169 名前:【SS】:2013/03/20(水) 20:21:55.74 ID:gx+DIKaqP

「トキの兄妹が抱卵を開始、ね」

 とある日の夜のこと。リビングでテレビを眺めていたらそんなニュースが目に入った。
 トキといえば国の天然記念物に指定されている鳥である。そんな鳥が卵を産めばちょっとした話題になるのは当然だ。
 とはいえ、それだけならこんな風に取り上げられるのはそんなにあることじゃない。
 今回の話題の中心になっているトキのつがいは、ちょっとだけ特殊な事情がある。
 そのつがいの両方が同じ親から生まれた子。つまり兄妹であるということだ。

「卵産まれたんだ」
「そうみたいだな」

 隣で一緒にソファに座っていた桐乃が嬉しそうに声をあげる。

「元気な赤ちゃん生まれるといいね」
「そうだな」

 慈しむような目を向けたまま桐乃は言った。
 桐乃にとって、それに俺にとってもこのトキのペアは気になる存在だ。
 その境遇が、どうしても自分達と重なってしまうからだ。

「それにしてもよかったな。一時はなんか別れさせるみたいな話も上がってたみたいだしよ」
「ホントそう! せっかく連れ添う相手を見つけたのを別れさせるとかマジありえないし!」

 正確には繁殖を抑制って話だったんだが、まあ似たようなもんだろう。
 最初にその話を聞いたときの桐乃の顔の怖いこと怖いこと。
 そんな形相で電話を手に取ろうとするもんだから、それを必死で止めたのは記憶に新しい。
 アグレッシブなのは実に桐乃らしいが、もう少し考えて行動しろって。

「ま、周りも今は静観するって言ってるし心配ないだろ」
「うん」

 無事に産まれて欲しいもんだ。
 それはきっと、俺達にとっても喜ばしいことで、力をもらえることのはずだから。

「…………」
「…………」

 と、そこで会話が途切れた。静かな時間がリビングを流れる。
 聞こえてくるのは水の流れる音や、パサリパサリと紙がめくれるような音だけだ。
 
「…………?」
「…………」

 チラリと桐乃に視線を向けてみると、心なしかさっきよりも距離が近くなった気がする。
 いや、気がする、じゃなく明らかに近くなっている。
 さっきまで半人分ほど開いていた俺と桐乃の距離は、いつの間にか肘が触れそうなほどに縮まっていた。
 どうやら桐乃がずりずりと尻を動かしてこっちに近付いているようだ。
 あいにく俺はソファの端に座っており、俺が桐乃から離れていくことは出来ない。
 結果、俺と桐乃はぴったりとくっつくことに。

「き、桐乃さん?」
「ね、京介」
「な、なんだ?」
「えっと」
「うん?」
「あの、さ」
「ん?」
「う~……察しろっての」

 ぎゅっぎゅっと俺に体を押し付けながらそう毒づく桐乃。
 いや、いきなりそんなこといわれてもわかんないっすよ俺。
 自他共に認める鈍感なのはお前も知ってんだろうが。

「ん」

 ムスッとしながらも顔を赤らめた桐乃のピッと伸ばされた指の先には、先ほどのトキの新婚さんが。
 なにやらくちばしとくちばしを重ね合わせてて、見ようによってはキスをしてるように見えなくも……って?
 え、マジで? もしかしなくても触発されちゃった?
 桐乃のほうを見てみれば、さっきよりも更に顔を赤くして目を潤ませ、こっちを見上げる桐乃の顔が。
 やべえ、何この超可愛い生き物。こんなの逆らえるわけないって。

「き、桐乃」
「…………」

 赤らんだ顔、閉じられた長い睫毛の目、プルンとした艶やかな唇。
 そんな桐乃に誘われるように、俺も顔を近付ける。
 もともと近かった距離は更に近くなり、残る距離はあとわずか。
 残り、10センチ、5センチ、3センチ…もう唇が触れると思ったその瞬間。

「ごほっ、ごほっ、ごっほん!」
「「!!!!」」

 突然の乱入音にバッと体を離す俺達。
 誰だ! 後もうちょっとだったのにと音の発生源に目を向けて後悔した。
 
 そう、ここはリビングで、俺達の家で、つまりはここにいるのは俺達だけじゃないわけで……

「京介」
「はい」
「桐乃」
「はい」
「そこに座りなさい」
「「はい」」

 完全に目の据わった親父に睨まれた俺達がその指示に逆らえるわけもなく、二人して一緒に椅子へと座らされ、
そのまま小一時間説教を受けるはめになってしまった。
 説教のようでただのうらやまけしかんという愚痴の様でもある親父のお叱りに、俺と桐乃は心の中で
「今度はちゃんと二人きりのときにしよう」などと反省してるんだかしてないんだかわからないことを誓うのであった。



 ちなみに、親父の説教にぐったりした桐乃が「じゅーでんきれた」と俺の部屋へときたのは自然な流れであり、
たっぷりとじゅーでんをして満足した桐乃がそのまま俺の部屋で寝付いてしまうのも、当然の道理であったことをここに付け加えておく。


 なお、その翌日朝起きてこない俺達を起こしにきたお袋が一緒に寝ている俺達を発見し、お袋にまで説教されてしまったのは別の話である。



 おわり



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最終更新:2013年04月13日 19:37