670 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/16(日) 13:01:52.28 ID:tFhT3PcA0

SS『普通の妹の朝』桐,佳



 朝。目を開けても、そこにあたしの愛しい人はいない。
 普通の兄妹に戻ったあたしたちは、お父さんたちの目もあるし、出来る限り別々の部屋で寝ているのだ。

「京介・・・」

 仕方のないことだけど、やっぱり身体は京介を求めてしまう。
 京介を求める声が出てしまう。

 あたしはかぶっていた兄ぱんを脱いで、くんくんとその残り香を嗅ぐのだった。
 昨日舐め続けた部分がまだ湿っている、ほとんど匂いの薄れてしまった兄ぱんを・・・

「京介、愛してる」

 誰に言うでもなく、口の中に言葉が生まれてくる。
 京介に、直接は言えなかった大事な言葉。

 でも、京介に直接言ってしまうと、何かが嘘になりそうで、
 きっと、愛なんて言葉だけじゃ伝えられない気持ちがあって・・・

 それに、気持ちを伝えるというのは、あたしにとって凄く難易度の高いことなのだ。
 だから、あたしは態度であらわすしかない。

 京介とケンカするのも
 京介と手を繋ぐのも
 京介と一緒にお風呂に入るのも
 京介と一緒に眠るのも
 京介と抱き合うのも
 京介とキスするのも
 京介とクンカするのも

 全部全部、あたしの気持ち。
 どれ一つとして嘘はないのだ。

「京介・・・絶対離さないで・・・」

 少女マンガのヒロインのような言葉を口にして、あたしはとても恥ずかしい気分になってしまう。
 あたしには京介にそこまでしてもらう理由なんてない。
 ぜんぶ、京介が優しいから・・・あたしは京介と一緒に居られるのだ。
 そう思うと、京介への愛しさと切なさで胸が張り裂けそうになる。

 今ので完全に目が覚めてしまった。
 いまはまだ、午前5時半。
 薄闇の中、あたしはベッドを抜け出し、階下へと降りてゆく。

 普通の兄妹に戻ってから、あたしがあたし自身に課した役割。
 あたしは、あたしが死ぬまで、京介の面倒を見続けるのだ。

 まだお母さんも起きてないこの時間。
 あたしは京介のために朝ごはんとお弁当の準備を始める。
 もちろん、お父さんやお母さんにも食べてもらうんだけど。

 はじめは失敗ばかりだった。
 お母さんなんて、一口しか口に入れてくれないこともあった。
 それでも、京介は全部食べてくれた。
 あたしに文句も言わず、あたしのダメな部分を包み込んでくれるように・・・

 だから、あたしは毎日練習し続ける。
 きっと京介が心から美味しいって思ってもらえる日まで。
 そして、きっとその後も。

「桐乃?」

 野菜を切って盛り付け、お肉を詰めたあたりで、お母さんから声をかけられた。

「えらいわね、桐乃。それが今日の愛妹弁当なのかしら?」

 笑いながら話しかけるお母さん。
 あたしたちのことがとっくにバレてしまってるのは、明らかだ。
 でも、お母さんは強くは追求せず、冗談にまぶしてくれている。

「あ、愛とかっ、ちがうしっ!」
「あら、そう?後ろから見てたけど、とっても嬉しそうだったわよ?」
「なっ・・・!」

 あんまり焚き付けないで欲しい。
 ただでさえ、あたしの京介への気持ちは破裂寸前なのだ。

 前にエロゲーで見たけど、お兄ちゃんとの思い出を全て自分の中に閉じ込めたせいで、
 自分自身をどんどんなくしてしまう・・・そんな妹がいた。

 あたしはたぶん、そこまで京介を想ってるわけじゃないけど、
 そのエロゲーは全部魔法のせいで、そういう事になったのだったけど、
 でも、これ以上想いが募ったら、あたしはどうなってしまうか分からない。
 人目もはばからず、京介への気持ちをぶちまけるんじゃないか・・・それが・・・怖い。

「ねえ、桐乃」
「はい」
「お母さんもお父さんも、何があってもあなたたちの味方だからね」
「・・・うんっ!」

 親というものは、こういうものなのだろうか?
 あたしはまだ、子供を持った事がないから分からない。

 自分の子供たちがどんなに馬鹿なことをしでかそうとも―――
 そりゃあ、時には叱ったりもあるけど―――
 子供たちへの愛情は揺るぎもしない。
 子供たちを、どんなときだって守ってくれる。
 子供たちの気持ちを、いつでも推し量って、導いてくれる。

 あたしたちは、二人の気持ちを裏切ってしまっているのに・・・

 情けなさとそれよりずっと強い感謝の気持ちを胸に、あたしはご飯の準備に勤しむ。
 ご飯はもう炊けている。お味噌汁も出来上がった。

 そうこうしているうちに、時刻は6時30分。
 まだまだ手際が悪い。
 お母さんだったら30分以内に全部準備できたはずだ。
 さて―――

「お母さん、食卓の準備まかせていい?」
「いいわよ~、さっさといってらっしゃい」

 お母さんに後の事は任せて、2階へ上っていく。
 京介を起こしてあげないといけないのだ。

 部屋の扉を開け、あたしのベッドの上で眠っている京介に近づく。

 まさか『お兄ちゃん起きて、朝だよ』なんて言えるわけがないから、
 あたしは京介の唇に、あたしの唇をかさねるのだ。

 京介、おはよう・・・って。



 あたしは、また六日後に迫った一人寝の日を憂鬱に思いながら、京介と階下の食卓へ降りていく。

 側に感じる暖かさと優しい匂い。
 愛しい人を五感で感じられるこの気持ち。
 兄妹の間の秘密を抱えながら、これからもずっと幸せでありたい。
 そう願いながら、二人、歩んでいく。


 
 これが、あたしの今の生活。
 『普通の妹』としての朝だ。

 もちろん、お昼や夕方、それに夜だって、『普通の妹』としての生活がある。
 でも、全部教えなくたっていいじゃない!



End.



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最終更新:2013年06月17日 18:59