「そんなぁ~優しくぅしないでぇ~どんな顔すればいいの♪」
「わぁー!桐乃上手ー!」
「……耳が腐りそうだわ」
超絶美少女高校生こと、あたし――高坂桐乃は現在カラオケで熱唱中である。
選曲はアニメの主題歌『irony』。歌詞が超切ないんだけど、なんかすごい共感するんだよね。この次は『reunion』を歌う予定。
「ゆっくりと変わってく心に身を任せて~♪」
「すごいすごい!さすが桐乃だね!」
パチパチ――っと拍手してくれるあやせ。一方の黒猫はやる気なく手を叩いている。
間奏の間にチラッと京介の方を見ると拍手どころか、あたしの歌を聴かずに加奈子とおしゃべりしていた。
むっ!このロリコンちゃんと聴きなさいよ!と言ってやろうと思ったら「ブッ―――!?」――と、京介が噴き出した。
「桐乃、歌始まってるよ?」
「あっ、やば……」
そしてあたしが歌い終わり、京介の曲が始まると、加奈子はあたしの隣にやってきた。
いまや売れっ子コスプレアイドルの道を着々と歩んでる加奈子とカラオケに来られるって、実はけっこうスゴイことなんだよね。
「なぁ桐乃、ちっと聞いていい?」
「ん、なに?」
オレンジジュースを飲みながら答えると、加奈子はニヤリと牙を見せつけながら聞いてくる。
「桐乃ってさァー、京介とぉー、もうヤったのん?」
「ぶっ!……げほっげほっ!」
「うげっ、きったねーなァ!兄妹揃っておんなじリアクションしてんじゃねーよ!」
「げほげほ……あ、あんたが変なこと聞くからじゃん……!」
「変なことってどこがよ?」
「あ、あたしと京介が……ってこと!」
「あたしとー、京介がー……なに?うへっへへっ!加奈子ー、バカだからわかんねんだけどーwww」
「うっ……うぅ~~~ッッ!」
わざとらしくとぼける加奈子――てかっ!なんてこと聞いてくんのよ!
あたしと京介は健全なカンケーで……!
「ショージキに言えよ、うひひっ!……ヤったんだろ?」
「や、ややや、ややっ」
「ヤ?」
「ってないしっ!」
「アレ?桐乃のゆってることと、さっき京介に聞いた話が違うんだけどぉ、これってどゆこと?」
「は、はあ――!?……も、もしかしてさっき話してたのって………」
「京介にー、聞いたらー、なんかー、桐乃にー、ソーセージを食わせてるってー、言ってたんだけどー?そうゆーことだべ?」
「そっ、それはちがくて……!」
…………バカ!あのバカ!サイアク!
あたしが答えられないでいると、加奈子が調子に乗って「なにが違うのん?w」と、おちょくってくる。
ううっ……なんとかごまかさないと――そう思って、あたしが言い訳を考えていると…………。
「かーなーこ……♪」
「ひぃっ!」
「あ……」
「ねぇ、加奈子……わたしとあっちでお話しよ?」
「ちょ、タンマタンマ!あやせ様~ッ!」
あやせに連れ去られる加奈子。
えーと……なんかよくわかんないけど、助かったみたい。
なんとかごまかせた……よね?
「――で、どうなのかしら?」
「ひゃあっ!……あ、あんた聞いてたの?」
「興味深い内容だったから聞き耳を立てたわ」
「……あんたも加奈子と一緒にお仕置きされるべきだと思う」
「ごまかさないで教えて頂戴」
ニヤニヤと意地悪そうな笑顔で聞いてくる黒猫。
加奈子と違ってごまかしても見抜かれるし……こいつは強敵だぜ。
「えーと、だからぁ……ちゅーはした」
「それは前にも聞いたわ。まさか、そこから進展なしなんて言わないわよね?」
「それは、そのぉ……」
「――おい、おまえら。たまには俺の歌を聴けよ」
いつの間にか歌が終わってたようで、京介が話に入ってくる。
ていうか!こっちはあんたの失言のせいで困ってるんですケド!?
「で、なんの話してんの?」
「フッ―あなたたち兄妹の話よ」
「俺たちの?」
「ええ、そうよ。……そうね――いい機会だから聞いておくけど、」
「スト―――ップ!」
あたしはすかさず黒猫の腋を押さえてくすぐり攻撃を放つ!
コイツなにとんでもないこと聞こうとしてんのよっ!
「ちょっと!何するの!こら、やめなさい!」
「やめない~!てか、あんたこそ変なこと聞くのやめなさいよ~ッ!」
「きゃっ!ちょ、ちょっと……!ほんとにやめっ……クッ!ククク――ッ、どうやら私を本気にさせてしまったようね!」
「ひゃあっ!?や、やめっ!く、くひひひひひ――っ!ちょ、だめだめぇっ!し、しにゅぅぅぅ―――っ!」
「フフフフフ――――ッ!その程度の実力で私に刃向かった事を絶頂の狭間で後悔するがいい!」
「や、やめぇ――――ッ!」
「やれやれ……おまえらってやつは、なにも変わっちゃいねぇな」
―――黒猫によって穢されてしまったあたしは、カラオケボックスのソファでダウン中。
「はぁ……はぁ……うぅっ」
「ふふっ――さて、先輩聞いてもいいかしら?」
「結局そこに話が戻るのか……で、なんの話だよ?」
「桐乃と●●●●したの?」
「おまえもか――ッ!?」
※
「――って感じだったっけ。覚えてる?」
「……忘れ去りたい黒歴史の一ページだ」
「でも楽しかったじゃん。久しぶりにみんなと集まってさ」
「……おまえは覚えていないのか?あの直後、俺が黒猫の問いに答えた瞬間、タイミング悪く戻ってきた死神に蹴り飛ばされた俺がどうなったのか……」
「あ~、そんなこともあったねー」
「久しぶりにハイキック喰らってマジで昇天するかと思ったぜ……前より破壊力増してるしよ」
当時の様子を思い出したのか顔を青くする京介。
あの頃――あたしと京介の関係を祝福してくれる人は今よりもっと少なくて、友達にも色々と気を使わせてたと思う。
そんなあやせも黒猫たちと同じように、今ではあたしたち兄妹の良き理解者の一人になってくれた。
「懐かしいな」
――そう言いながら、京介はあたしのお腹を優しく撫でる。
「俺たちだけじゃなく、こいつらがとびっきり幸せな人生を送れるように頑張らねーとな」
「ん……頑張ってね、京介」
「当たり前だ、任せとけって」
そう言って、今度はあたしの頭を撫でる京介。
「あっ、そういえば今日たまちゃん来たよ」
「へぇ、なにしに来たんだ?」
「メルルリメイクの鑑賞会に決まってんじゃん!」
「あいかわらずだなあ、おまえらは」
「それでねっ!メルル観てたら、この子の名前思いついたんだけどさぁ!」
「却下だ!またぞろエロゲーヒロインの名前を付けようとする気だろ!」
「ちょ、違うって!マジで、マジで!あたしの名前に近いからいいんじゃないかなーって、思ったのー!」
「…………まあ、そういうことなら一応聞いてやるけど……なんて名前だ?」
「ふひひっ!えっとね―――」
積み重ねた月日の中で、色々と変わったものもある。
それでも――あの頃と変わらず、あたしはいまとても幸せだ―――
―おしまい―
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最終更新:2013年08月07日 17:58