150 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2013/07/16(火) 21:33:33.65 ID:DpRJncrb0

SS『スーパーアイドル様の手料理(再)』京、加



 金曜日の夜。
 とりたてて何をするでもない時間。

 突然の電話というものは、えてしてこういうときにかかってくるものだ。
 相手を確認すると・・・加奈子?

「なあ、きょーすけぇ?明日おまえんち行っていい?」
「突然だなというか明日かよっ!?」

 加奈子の言うには、俺が一人暮らしをしていた時にやっていた、『アレ』
 つまり、お弁当試食タイムを行いたいというわけだ。

 残念な事に、明日、桐乃はモデルのお仕事・・・つまり俺は一日中暇なわけで・・・
 ついでに、親との事、上手く行ったのかも聞いてみたかったからな。



 というわけで―――翌日のお昼前、加奈子が俺の部屋にやってきた。
 あんなことがあった後だし、ギクシャクしないかと不安もあったのだが、そんな心配は無用だったようで、
 我が家のインターホンも鳴らさず、勝手に入ってきやがった、このアマは・・・

 俺の部屋のドアを開け放つと、私服姿の加奈子は、俺を見上げて開口一番こう言った。

「うぇっ、オタク部屋っての?マジきめェ」
「ほっとけ」
「おっ邪魔しまーす♪」

 言うのおせーよ。
 というか、昼に来る事が分かってたらちゃんと片付けてたのに・・・

 俺の了解もとらず、ちっこい加奈子は、部屋の真ん中に折りたたみのテーブルを広げ、座り込む。

「おっ、それか?そのハンカチ包み」
「ん?これ?」

 加奈子は、いひひと笑って、片手にぶら下げていた包みをちらりと見た。

「これはねぇ~、ひひ、おい、喜べヨ?」

 得意げに含み笑いをする加奈子は、キャラにまったく合っていないファンシーな模様のハンカチ包みをテーブルに置き、
 するりと結び目をほどいた。中から出て来たものは―――言うまでもない。弁当箱だ。

「加奈子の親もぉ大絶賛の肉じゃがだぜ!」

 加奈子が出した弁当箱は、まるで小学校低学年児が使っているようなものだった。
 ぜってー桐乃が見たらよだれを垂らして喜んだであろう、メルルの絵柄のプリントされたアレ。
 中身は―――肉じゃがに鶏おこわ、のみならず、厚焼き玉子や漬け物、カボチャの煮物などなど、色とりどりのおかずが詰まっていた。
 若干かたちが崩れ気味だが、それでもとても美味そうな。

「お・・・おまえが・・・作ったの?」

 顔が引きつってしまう俺を、誰が責められるだろう。

「オイコラ、なんで不安そうな顔すんだヨ。言っとくけど、全部加奈子がつくったかんな?」
「マジかよ・・・おまえ、超上達したじゃん?」
「だから言ったろ?加奈子の親も大絶賛だっての」

 すげえな・・・家事など絶対やらないクソガキなんて思ってた自分が恥ずかしい。
 それにしてもこりゃあ・・・

「ていうかよ?」
「んだよ?」
「おまえ、もう、俺に試食させる必要なんてないんじゃね?」
「んー、それがそうでもないんだよなぁ。だってよ、親とかぜってーひいき入ってんだろ?」
「そう、かもな」

 たしかに、親父の事なんか考えると、絶対に子供の事を思った評価になるだろうしなあ。
 特に桐乃のチョコとか初めての料理とか・・・よくもまあ否定するような事を一言も口にしなかったもんだよ。

「それにぃ、桐乃もあやせも、ぜってーお世辞いうだろー?
 ししょーはししょーで、なんか奥歯にモノ詰まったよーな言い方だしよぉ?」

 まあ、な。

「その点、きょーすけはしょーじきに感想言ってくれたじゃん」
「なるほど、それで俺じゃなきゃダメなわけか」
「そーゆうコト」
「マジかーそりゃラッキーだな、俺」
「だべ?」
「スーパーアイドル様の手料理なんざ、普通に生きてたらぜってー食えねーよ」
「だべ?だべ?うへへ・・・」

 なんでおまえもこんな単純なお世辞で、たやすくご機嫌になるんだよ・・・
 桐乃もそうだけど、チョロすぎるだろ・・・

 こうして加奈子のお弁当を食べる事になったわけだが、加奈子が自画自賛した通り、最高に美味かったよ。



「なあ・・・加奈子」

 食後のお茶を飲み終えた所で、俺は一応聞いてみる。

「んー?」

 ちなみに俺と一緒に弁当を食べた加奈子は、現在お腹がパンパンである。
 さながらタヌキのようであった。

「結局、親との事、上手く行ってるのか?」
「あー、今は週の半分、一緒に暮らしてる」
「そうか」

 一足飛びに全て解決!とは、なかなか世の中そう簡単には行かないものらしい。

「まー、それでも、結構話も出来るようになったしさ、これでも感謝してるんだぜ?おめーにはヨ」
「・・・そっか」

 面と向かってこう言われると、さすがに照れるもんがあるな。

 前も思った事だけど、みんなそれぞれ、特別な人生を―――生きている。
 そして、こんな風に、お互いの特別な人生が絡まりあって―――生きていけるのかもしれない。

「なあ、あたしも一個聞いていい?」
「おう、いいよ」

 加奈子は、いまだかつてないほどニコニコした表情で、背中に隠していたものを取り出した。



「―――この『妹妻』って何?」



「アルバムです」

 完全なる真顔で答える俺。ちょ、なんで貴様がコレを持っている―――

「フーン、で、タイトルが?」
「『妹妻桐乃~禁断のラブラブ生活~』」
「死ねよ」
「・・・・・・・・・」
「死ねよ」

 無表情で死ね死ね連呼しないで・・・!
 マジで死にたくなってくるじゃないか・・・

「ちょっと待て!そもそもそれ、畳んだ布団の中に挟んでいたはずなんだが!」
「家でどんなエロ本見てんのかなーと思って、手ぇ突っ込んだら、想像以上のブツが出てきて引いた」

 デリカシーのないやつだ・・・!
 くそぉぉぉ!一人暮らしを終えたら、あやせたんもこねーし、
 もうこういうエッチ系のブツが見つかって気まずくなるなんてイベントからは卒業できたと思ってたのに!
 逆じゃねーか!

「おい、京介。逆ギレしてうやむやにしようとしてんじゃねーよ」
「ち、違うんだって」

 何が違うんだ京介。考えるんだ京介。この窮地を乗り切る台詞を・・・!
 さぁ、久しぶりに発動しようじゃないか。これが、俺の―――最強の言い訳だぜ!

「別にそれ、変なアルバムじゃないよ?」
「これってよー、エロいアルバムだろ?」
「ちがうよ?」
「マジで?」
「マジで」
「・・・・・・・・・」

 加奈子はアルバムを開き、その中の一枚の写真を指差した。

「じゃあよー、この写真の桐乃・・・ハダカでしゃがみこんで、なにやってんの?」
「ソーセージを食べてるんですよ」

 女子高生に何言ってんだ俺。
 大丈夫か?加奈子に出るとこ出られたら、さすがにまずいんじゃないの?

「・・・・・・・・・」

 無言の時間が胸に痛い・・・!
 加奈子は「はぁ~」と呆れ果てるような溜息を吐いて、

「・・・エロいアルバムなんだろ?」
「はい」

 観念しました。正座である。
 本当に俺ってやつは、女の子の前でこの体勢するイベントにことかかねえな。
 加奈子はキバを剥いてお叱りモード。

「いい加減にしろよな―――おまえ、桐乃は妹だろーが。なんで妹にエッチしてんだよ!」
「そ、それは・・・」

 妹が求めてくるんですよ―――なんて言えるか!って・・・あれ?

「お、おい、加奈子・・・」
「あん?」
「俺、桐乃に挿れたってこと・・・おまえに話したっけ?」
「・・・・・・・・・」

 加奈子は『うへぇ』みたいな顔になった。

「お、おい・・・なに、黙ってんだよ?」
「いや・・・あー、ま、いっか。これさ、言おうかどうか迷ってたんだけどぉ」

 なんだってんだよ?



「桐乃ってば、ちょくちょく自爆してはゲロってるヨ」



「あやせたんの前でもか!?」
「あやせの前でも」



 さて、それからすぐに加奈子を家に戻してやった。
 加奈子が無事に家にたどり着けたかどうかは置いておいて・・・

 まあ、でも、きっとなんとかなるだろう。
 俺と桐乃との『特別』の中には、きっとあやせだって、加奈子だって、黒猫や沙織だって、
 みんなそれぞれの形をもって、入り込んでいるハズだから。



End.



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最終更新:2013年08月07日 22:14