろうとしている時間である。

「・・・・・・桐乃は今日のこと、知ってるんかね」

 机の側に置いてある携帯を手に取った。
 画面に浮かぶ『桐乃』の文字と、その番号。
 少しの時間悩んで、コールボタンに指をかける。
 時間が時間だしな。でなければそれまでだし、数回コールしてでなかったら切ればいいだろう。
 明日何の用事で電話なんてかけてきたのかと問い詰められるかもしれないが、その時はその時だ。
 グッと指に力を入れて、電話をかけた。

 トゥルルルルル・・・ガチャッ! 

『なに?』

 って早っ!?
 いつかのように、たったのワンコールで桐乃は電話にでやがった。
 あの時も思ったが、反応早すぎんだろ。
 何、こいつもしかして起きてる間ずっと携帯すぐ取れるようにでもスタンバイしてるわけ?

『何? って聞いてるんですケド。用ないなら切るよ』
「ま、待て! 用ある! 用事あるから!」

 何日かぶりに聞く桐乃の声は相変わらずである、なんて感慨にふける間もくれやしない。
 まったく、せっかく兄貴がこうして電話をかけてるんだからもう少しこう、何か言うこととかないんだろうかね?
『元気?』とかなんとか、なにかあるだろうに。
 桐乃のほうは特に問題はなさそうである。この声を聞くかぎり、わざわざ聞くまでもあるまい。

『・・・・・・』

 はぁ、と電話の向こうでため息をついているのを感じた。
 やべ、もしかしてこのまま電話切られないだろうな。

『・・・で、用事って何? わざわざこんな時間にかけてきたんだら、大した事なかったら許さないかんね』

 ほっ。どうやら一方的に切られるという事態は避けられたようだ。

「お前、今夜流星群が見れるって知ってるか?」
『うん。ニュースでやってたし。何、そんなこと聞くために電話してきたわけ?」

 はいそうです。

『ハァ・・・別にいいけどさぁ。けど、もうちょっと時間とか考えなさいよね。
 あたしがもう寝てたりしたらどうすんのよ』
「お、起きてたんだし、いいじゃねえか」
『それ、ただの結果論でしょ』

 バッサリと切り捨てられた。
 こうなることは予想できただろうに、何で俺電話なんてしてしまったんだろう。
 よく考えたらメール送ればよかったんだよね。何故そこに考えが至らなかったのか。

『それで?』
「あん?」
『だから、それで?』
「んん?」
『・・・・・・ああもう! あんた、今すぐ外出ろ!』
「いきなりなんだ」
『いいから!』

 そうは言われてもな。何でこんな時間に外に出なきゃならんのだ。
 などということを考えていると、なにやら電話の向こうからドタドタガラララと音がする。
 ・・・・・・まさか?

 部屋の窓辺へと足を進める。ガラッと窓を開けた。
 晴れた夜空は星の光を綺麗に映し出している。
 と、そこに一筋の光が線を引いた。

「お」
『あ・・・!』

 俺が声を漏らすと同時に電話の向こうでも声があがる。
 今見えた流れ星は、桐乃にも見えたんだろうか。

「なあ」
『見えた?』
「おう。そっちも見えたか?」
『うん』

 なんて話をしている間にもう一筋。
 
『あ、また!』
「・・・・・・」

 側にいるわけじゃない。姿が見えるわけじゃない。聞こえるのは声だけ。
 けれど、今お互いが同じものを見ていることがわかる。同じ時間を過ごしてるがわかる。

「そういや」
『何?』
「流れ星が流れ終わるまでに3回願い事を言えたら願いが叶うって言うよな」
『あんた、そんなこと信じてるの?』
「いいだろ別に」

 心の底から信じてるわけじゃないけどな。
 でもそういうのも夢があっていいじゃないか。

『なんかお願いしたいことでもあんの?』
「そりゃあ・・・・・・」

 受験に受かりますように、とか。

『あんた、受験に受かりますようにとか考えてないでしょうね?』

 おい、一字一句間違わずに当てるとか何それ。お前エスパーだったりしないよね?

「わ、悪いかよ?」
『悪い』
「うぐ・・・・・・」
『第一、今のあんたにそんな資格があんの? 
 神頼みっていうのはね、自分がやれることを最後の最後までやって、やって、やりつくして初めてしていいことなの。
 そもそも、やるべきことをやれば、わざわざ神頼みする必要なんてないの。』
「・・・・・・」
『それでも願うなら、それは受かることじゃなくて、成功することを願えばいいの』
「成功すること?」

 受かることと、成功すること。一体何が違うっていうんだ。

『そ。受験の日に体調を崩したり、事故にあったり、そういうことがないようにってね。
 万全の状態で受験さえ出来ればいいんだから。そうすれば自然に結果はついてくる。
 できることをやりつくしてるって、つまりそういうことじゃん?』
「・・・・・・」
『ていうか、あんたにはわざわざあたし達が貰ってきてあげたお守りがあるんだから、
それ以上お願いとか贅沢すぎるっての』
「・・・はっ。そうだな」

 まったくもって、その通りだ。
 俺はまだまだやれることが残ってる。そんな俺が神様に頼ろうなんておこがましい。
 それに、桐乃の言う通り、桐乃たちの思いの詰まったお守りもある。
 これ以上に頼もしいものも、ない。

『でもま、自分のことじゃなければいいんじゃない?』
「え?」
『自分のことだとどうしても甘えが出ちゃうけど、他の誰かのことならそうでもないでしょ』
「そんなもんか?」
『そんなもんよ』

 そんなもんか。
 しかし、自分じゃない誰かのこと、か。
 なら、俺は・・・・・・。

「なあ、桐乃」
『何?』
「お前にも、叶えたいことって、あるのか?」
『・・・・・・あるよ』
「・・・・・・そうか」

 自分じゃもう、どうしようもないけどね。と続いた、小さな、本当に小さな声は何を思ってのものだったのか。
 俺はそれを、聞こえないふりをした。

 やるべきことをすれば結果はついてくる。確かにそうかもしれない。
 けど、そのやるべきことをすることさえ許されない願いがあるとしたら、どうすればいいのだろう。
 自分でするべきことを許されず、許すことが出来ず、それが叶うことを願うことも出来ない。
 そうなれば、それはもう自分ではどうしようもないことなんじゃないだろうか。
 もし・・・もし、桐乃にそんな願いがあるとするのなら、それを桐乃が自分で願うことを許さないのであれば、
それが叶うようにと俺が願ってもいいはずだ。それがたとえ・・・・・・俺にとって辛いものだったとしても。
 
 気付かないうちに下がっていた目線を空へと上げる。
 一筋、二筋。次々と流れる光の箒。
 流星群は、今まさに最高の時を迎えていた。

『綺麗・・・』
「そう、だな」

 流れる光に願いを込める。
 桐乃も、他の誰かの為に、この星に願いをかけてるんだろうか。
 それが俺のためだったらいいと思うのは、とんでもない我侭なんだろうな。

 


 沢山の願いが星に乗り、運ばれる日。
 降り注ぐ光の下、俺達は電話の向こうにお互いの存在を感じながら、
流星群が過ぎ去るその時までいつまでも夜空を見上げていた。




-END-

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最終更新:2013年01月30日 01:22