790 名前:【SS】:2013/07/20(土) 22:59:00.76 ID:Hgn+MBoE0

【SS】エピローグのエピローグはプロローグ



「で、さっきのはなに?」

 アキバでのオフ会も終わり自宅に戻ってきたのだが、俺は帰宅そうそう桐乃の部屋で正座させられていた。
桐乃はというと、俺を見下ろすようにベッドに座り足を組んでいる。
―――つかおまえ人生相談とか言ってなかったっけ? 相談相手を正座させるってどういうこと?
……と思ったが、こいつの人生相談はいつもこんな感じだったな。
今更ツッコんでも仕方ないので、俺は話を前に進めることに。

「さっきのは……と言うと?」

「はあ!? なにとぼけてんの? あんたさっきあたしに…………した……じゃん……」

「あ? なんだって? よく聞こえねーよ」

「……あんた絶対分かって言ってるでしょ!…………約束したのに…………」

「いいじゃねーか、好きなんだから」

 桐乃の顔がピクッと動く。一瞬嬉しそうに見えたのだが、何故かすぐに不満そうな顔に戻る。

「約束の事はちょっと置いとくケド……そういえばあんたさ、あたしにまだ言ってないことなくない?」

「ん? 別に隠し事とかねーぞ? エロ本もすでにおまえ公認だしな……」

「エロ本を認めた覚えないんですケド! てゆーかそういうことじゃなくて、あんたがあたしに言わなきゃいけないこと!」

 ……言わなきゃいけないことねぇ……。つか相変わらず一々遠回しだよなこいつ。言いたいことがあるならはっきり言やいいのに。

「……う~む、そんな言い方じゃ分かんねーよ。もっと具体的に頼む」

「なんで分かんないの?!」

「分かるか!」

 最近桐乃の言葉の裏が読めるようになってきた俺でも流石に情報が少なすぎる。

「……しかたない。あんたさ……あたしに……プ、プロポーズしたじゃん?」

「……ああ、した」

「その前に言わなきゃいけないことあるでしょ?」

「…………告白……的なことか?」

「そ、そう!」

「だから言ったじゃねーか。す…好きだって」

「好きっていってもいろいろあるし、どういう好きか分かんないじゃん!」

「恋愛的な意味でって言ったろ?」

「だ~か~ら!恋愛的な意味で好きって別の言い方あるでしょ!」

「…………あ~、アレね」

「うん。アレ」

 あ~、気付いちまったか……。できれば言いたくなかったアノ台詞。
いや、決してそう思っていないわけではないのだが、直接本人の前で言うことがこんなにも恥ずかしいとは知らなかった。
……待てよ、たしかあの時―――



『俺は桐乃を愛しているから!』



「そういえば美咲さんと会った時に言ったような気が……」

「はぁ?! あんなのノーカンに決まってるでしょ! 彼氏のふりで、嘘……だったワケだし……」

 言った事自体は覚えてたのね。
……まあ確かに、勢いと調子に乗ってたところはあったかもしんねーけど……………………。
ん? たしかあの時も―――



『俺は妹を愛しちゃってる変態なんだよ!』



「黒猫と沙織が車で来たあの時に俺の台詞にあったよな……?」

「はあ?!ばっかじゃないの?! アレあたしに言った台詞じゃないでしょ!!
おまけに録音されたヤツをスピーカー越しとかありえないし!!」

 あ、これも覚えてたのね。
しかし…………あんな恥ずかしい思いしたのにノーカンとかありえないし!!

「……しゃーねーな。あ~……一度しか言わねーからな。よく聞いとけよ」

「……うん」

「俺、高坂京介は、高坂桐乃を……あ…あ…愛しています。世界中の誰よりも」

 ……ヤベー、超恥ずかしー。なんつーこと言ってんだ俺。顔から火が出そうだぜ。

「……もっかい」

 …………人の話聞いとんのか?こいつは……。一度しか言わねえって言ってるだろうがよ。
てか、そんな顔して俺を見るんじゃない! 顔真っ赤だぞおまえ! あ、俺も赤いか?!
なにうっとりしてやがる! 可愛いなぁ…………くそう!

「あ…愛してるよ桐乃」

「もっかい」

「桐乃、愛してる」

「もっかい」

「いい加減にしろよ! 何度言わせれば気が済むんだ?! ……俺だって恥ずかしいんだ……」

「ん~、まいっか。こんなもんで許してあげる」

 おいおい、そんな台詞、そんな顔して言ったところで可愛いだけだぞ?
それでも確認したくなってしまうのは俺の悪い癖で、

「…………満足したか?」

「…………ウザ」

 ……どうやらお気に召したようだ。が、しかし。

「そういうおまえはどうなんだよ?」

 俺は桐乃の気持ちを桐乃の口から聞いていない。“普通の兄妹”に戻った今でも、俺のことを好いていてくれてるとは思う。
でもやっぱり言葉で直接聞きたいと思うわけで…………。
すると桐乃はベッドから下りて俺の前でちょこんと正座した。

「聞きたい?」

 そう問うと桐乃は、ずいっと顔を俺の顔に近付けた。
桐乃の行動に心臓はバクバクだがここは冷静に、

「……ああ」

「一度しか言わないから、ちゃんと聞いてよね」

「ああ」

「……じゃあ、目……つむって」

 こ、これは! マジでまじで?! よっしゃあああぁぁぁあああ!!
さあ来い! 桐乃! お兄ちゃんはおまえの方からちゅーしてもらえるのを待ってたんだぞ。いつでも準備OKだ!!
あふれ出そうになる期待を押さえ込み俺はギュッと目を閉じる。
しかし桐乃から発っせられた言葉は無情で―――

「あははっ! あんたなに期待しちゃってんの? キモ~~~www」

 …………やっぱそうかよ。……あ~俺ってバカだよな~、毎回毎回。期待がデカかった分ガッカリ感が半端ねえ……。
うなだれる俺に桐乃はトドメを刺すべく、

「あんたのことなんか―――」





 ―――ちゅ。





「……………………愛してるに決まってんでしょ」





「……………………」

「……………………なんか言ってよ……」

 不意打ちのキスと告白に頭が真っ白になっていた。
可愛いとか、愛おしいとかを通り越して俺はもう死んでしまうんではないかというくらい嬉しかった。
そして、当初予定してしていた展開とは違っていたが、今決まった俺の心の内を桐乃に吐露する。

「桐乃」

「…………なに?」

「俺ともう一度結婚してくれないか?」

 桐乃はしばし逡巡していたが、やがて口を開く。

「…………だめ。だって約束……したじゃん」

「それなんだが……おまえがなんでも言うこと聞いてくれるってヤツでその約束をなかった事にして欲しい」

「……………………」

 桐乃は黙って聞いていた。
さらに俺は続ける。

「そして……俺と結婚して欲しい」

「……………………」

「……………………そして俺と……………………別れてくれ」

「……………………」

 本当は今日俺はあの『A判定のご褒美』で桐乃とよりを戻す予定だったのだが、さっきのキスと告白で俺は別の感情が芽生えはじめた。
桐乃はまだ15歳だ。才能という言葉では片付けられない努力で得た未来がある。
しかし責任感の強いこいつはきっと、俺がああいう形で桐乃を選んだことで、
“普通の兄妹”に戻ったとは言っても、俺に気を使い、縛られて生きて行くだろう。
それを無くすにはまずあの『約束』を解除する必要がある。
その上でもう一度結ばれ、そして俺達の関係をリセットしなければ桐乃の幸せな未来は有り得ない。
…………本当に自分勝手だな、俺。どこにも行くなとか言って桐乃の海外行きを止めて、既に未来を一つ壊してるのにな。

「今更酷い事を言ってると思う。でも……これが今の俺の本心だ」

「……………………」

 桐乃は俯いていて表情は見えないが、きっと怒りで震えてることだろう。

「殴るなり蹴るなり好きにしてくれ。それで気が済むとは思えないが」

 俺は無意識に衝撃に備え目を閉じる。
次の瞬間、俺の頬に伝わって来たのは温かく、柔らかなおそらく桐乃の頬の感触だった。

「……………………」

 俺は予想外の展開に声を失っていたが、桐乃は俺の首に両腕を巻き付け、頬を寄せたまま耳元で囁いた。

「…………ありがとね、京介」

「…………桐……乃?」

「どうせあんたのことだから、あたしの幸せが―――とか考えてたんでしょ?」

「……いや、それは―――」

「ううん、大丈夫。分かってるから」

 そして桐乃は俺の首から腕を解き、再び俺の前で正座をした。

「さっきのあんたの『お願い』に答えるね。まず『約束をなかった事に』だけど、これは認めてあげる。
でも、そのあとの『結婚して欲しい』と『別れてくれ』は認めてあげない」

「なんでだよ? なんでもって言ったじゃねーか。」

「あたしは『一個だけ』って言ったの。」



『あたしが、一個だけ、言うこと聞いてあげる』



「…………あっ!」

「思い出した? あんたエッチなお願いするって言ってたから『ぱふぱふしてくれ~』とかだったらどうしよ……って思ってた」

「……えっ、してくれんの?」

「するかバカ!! 変態!! てゆーか今そんな話してないでしょ!!」

 そ、そうだった……。あぶねーあぶねー。思わず『お願い』の内容を変更しそうだったぜ……。ふむ……『ぱふぱふ』おそるべし……。

「わ、悪かった……。ぱふぱふの件はまたの機会にしてもらうとして―――」

「…………しないかんね」

「ゴホン……話を戻そう。……じゃあ俺とおまえの関係はどうなるんだ?
『約束』の直前まで戻るとしたら、俺がおまえにプロポーズしたあとなんだが……」

「それなんだけどさ…………。えっと……………………」

 桐乃が言い淀み、表情が曇りはじめる。しかしそれは力強く、なにか固く決心したような表情に変わっていく。
―――そして



「人生相談……あるんだケド……」



 聞き慣れたフレーズ……。だけど桐乃の様子がいつもと違う。俺は黙って頷いた。

「あの『約束』がなかった事になったケド、あれは京介がプロポーズしてくれたから、
期間限定の恋人になるって『約束』したワケじゃん?」

「……ああ」

「だから逆にあのプロポーズがなかったら『約束』もしてない事になるよね?」

「…………そうだな」

「つまり『約束』をなかった事にするなら、京介のプロポーズもなかった事にして欲しいんだよね…………」

「なっ…………!」

 ヤバい……声が出ちまった…………。
この提案は桐乃のためにはむしろいい提案じゃないか……。
それでも…………! 俺の気持ちは本物だった。いや、今でもそう、思ってる。
それをなかった事になんて…………できるはずが、ない。

「あたし…さ……、いろいろズルかったと思う。自分の気持ちをごまかして……自分に嘘ついて……それでも諦められなくて……。
たくさんの人に迷惑かけた……。だけど……みんなは……あたしと対等に勝負してくれた。
一番迷惑かけた京介は……いつもあたしを応援してくれて……励ましてくれて……護ってくれた……。
そして……あたしを……好きだって言ってくれた……。結婚してくれって言ってくれた……。
約束の日までの三ヶ月、すごく楽しかった。すごく嬉しかった。すごく……すっごく……幸せだった……。
でも……寂しかった…………。終わりがあるんだ……って思うと……悲しかった……。
それでも……言えなかった。約束をなかった事にしたいって。
ずっと一緒にいたいって……言えなかった。結局……京介に全部言わせて…………。
あたしのために、別れてくれ……とまで……言わせ、て…………。ホント最っ低……だよね…………。
でも……それを聞いて分かったの…………」



『拒絶されるって分かってても! 受け容れられないかもって不安でも!
振られたら超傷つくって分かってても! 想いってのは、伝えなくちゃなんねえんだよ!』




「あたしは自分で言わなくちゃいけなかった……。自分から伝えなくちゃいけなかった……。
あたしは京介と一緒だから幸せなの! 京介じゃなきゃダメなの!
あたしは京介が好き! 大々々好き!! 大々々々だーーーい好きっ!!!!」





「あたしと結婚してください」





 俺は桐乃のプロポーズの返事をする前に、桐乃を抱きしめていた。
なぜなら俺はかつてないほど、みっともないほど号泣していたからな。
やっぱお兄ちゃんとしては妹に泣き顔は見せたくないわけよ。
…………今更、とか言うなよ?





 俺達は涙が収まるまでしばらく抱き合っていた。
二人とも落ち着いてきたころ、桐乃は俺に強く抱き着いたまま口を開いた。

「……返事、聞かせてよ…………」

「その前に……俺も伝えたいことがある。…………桐乃」

 桐乃の腕を解き、再び向き合って座る。俺は桐乃の瞳をじっと見て―――





「俺と結婚してくれ」





「やっぱり……なかった事には……できない。俺の気持ちは本物だからな。」

「…………京介……。」



「よし! 結婚すっか」

「……うんっ!」

 俺と桐乃は目を腫らしたまま笑顔で見つめ合う。すると桐乃はなにか思いついた顔をして俺から少し距離をとり正座し直した。
そして、両手をちょこんと床に添え―――





「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」





 あれ? 俺の妹ってこんなに可愛かったっけ?
…………いや、ここはこうだろ。



 ―――俺の嫁がこんなに愛しいわけがない。



 ってな。










「ねえねえ今のどうだった?」

「えっ……?」

「だ~か~ら!『ふつつか者~』ってヤツ、ちょー可愛かったっしょ?」

「……は? あ……ああ、か…可愛かった……ぞ……?」

「でしょ! でしょ! アレね、聖夜たんがお兄ちゃんにプロポーズされた時に返した返事なんだ~」

「…………な、な…んだ、と…………?!
…………つか! おまえとクリスマスの日に聖夜ルートクリアしたよな……? そんなシーンはなかったはず……だが…………」

「ふふん! すべてのルートをクリアするとね、聖夜たんの隠しルートが解禁する仕様になってたみたい。
しかも! 選択肢を一つも間違えちゃいけないって条件付きでさ!
いやあ苦労したぁ! あたしさ、@Wikiとか見ないタイプじゃん? やっぱ自分の力で攻略したほうが感動とか全然ちがうし?
『おしとやか聖夜たん』は掲示板とかで噂になってたんだケド、あ…『おしとやか聖夜たん』てのは聖夜たんの隠しルートの通称ね。
でね、それが結構反響が強くて賛否両論なワケ!
『あざとい』とか『不自然』みたいな意見もあったケド、
『デレデレ聖夜たんサイコー』とか『おしとやか聖夜たんキターーー』みたいな意見も多かったんだよね~。
すっごい気になるじゃん? もしかしたらなにか参考になるのカモしんないし? だからあんたと一緒に全ルートはクリアしたけど、
完全コンプは二人の時間をなるべく減らさないように一人の時間も作ってさ、ようやく『聖夜たん隠しルート』を出したワケ!
そしたらさ! ちょー聖夜たんがおしとやかで可愛くて! で、極めつけに『ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします』じゃん?!
もうこれはいつか使おうと思って、“京介には”内緒にしてたんだ~、にひひっ。
…………てっ! ちょっとあんたちゃんと聞いてんの?!」





「エ…エ…エロゲーの台詞かあああぁぁぁあああ!!!!」





~終~



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最終更新:2013年08月07日 22:22