今日も一日中妹に引っ張りまわされた俺は、早々に眠りに着いた。
深夜、寒さが和らいだような感覚に、ほんの僅かだけ意識が戻りかける。
そのまどろみのなかで、桐乃の声を聞いた気がする。
「……ひひっ、かわいー寝顔しちゃって」
「ちょ、ただでさえ狭いんだから寝返りうつな、寄ってくんなっ」
「う~……こっち向いたまま爆睡とか……顔近いんだっつーの……」
……すごい幸せな夢を見た。俺はその余韻に浸りながら、名残惜しく目を開ける。
夢の中そのままに、桐乃がすやすやと寝息を立てていた。
「!……き、桐乃!?…………め、めちゃめちゃびっくりした……」
実は以前にもこんなことがあったのだが、これに慣れる事なんてできねえって!
淡いピンクのパジャマで眠る桐乃は、まるでこちらと目線を合わせたくないかのように腕を顔の前に交差させている。
身体を起こし、慎重に顔を覗き込んだ。今回も狸寝入りのようには思えない。
っていうか、やっぱ可愛いなこいつ……つい見入って息が当たってしまったのか、桐乃がもぞ、と動いて心臓が跳ねる。
1.ぎゅっと優しく抱きしめてあげた
さて、どうしたもんかね。
1.ぎゅっと優しく抱きしめてあげた
1.ぎゅっと優しく抱きしめてあげた
1.ぎゅっと優しく抱きしめてあげた
…………。
さっきから俺の頭にはエロゲーの選択肢がひとつ、しつこく表示されまくっているのだが
できるわけネェ~~~ッですよ? 俺まだ死にたくないからね!?
かといってまたつんつんすると絶対、こいつキレるだろうなぁ……う~……。
目の前の妹からは相変わらずいい匂いがする。動機が全然おさまらないし、なんだかくらくらする。
というか、さっきからチラチラ見てはいたんだが……腕を顔の近くまで上げてるせいで晒された胸から腰までのラインが、やたら無防備に見える。
ウエスト細っせぇ~。なのに出るとこ出てるせいで、曲線がやたらエロい。
……。思わず一通り眺めて、もう一度胸に目が留まる。……。
4.ちょんと優しく触ってみた
「ぎゃーっ!」
「うわあ!」
がばぁっと飛び起きた桐乃につられて、俺もバンザイしながら跳ね起きる。
「あんた、また、またっ、あたしの胸っ」
「おまえっ、またしても起きてたのかよ!」
「それよりっ、あたしの胸さわったでしょ!」
だって、めちゃめちゃやわらかそうだったんだもん!
「ちょっと服をつついただけだ」
「完全に胸の位置じゃん! しかも胸の上側じゃなくて! 下側を!!」
「仕方ねぇーだろ? そっち側しか空いてなかったんだから」
開き直った俺に、桐乃は鎖骨まで真っ赤にした顔で詰め寄る。
「アンタ、アンタね、上でも当然殺すけど、下側は特に敏感なんだから!」
「え、そうなの?でも俺つんつんすら初心者だし、もっと知ればちゃんと分かってやれるはずだ」
「何する気なわけこのヘンタイ!! よりにもよってパジャマのときに、む、胸触るなんてっ……」
桐乃はまるであやせのように、恥じらいのポーズで胸を隠す。なんだか余計にエロい。
そこで俺は一つ思い当たることがあったので、期待を込めて率直に問うてみる。
「え、うそ、ひょっとして今つけてな」
バシィッ!!
桐乃の平手がクリーンヒットした。
「つけてないわけないでしょ!? でもナイトブラなの! 守りが薄い時にそこを狙ってくるなんてッ!!」
「でもまたしても様子見の段階で目を覚ましやがったせいで、あんまり感触が分からなかったし」
「前回とちょっと台詞違う!? こ、このドエロ! なんであんたはそう欲望が先に立ってるわけ!?」
「そんなことないって。今のも愛のあるつんつんだった」
俺はできるかぎり真面目な顔をして答える。
「あんたねぇ~……」
「優しく愛のあるつんつんだった。伝わっただろ?」
「へ?」
「だからさ。敏感なトコだってならさ、俺の優しさや愛が伝わって気持ちよk」
バシバシイッ!!!!
「きっも!! なんでそーゆうことイチイチ聞くワケ? ありえなくない?」
「なるほど。お兄ちゃんちゃんと分かってるよ」
「ちょっ? あ、あんた今どーゆう解釈した!? ブッ殺すよ!?絶対違うから言えっ!」
「おまえが以前『いちいち言うなバカ』っつったんじゃねーか」
「―ったくもぉ~~っ、何であんたはそうヘンタイなの?ありえなくない?せっかくこの世界一可愛い妹がまた添い寝してあげたのに」
「そーいやなんでまた俺のベッドで寝てたんだ?」
まさか再びやってくれるとは思ってなかった。
「む…………ほら、あんた――昨日ゆってたらしいじゃん。超~~~~情けなく、
『ぐううう!俺、俺もっと「お布団デート」したかったよくっそぉ~~~~~!』
『あいつの前では超頑張って満足だみたいな顔してたけど』
『うっ……うっ……もっと布団でまどろみながら桐乃とイチャイチャしたかった……』って超泣いてたらしいじゃん」
「マジでやめて。っていうか!それ御鏡にしか愚痴ってないはずだが!?」
「昨日のうちに話してくれたよ」
「御鏡あいつわあぁぁぁぁぁ!」
女友達に言うとドン引きされるし暴露されかねんと思ったからなのに逆効果もいいとこだ!
「遠回しにまたして欲しいって催促かと思って、すっごい焦ったんだかんね?」
「……す、すまん」
なにこの超健気な妹。俺はもちろん調子に乗った。
「その……前回と違う選択肢を選べなくて、悪かった。今からやり直させてくれ」
「バッカじゃないの!?一日に何度も同じイベント起きるわけないっしょ?」
「つまり一日一回ならいいんだな」
「何言っちゃってるわけ!?期待とかマジウザイから!しない!しないかんね!」
「でもよ、俺思うんだ。おまえはさ、俺の方がウェルカムだって分かった途端、来てくれただろ。チャンス伺ってたみたいに」
「ハァ!?一体何言い出して――」
「今回も残りの三分の一は満たされたんだよな。俺もだ」
「!?!?こっ……!このバカ!もう絶対、マジでやってやんないんだから!!」
まったく、これからも俺は何度もこの言葉を噛みしめることになるんだろうな。
俺の妹が こんなに可愛いわけがない。
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最終更新:2013年09月14日 02:17