SS『遅れてきたサンタクロース』



俺、高坂京介は、街の中を疾走していた。
赤い服に白い大きな袋を背負う、所謂サンタクロースの格好でだ。

「また面倒事を引き受けちまったかな……。」

事の始まりは桐乃へのプレゼントを買いに行く途中、ある噂を耳にしたことから始まる。
なんでも、相手の欲しい物をピタリ当ててしまうという「ジングル」なる人物が居るという話である。
で、そのジングルさんとやらに会うことができたのは良かったのだが、代わりにプレゼント配りを
手伝わされることになってしまった。

(折角のイブだってのに、何やってるんだろうな、俺……。)

決して人助けが嫌になったわけじゃない。
困っている奴がいたら、俺に出来る範囲で協力するという決意は今も変わっていない。
でもこんなに焦っているのは、やっぱり……。

(……桐乃。)

ジングルさんに頼まれたプレゼントを一通り配り終えた頃にはもう23時を回っていた。

「一通り配り終わったぜ。」

「うん。キミのお陰でみんな幸せそうだ。さて、キミ達へのプレゼントを渡さなくっちゃね。」

 渡されたのは、鍵だった。

「なんスか。コレ?」

「それより、キミを待っている人が居るんじゃないかい?それじゃ、僕はこれで。」

「ちょっと待ってくれって。おい!」


 俺の妹のプレゼントを…と言いかけた頃にはもう彼の姿は見えなくなっていた。

「帰るか……。」


 家の明かりはすでに消えている。桐乃の部屋もだ。

 玄関を閉め、二階に上がる。桐乃の部屋をノックしてみるが、返事がない。

 とふと、さっきもらった鍵のことを思い出す。

「まさか、コレを使えってことか。」

 ガチャ。目の前の扉はあっさり開いてしまった。
 決して自分からは開けることができないと思っていた、一方通行の扉。

「え、なんで、京介!?」

「ただいま。」

「遅い。」

 とん。軽いパンチとぶっきらぼうな返事の後、桐乃は体を預けてくる。
 目に見える涙の跡から察するに、泣いていたのだろう。

「悪い。お前へのプレゼント――」

俺の言葉を遮るようにして、耳元で桐乃が囁く。

「いい。あんたがいれば、いい。」

俺は、遅れた分を取り戻すように、目の前の妹をぎゅっと抱きしめた。


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最終更新:2013年02月03日 21:30