66 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/15(土) 05:21:05.22 ID:5umFmfdM0

「桐乃、おはよう」
「お、おはよ――ってかなんであたしの部屋いるのっ!」
「妹を大好きなお兄ちゃんが妹の部屋にいたらおかしいか?」
「おかしいっての!」
「そんなことより、おはようのキスしようぜ」
「話を聞けぇ―――ッ!」

朝っぱらからよくこんな大声出せるなこいつ。
まあ何の問題もない。強引に顔を近づけると、桐乃の顔が赤くなっていく。

「嫌か?」
「……そういう聞き方ずるくない?」
「んじゃ、遠慮なく」
「ちょっ!んっ……!」

「だいたいあんたは―――」………おはようのキスから30分ほどが過ぎたのだが、妹の説教はまだ終わっていない。
ガミガミガミガミ―――朝の挨拶としてキスをしたら、正座させられて説教ですよ。
俺は悪くないと思うんだよね。
つうか、もういい加減腹が立ってきたので反論してやることにする。

「桐乃」
「なに?まだ話終わってないんだけど」
「デートしよう」
「は、はあ!?今の流れからなんでそうなんの!」
「せっかくの春休みにどこも行かないなんてもったいねえだろ?」
「そうだけど………」
「どっか行こうぜ!」
「はあ………ったく、んじゃあどこ連れてってくれんの?」

よっし、食いついた!
とはいえ特に何も考えていなかったので、どこに誘うかな………そういえば、俺って桐乃と海とか行った記憶がないんだよな。
それしかねえな。水着には早い時期だけどそうしよう。

「海、いかね?」
「は?いま春だよ?バカなの?」
「………別に水着姿になれとは言ってないけど、着てくれんの?」
「き、着るわけないでしょ!こんな時期に水着とか寒いし!てか妹の水着姿に期待するとかきもいんですケド!」
「まあ、俺がキモイのは認めよう」
「あっさり認めやがった!?」
「まあまあ、別に泳ぎに行くわけじゃないんだし普段の格好でいいからさ。行こうぜ」
「……そんなにあたしとデートしたいワケ?」
「おう!超したい!」
「っ……はあ……やれやれ、しょーがないなぁ~」
「うっし!んじゃ、さっそく朝飯食ってでかけようぜ」
「はいはい」

無事に妹とのデートにこぎつけた俺は急いで朝飯を食ったあと、桐乃と海へとやってきた―――

「さすがに人いねえなあ」
「そりゃそうでしょ」
「……なあ桐乃」
「なに」
「ちゅーしようぜ」
「……だめ」
「おまえ、大好きなお兄ちゃんに対してつめたくね?」
「ばかじゃん?」
「ちっ……ガードが固い」

先日、恋人から兄妹に戻った俺たちは、こんな感じで普通の兄妹をやっている。
この関係が変わるとしたら何かとんでもないきっかけが必要になるだろう。
俺はそう確信している。
そのきっかけを探すために今日もデートというわけだ。
けっしてイチャイチャしたいだけではないぞ?

「なんかさー、あっという間だったよね」
「三ヶ月がか?」
「うん」

たしかにあの濃密な三ヶ月間は、俺と桐乃にとって特別な時間だったのは間違いない。
きっとこいつは、俺のためなんて殊勝なことを考えてるんだろうが、俺のルート分岐は終わりとっくに一本道になってるっての。
ちょっぴりセンチな桐乃を見て俺は笑いながら言ってやった。

「まだ終わってねえだろ。おまえの『人生相談』はさ」
「そか……そうだよね!」
「おう」
「ふひひ~っ!なんか元気出てきた」
「お?んじゃここらでキスしとくか?」
「バカ!しないっての!」
「桐乃、昨日の人生相談でキスはセーフって決めた件についてどう思う?」
「海キレイだよね」
「おい、ごまかすなよ」
「ごまかしてないし~。海キレイっしょ?」
「………これがおまえのやってるようなエロゲーだったら浜辺でのエッチCGイベントがあるところだな」
「現実とエロゲーをいっしょにすんなっての」
「へいへい」
「あんた絶対わかってないっしょ?」
「いいや、わかってますよー?」
「どーだか。あんた隙あらばあたしにセクハラしてくるし、あきらかに普通の兄妹以上のスキンシップについてどう思う?」
「海きれいだな」
「あ、ごまかしたぁ」

うるせー妹様である。ちょっとくらいスキンシップが激しい兄妹がいてもいいと思うんだよね。
桐乃も本気で嫌がってない(むしろ喜んでると思う)ので、何の問題もないはずだ。

その後、俺たちは海岸沿いを歩きつつ色々と話をする。
ぶっちゃけ、いいきっかけなんてなかなか思いつかないわけで……簡単に見つかるならあのとき別れなかったしな。
ひとしきり歩いた後、桐乃がポツリとつぶやいた。

「ねえ……こういうのはどうかな」
「いい案でも思いついたのか?」
「えっとさ、恋人だった三ヶ月の間にあたしがあんたにしてあげてないことあるじゃん?気付いてた?」
「あ~……まあな」

気付かないわけがない。
まあ桐乃語翻訳の第一人者である俺にとっては特に問題はなかったことだが。
改めて考えてみると、桐乃の口から聞きたかったことではあるな。

「言ってくれんの?」
「んー……まだ早いかなあ?」
「なんだそりゃ!」
「ていうか、あたしがあんたに言ってないこととは別に、もう一個あたしがやってないことあるじゃん?」
「そんなことあったっけ?」
「あるの!それを完璧にこなせるようになったら、そんときあんたに言ってない言葉を言うね」
「んー……よくわからんが楽しみにしてりゃいいってことか?」
「ま、そーゆーこと。楽しみにしてなさいよね」
「じゃあ期待して待ってるとしますかね」
「ん」

なにしてくれんのかな?もしかして……エッチなことなのでは!?
などと、期待に胸を膨らませる俺だったが……期待とは裏腹にこの日から俺の地獄の日々が始まるのだった…………。

「まっず!」
「はあ!?一生懸命作ったのになにその言い草!」
「毒物かと思ったわ!……つうか親父はよく食えるな」
「娘の手料理の残すわけにいかんからな。おまえも残さず食え。大切な人の手料理なのだろう?」
「……へっ、言われるまでもねえ」

どうやら桐乃が俺にしたいこととは手料理を食べさせて『美味い』と言わせることのようだった。
ぶっちゃけ死ぬほどマズいのだが、愛する人の手料理を残すわけにはいかない。
それに桐乃は、この料理を完璧にこなせるようになったらあの『言葉』を言ってくれるのだろう。
それを聞くためにも付き合ってやらねーとな。



―――――予想通り、桐乃の飲み込みは早く、料理の腕前もみるみる進歩していった。
ひと月もしたころには、桐乃が俺に美味い弁当を毎日作ってくれるようになっていた。
お袋は夕飯を作ってくれる娘をべた褒めするが、自分が楽したいだけなんじゃねーかと思う。
桐乃の料理は十分上達したし、そろそろ俺も褒めてやっていいだろう。
講義が終わり早めに大学から帰宅した俺は、リビングで妹の帰りを待つ。

「ただいまー」
「おう、お帰り」
「あ、もう帰ってたんだ」
「まあな、今日も弁当サンキュな」
「ん」
「………えっとな、めちゃくちゃ美味かったぞ」
「え!ほんとにっ?」

すっげえ嬉しそうな顔で近寄ってくる桐乃。
自意識過剰じゃなく、俺に料理を褒められたことが嬉しかったんだと思う。

「ああマジで。超ーーーっ美味かった!」
「えっと……でも、まだあの人たちには負けてるよね?」
「いや負けてないと思うぜ。俺はこういうことで嘘は言わねえよ」
「えっ、マジで!?」
「マジマジ」
「そか………ふひひっ」
「おうよ。毎日ありがとな」
「へへっ、どういたしまして。あのさ、あんたに作った料理が美味しいって言われたら、言おうと思ってたことがあんのね」
「おう、わかってるよ」
「………聞いてくれる?」
「もちろんだ」

………ついにきたか。思えば長かった。妹と再開してから約二年、俺は桐乃から言われたことがない台詞がある。
それは恋人のときも同じだった。それがようやく聞けるのかと思うと胸が熱くなってくる。
桐乃はゆっくり息を整えながら言葉を紡ぐ。

「あたしね……あたし、あんたのこと好きなの」
「へっ………知ってるよ」
「京介、大好き」
「――俺も桐乃のこと大好きだぞ」
「うん、知ってる。ねぇ、京介―――」
「なんだ?」
「………あたしと、妹婚してください」
「……おう」

こうして俺たちは妹婚することになった―――のだが、実はこのときのやり取りを全部お袋に見られてたらしい。
当然、親父にも話しはいき、家族会議でボコボコにされるのかと思いきや………そんなことはなかったぜ!
親父とお袋は、ここ数ヶ月のことを知っていたらしい(バレているとは思わなかった)
俺たちが自分たちの口から話に来るのを待っていたそうだ。
親父たちも悩んでいたらしい。当たり前だが。
しかし、桐乃が頑張って料理を作っている姿を見て俺たちのことは黙認するという形で落とし所としてくれると言ってくれた。
『勘違いするな。俺は何も見ていないだけで、おまえたちを認めたわけではない』
なんて、うちの親父様は心底、懐が広いと思ったよ。

まあ、なんにせよこうして俺と桐乃は結ばれた。
俺は桐乃を幸せにする約束を親父たちに生涯をかけて行動で示さなきゃならない。
まあ見てろ―――絶対幸せにしてみせるからよ。



「ねぇ……なに考えてんの?」
「ん?昔を思い出してた。――あんとき親父たちが見逃してくれたのってさ、おまえのおかげだよな」
「あんときって、あたしの告白の後の?」
「そうそう。桐乃が頑張って俺のために料理作ってるとこ見て感動したんだよな」
「ほんとにそうなのかなあ?そんな甘いお父さんじゃないと思うんだケド」
「まあわかんねえけどさ、何か心を動かすようなものはあったんじゃねえかな」

明日は俺と桐乃が結ばれてからちょうど十年目になる。歳月ってのは早いもんだ。
これからも、俺は桐乃と二人で歩んでいける。
騒がしい家族を見て俺はそう思ったのだった。

―おしまい―



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最終更新:2013年06月17日 18:44