747 名前:【SS】:2013/04/01(月) 00:51:31.60 ID:KvFSgupJP

 俺こと京介は今、負けられない戦いへと赴こうとしている。
 昨日は負けてしまった。だがそれでこの勝負がいかに負けられないかを理解した。
 だが相手は強敵だ。一筋縄ではいかない。けど負けるつもりはもうとうない。
 そしてその戦いの相手とは……桐乃。
 そう。いわずと知れた俺の妹、高坂桐乃である。

「……今日もやるんだよな?」
「あったりまえでしょ。ま、どうせ今日もあたしが勝つに決まってるケド」
「調子に乗るなよ。今日こそぜってぇ勝つ!」
「どうだか。それが口だけにならないといいけどね~」
「ほえ面かくなよ」
「そっちこそ」




   『高坂家就寝戦線~兄妹寝床争奪日記~』




「確か昨日負けたほうが勝負の方法を決めていいんだよな?」
「そ。つまりアンタが決めていいってこと。き・の・う・負・け・た・あんたがね♪」
「ぐぬぬぬ」

 くっそう、いちいちムカつくいいかたしやがって!
 昨日はただのジャンケンで勝っただけのクセによ。
 まあ負けたのは事実だから余計な反論はしねえ。すればこじれるのは目に見えてるしな。
 だけどな、そんな風に余裕ぶっこいてられるのも今のうちだぜ。

「それで? 今日は何して決めるわけ?」
「それはな……これだ」

 そうして俺が突き出したのは、俺達の間では既におなじみとなっているゲーム。

「シスカリ…」
「そうだ。今日はこれで勝負しようぜ」
「ふ~ん……」

 何か言いたそうな目でこちらを見る桐乃。
 おおかた何か企んでるんじゃと疑ってるんだろうが、そんなもんするつもりはない。

「あんた、これで前にあたしにボロ負けしたの忘れたわけじゃないよね?」
「もちろんだ。でも俺があの時と一緒だと思ってると痛い目見るぜ?」
「へぇ~。どこからそんな自信がでてくるのかしんないけど、いいじゃん。相手したげる。
 ボロボロに負けたからって後で文句言うのはなしだかんね」
「そっちこそな」

 バチバチと俺と桐乃の間で火花が散っているように感じるのは、気のせいじゃないだろう。

「それじゃ移動ね。ここじゃ出来ないし」
「おう」

 そして移動した先は桐乃の部屋。
 ゲームを起動し、準備を整える。

「んじゃあルールを言うぞ。勝負は3本勝負。キャラの使用に制限はない。ただし改造パッチとかはなしな」
「そんなの使うわけないでしょ。バカにしてんの?」
「言ってみただけだっての。んで、1本ごとにキャラの変更はOK。先に2本とったほうが勝ちだ」
「ふんふん。それだけ?」
「それだけだ」
「わかった」

 お互いにコントローラーを握る。

「それじゃ、始めるよ」
「おっし。今日は絶対に負けねえ」
「あたしだって負けないし。てか勝つし」

 1試合目で使うキャラをそれぞれが決める。

「ステージはランダムでいいよね」
「おう」

 ゲーム

「「それじゃあ」」

 スタート

「「いくぜ(よ)!!」」





『キャアアアァァァ!!』


「うぐっ」

 画面には俺の使用したキャラが服を破られながら吹っ飛ばされ、『K.O』の文字が映し出されていた。
 つまり勝負1本目は俺が負けてしまったわけである。

「くそぅ…」
「…………」

 悔しがる俺とは逆に、桐乃は勝ったにも関わらず妙に静かだ。
 てっきり小ばかにされるもんかと思ってたんだが。

「あんた」
「なん……だ?」

 桐乃に呼ばれてそっちを向いて後悔した。
 なぜって、桐乃が超冷め切った目で俺のほう見てんですよ。何これコワイ。
 どM大歓喜とかそんなレベルじゃねーから。

「あんた、何であのキャラ使ったわけ?」
「は? なんでって」
「しかも妙に動きが『誰かさん』に似てたんだけどあたしの気のせいカナ~?」

 ギクリ

 俺のさっき使ったキャラは通称『コスプレ妹』。
 ゴスロリ服を着て魔法っつうか魔術っていうかそんな感じの攻撃をするキャラである。
 実はこのキャラは桐乃いう『誰かさん』の得意キャラであり、容姿もそっくりだったりする。

 ぶっちゃけちゃうと、実はこのキャラの使い方をその誰かさん――黒猫にみっちり鍛えてもらったのである。
 もちろんネット越しであるが。桐乃がいるのに二人で会おうなんてことできるわけないからな。
 だから自然と動きも似通ってしまったんだろが……。

「ま、別にいいんだケド~? アンタがあたしの知らないところでどこで誰と会ってようが関係ないし?」
「ち、違ぇって! 」

 これはマズイ。こいつぜってえ勘違いしてるだろ!?

「ま、それは後で追求するとして」
「……関係ないんじゃねえの?」
「なんかいった!?」
「なんでもないです!」

 超こえぇぇ。こりゃ後で誤解解くの大変そうだ。気が滅入るぜ…。

「それよりわかってんの? あと1回あたしが勝ったらこの勝負あたしの勝ちなわけだけど」
「わかってるよ。次は意地でも負けねえ」
「あっそ。ま、精々頑張れば?」

 ピピピピっと桐乃がキャラを決定する。
 その決定したキャラを見て、俺はとあるキャラを迷いなく選択した。
 「あ!?」という桐乃の声が聞こえるが、知ったこっちゃない。
 これは勝負なのだ。油断した桐乃が悪いのである。

 ゲーム

「ちょ、ちょっとま――」
「はじめんぞ!」

 スタート






『うへぇ~…』

 画面に写るのは少女の生首――ではなく、首から下を地面へと埋められた少女の姿であった。
 隣には一仕事終えて満足そうに汗を拭う黒髪の少女が立っている。
 その頭上に光るのは先ほどと同じ『K.O』の文字。

 勝負2本目は俺の勝ちであった。

「あんたこれは卑怯でしょ!」
「勝ちは勝ちだ」
「これただのバグ技じゃん!」
「でも公式公認だぜ?」
「そ、それはそうだケド!」

 何がどうなったかというと、桐乃が使ったキャラは『魔砲少女妹』。
 そして俺が使ったのは『穴掘り妹』である。
 実はこのシスカリ、製作者が冗談か本気かわからないが、公認であからさまにおかしい仕様を突っ込んでいたりするのである。
 特定のキャラに対して特定のキャラで特定の行動をすると一方的に勝負が決まってしまうというものである。
 今回はそのうちの一つを使わせてもらったわけだ。

「キャラ選びの時から既に勝負は始まってるんだぜ?」
「うっさい! こんな勝ち方で調子にのんな!」

 ムキー! とお怒りになる桐乃はさっきとは別のベクトルで怖い。
 けどまあ、こういう怒り方のほうがよほどマシかつ慣れてるので俺としては気楽なもんである。

「次がラストだな」
「ふん。アンタがそんなに負けたいって言うならあたしもホンキ出してあげる」
「まるで今まではホンキじゃなかったみたいな言い方だな」
「あったり前でしょ。アンタ程度に本気なんか出したらすぐ勝負ついちゃうし。
 でもさっきので頭きたから次はホンキで潰す」
「じゃあ俺も本気出すか」

 実は俺も、一番得意なキャラを使っていたわけじゃない。
 桐乃を相手にする時には使うまいと思っていたが、そうも言ってられないようだしな。

 そうして選ぶのはお互いに最後になるキャラ。

 桐乃が選ぶのは『炎熱妹ロリVer』
 炎を操る、ショートヘアの金髪の生意気そうな妹。
 俺が選ぶのは『炎熱妹走行特化型』
 同じく炎を操り、空を飛んだり地を歩いたりする中で、地上を走ることに特化された、茶髪の髪の長い妹。

 奇しくも最後は同じ系列のキャラを選んだ二人。
 先ほどのようなバグ技はこのキャラの間には存在しない。勝負を決めるのは純粋な己の腕のみ。
 いつも近くで見ている、誰かさんに似ているキャラを選びながら最後の時を待つ。
 お互いに言葉はない。

 ゲーム

 最後の戦いの幕が、今

 スタート

 火蓋を切った。





 『兄貴いいぃぃぃぃ………』


 『K.O!』


「……っしゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
「うそ……」

 激しいバトルの末、最後の勝利を掴んだのは俺であった。
 最後の大技「爆走自転車ウェディング特攻」が決まり、決着がついた。
 画面には、兄貴であろう男の自転車の後ろに乗り、新郎新婦の格好で夕日を背景にチャリの進む姿が映し出されていた。
(ちなみに、この技はとある日に新郎新婦がチャリで爆走しているのを見て組み込んだという噂があったらしい。
 どこかで聞いたことがあるような話であるが、深くは考えないようにしている)

「まさかあたしが負けるなんて……」
「正直勝てるとは思わなかった」

 俺が技を出した時に桐乃のキャラが一瞬止まったのが決定的だったな。

「これで俺の勝ちだな」
「……なんか納得いかないケド、しかたないか。負けは負けだしね。なかなかやるじゃん」
「お、やけに素直じゃねーか」
「ま、あたしもホンキでやったしね。今回は負けを認めてあげる。次は絶対に負けないけど」
「いってろ」

 とにもかくにも、これで2勝1敗。勝負は俺の勝ちだぜ!




 これで――――。




「今日寝るのは桐乃のベッドだな」
「ちぇ」

 今更であるが、俺達がこの勝負で決めようとしていたことがなんだったのかというと……。

「あんたのベッドが良かったのに……」
「諦めろ。今日は俺が勝ったんだから俺の希望を優先させてもらうぞ」
「妹の部屋で寝たいとかちょーキモイ。このシスコン」
「言ってやがれこのブラコン。てかどう考えてもお前の部屋のベッドのほうが広くていいだろうが」
「あんたなんにもわかってない! あのぎゅってくっつける狭さがいいんじゃん!」

 とまあそういうことである。

「無理にくっつよりはゆったりしたほうがいいじゃねえか」
「それにあたしの部屋じゃアンタの匂いがしないし!」
「話聞いてねえ!?」
「それにさ、「入っていい?」って部屋の前で枕持って上目遣いで佇んでる妹って超可愛くない!?」
「確かに昨日のお前は超可愛かったけどってお前狙ってやってたのかよ!?」
「アンタはもっとあたしにアンタの匂いを提供するべき」
「一緒に寝てるんだから十分だろ!」
「てかアンタの腕硬くて寝づらいんだけどもっと柔らかくなんないの?」
「いや無理だから。つかおまえそれ枕持ってくる意味ねえだろ」

 ワイワイギャーギャー

 そんなこんなで俺達兄妹の夜は更けていくのであった。


「あ、寝る前のじゅーでん忘れたら許さないかんねっ」



  おわり





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最終更新:2013年04月13日 20:05
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