SS『それぞれの想い』
オフ会後の人生相談と明日への誓い
「アキバでのアレ!ど、どういうつもり!?」
桐乃と一緒に行ったアキバのオフ会が終わって家に帰り着き、自分の部屋に入ろうと扉に手をかけたところで、
「なに勝手に自分の部屋に戻ろうとしてんの、あんたは!帰ったら人生相談だからねっ!ってさっき言ったでしょ!いーから、さっさと来い!」
というワケで、帰って早々、桐乃の部屋に呼び付けられた俺である。
「アレって?」
「とぼけんなっ!何でも聞く約束を思いついた、って呼び付けて、いきなり、キ、キスしたじゃん、、、。」
恥ずかしいのか、最後の「キス」だけが小声になる。
「あ~、アレかぁ。」
ベッドに腰掛けている桐乃の前に座った俺は、昼の出来事を思い出しながら答える。
「あ~、アレかぁ、じゃないっ!もうこ、恋人じゃなくなったんだし、指輪も返したんだから、ちゃんとケジメつけなきゃ、、、ダメじゃん、、、。」
言葉のトーンが段々と弱くなっていき、最後には俯いてしまう。
やれやれ、そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだけどな。頬を掻きながら俺は答える。
「あれはさ、俺なりの決意表明、というか、誓いってとこかな。お前と同じだよ、桐乃。」
「はぁ?な、なに言って、、、。」
ばっ、と顔を上げて問いかけてくる桐乃。
「お前さ、アキバで俺に言っただろ、メルルの指輪を買ってくれって。お前だったらすぐに買えるようなものなのにさ。あれって、お前なりの誓いだったんだろ?」
「な・・・・。」
目を一瞬大きく開いて、見つめてくる。
「前に言ってたもんな、好きな人にもらったモノならなんだって嬉しいし、心の支えになるって。だからこれはそういうことなんだろうなって。」
例え捨てられてしまっても、好きでいることだけは絶対やめない。かつてこいつが俺に言ったことだ。その想いを、信念を、こいつが簡単に変えたりするわけがない。
「例えおもちゃでも指輪は指輪だもんな。その指輪は、お前にとって、本物以上の価値がある指輪なんだろ?」
「だから俺もお前にならって、誓いを立てたんだよ。好きでいることだけは絶対やめない、ってな。」
「っ・・・・!」
卒業までの短い期間ではあったが、伊達に彼氏をやっていたわけじゃない。こいつのこと、分からないことはまだまだ沢山あるけど、本音の部分は、もう十分過ぎるほど分かっているつもりだ。
「桐乃、聞いてくれ。確かに俺たちはもう恋人同士じゃなくなった。結ばれてもいけないし、ちゃんと兄妹に戻らないといけない。」
「うん・・・・。」
「だけど、想うことは自由のはずだ。誰かにとやかく言われるものじゃない。俺はこれからも、お前を好きでいることを絶対にやめない。例えどんなことがあってもだ。それが俺が立てた誓いだ。それだけは忘れないでいてくれ。」
我ながらこっ恥ずかしい台詞を口にしているもんだ。後で思い出しただけでも死にそうになることだろう。でも、この気持ちだけはちゃんと伝えておきたかった。
ふと見ると、桐乃の目に涙が浮かんでいる。今の俺は昔と違って、桐乃の、この表情の意味を、もう間違うことはない。
「悪くないんじゃないか?両想いの兄妹ってのも。それが一番、俺たちらしい、俺たちにしか出来ない兄妹関係なんだろうぜ、きっと。」
そういって、昔のようにニカッと笑って見せる。と同時に、桐乃が飛び付くように抱き付いてくる。
「おわっ!」
その拍子にもつれて背中から倒れ込む。
「ありがと、、、本当にありがとね、兄貴。」
抱き付いたままで桐乃が、そうつぶやく。へっ、こっ恥ずかしい台詞を言った甲斐があったってもんだ。
そう思いながら、俺は桐乃の頭を優しくゆっくりとなでてやった。そういえば昔はよくこうやってなでてやっていたっけ、、、。
どれくらいそうしていただろうか?落ち着きを取り戻した桐乃がゆっくりと起き上がる。
一緒に起き上がったところで、桐乃を優しく見つめながら俺はこう言った。
「改めて、これからもよろしくな、桐乃。」
その言葉に、照れくさそうな表情で、桐乃がこう返してくる。
「こちらこそ、これからもよろしくね、京介。」
そう言って笑った妹を見て、いつものように、こう思うのだった。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない、と。
Fin
誓いと覚悟
桐乃の部屋から出た後、飲み物を取りに一階に降りた俺がリビングに入ると、親父がソファーに座っていた。こんな時間なのにどうしたってんだ?
「京介、話がある。そこに座れ。」
急に声をかけられ、驚いて親父を見る。どうやら酔ったりしているわけではないようだ。なんかしたっけ、俺?
ビクビクしながらも、言われたとおりにソファーに座る俺。開口一番、親父はこう言った。
「京介、お前はこれからもずっと桐乃の兄として、桐乃を守り続けられるか?」
一瞬、何を言われているか分からず、戸惑いながら聞き返す。
「ど、どういう意味だ?」
「言葉どおりの意味だ。これからもずっと、桐乃の兄という立場で、桐乃を守り続けられるか、と聞いている。」
「そ、、、そ、それってつまり、、、。」
「バレていないとでも思っていたのか?お前もつくづく間が抜けているな。」
全身から冷や汗が滝のように流れ落ちる。親父のこの言い方だと、バレてないと思っていたのは自分たちだけで、実はもっと前から知っていた、ということ、、、なのか、、、?
「桐乃から、卒業後にまた海外に行きたい、という相談を受けたときに、何故そこまで海外にこだわるのか、何故この家を離れようとするのか、聞いてみたのだ。」
「あれは、もっともらしい答えを返してはいたが、どうにもその理由が気になってな。母さんにも聞いてみたのだ。」
「お袋に?」
「ああ。母さんは言っていたぞ、たぶんあの子は京介のことが好きだから、京介から離れようとしているんだと思う、とな。何を馬鹿なことを、とは思ったが、考えてみれば、"お前の趣味"の件や、あの馬の骨を連れて来たときの一件、そしてお前が一人暮らしをすることになった理由を考えると、理屈には合う。理解は出来んがな。」
「親父、、、。」
「それがダメなことだと、躾るのは簡単だ。だが、コトが感情の話だからな。そう簡単にはいかんだろう。それに、それがダメなことだと分かっているからこそ、桐乃はお前と距離を置こうとしているのだろうからな。自分で何とかしようとしているのであれば、それを今、俺がとやかく言う必要はあるまい。」
「だがな、そのやり方が問題だ。一人で抱え込んで、また前と同じようになってしまう可能性も大いにある。だが、それを周りがどう言っても、あれは自分の信念を曲げはすまい。俺に似て頑固者だからな。むしろ、より頑なになるだけだろう。どうしたものかと考えあぐねていたのだが、それを何とかできるのは、俺の言葉ではなく、やはり、お前自身からの言葉のようだからな。」
親父が腕を組んで続ける。
「京介、俺は桐乃のことをお前に全て任せたと言ったはずだ。今のやり方が良いとは到底言えないが、誰よりも桐乃のことを大切にしているお前が考え抜いた上でのやり方なのだろう?だから俺はお前を信じる。間違いは犯さないとな。」
と、とりあえず、キスの件はバレていないみたいだな。まぁ、もしバレていたら、こんな話し合いの余地なく問答無用で俺が家から追い出されていただろうが。
俺は動揺しまくっている胸の内を必死に隠しながら親父の言葉の続きを待った。
「それに、お前が桐乃の兄という立場をしっかりと守り続けていれば、桐乃の気持ちも時間が解決してくれるだろうからな。」
なるほど、そういうことか。親父が言っていることが分からないわけじゃない。
想いは変わらなくても、立場や考え方は変わっていくものだし、それがどうなるかは、これからの俺次第、といったところか。
その点では、やっぱり親父の気持ちを裏切っているんだな、俺は。なんせ、俺の本心も桐乃と同じ想いなんだから。
「ともあれ、万が一にでも桐乃が道を誤りそうになったら、お前が責任を持って守ってやれ。この意味は分かるな?」
親父が念を押すようにように問いかける。
「ああ。」
俺は素直に頷く。その点に関しては俺も親父と同意見だ。
もしそういったことになったら、今のままでは桐乃と一緒に居られなくなるだろうし、そうなれば俺はエロゲーの主人公を見習うしかなくなってしまう。
それはゲームではカッコ良く爽快なことかもしれないが、現実はそんなに甘いものじゃない。そんなことは十分、分かっている。
元より俺の願いは桐乃の幸せだ。そのために、例えどんなにカッコ悪くても、誰にどう思われようとも、手抜きなしで全力を尽くすと、俺自身がそう決めたことなんだからな。
そう---。
麻奈実の家での話し合い、そして、桐乃の再度の海外行きを知って、俺が俺自身に誓ったことだ。
---また自分一人で何とかしようと考えていやがる。
違うだろ。
その想いは、二人で一緒に向き合わなきゃいけないもののはずだ。
離れ離れになったときに、お互いがどれだけ辛いかは、この前の留学で分かったことじゃねぇか。
これまでも辛い思いを抱えながら頑張り続けてきたお前だけに背負わせたりしねぇよ。
今度こそ、俺が何とかしてやる。絶対にな---。
「うむ、であれば良い。俺が言いたいのはそれだけだ。京介、頼んだぞ。」
親父の言葉をしっかりと胸に刻み込んだ上で、俺は昔の俺のように、こう答えた。
「ああ、親父、俺に任せろ。」
Fin
復讐の堕天聖
あの人から告白の返事を受けた翌日、闇猫と化した私は、密かな復讐の計画を立てていた。
あの時、私は「運命の記述」を破り捨てた。だけどそれは、「運命の記述」の全てではない。彼の目にどう写ったのかは知らないけれど。
あの時の「運命の記述」は、あくまで、「現世」で結ばれた時のもの。「来世編」は、私の予定通りに進んでいる。
確かに、あの女が彼の「妹」として転生してきたことは、私にとって予想外のことであり、それによって「現世」の「運命の記述」に大きな狂いが生じたことは否めない。
だからこそ、私は「来世編」を綴り始めたのだ。これまで不敗だった私にとって、初めての敗北が、これほど悲しいものだと知ることができたことは、一つの大きな糧だったとも言える。
彼には「未来永劫結ばれることはない」と告げておいた。そう言っておかないと、彼は「現世」でのくびきを「来世」に引きずってしまうだろう。それは私にとって望ましいことではない。そのために私は、どこかの物語にあったように、あの女が想ってきた時間に免じて、「現世」の彼を譲ってやることにしたのだから。
まあ、「現世」のあの女を、これから時間をかけてずっとからかい続けるのもまた一興。それを「現世」の楽しみとして、この物語の結末を最後まで見届けてやることとしよう。
Fin
とある姉妹の回想録
「了解でござる。それでは拙者も念入りに準備しておくとしましょうぞ。では。」
そう言って、電話を切る。ふぅ、全く、素直じゃありませんこと。でも、お気持ちは痛いほど分かります。復讐の相談を受けた私は、そうつぶやく。
悲しみの淵に囚われていながらも、それでもなお、親友の背中を押すために尽力しようとしている。誰かさんのおせっかいは、本当に皆さんに伝染しているのですね、、、。そして、きっとそれが、彼女なりの感謝の証なのでしょう。
あのお二人には、私も本当に感謝しています。お二人に出会って、兄妹という関係、そして、兄の妹に対する愛情を知ることが出来て、私も姉さんの気持ち、というものを考えてみることができるようになりました。
そのおかげで、私も姉さんとちゃんと向き合って話をして、仲直りすることが出来たのですから。
そして考えるのです、もし、姉さんが男性だったら、と。
姉さんはあのとおりの性格ですから、もしかすると、私は彼女と同じ胸中になっていたかもしれません。
そう考えると、私も彼女のことを素直に応援したい気持ちにもなってしまいます。
とは言え、お二人が今後、どのような関係になっていくのか、心配な面もあります。
幸い、京介氏からは、クリスマスの計画について相談も受けていますから、それとあわせて、こちらも計画を練るとしましょう。
折角だから、姉さんにも協力してもらって。
きりりん氏を見習って、私はリビングでテレビを見ていた姉さんに、こう話しかけます。
「姉さん、人生相談があるんですけど。」
それを聞いた姉さんは、振り返って、笑みを浮かべて答えてくれました。
「応とも、沙織。お姉ちゃんに任せろ!」
Fin
二つの想い
「あたし、京介と付き合うことにしたから。」
クリスマスの日から幾日か経って、親友からそう告げられた。私の胸がチクリと痛む。
「ありがとね、あやせ。」
"ごめんね"、ではなく、"ありがとね"。
そう言ってくれた親友の顔を見て、私は胸の痛みが和らぐのを感じた。
痛みが消えたわけではないけれど、私は親友に笑顔を向ける。
「よかったね、桐乃。」
私は桐乃のお兄さんに恋をした。あの人は、いつだって桐乃のために、そして、私やみんなのために、一生懸命になってくれた。
桐乃の趣味を知った日、私は一人でどうしたら良いのか分からなくなってしまっていた。大好きな親友を失いたくない、でも、認められない。
そんな私の気持ちを、桐乃の気持ちを、一人で背負って、あの人は私たちを仲直りさせてくれた。
そして、それからもずっと、その優しい嘘に甘えていた私の心も救ってくれた。
いつも一生懸命で、誰にでも優しくて、ちょっぴりエッチなお兄さん。いつの間にか私の心に住みついてしまった人。
そして、そんなお兄さんのことをいつも楽しそうに話す桐乃。いつだって私のことを守ってくれた大切な親友。
そんな二人を見ているうちに、いつしか私は、桐乃の趣味の奥に隠された、大切な想いに気付いていた。
前に桐乃が話してくれた、憧れてた人。いなくなっちゃった人。その人が誰なのか。
趣味の全部は認めてあげらなくても、その想いだけは全部分かってあげたい。応援してあげたい。
その想いと自分の想いが重なり合って、私の道を照らしていく。その二つの想いを胸に、私はお兄さんに告白したのだ。
お兄さんの答えは、私が思っていたとおりのものだった。悲しみと同時に、ほっとする気持ちが私の中に広がっていく。
その目には、決意と感謝、その両方が浮かんでいるように見えた。二つの想い、ちゃんと上手く伝えられたかな?
そして、その答えが今、目の前にいる桐乃の穏やかな微笑みから伝わってくる。
それを見た私は、思わず桐乃に抱きついて、こう伝える。
「本当に、本当によかったね、桐乃!」
Fin
これからのわたし
「ったく、師匠は甘めーよなー。」
カボチャの煮つけを作りながら、彼女がそう言う。
彼女の名前は来栖加奈子。毎週末、わたしのところに料理を習いに来ている女の子だ。
「幼馴染なんだから、もっと積極的に行っとけば良かったのによー。」
確かにそのとおりだったかもしれない。今はそう思う。だけど、前のわたしは、そうできなかった。
今の関係が壊れてしまうことを怖がって、今の関係を守ることに必死で、臆病になっていたんだと思う。
ずっとそばに居たけど、その距離が近すぎたのかもしれない。その結果、わたしの想いは届かなかった。
ううん、届けきれなかった、と言ったほうが正しいのかもしれない。
「ってか、あの二人、普通の兄妹に戻ったんだろー?だったら、またアタックすればいいんじゃねーの?」
相変わらず前向きな子だ。わたしも見習って変わらなきゃ、と、いつも思う。
「そういう加奈子ちゃんは、どうなの?」
と、問い返す。
「うーん、今はもっと大きな目標が出来たからなー。」
聞いたところによると、加奈子ちゃんが告白したことで大騒動が起こって、京ちゃんも大変な目にあったみたい。
だけど、それを彼女が啖呵を切って止めたことで、却って人気が出たらしい。
今は一躍、ろりあねご?とか言われて、ちょっとした有名人になっている。
「まずはその目標が一番かなー。そんでもってー、すっげーアイドルになってー、後で京介をぎゃふんと言わせてやんよ。それが加奈子のやり方?っつーか、リベンジ?ってカンジ?みてーな。」
「はー。そっかー。」
その考え方に、改めて感心する。本当に強い子だ。どっちが師匠なんだろう、って素直に思ってしまう。
わたしも彼女を見習って、もっと強くなろう。もっともっと頑張ろう。
そしていつか、加奈子ちゃんと一緒に、京ちゃんをぎゃふんと言わせてやろう。
「加奈子ちゃん。お互い、頑張ろうね。」
そう言うと、彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐにニカッと笑って胸を張って力強く答えてくれた。
「もち!トーゼンじゃん!」
Fin
誕生日の贈り物
「ほら、桐乃。誕生日プレゼント。」
あたしが16歳になった日、そう言って、京介が小さな紙袋を渡してきた。
「へ?ど、どーいう風の吹き回し?」
「べ、別にいいだろ、兄貴が妹に誕生日プレゼントをあげたって。別に普通のことだろ?」
「ま、まー、そこまで言うんなら貰っておいてあげてもいーケド。」
思わず頬が緩みそうになるのを必死に堪えながら、袋から小箱を取り出す。
「遅くなってごめんな。」
「?」
誕生日、今日なんだけど?どーゆー意味?怪訝な顔をしながら小箱を空けてみる。
そこに入っていたのは---。
「ゆ、指輪じゃん!」
以前貰った婚約指輪にデザインが似てるけど、あれよりももっと高そうな指輪だった。
「た、高かったんじゃないの?これって。こんなの、貰っていーの?」
「気にすんなって。そんなに高くはねーよ、俺はまだ学生だからな。給料、じゃなくて、バイト代の3ヶ月分ってとこだ。」
それを聞いて、あたしは、ぼっ!と、顔が真っ赤になるのを感じた。
「あ、あんた、それって!」
「あ、あくまで、普通の誕生日プレゼントだよ!普通の!それだったら、身に着けていてもおかしくねーだろ?」
ぷいっと横を向いて、そう言う。
16歳の誕生日に、3ヶ月分だって言ってあたしにくれた指輪。そして「遅くなってごめんな。」の意味。
まったくもう、カッコつけちゃって、、、。
あたしはそんな兄貴にそっと近づいてー。
ちゅっ。
「なっ!」
頬を押さえながら、驚いてこっちを見る兄貴。
「へへっ、プレゼントのお礼。」
素直に笑って、こう言う。
「ありがとね、京介。一生大切にするから。」
「・・・でもさ、京介。」
「ん?なんだ?」
「給料の3ヶ月分って、ふつう、結婚指輪じゃなくって、婚約指輪のほうのことなんだケド。」
「へ?・・・。そ、そうなのか?」
「ったく・・・。へへっ、ばーか。」
Fin
幸せの続き
あたしには、人には話せない「秘密」がある。
とても大切で、愛しくて、だけどときに苦しくて、忌々しい。
かつて、そう思いながら、誰にも言えずにずっと一人で抱え込んでいたものだ。
そして、今でも時々、取り出して触れてみるたび、切ない思い出と共にたくさんの幸せを感じることができる、これからもずっと一緒に大切にし続けると誓った・・・そんな秘密。
あたしの名前は高坂桐乃。
学校を卒業後、ずっと続けていた読者モデルの関係で、今は事務所に入って正式なモデルとして日々活躍している。
美咲さんからエタナーのモデルの仕事もやらせてもらっているおかげで、最近いろんな所で仕事をすることが増えてきた。
あと、変わったところでは、前に書いた妹空の続編のアニメ化で、ちょっとだけ声優をやらせてもらったんだ。
しおりちゃんの友だちのあやなちゃんって娘の役。作中では、あやち、って呼ばれてる娘なんだけど、知ってる人もいるかな?
この娘がちょ~可愛いんだよね~、あたしとそっくりっていうか、一心同体って言うか。まぁ、自分で書いた娘なんだけど。
最近では、あたしの中の人があやち、なんて言われたりしているし。ふひひ~、あやち、可愛いよ、あやち。
っと、話がそれてしまった。
あれから、ホントにいろんなことがあった。
それでもあたしたちは、あれからずっと変わらない兄妹関係を続けている。
ほ、ホントだってば。変なことなんてしてないんだからね!ホントに。
た、たまーに落ち込んだりした時とかに、ぎゅっとしてもらうこととかは、あったかもしんないけどっ!そ、そんだけなんだかんね!
こほん。
そりゃあ、あの時の続きをもう一度、と思う気持ちが無いわけじゃない。
でも、短い間だったけど、あの思い出と誓いがあるからこそ、あたしたちはずっと一緒に兄妹であり続けていられるのだと思う。
不安になったり、悲しくなったり、寂しくなったりすることもあった。
でも、そんな時はいつもあいつがそばに居てくれた。支えてくれた。護ってくれた。
だから、あたしはあたしを見失わずに、まっすぐ前を向いて進んでこられたのだ。
もしも、あの時、ずっと秘密にしていた想いを伝えられずに、一人で抱え込んだままになっていたとしたら、あたしはどうなっていたか分からないし、今の幸せはあり得なかったと思う。
その意味で、みんなにはホントに感謝してる。それは、どんなに感謝しても足りないくらいの、返しきれないあたしの大切な宝物。
言葉にするのは照れくさいし、大事なことを上手く伝えられない不器用なあたしだから、行動で返そうといつも思ってるんだけど、少しは返せているんだろうか?
そうそう、実はさっき、沙織からメールが入ったんだよね、お茶会のお誘い。
前回が半年くらい前だったから、ちょっとだけ久しぶりって感じ。まぁ、直接会うのは、ってだけで、連絡とかはいつもSNSとかで取り合ってるんだけど。
そういえば、ツイッターは最近やってないなー。まだアカウント残ってるのかな?今度みてみようかなー。
あれ、どこまで話したっけ?えーっと、あ、連絡の話だっけ。
あやせとは仕事柄、たまに現場で会ったりすることもあるんだけど、加奈子は今や超売れっ子アイドルだし、沙織は事業の関係で海外が多くて、なかなか時間取れないみたいだし、黒いのは最近連載が増えて締め切りが大変みたいだし。
そういえば、黒いのがこの前出した小説が、どう考えてもあたしたちをネタにしたよね?って内容で、しかも、それがすっごい売れてるみたいなんだよね。
確か、タイトルが「アタシの兄貴がこんなにカッコいいわけがない」だったっけ?読んでてむず痒くでしょうがないんですケド。
どうせなら「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」とかにしときなさいってーの、まったく。
つか、どーしてくれんのよ、マジで。洒落になんないんですケド。今度会ったら絶対コロース。
あ、そーだ。いいこと考えた。さっきのタイトルで、あいつに小説書かせてみよっかな。
あたしだけ恥ずかしいのも癪だし、あいつの想いもわかるし、一石二鳥じゃーん。
へっへー、はい、けってーい。
と、まぁ、それは置いといて。
あたしのほうも最近は忙しくて、なかなかスケジュールを合わせるのも大変みたいなんだけど、、、。
ま、あいつならいつものように何とかしてくれるよね、きっと。
みんなに会うためだもんね。
かちゃり。扉が開いて、マネージャーが顔を出す。
「準備はできたか?」
「ん。おっけー。」
呼びに来たマネージャーと一緒に廊下に出て、いつものように二人で歩き出す。
「そういえば、メールが来てたな。」
「うん。スケジュール、何とかなりそう?」
マネージャーから、いつもと同じ、そして、昔と変わらない答えが返ってくる。
「おうよ。桐乃。俺に任せろ。」
Fin
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最終更新:2013年09月14日 03:18