196 名前:規制代理:2013/06/09(日) 22:06:03.46 ID:7Bd/CwOj0

SS『普通の兄妹』桐,京,あ,加



 あたしと京介が『普通の兄妹』に戻って数日後。
 あたしたちは、あやせと加奈子との対話に臨んでいた。



「でぇ、あんだけやって結局ただの兄妹に戻ったってかぁ!?」
「加奈子、興奮しすぎ」

 加奈子が怒るのも理解できる。
 あたしたちはいろんな人に迷惑をかけてまで恋人になって・・・
 あたしたちの幸せを守るためだけに、恋人関係を解消した。

「結局さあ、おめーら何がしたかったんだよ。・・・ったくぅ」
「加奈子・・・」

 でも、仕方ない。
 これがあたしたちの選択なのだから。
 迷惑をかけたみんなには、言い訳のしようもない。

「まあ、加奈子も、いちおーあの電波女とかから理由は聞いてるけどさぁ?」
「あやせ、加奈子。本当にすまん」
「お兄さん、謝らないで下さい。そうでもしないと、桐乃は幸せになれなかった・・・違いますか?」
「そう・・・かもしれん」

 結局、こいつが無茶をするのは、全部あたしのためなのだ。
 そう思うと、とても申し訳ない気持ちになる。

 加奈子もあやせも、普通の感覚ならちょう可愛いし、
 こんな良い子に好意を寄せられるなんて、万に一つも無いようなチャンスだったはずなのだ。

 それをこいつは、こんなあたしのために潰してくれた・・・

「まあ、しゃーねーなぁ。きょーすけがそこまで考えての事なら、加奈子も文句は無いしぃ」
「わたしもです。お兄さんがわたしを振った事は許しませんけど、
 桐乃の事を一番に考えてくれたという事で、今回限りは無罪とします」
「・・・ありがとね、あやせ、加奈子」

 京介と付き合い始めてから今まで、ずっと悩んでいた事がようやく一つ解決した・・・そんな気分。

「それにしてもよー、おまえらもう恋人同士じゃねーんだよなぁ?」
「・・・そ、そうだね?」
「・・・そうだ、な?」
「んじゃあ、きょーすけがぁ、アタシと付き合ってもぉ、何も問題ないわけだ」
「問題あるにきまってんでしょ?」

 つい即答してしまった。
 実際、問題有りすぎるから仕方ないんだけど・・・

「なあ、加奈子。俺と桐乃は確かに恋人関係を解消した」
「だべ?」
「だがな、俺と桐乃の愛は、恋人になる以前よりずっとずっと強くなっている事をお前は見逃している!」

 こいつ・・・っ!
 これで格好良く答えたつもりなの!?
 これじゃただの変態兄貴じゃん!?

「お、お兄さん!?」

 ほら、あやせだって慌ててるじゃん!

「そもそもだな?俺と桐乃が恋人関係を解消する前に何をしたか、お前らも知ってるはずだ!」
「えっとぉ・・・結婚式だっけぇ?」
「その通りだっ!普通恋人関係が解消されるときと言えば、男女が別れるときだろう。
 だが、もう一つ、恋人関係が解消される場合がある。
 即ち!お互いを愛する男女が婚姻関係になった時!それはもはや恋人ではない・・・
 一組の兄妹となるって事だ!わかったか!!!」

 うっわぁ・・・・・・
 こいつ、恥ずかしすぎるんですけど。
 つーか馬鹿すぎない?
 世間だとあれだよね、こーいうのを妹婚って―――

「桐乃、大丈夫?顔が真っ赤だよ?」
「へっ!?」
「さっきからお兄さんの事、熱に浮かされたみたいに見つめてたよ・・・」
「そ、そう?そう見えたんだ?」

 ・・・だいたいあいつが全部悪いのだ。
 あいつがシスコンパワー発揮して喋りだした事自体最悪だし、
 そもそも原因となったのもあいつがあたしに告白してきたからだし、
 さらにその原因といえば、あたしのこと、意地になって助けに来てくれた事だし、
 もっと言わせてもらえば、あたしがあいつのこと好きになった事からして全部あいつのせいだし!!!

「桐乃・・・顔が大変な事になってるよ・・・」

 はっ!?
 あやせの指摘に顔がぱっと熱くなる。
 慌てて京介のほうに目をやると、京介といえば、加奈子に講釈をたれつづけている。

「京介っ!さすがに恥ずかしいし、もうやめてよ・・・」
「そ、そうか?」
「う、うん・・・」

 加奈子は可哀想にげっそりとやつれ、息も絶え絶えだ。
 あやせも心なしかひきつった笑みを見せている気がする。

「け、結局、何がどうなったの・・・かな?」
「えっとね、あやせ。簡単に言うとね。あたしと京介は、これから先、普通の兄妹になるの。
 もちろん、あたしも京介もお互い好き過ぎるから、他の誰とも付き合わないんだけど」
「そ、そう・・・?ははっ・・・」

 何故か乾いた笑いと共に納得してくれたあやせ。
 加奈子もちゃんと納得してくれたかな?

「てゆうかぁ、このじょーたいのどこが『普通』なんだよぉ?」
「どこがって・・・」

 確かに、加奈子の言う通り。何を以って『普通』とするかなんて曖昧すぎる。

「ねえ、京介。一応あやせたちの前で、『普通の兄妹』について確認してみない?」
「そうだな。実際に聞いてもらったほうが、判断しやすいはずだしな」
「あ、あの・・・桐乃?お兄さん?」

 あやせってば、どうしてそんなに不安そうな顔してるの?
 あたしたち、兄妹はどうあるべきかって話をするだけなのに・・・
 まあ、何にしても―――

「ということで、まずはハグだけど・・・」
「さすがにそんくらい問題ないだろ?なあ?」
「・・・・・・え、ええ。多分・・・」
「そんくらいならいーんじゃねぇ?」

 やっぱそうだよね。さすがに抱き合うくらい、友達同士だってするもんね。
 あやせも加奈子も結構あたしに抱きついてくるしさ。

「んじゃあ、次はキスだな」
「きっ・・・キスぅ!?」
「そんくらい常識レベルだよねー」
「・・・うへぇ」

 特に反対意見なし、と。
 やっぱ兄妹だから、キスくらいしないとね。

「次はちょっとレベル高いかな?一緒に寝るのとか、どう?」
「当然だな。つか12月から毎日してね?」
「あ、あのっ・・・」
「・・・・・・・・・」

 これもおっけーみたい。
 大体あたしも、毎日してるような事聞くとか野暮だったかなぁ?

「この調子だと、俺がおまえの胸とか尻とかさわるのも全然問題なさそうだな」
「そうだね。あたしがあんたのぱんつを嗅ぐのもおっけーだよね」
「つーかおまえ、やっぱり俺のぱんつ盗んでたか」
「えへへっ♪」
「『えへへ』じゃねーよ!そんなに可愛く演技したって俺はだまされねーぞ」
「だって、あんたのぱんつ、ちょういい匂いなんだもん♪」
「おまえの匂いだって最高だぜ!」
「あー、やっぱりあんたもあたしのぱんつ盗んでたんだ」
「あたりまえじゃねーか。兄妹なら普通だろ?」
「だねー」

 一見余裕のありそうな会話をしてるあたしたち。
 でも実は、結構不安も抱きながらしゃべっていたりする。
 だって、あたしと京介は生まれたときから兄妹で、それ以外の感覚がわかんないんだもん。

 だからあたし、あやせなら兄ぱんくんかとか絶対反対するかと思ってたのに・・・
 兄妹ってやっぱり、友達とは違うってことだよね!

「そ、それじゃあ、さ。は、恥ずかしいんだけど・・・兄妹で一緒にお風呂とか・・・どうかな?」
「大丈夫だろ?それくらい」
「そ、そうかなぁ?」
「よく考えてみろよ。俺達これまでになんど一緒にお風呂に入ったと思ってんだ?」
「そうだね・・・そうだよねっ!」
「ああ。兄妹で裸の付き合いなんて、ごく普通の事じゃないか?」
「そうだね・・・兄妹で裸の突き合い・・・」
「そうだぞ」
「そ、それじゃあさ?きっと、その・・・兄妹で子作りだって大丈夫ってことじゃない?」
「そっ、そりゃあ・・・」
「だって、子供が産まれるってとっても神聖な事じゃん」
「確かに・・・確かにおまえの言う通りだな!」
「でしょ?でしょ!?一緒にラブホとか、兄妹でも行った事あるしね」
「だとすると、だ。恋人っていうのも兄妹とあんまり変わらないもんなんだな?」
「そう思う!?やっぱり?」

 やっぱり、あたしたちはとってもよく似た普通の兄妹だ。
 お互いをよく理解し、慈しみ、愛し合い―――
 そっか、こういう関係って・・・

「兄妹と夫婦。もしかするとさ、この二つの言葉って、同じことを意味してるのかもしれないね」
「そうだな・・・俺も今、同じことを考えていた所だ」

 いろんなことがあった、この二年半。
 あたしも京介も、色々な事で傷つき、苦しみ、そして成長してきた。

 あたしは、あの結婚式の時、『普通の兄妹』に戻った証として、
 左手の薬指にはめられた指輪を空にかざす。

 あたしと京介が一つになった、その証。

 あたしも京介も誰とも付き合わない。
 誰も隣には居られない。
 手を繋ぐこともない。

 もう、取り返しがつかない。

 だって、あたしたちはもう恋人同士じゃない。



 普通にどこにでも居るような『兄妹』なんだもん。



End.



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最終更新:2013年06月15日 11:54