647 名前:埼玉は滅亡しているか【SS】前編:2013/05/13(月) 00:38:14.83 ID:CUJ9zZ4jO
例のツイッターをネタに書いてみました。埼玉関係ないですね(笑)
温かいお布団を抜け出ると、そこはまるで北国だった。
「なにこの寒さ、尋常じゃないんですケド」
急いであたしはエアコンをつける。少しずつ暖まる部屋の中。
「んーでもあいつのじゅーでんに比べたらイマイチだな」
昨夜は(も)、例によって足りないものをじゅーでんでたくさんたくさん補ってもらったのだった。そういやあいつはどこにいるんだろ?
「おう、お目覚めだな」
「母さん、お早う」
「おはよう。て、何これ? すごい雪じゃん!」
庭に出ていた京介と涼介の後を追ってみると、そこは一面の雪景色だった。
「しゅごーいぃ!!!」
けたたましい声に振り向くと、愛娘の優乃が興奮冷めやらぬ顔で外を見やっていた。
「おい優乃、ご近所迷惑だろ。静かにしろよ」
「ぶー。だってお兄ちゃん、こんなすごい雪を見て興奮しないわけがないじゃん」
「分かったから早く着替えろよ。その格好じゃ風邪ひくぞ」
「はいはい。って、それ急げー」
寝間着姿のままだった優乃は部屋に駆けていく。
「しかし、俺もお前たちも皆休みでよかったよなあ」「ああ、こんなんじゃバスも電車もまともに動かないだろうから。学校休みでよかったよ」
「おまたせー。」
「だからうるさいぞ」
「へっへっへー。それでは大雪を記念して、家族皆で雪遊び大会を行いまーす!!」
「やれやれ聞いちゃいない」
涼介のため息を尻目に優乃は何やら語り出した。て、それは……
「関東には雪が降っていた 越谷あたりまでくると街がすっかり雪の下に その真っ白い平原に たくさんの魔物たちが徘徊している……」
「ちょ、優ちゃんその話って」
「ああ、この話はその昔きりりんって美少女中学生作家さんが書いた痛いショートストーリーなんだ」
「ぷぷっ」
傍らで思わず吹き出す京介。てか、そこは笑うとこじゃないから!
「へえ、おもしろそうじゃないか。優乃続けろよ」
いやいや涼ちゃん、そこはさっきみたいに優ちゃんの暴走を止めるとこなんだけど……
結局優乃は、かつてネット上で一大反響を巻き起こした名(迷)作を最後まで朗読し続けたのだった
「なんかすごい話だったでしょ。でもね……」
それまでの笑い顔から突然真顔になる優乃
「わたしは、この最後の『みんなで雪の上に 大きな妹の絵を描こう』ってところに、何かこう、ぐっときちゃったんだ」
「優ちゃん……」
「きりりんさんは、それまでぶっ飛んだ内容ばかり書いてたのに、なんでここでまじめに妹を可愛がるお姉さんに戻ったんだろう?」
648 名前:埼玉は滅亡しているか【SS】後編:2013/05/13(月) 00:39:39.22 ID:CUJ9zZ4jO
「……あのね優ちゃん。きりりんちゃんも、子どもの頃、
優ちゃんみたいに大雪が降った時にとても嬉しかったことがあったんだよ」
あたしは意を決して語りだす。
「きりりんちゃんにはお兄ちゃんがいたの。めったにない大雪だから、きりりんちゃんはお兄ちゃんと遊びたくてたまらなかった。
でもね、結局きりりんちゃんはお兄ちゃんと遊べなかった。二人はしばらく前から疎遠になってしまってたから……」
「せっかくの大雪。きりりんちゃんはね、お兄ちゃんと遊びたくて仕方なかったんだよ
その時の思いが、後になってもきりりんちゃんの心の片隅に残っていたから、
大雪が降ったらお兄ちゃんと一緒に雪に大きな絵を描きたかったから……
だからきりりんちゃんはその事をモチーフにしたお話を書いたんだ」
あれから何年もの月日が流れた。兄貴、京介とはなんだかんだあった後に、また仲良くなれて今の生活に至ってるわけだけど、
子どものときに見た雪景色は、なかなかあたしの前に姿を見せることがなかった。
でも今、それが目の前にある。優乃の語りだした話が、あたしの昔の、そしてさらに昔の思いを甦らせていく……
「そうだったのか。知らなかったよ。馬鹿兄貴は、きりりんちゃんにつらい思いをさせてたことを謝らないとな」
京介が、いつもの優しい手のひらであたしの頭をなでる。それで、あたしは何だかたまらずに涙が込み上げてきた。
「全くお父さんったら、お母さんを泣かしたら駄目でしょ」
「わるいわるい。よし、桐乃が涙を拭いたら皆で雪の上に絵を描こうぜ」
「それじゃあ、まず俺が雪の上にへちゃむくれな妹の絵を描いてみよう」
「何それ、ひっどーい。お父さん、お兄ちゃんに言ってやってよ。『お前の可愛い妹がそんなへちゃむくれな訳がない』って」
わいわいがやがやと騒ぎ立てる皆を見てると、涙は自然に止まっていた
お布団の中でのじゅーでんとはまた違った暖かさが、あたしの身体を包みこんでいくのが分かった
今のあたしは、とってもとっても幸せ
今なら この一家 世界中のどんな一家にも勝てるんじゃね?
今こそ 昔できなかった分まで おもいきり京介と そして涼介と優乃と遊ぶべき
さっそく みんなで 庭でおもいっきり 遊ぶとするよ
『みんなで雪の上に 大きな家族の絵を描こう』
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最終更新:2013年05月19日 04:13