579 :【SS】:2013/05/03(金) 18:57:27.23 ID:mzfFRRgK0

ゴールデンウィーク最終日。
俺は駅前で、愛しの……妹と待ち合わせをしていた。
まあ、ようするにデートだ。

なぜこんなことになっちまったかというと―――
昨日の夜、桐乃が風呂上りに飲もうと買ってきたいちごオレを俺が飲んじまったので、その責任を取るはめになって……。
その結果、桐乃をデートで楽しませることになっちまったわけだ。
デートをすることが責任を取ることと、どう繋がるのかは、正直よくわからん……。あいつ何を考えてやがんだ?
などと考えているうちに、愛しの妹様が現れた。

「お、おまたせ」
「そんなに待ってねえよ、じゃあ行くか」
「うん」

今日の、桐乃のファッションはいつも以上に気合が入ってる。
春らしいピンクのカーディガンにデニムスカートというのだろうか―――相変わらず何を着ても似合うやつだ。

……ちなみに、駅前までは普通に一緒に歩いてきた。桐乃の希望で、待ち合わせの小芝居を挟んだというわけだ。

「で、どこ行くよ?」
「はあ?あんたが考えてくれるんでしょ?あたしが楽しめるとこ」
「んなこと言われてもな……」

ぶっちゃけ一晩考えても、植物園くらいしか思い浮かばなかったんですが……正直に言うと怒られそうだしなあ……。
どうしたもんか。アキバ以外で桐乃が喜びそうな場所なんて、俺の頭じゃ思いつかねーんだよな。

「ほら早くっ」
「えっと……こ、この前のデートのやり直し…ってのはどうだ?」
「この前のデートの……?」
「お、おう」
「……ん。それでいい」
「え…?ほんとにそれでいいのか?」
「いいっつってんじゃん。さっさと行くよ!」
「わ、わかったから引っ張るなって」

……正直、怒られるかと思ってたんだが、桐乃はご機嫌らしい。勢いよく腕を絡めてきた桐乃の横顔は紅潮しているように見えた。
前回と同じく、妹と腕を組みながらやってきたのは映画館である。
もちろん観たのはアニメ映画だ。前回はリトルなんとかってアニメだったが、今回は俺の強い要望でドラゴンボールの新作にしてもらった。
やっぱゴクウはかっけえぜ!……と、俺は非常に楽しめたんだが、桐乃はどうだったんだろう?
バトル系のアニメなんてこいつの趣味には合わなかったんじゃ……?

「えっと、おまえいまの映画どうだった?」
「ん?もち、面白かったよ」
「そっか、桐乃の趣味には合わないんじゃなかったかって、ちょっと心配だったんだけど楽しめたんだな」
「うん!あたしもドラゴンボールは全部見たけどさあ、やっぱゴクウはかわいいよね~」
「かわいい…?カッコいいじゃなくて?」
「え?かわいいっしょ?」

………女の感性ってのはどうなってるんだろうな。俺とこいつが同じ作品を見てたのかあやしくなってくるぜ。
まあ、桐乃も楽しかったみたいでよかったよ。一安心したところで腹が減ってきたことに気付く。

「なあ、そろそろ飯食いに行くか」
「ん~、そだね。あんた、前にあたしが教えてあげたお店ちゃんと覚えてる?」
「スイーツショップだろ?任せとけって」
「ん。じゃあ、エスコートしてよね」
「はいよ」

………………迷った。
もはや、目的地の方向さえわからん。

「えっと、な……桐乃」
「迷ったんでしょ」
「んなことはねーよ?ただ、ちょろっと方角を見失ったと言いますかね?」
「迷ったんじゃん」
「ぐっ……」
「ていうか、さっき通り過ぎてるかんね」
「お、おまえ!気付いてたんなら教えろよ!」
「だって、京介が任せとけって言ったんじゃん。どうすんの?」
「くっ……桐乃さん、お店に連れて行ってくださいますか」
「しょーがないな~!あんたって、ほんとあたしがいないとダメだよね~!にひひっ」
「へいへい……そうですね」

結局、桐乃にエスコートしてもらい、スイーツショップに到着することができた―――のは、いいのだが……。
当然ながら店内は女の子たちばかりなわけで、俺は以前と同じ気まずさを堪能していた。

「ねぇ、あんたはなに頼むの?」
「んー、そうだな……おまえはどうするんだ」
「あ、あたし…こ、これっ……食べたいかな」
「なっ……!?これって、おまえ」
「えと、ダメ…?」

桐乃が指差したのは―――カップル限定のパフェという恐ろしいシロモノだった。
恥ずかしいなんてもんじゃねえ……。完全にバカップル専用の食いモンだぞコレは!
……だがしかし、俺の今日の目的は桐乃を楽しませること。
こいつがこのバカップルパフェを食いたいってんなら、付き合うしかないだろう。

「……わかった。それにしよう」
「ほんと!?やったあ!このパフェ前から気になってたんだよね~」
「そ、そっか。じゃあ、注文しようぜ」
「うん!すいませーん!」

桐乃が声をかけ、店員が寄ってくる。

「えっと、このカップル専用パフェひとつお願いしますっ!」
「かしこまりました。オーダーお願いしまーす!カップル専用パフェひとつでーす!」

ちょ……っ!はあ!?このクソ店員!なに大声でオーダー言っちゃってんの!?
クスクスと周りの女の子たちの笑い声が聞こえる……視線がいてぇよ……。
チラッと桐乃の顔を見る。

「………うぅ」

どうやら、さすがの桐乃もこれは恥ずかしかったらしい。頭から湯気が出るほど真っ赤になっている。

その後、運ばれてきたパフェを桐乃は美味しいと嬉しそうな顔で食べていた。
ぶっちゃけ俺は好奇の視線が気になって、味なんてよく分からなかったが、桐乃の幸せそうな顔を見て大きな満足感を得るのであった。

パフェを食べ終わり、しばし雑談に興じていた俺たちだったが桐乃が化粧室に行ってしまい、手持ち無沙汰になった俺は桐乃の席をなんともなしに見ていた時だった。
雑誌がぽつんと置いてあるのを発見。あいつがカバンから落としたのか?俺はなんとなくそれを手に取り、表紙を確認―――
『プラトニックデート特集・二回目のデートでキスを成功させる秘訣』
…………………。
俺は雑誌をそっと元の位置に戻した。

「おまたせー、ってあんたどうしたの?すごい汗かいてるけど……」
「い、いや!なんでもねえよ?さ、さて、そろそろ行くか?」
「う、うん……あの、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって!ほら、行こうぜ」
「うん…」

俺は席を立ちながら横目で桐乃を見ると「あっ……」という声とともに、さっきの雑誌を慌ててカバンに入れる桐乃が見えた。
………やっぱり、あいつの持ち物だったか。とりあえずいまは深く考えないようにしよう……。
俺は混乱した頭をかかえて、桐乃と共にゲーセンへと向かうのだった。

「―――って、着いて早速プリクラコーナーかよ!」
「はあ?あんたがプリクラ撮りたいって言ったんじゃん?」
「いや、俺はプリクラ撮るのか?って、聞いただけだぞ……」
「だっけ?『桐乃ー、頼むから俺とプリクラ撮ってくれぇ』って、こんな感じじゃなかった?」
「言ってねぇよッ!……俺、写真とかあんまり好きじゃねーんだよ」
「こんな可愛い妹とプリクラ撮れるんだから感謝しなさいっての」
「おまえの可愛い写真ならすでにいっぱい持ってるっての」
「~~~ッ!は、はあ!?き、きもっ!きもきもきもーっ!」
「ちょ、騒ぐなって!人が集まるだろ!」

このあと、プリクラを撮った俺たちはいつかのように二人で分け合い、帰路をゆっくりと歩いていた。
…………手を繋いで帰る俺たちは、周りからは恋人同士のように見えたかもしれない。

「なあ」
「ん?」
「今日、どうだった」
「楽しかった…かな。あんたにしてはなかなかやるじゃん」
「へっ、そうかよ。なら、責任は取れたってことか?」
「……うん、そだね」
「………」
「ねぇ、あんたは?」
「なにが?」
「今日のデート…どうだったの」
「楽しかったぞ」
「…ほんとに?」
「おう」
「ふうん、妹とデートするのがそんなに楽しかったんだぁ?」
「お、おまえなっ!」
「ふひひ~っ!シスコーン」
「……ほっとけ」

いい雰囲気だ。さて、どうすっかな。こいつを楽しませることが今日の目的だ。
もし、桐乃が俺と雑誌に書いてあったようなことがしたいと思ってるなら………。
桐乃が本当にそれを望んでるなら………俺はこいつの兄貴として、妹を楽しませる義務があるからな。
仕方なく、その……してやってもいい。

―――なんて、全部いいわけだ。俺は桐乃を手放したくない。これ以上、自分の気持ちに嘘を吐くことはできなかった。
やれやれ………俺も覚悟決めるしかねえか。兄貴じゃなく、男として。

「なあ、桐乃」
「なに?」
「俺たちさ、今日で二回目のデートってことだよな」
「そうだけど…どうしたのいきなり」
「知ってるか?二回目のデートで、恋人たちはデートの締めにこうするらしいぜ」
「えっ、ちょっ!京介?な、なにっ、顔近ッ!」
「桐乃、目閉じとけよ」
「―――んっ」

真っ赤になった俺と桐乃の顔は夕陽よりも紅くて――――忘れられないゴールデンウィークの想い出になった。

―おしまい―



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最終更新:2013年05月06日 21:15