962 名無しさん@お腹いっぱい。 2013/06/20(木) 01:07:51.46 ID:3FMU7SMh0

「ねぇ」
「どうした?」
「明日、みんな来てくれるかな?」
「来るさ。おまえが楽しみにしてるのと同じくらいみんなだって楽しみにしてると思うぜ?」
「うん、そうだよね……みんな驚くかなぁ?」
「きっと驚くぜー!なんだかんだみんなで集まるのは久しぶりっつうか……懐かしいよな」
「だね」

明日は俺たち兄妹にとってとても大切な日だ。
俺が高校を卒業し、妹が中学を卒業してから数年が経ち、俺も桐乃もあの頃より少しだけ大人になった。
思えば……あの頃は、本当にいろいろと大変なことがあったな。
だけど、その大変な思い出を振り返るとそこにはいつも桐乃の笑顔がある―――

「社会に出るとさすがに昔みたく集まる機会が減るのは仕方ないよな」
「ちょこちょこ会ってはいるんだけど、みんなで、ってなるとどうしてもね」
「寂しいか?」
「べっつにー?」
「素直じゃねえなぁ。まあ俺はおまえがいればいいんだけどさ」
「……ばーか」

季節は春
明日の話をする前に、少し昔話をしよう。
……俺と桐乃が、まだ「恋人」だった頃の話。あの三ヶ月を振り返ってみようか―――



クリスマスイブに桐乃と恋人になってから、数日が過ぎた。
今日は大晦日で現在、俺と妹はリビングで並んで年越しそばを食っている。

「……なんか豪華だな」
「……エビ入ってるね」

俺たちが驚いているとお袋が嬉しそうに話しかけてきた。

「京介あんた最近勉強頑張ってるでしょ?お年玉の代わりよ」
「ああ……なるほど。お袋、たしかに嬉しいんだが……なぜエビ?」
「あら?いらなかった?なら桐乃にあげれば?」
「うえーっ!やめてよ、お母さん……京介の食べさしなんてキモすぎて食べれるわけないじゃん!」

んだとコラ。
失礼なやつだ。内心では『お兄ちゃんのエビ食べたいよっ!』なんて、思ってたりするんじゃねーの?
ったく、素直じゃねー彼女だぜ。
まあ、こういうところも可愛いと思えてしまう俺は重傷患者なわけだが。
などと考えていると、桐乃がこんなことをいってきやがった。

「なにニヤニヤしてんの……キモッ」
「…………」

フッ――前言撤回。
やっぱり、俺の妹は可愛くねえ。まったく、一ミリたりとも。
あのさー、お兄ちゃんとしては親バレ回避のためとはいえ、もう少し優しくしてほしいわけですよ。
いちゃいちゃしたいわけですよ。
くそっ……なんとか、桐乃に一矢報いられぬものか……。
そこで、俺は思いついた…………桐乃、俺を怒らせた報いを受けるがいい!

「桐乃、エビいらねーなら食ってやるよ」
「ちょ、まっ……ああっ!?」

ヒョイッパク。
うむ、美味なり。桐乃の味がする……なんて言ったら気持ち悪いかもしれんが、あえて言おう。

「桐乃の味がするな」
「き、きんもーっ!キモキモキモーッ!」
「京介、あんた……」
「何も言うな、母さん」

桐乃に罵倒され、お袋に呆れられ、親父に諦められている。
付き合う前と何も変わってねーな。
親バレ回避のためのいいカモフラージュになったはずだ。
エビを失った桐乃が涙目で見てくるので、俺はこうするしかなかったよ。

「そんなに怒るなよ。お兄ちゃんのエビやるからさ」
「い、いらないっての!ちょっと待っ……」

俺は桐乃のどんぶりに俺のエビを入れてやる。
ちょっとやりすぎたか?怒るかな……と、思っていたが……。

「ばかじゃん……キモすぎ」

と、呟きながらエビをムシャムシャ食べていた。
俺が妹と合法的にイチャイチャする心得を手に入れた瞬間だった。

食後、俺の部屋に移動した俺は……妹に説教を食らっていた。

「さっきのはなんなの!あんたバカァ!?」

どこかで聞いたような罵倒台詞を展開する桐乃。

「なんのことだよ?」
「あ、あんなことしたらお父さんたちにバレちゃうじゃん!」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって……!親にバレちゃったらおしまいなんだよ!?……アンタはそれでいいの……?」

心配症だなあ。ようするに、こいつは俺と別れたくないから親バレに心配してるわけだ。
可愛いじゃねぇか。
結論――俺の妹は世界一可愛い。

「桐乃、おまえの気持ちはよくわかるが心配するな。そんなおまえにとっておきの魔法の言葉を教えてやろう」
「なんなのその自信?あんたがそういう顔するときってだいたいろくでもないこと言うよね?」
「そんなことはない!いいか、よく聞けよ……?『俺と妹のイチャラブが親にバレるわけがない』」
「……そう、なのかな?」
「おう!だから心配することはないぜ?」
「ん~~~っ、なんかあんたの力説を聞いたらそんな気もしてきた……カモ」

どうやら桐乃も俺の超カッコいい台詞に納得したようだ。
こりゃあ間違いなく惚れ直したな。

さて、そろそろ出かけなければ部屋で正月を迎えちまうことになる。
受験を控える高校生としても念入りに合格祈願をしておきたいところだ。

「納得したなら、そろそろお参りにでかけないと正月になっちまうぞ」
「あ、ほんとだ……じゃあ準備してくんね」
「俺もおまえの部屋で待ってようか?」
「……あんたってほんとエッチだよね?」
「恋人なんだから着替えを見るくらいエッチでもなんでもないだろ?」

ていうか、エッチじゃない高校生男子なんてこの世に存在するの?
彼女の着替えを見たいなんて当たり前の要求だと俺は主張させてもらう。

「んなわけないでしょ!ばかっ!エロ!」
「そうかなあ?」
「おとなしくここで待っててよ。絶対覗いちゃダメだかんね!」

そう、念を押して部屋を出ていく桐乃。
鍵かけりゃいいじゃん。
むしろ、これだけ念を押されると覗いて欲しいと言ってるようにしか聞こえんのだが……どうだろう。
俺の桐乃語翻訳によれば『鍵は開けとくから、いつでも来てね。京介♪』
こんなところになる。決して俺がエロいからこういう解釈になるわけじゃない……と思う!
よし――――俺は妹の部屋のドアを勢いよく開けた。

「よう桐乃……って、あれ?」
「……覗くなって言ったでしょ」
「あの、なんで着替えてないの?」
「晴れ着なんて一人で着れるわけないじゃん?このエロ」
「くっ………………!」

騙された!ちくしょう……ちくしょおおお!
純情な男子の心を弄ばれた……!

「な、泣くなっての!」
「だってよぉぉぉぉ……!」
「もうっ!ほ、ほら、準備終わったから早く行くよ!」
「う、ううっ……」

くっそお……!この雪辱は必ず晴らしてやるから覚悟しておけよ!
桐乃へのリベンジを俺は固く誓うのだった。

準備を終え家を出た俺と妹は、近くの神社へと向かっていた。
神社に着くころにはちょうど年が明ける頃合だろう。
二人でゆっくりと歩いていると桐乃が聞いてきた。

「てかさ、よく外出の許可もらえたね」
「あー……まあな。俺に任せろっつったろ?」
「お父さんになんて言ったの?」
「桐乃が合格祈願をしたいって言ってるんだけど、一人で行かせるのは危ないし一緒に行ってくるっつったら余裕だったぜ」
「なるほどねー。結局あたしも受験生になったし、お父さんも心配してるのかな」

まあ、実際のところ、親父には『自分の合格祈願をしろ』……なんて言われちまったけどな。
かっこ悪いからこいつには教えねーけど。
などと言ってる間に、ほどなく神社が見えてきた。

「ありゃ、結構混んでんな」
「えーっ、こんな寒いのに待たされんの?ねぇ、なんとかしてきてよ」
「できるわけねーだろ!」
「ちっ………」

あいっかわらず、この妹様は無理難題を要求してきやがる。
しかし、寒いのも事実だ。――こいつの服装はスカートだしな。ふむ、たしかに寒そうだ。
そこで、俺はこんな提案をした。

「甘酒でも買ってこようか?あったまるぞ」
「あ、あんたまさか……あたしを酔わせてエッチなことするつもりじゃ!?」
「しねぇーよっ!なんでおまえはいつもいつもそうエロい解釈しかできないの!?カラダがあったまるからって言ったろ!」
「ふ、ふんっ!あんたが『俺のカラダで桐乃をあたためてやるよ……』みたいな言い方するからじゃん!」
「新年迎える前からぶっ飛んでんなあ、おい!」

神聖な神社が台無しだよ!どうして、こいつの思考回路はエロい方面にしか働かないの?
神様……どうか、桐乃の煩悩をお鎮めください……。
今年の願い事が決定した瞬間であった。

「おい、次だぞ。ちゃんと願い事は考えてきてんのか?」
「あたりまえでしょ。あんたこそしっかり合格祈願したほうがいいんじゃない?」
「へっ、おまえがくれた御守りがあるからな。そっち方面は大丈夫だろ?」
「……あっそ」

順番が回ってきた俺たちは五円玉を二枚ずつ放り込み、カランカランと鈴を鳴らし、念入りに拝む。
俺の願い事はもちろん桐乃のことだ。
神頼みなんてガラじゃないし、俺の願いを叶えるのは俺自身なのだが……まあ、たまにはいいだろう。
頼むぜ神様……どうか桐乃とずっと―――。

目を開け隣を見ると、いまだにお祈りをしてる桐乃が見えた―――。

「なあ、あんな熱心に何をお願いしてたんだ?」
「秘密」
「気になるなあ」
「あのさぁ、願い事を言っちゃったら叶わなくなるんだよ。知ってる?」
「そうなのか?」
「そーなの。だから叶うまでは秘密。そういうあんたはどーなの?」
「……俺も秘密だ」
「ひひっ、あんたって単純だよね~」
「ほっとけ」

叶えば言っちまってもいいんだろ?
それまでは俺の願い事は秘密にしておくとしよう。

初詣から帰ったあと、俺たちは甘酒の効果もあり、すぐに眠りについた。
そして、現在の状況を説明すると―――胸元がはだけたパジャマ姿の桐乃が俺のベッドですやすや眠っている。

「……………」
「むにゃ……」

ありがとう神様。さっそく願いが叶ったよ!
では、さっそく……………いや、待て。……落ち着け、俺。そして、落ち着け俺の海綿体……。
また狸寝入りで俺を試しているのかもしれん。こいつはそういう女だ。
ここで選択肢を間違えると、また、怒られてしまうことは確定しているぞ……!
いいのか京介?やれるのか高坂京介?

「桐乃さーん……?」
「すぅ……すぅ……」

ふむ……完全に寝ているように見える。
いけるか?……いや、これは昨日のリベンジだ。ここで果たさなければいつ果たすというのか!
まずは様子見だ。

「ぷに……」
「う……ん」

ほう、なるほど……やわらかい。
どうやら、甘酒の効果はバツグンだったようだな。
気を大きくした俺は、服の上からではなく直につついてみることにした。

「起きるなら今だぞ~?いいのか~?……つんつん」
「すぅ……すぅ……」
「おお……っ!」

……これほどの感動は生まれて初めてかもしれない。
例えるなら、まるで、桐乃山を登っているようだ。
この調子で山頂部分を踏破しなければならないだろう。――恋人として。
だが、チキンハートの俺にはガッツリ勝負に出ることはできないからな、少しずつ歩を進めていくしかない。
……そう、思いながら三合目辺りをつついていたときだった。

「…………」
「…………」

パッチリおめめの開いた桐乃と目が合ってしまうという事故が起きた。
山の天気は変わりやすいらしいからな……初心者の俺に見抜けなかったのも無理はない。

「ふっ、おはよう桐乃。愛してるぜ」
「…………あ、あああ、あ、あんた!い、いま」
「おい、勘違いするな。俺は何もしていない」
「うそつくなっ!あたしの、む、胸さわってたじゃん!」
「さわってない。マジで」
「嘘乙ッ!ふ、服もはだけてるし……脱がそうとしてたんでしょっ!」
「違う!それは最初からだった!服は俺のせいじゃない、これはマジだ!」
「それは……?てことは、胸さわってたのは認めるんだ?」

どうすればこいつの誤解を解けるんだろうか?
俺は山を登ってただけなのにっ!
誤解されたままなのも嫌なので、弁明はしておくべきだろう。

「桐乃。ちょっと、手ぇ貸してみろ」
「は?ちょ、なにっ……!」

俺は強引に、顔を紅潮させた妹の手を掴むと―――俺の胸へと導いた。

「フッ……これでおあいこだな。どうだ、お兄ちゃんの胸はあったかいだろう?」
「な、ななな、なあ――ッ!?」

桐乃の顔はさらに真っ赤になっていく。
ウブだなあ。

「好きなだけさわっていいぞ。俺はおまえに胸をさわられたって気にしないからな」
「――――」

この後、俺がどうなったのかはご想像にお任せするが、ひとつだけ主張させていただきたい。
俺が妹にエロいことなんてするわけがないからな。

―――さて、そろそろ話を戻すとしよう。この「恋人」期間を終えた俺たちが、今どうしているのか。
俺たちの卒業式……二人きりの結婚式から数年が経った。
俺と桐乃は今、クルマに乗って、ある場所へと向かっている。

「ねぇ、そういえばさ、どうしてこのクルマにしたの?」
「ん?前に言わなかったか、おまえがまだ読モやってるときに千葉マツダの宣伝見て欲しくなったって」
「や、そうじゃなくてさ。あんたセダン欲しそうにしてたから、ワゴン選んだのはちょっと意外」
「悩んだんだけど、やっぱ人数が増えるとワゴンのほうが便利だろ?親父も喜んでたし」
「お父さんよろこんでたねー。てか、こないだせなちーのお兄さんがうちに遊びに来たとき、すっごいバイク乗ってきてたよね」
「おう、赤城はバイク好きだからな。あれ見てると俺もバイク欲しくなったわ」

赤城曰く、『妹を乗せるならアメリカンがベスト!』――だそうだ。
たしかに、アメリカンで優雅に二人乗りするのは魅力的ではある。
だが、俺としてはネイキッドタイプのほうが密着できると思うんだけど、どうだろうか?

「あ……エッチな顔になってる」
「な、なってねえよ!」
「ほんとにぃー?京介って考えてることがすぐ顔に出るからね~。あやしい……」
「ぐっ……」

やれやれ、あいかわらず妹の尻に敷かれてる兄貴なのである。
だけど俺はあの頃と変わらず、こんな日常が続いていけばいいと思っている。
かつての非日常は、今の俺の日常で、この暮らしを俺はとても気に入ってる。
きっと、桐乃もそうだろう。

しばらく走っていると、仲間たちとの待ち合わせ場所が近づいてきた。

「なあ、桐乃」
「ん?」
「あのときの願い事は叶ったか?」
「あんたと同じ」
「……だな」

聞くまでもないことだ。
俺たちはこれからもずっと一緒なのだから。

そして、想い出の場所に到着した俺と桐乃はクルマから降りる。
そこには見慣れた顔があった。

「何をグズグズしていたの?待たせないで頂戴」
「おお、新郎新婦のご到着ですな」
「わあ、桐乃あいかわらず綺麗だね。――ふふっ、お兄さんなんかにはもったいないです」
「さっさとよー、ケーキニュウトウ?ってのやっちまえヨ」

俺と桐乃は顔を見合わせ笑い合う。
仲間たちの変わらない優しさに感謝しながら。

「じゃあ、はじめっか。俺たちの結婚式を、さ」
「うんっ!」

―おしまい―



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最終更新:2013年06月22日 20:48