684 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/10(月) 19:17:22.62 ID:zF2B+afl0
SS『赤城~闇に降り立ったシスコン~』
「おまえの家に上がるのも、ずいぶん久しぶりのことだな」
そう言って、高坂の部屋に入ったのは、大学生になって少し落ち着いてきた6月のこと。
親友同士である俺たちだが、やっぱり大学が違うとなかなか会う機会も無くなるものだ。
それでもなお、こうやって会う機会があるのは、俺の最愛の妹、瀬菜ちゃんのお陰に違いない。
同じ妹を愛する者同士。これまで何度も戦いを繰り広げてきた。
行こう・・・!もう一度死線をくぐりに・・・!
・・・結果的にこの時は最悪のクジを引く事になってしまったんだが。
何が最悪だったかって?
そりゃ、これから話してやるよ・・・
まず、高坂の部屋に入って驚いたんだ。
「なあ・・・おまえ、なんでJKの制服を部屋に飾ってんの?」
「ああ。あれは桐乃のだぜ?」
「いや、おまえの家に高校生は桐乃ちゃんしかいないことは俺だって知ってる。
問題は、なんで桐乃ちゃんの制服がおまえの部屋に飾ってあるのかってことだ。」
「なんだ、そんなことかよ。桐乃が俺の部屋で着替えるからに決まってんだろ?」
面白い・・・狂気の沙汰ほど面白い・・・!
じゃなくって!みんな、聞いたかい?
この男、それがどんだけ異常な事か全く気がついてないぜ?
「だいたい、妹が兄の部屋で着替えたり、兄が妹の部屋で着替えるのは、ごく普通の事じゃねーか」
「いや、普通じゃないだろ?つか、普通起きたらその場で着替えるだろ?」
「そりゃそうだ」
「だったら、なんでわざわざ兄の部屋で着替えをする必要があるんだよ」
そう言われた高坂のやつは、ポカンと口を開け、何を言われてるのかわからんという表情である。
俺も高坂が何を考えてるかわからねー
「なあ、赤城。妹が朝、兄の部屋に居るのは普通の事じゃないのか?」
「・・・おまえ、いくらなんでもエロゲーに毒されすぎだろ?
俺の瀬菜ちゃんでも、『お兄ちゃん、起きて!』なんて起こしに来る事はないぜ?」
「いや、それこそエロゲ脳だろ?
だいたい、妹ってのは兄と一緒に寝るもんだし、朝はキスで起こすもんだろ?」
「・・・どこのエロゲーだよ」
「俺の妹だよ?」
やばさ倍プッシュだとぉ・・・?
というか、どうみてもただの恋人同士だよ、このチクショウめ・・・
「まあいい。・・・あんまよくねーけど、とりあえずこの話は終わりにしよう」
「・・・ああ」
あからさまに不満顔の高坂だが、これ以上喋られると俺の理性がもたねえ。
だがここがチャンスだ。ぬるりと・・・反撃開始だ!
「ところでおまえ、桐乃ちゃんとの恋人関係は解消したんだったよな?」
「ま、まあな」
そこでなんで照れる!?
「俺達兄妹は、長い事お互いを理解できなくって、ちょっとした切っ掛けで向かい合う事ができて・・・
この2年間で色々な事があったけど、ようやく普通の兄妹のように信頼し合える関係になれたんだよ」
ああ、なるほど。
やってることはイカレてるけど、やっと素直に兄妹として生きていけるようになった。
その事を俺に話すのが恥ずかしいのか・・・なんとも微笑ましい話じゃん。
・・・なんで、俺はこの時そんな風に考えてしまったのか・・・
「だからな、今までの時間を・・・向き合えなかった時間を少しでも取り戻していきたいんだよ」
「なるほど、だから妹に甘えさせてやってるってわけか。
すまねえな高坂。俺はおまえの事誤解してたみたいだ」
「いや、いいぜ。こんなこと理解してくれる奴はなかなかいないからな。
おまえくらい妹を愛してやっているやつだったら、きっと理解してくれるって思ったよ」
「まあな。俺も瀬菜ちゃんの事とても大切だし、
仲良く出来ない時間があったら、その分埋め合わせしてあげたいって、きっと思ったぜ」
「だろ?だから最近は桐乃と一緒にお風呂にも入ってやってるしな」
「・・・・・・・・・」
俺は悟ったね。
俺は確かに高坂の事を誤解していたってことに!
「やっぱ子供の頃の普通の兄妹って一緒にお風呂に入るのが当たり前だろ?
だから童心に帰って、身体の洗いっこしたり、浴槽で抱き付き合ったりな?
ああ、潜水ゴッコとか、湯船に浮かぶリヴァイアサンを弄って楽しんだりしてるんだぜ?」
「待て・・・おまえらが小学生ならともかく・・・」
「それに俺ときたら子供の頃の桐乃とのごっこ遊びを、つまんねーなんて思って逃げ出してたんだよな。
だから、その分子供の頃のように、桐乃とごっこ遊びをしてやってるんだよ」
「いや、いわなくて―――」
「今一番俺達の間でブームなのが、お医者さんごっこだな!」
「聞きたくなかったぜ・・・」
「お医者さんごっこと言ったって、俺達のは本格的だぜ?
まず何よりも先に言葉ぜ・・・もとい、問診から始まるんだ」
「おい、今、聞き捨てならねー言葉が」
「次は視か・・・視診だな。意外かもしれねーが、桐乃のやつ、ここが結構好きなんだよな。
顔真っ赤にして、マジで熱があるようなリアクションまでするんだぜ?」
「・・・恥ずかしがってるだけだろ」
「そしてお待ちかねの触診だぜ!おなかの深い所や胸を触ってやらないといけないだろ?
それに念のために尻だって触ってやらなきゃ診断できねーもんな!」
「おい、さすがにそれ以上はや」
「そうそう、体温測定も大事だよな。温度計も脇の下で測ってみたり、おしりで測ってみたり、
日によって色々な場所を試してるんだけどよ?やっぱ口の中が一番だったぜ!」
「・・・・・・・・・」
「まあ結局、いつも診断は『重度の兄婚です』ってことになっちゃうのは残念なんだけどよ?
桐乃も満足してくれてるしな。やっぱ、子供の頃をちょっとでも取り戻すって大事な事だよな?」
うん。
俺はこれ以上つっこまなかったよ?
『それってもしかして、大人の遊びじゃないの?』とかな!
つーか、俺、死ねば助かるのに・・・
「つか、さっきから俺ばっか喋ってんな。おまえは妹となんかないの?」
さすがに、言葉に詰まったぜ?
まだまだ終わらせない・・・地獄の淵が見えるまで・・・ってかぁ?
つーか、この変態兄妹の有様を聞かされて、『なんかないの?』だとぉ?
俺が瀬菜ちゃんとそんな事になるわけねーだろうが!
つか、最近真壁とかいうクソ野郎に取られっぱなしだよ!!!
まあ、しかたねーので、こう答えたんだがな。
「・・・まあ、俺たちはずっと仲良かったからな。
これまでの事よりこれからの事の方が大事だっていうか―――」
「そう。そうなんだよな!」
駆け巡る脳内物質・・・!
どうやら高坂の何かに触れちまったらしい。
「俺たち、子供の頃は取り戻しつつあるんだけどよ、この先が全然決まってねえんだよ。
結局、俺たちは結婚式を挙げて、恋人関係を解消した。
つまり、俺たちが兄妹(ふうふ)である事は間違いない。
だけどよ、兄妹として何をすべきか、あまり考え付かないんだよなあ。
とりあえず、息子ができたら涼介、娘ができたら優乃って名前をつけるとこまでは決まってるし、
子供は少なくとも二人ってとこまでは決まってる。
親父とお袋とも一緒に住んで、出来れば桐乃にはモデルを辞めてもらって、子育てに専念して欲しいし、
妹ゲーだって、家族みんなでプレイしたいと思っている。
こんな感じで、この程度しかまだ決めていないんだ」
十分に考えすぎだぜ!?
つか、おまえら子作りまで考えてんのな。
「というか、おまえらの恋人関係の解消ってそういう事かよっ!?」
「ああ。兄妹だし、仕方がないだろ?」
なあ、みんな。わかってくれたか?
俺が最悪のクジを引いたと言ったわけが。
俺は高坂についていけねえ・・・勝てるわけがねえ・・・
こいつらはもう漕ぎ出してる・・・いわゆる「まとも」から放たれた人生に・・・!
俺に出来ることと言ったら、この馬鹿がせいぜい幸せな家庭を築く事を祈る事くらいだぜ。
「なあ、赤城」
「・・・なんだよ」
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。そういう事だ」
勝負の後は骨も残さない・・・
それが、俺の消え行く意識の中、最後に聞こえてきた言葉だった・・・
End.
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最終更新:2013年06月15日 12:26