60 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/09(日) 20:37:28.27 ID:IB0epyUZO

【SS】10年目の再会考察【SS】

「おい何してんだ遅れちまうぞ」

俺は自身も忙しなくネクタイを結びつつ、玄関から声をかけた。
あと少し待って、と答えてきた声に、俺は小さくため息をついて靴ベラを手に取る。
ったく。女ってのはどうしてこんなに準備に時間がかかるかね。
俺はそのまま玄関に腰掛けると、なんとはなしに過去に思いを馳せた。
今から出かける先が、どうにも俺に郷愁を覚えさせるらしい。
それに伴う今日までのドタバタした、決して平穏ではない日々を思い出し知らず苦笑が漏れる。
俺は安定を求めてたってのによ。一体どこで間違えたんだか…。

「おまたせっ!!」

掛けられた声に首だけで振り返る。
…ああ。そうか。

「…どしたの?変な顔してるよ?」

間違えたじゃねーや。
端からこの道が…正道だっただけって話だ。

「いや…見惚れてた」

こいつが俺の前に生まれてきた時からだからな。

「綺麗だぜ。桐乃」
「ふえっ!?」

はは。真っ赤になって狼狽えてやがる。
たまにこういうこと言うと、ホントに慌てるよなこいつ。


65 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/09(日) 20:39:00.16 ID:IB0epyUZO
「ななななにいきなり言っちゃってるわけ!?キモいんですケド!!」
「照れ隠しに怒鳴るなよ。それにほんとに綺麗なんだから仕方ないだろが」
「そっ!そーゆーこと面と向かって言うな!!」

じゃあどこで言や良いんだよ?
相変わらずテンパるとメチャクチャだなお前。

「…ぷ」

はは。思わず昔を思い出して吹き出しちまった。

「なによ今度は?」
「いや、な…」

俺は立ち上がると、桐乃の正面に立ち、キョトンとしている瞳をみつめた。

「今こうして結婚してるのに、学生の頃結婚ごっこしてたとか、思い出したらなんかおかしくてな」
「あ、あんた!あたしの中のベストメモリアルを笑うなっ!!」
「え?あ、あれがお前の中でベストの思い出なの!?」

その後にもいろいろあったよね!?本ちゃんの結婚式とかさ!

「ふん!あたしにとってはあれが何よりの思い出なの!!」

プイッとそっぽを向きながら、桐乃は小さく呟いた。
その言葉を、俺は大切に受け止める。

「…京介のお嫁さんになった瞬間なんだから」

無言で抱きしめると、背中に確かな感触。
あの最初の結婚式と変わらない、痛いくらいに愛しい抱擁。
暫くそうしていると、不意に俺の携帯が鳴り始めた。
取り出してみると黒猫の文字。

「やっべ!時間!!」
「うわ!間に合わないよこれ!!」
「と、とりあえず急ごう!黒猫からのメールが恐ろしいことになってる!!」

とりあえず、表示された怖い文字満載のメールを消して、俺は桐乃の手を取った。

「ちょ、靴!!」
「俺が持ってるから心配すんな!」

言いながら、桐乃をお姫様抱っこして走り出す俺。
耳元で喧しく騒いでいる、妹兼嫁を苦笑して宥めながら、俺は目的の店を思い浮かべた。

俺たちの思い出の店、メイド喫茶『プリティ・ガーデン』。
10年振りに訪れるそこは、今度はどんな思い出をくれるのだろうか。

END



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最終更新:2013年06月15日 11:46