308 名前:【SS】こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/05(金) 23:41:33.85 ID:u4loj33+O
「・・・結局最初っから最後まで一緒だったなー」
「ん?なにが?」
夕食後の勉強タイム。
今日も今日とて俺のベッドに寝転んで携帯ゲームをやってた桐乃が不意に呟いた。
「なんでもない」
「ふぅんそっか」
そのままノートに目を戻した瞬間、
「いって!」
「あんたってほんとKY」
後頭部に桐乃の蹴りが入っていた。
「なにすんだよお前!?」
「うっさいバカ!そこは「いやなんでもねーことないだろ?話してみろよ」とかって食い下がるとこでしょ!?頭湧いてんじゃないの!?」
なにこの理不尽なキレ方?
いい加減慣れてもいいようなもんだが、一向に慣れねーなこれだけは。
「はいはい分かったよ。ほれ、話してみろよ」
「はあ?なにその態度?上から目線とかムカつくんですけどー?」
うわめんどくせえ。
今更ながらに思うけど、本当にめんどくせえ女だ。
なんで俺は・・・。
何度も自問した言葉が頭に浮かんでは消える。
・・・考えるだけバカらしい。
どうせいつも、決まって答えは同じなんだから。
「はいはい・・・桐乃?そんなこと言わずに話してみろよ。俺みたいな奴でも少しくらい役に立てるかもしれねーぜ?な?」
そこまでへりくだって言うと、桐乃は口の端を妙に引くつかせながら答えてきた。
「へ・・・へえ。わかってきたじゃん・・・」
・・・たぶん気を抜くとニヤついちまうのを必死で我慢してんだろーな。
最近分かったことだが、どうにもこいつは俺より優位に立つのが好きらしい。
そこをちょっとくすぐってやりゃ見ての通りだ。
なんてわかりやすい妹だ。
「んーでもー・・・もう一声っかなー?」
前言撤回。明らかに悪化してやがった。
「・・・頼むよ桐乃。俺、お前の助けになりたいんだよ」
「そこまで言うならしょうがないっかなー!」
・・・ああなるほどね。
下手に出た言葉が聞けりゃ、少しくらい棒読みでもいいんだ。
・・・しっかり覚えておこう。
309 名前:【SS】こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/05(金) 23:43:28.35 ID:u4loj33+O
「で?なにがどうしたって?」
気を取り直して桐乃に目を向けると桐乃はうつ伏せのまま、一瞬ぎくりとした顔をした。
なにこの反応?
「おい桐乃?」
再度問いかけてみると、暫く「ううう・・・」と呻いた後に、おもむろに俺の枕を抱きしめてそこに顔を埋めてしまった。
そのままバタバタと俺の布団を足で叩きながら、左右へと体をゆすり始める。
もちろんその間にも「うーうー」と何度も唸っている。
・・・見てる分には十分に面白いんだが。
いかんせん俺の布団が見る間に乱れていくのはどうにもいただけない。
「おい、いきなりなに暴れてるんだ?」
「暴れてんじゃない!バカッ!」
いきなりキレやがった。
変わらねー。ほんとーに変わらねーこいつだけは。
「じゃあなんなんだよ?」
「・・・」
俺の問いに桐乃は、うつ伏せのまま、少し涙目の半眼で黙って俺のことを睨んでいたが、不意にプイッと横を向くと、小さくこう呟いたのだった。
「・・・面と向かって言うのが恥ずかしいことなんだっての。察しろバカ」
「あ・・・あー」
なるほどねー。
さっきのは照れ臭くてモジモジしてたってことか。
なるほどなるほどー。
・・・などと文字面では冷静に書いちゃいるが、実際俺の顔も真っ赤である。
なにこの可愛い生き物?
照れて身悶えるとかマジ可愛いんですけど。
・・・いかんいかん冷静に冷静に・・・。
俺はコホンと一つ咳をすると、努めて平静な声を出した。
「あースマンな桐乃。それは悪かった。勘弁してくれ」
「・・・いいけど、別に」
「そかサンキュ」
「・・・ん」
俺の言葉に素直に頷く桐乃。
そっぽを向いたままじゃいるが、こういうの見ると本当に変わったんだなって実感できる。
俺たち兄妹の関係がな。
310 名前:【SS】こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/05(金) 23:46:43.49 ID:u4loj33+O
「えーと・・・で、だな・・・」
「なに?」
「・・・なんて言ったの?」
「え!?ちょっ!?」
俺の言葉に反応して、勢いよく俺に顔を向ける桐乃。
「あああああんた、い、今の流れでそのまま聞いてくんの!?」
「だ、だってよしょうがねーじゃん!ここまで聞いちまったらもう気になってしょうがねーもん!!」
「あんた開き直りに磨きかかってない!?」
「いいだろ兄妹なんだから!!」
「それ言えば何でも叶うと思うなよ!?」
ギャーギャーと喚きながら言い合いする俺と桐乃。
卒業し、普通に戻り、新しく歩み始めても・・・俺たちはこうして変わらず生きていくのだ。
「あーもううるせえ口だな!今塞いでやるからじっとしてろ!!」
「あんたこそその喧しい口を今黙らせてあげるからそこで目え瞑れ!!」
・・・ま、変わってねーんだけどな。
END
320 名前:【SS】続こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/06(土) 00:15:23.91 ID:sztpN6hMO
「・・・で?」
「ん?」
「結局何が言いたかったんだよ?」
あれからドタバタと取っ組み合うこと10分。
ぜいぜいとお互いに荒い息をつきながら、俺たちはベッドに揃って寝転がっていた。
断っておくが、やましいことはなにもしていない。
いいか?してないといったらしてないからな。
「・・・やっぱ聞く気なの?」
俺の言葉に桐乃は疲れたような声を出してこっちを見てきた。
・・・呆れたような顔すんなよ。
「ここまできたら意地でも聞かせてもらう」
「あんたって無駄に頑固だよねー」
「うっせ。文句は親父に言え」
正直、俺がいざという時に全く引かないのは親父の血の所為だと確信している。
ありがたいのかありがたくないのか・・・ま、良くも悪くもってやつだ。
「まあねー、お父さんホント堅物だもんね」
「その分お袋がゆるっゆるだけどな」
「きゃははたしかに」
パタパタと足を揺らしてながら、桐乃は心底おかしそうに笑いだした。
「ホント馴れ初めとか聞きたいよね」
「お袋がベタ惚れだったんだってよ」
「え!?マジで!?」
「マジマジ。前にお袋本人から聞いたから間違いねーよ」
全くあの時は参ったぜ。
きっかけは忘れたが、とにかく親父とのノロケ話を延々と聞かされた思い出がよみがえる。
なんでも高校に入って一目惚れして、それから3年間、ずっと付きまとって見事彼女の地位を勝ち取ったとか言ってたっけ。
いやはや、あん時ほど辟易したこともねーよ。
なにが悲しくて親のノロケなんぞを聞かなくちゃならんのだか。
321 名前:【SS】続こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/06(土) 00:19:03.94 ID:sztpN6hMO
「ふーん・・・お母さんも一途だったんだ・・・」
「え?」
俺の言葉に、桐乃はぼそりとそんなことを呟いた。
「・・・さっきのね、教えてあげる」
「お、おう」
桐乃はそういうと、暫し俺の顔をじっと見つめてきた。
思いのほか近い距離に内心ドギマギしながら、俺は桐乃の言葉を待った。
「・・・結局ね、あたしはずーっと一緒なんだなーって思ったの」
「え?」
俺が訳が分からず聞き返すと、桐乃は照れたように小さく笑って言葉を続けた。
「・・・小さい頃から『お兄ちゃん』が好きで、中学に入って、あんたに幻滅しても『兄貴』が好きなまんまで、そうして今でも『京介』が好きでさ・・・なんだ、結局あたしって、ずっと一途に一人のことが好きだったんだなーって思ったの」
「桐乃・・・」
「おっかしいよねえ。普通に考えりゃ、あんたよりカッコいい人なんてたっくさんいるのにさぁ」
そう言って桐乃は、困ったようにクスクスと笑った。
「でもね・・・」
真っ直ぐに俺の目をみつめながら、桐乃はニッコリと笑ってこう言った。
「やっぱりあたしはあんたが好きなんだ。いままでも・・・これからも、ね」
「桐乃・・・」
その眩しい笑顔を見ながら、俺はやっぱりいつものようにこう思うのだった。
俺の妹がこんなに、
「で、もー」
かわ・・・え?
「あんたはフラッフラフラッフラしまくってたけどねー」
「・・・え?」
気が付けば、桐乃は半眼になって思いっきり俺を睨んでいた。
323 名前:【SS】続こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/06(土) 00:20:49.14 ID:sztpN6hMO
え?あれ?桐乃さん?
ここはほら、きれいにまとめるところじゃ・・・?
「は!知るかっつーの」
桐乃はそう言い捨てると、ごろんと仰向けになった。
「あーあ。なーんかズッルいよねー?あんたはさー、黒いのと付き合ってー、麻奈美さんとずーっと一緒でー、あやせや加奈子、櫻井さんにまで告白されてさー。あったしなんて告白すらされたことないんですけどー?」
次々と羅列されていく俺の女遍歴。
なんかこれだけ聞くと、まるで俺がリア充の女たらしみたいじゃないか。
え?なにこれ?
いつの間にか浮気を糾弾される亭主みたいになってるんだけど?
なにこの修羅場みたいな雰囲気。
「ねえ?どう思ってんのあんたは?」
くるんと顔だけこっちに向けて、桐乃は俺の目をみつめる。
もちろん色っぽい雰囲気は微塵もなく、怒気を湛えた目でだ。
「い、いやそれお前と付き合う前の事で・・・」
「へえ?それで言い訳にしちゃうんだー?おっかしいなあ?あたしの大好きな人はそーんな言い訳をする人じゃなかったなー」
ウリウリと俺の頬を指でつつきながら絡むように言う桐乃。
ハッキリ言って超ウザい。
ウザいが・・・はあ。こればっかりは仕方ねーか。
「あー・・・俺が悪かった」
「気持ちが籠ってない」
わーってるよ。
「今はお前だけが俺のすべてだ」
「うひっ!?な、なに言っちゃってんの?バカじゃん!?」
瞬間顔を真っ赤にしてあからさまに動揺する桐乃。
ホント直球に弱いよな、お前。
「バカでも何でもいいよ。俺は今までもシスコンで、これからもシスコンで、んで・・・」
そうして俺は、桐乃の顔を見てこう言った。
「ずーっと、俺の妹がこんなにかわいいわけがない、って思い続けるんだからよ」
「・・・ばか」
「知ってるよ」
そのまま無言で抱きついてきた桐乃を抱きしめる。
「一生許さないから」
「一生かけて謝んよ」
そうして手の中のぬくもりは、一生手放してなんかやらない-。
END
325 名前:【SS】続こいつらの日常(いつも)【SS】:2013/07/06(土) 00:26:59.16 ID:sztpN6hMO
・・・
・・・
「ちなみに桐乃?」
「なに?」
「そろそろ右手の感覚がなくなってきたんだが?」
「え?やだ」
そうして桐乃はピタリと俺に抱きついたまま、ご満悦の表情を浮かべるのだった。
今度こそEND
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最終更新:2013年08月07日 16:48