910 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/14(金) 23:00:23.08 ID:1VWgSL2iP
『最高の嫌がらせ』 桐,あ,加
「ねえ、あやせ」
冬休みが終わったその日の帰り道。
あれ以来、一度も話していなかった桐乃と、一緒に帰る事になりました。
「あたしさ、あやせに報告しないといけない事がある」
「うん。わかってる」
たぶん、全部。
「あのさ・・・あやせにも加奈子にも本当に悪いと思ってるし、
でも、あたし自身の気持ちも裏切れないし、あやせには本当のことを伝える義務があると思ってる」
「・・・・・・・・・」
「あたし、京介と、付き合う事になりました」
やっぱり・・・
悲しいわけじゃありません。
親友が、最愛の人に思いを伝えられた、その事を祝福してあげないといけないのに・・・
「ごめん。あやせ」
わたしの気持ちは、波のようにうねって、何も答えられません。
『おめでとう』って、『わたしも応援してるよ』って
ちゃんと言わなくちゃいけないのに・・・
「あやせってば、しょーがねーなぁ」
突然後ろから聞こえてきたのは、わたしのもう一人の親友。加奈子の声。
でも、今は振り向けません。
こんな顔、桐乃にだって見せたくなかったのに・・・
「なあ、桐乃ぉ?」
「加奈子・・・」
「アタシにも、報告。まだだよな」
「うん。そうだね」
やめてよ、加奈子。
加奈子だってわかってるでしょ?
今のわたしの様子を見れば、『それ』がどういうものかって。
「加奈子」
「おう」
加奈子・・・なんで・・・
「あたし、京介と付き合う事になりました」
「よし、おっけ」
あくまでも冷静な加奈子の声に、わたしは自分の未熟さを思い知らされます。
加奈子だってお兄さんの事、大好きだったはずです。
きっと、わたしや黒猫さんに負けないくらい。
それなのに、ちゃんと真正面から受け止めて・・・
ちゃんと認めてあげて・・・
「てゆーかぁ?」
さっきまで冷静だったはずの加奈子の声が、急におちゃらけた感じに変わります。
「おめーらマジキモすぎwww兄妹で恋愛とかwww」
「か、加奈子!?」
「いや、だってよ?まるで『きょーすけ』の持ってるエロゲみたいじゃん?
『押しかけ妹妻』とかぁ、『妹と恋しよっ』とかぁ?
ぶっちゃけ、マジきもいってwww」
「うん。わかってる」
加奈子を知らない人から見れば、酷い事言ってるように見えるかもしれません。
でも、この子は、優しいんです。
「こんなキモい奴、幸せに出来るのは京介だけだもんな?しかたねーべ?桐乃に譲ってやるよ」
ちょっと、言葉は悪いですけど・・・
「なあ、あやせからも何か言ってやれよ」
加奈子が先陣をきってくれたおかげで、わたしも少し・・・
ほんの少しだけど、自分の気持ちを整理出来たかもしれません。
「桐乃・・・」
「うん」
「わたし・・・わたしね。今でもお兄さんの事が『大嫌い』」
「うん」
「でも、お兄さんが幸せじゃないと・・・桐乃が幸せじゃないと、やっぱりイヤなの」
「・・・・・・・・・」
「だから、わたしも・・・お兄さんが桐乃を幸せにしないなら絶対に許さない。
桐乃が、お兄さんのせいで不幸な目にあったら、絶対にブチ殺してあげるから」
「・・・うん!」
そんなこと、あるわけないもんね。
「っしゃ。それじゃーこれで満足だよな?あやせも、桐乃もぉ」
『話はこれで終わり』とばかりに、加奈子が声を張り上げます。
いつもいつも、わたしと桐乃と一緒に居てくれた、本当に大切な大切な友達。
「加奈子。ありがと」
「うん、ありがとう。加奈子」
「ま、マジでお礼なんかすんなよぉ・・・恥ずかしいじゃん」
あの日以来、止まってしまっていた私たちの歯車も、
今、ようやく動き始めた気がします。
「それにしてもよぉ~?」
せっかくのいい感じが、なんか嫌な予感。
加奈子がニヤニヤしながら桐乃に近づいていきます。
「桐乃ってばぁ・・・もうヤっちゃったワケぇwww?」
「なっ・・・!?」
硬直する桐乃。
ですけど当たり前です。
加奈子ってば、いきなりデリカシーの無い事聞くんですから。
「だってぇ、クリスマスイブにぃ告白されてぇ、一緒にホテルにぃ」
聞き捨てなりませんね。
「まっ、まだだしっ!」
こっちの発言も聞き捨てなりません。
「えwww?『まだ』www?嘘ばっかぁwwwエロ桐乃ぉwww」
「ち、ちがうしっ!あたしまだお布団デートまでしかしたことないしっ!
っていうか、エッチなのは京介でおっぱいとかお尻とか触ってくるだけだしっ!
それにまだ子供とか作れないしっ!」
「お、お布団でーとぉ?もうヤっちゃってるんじゃん!」
「だ、だからっ!お布団の中でつんつんしあったり、兄ぱん盗んだり、
くんかくんかするだけでっ!京介が抱いてくれるけどっ!」
「き、桐乃?お兄さんが抱くってどういう事ですか?」
「てゆーか何w兄ぱんwww?」
「うううぅぅぅーーー・・・きょ、京介にじゅーでんしてもらうんだからっ!!!」
そう言い残すと、桐乃はわたしたちを振り返りもせず、逃げていってしまいました。
意地悪だったかもしれませんけど・・・ちょっとだけ、いい気味です。
だって、桐乃、今、最高に幸せでしょうから、
わたしたちだって嫉妬する権利くらいありますよね?
きっと、加奈子も同じ気分です。
それに、わたしたちなりに、仲直りできましたから。
「なあ、あやせぇ」
「なに?加奈子」
先ほどとは違って、神妙な顔の加奈子。
たぶん、『あの事』を言いたいんでしょう。
わたしは黒猫さんから聞いた、『あの事』を。
「京介ってばよぉ、桐乃との恋人関係は、卒業まで、だってよぉ」
「うん。知ってる」
やっぱり。
「まあ、無理だよなぁ?」
「無理だね」
考えるまでも無い事です。
もう、桐乃とお兄さんは引き離せないのです。
永久に。
あまりにも理不尽に幸せすぎて、嫉妬の炎で焼き尽くされそうです。
「だからよぉ、きょーすけが言い出して、あのデカ眼鏡と電波女にも頼まれてんだけどさ?
・・・桐乃のやつときょーすけを、結婚させてやろうって思うんだけどぉ」
「・・・いいね。とっても」
そうです。加奈子にしては上出来です。
わたしも加奈子も、黒猫さんも沙織さんも、きっと―――
桐乃とお兄さんが恋人同士なんて耐えられないんです。
だから、わたしたちの嫉妬も込めて・・・『人生の墓場』に連れて行ってあげましょう。
きっと、わたしたちなりの最高の嫌がらせになるはずです。
だって、桐乃もお兄さんも、たった3ヶ月しか恋人で居られないんですから!
End.
最終更新:2013年06月15日 13:36