京介「ったく。 赤城の奴、今日は泊まれるだとか言っておいてドタキャンしやがって……」
京介「おかげ様で俺は飯抜きに加えてこんな時間にこっそり家に入らねえといけない。 鍵持ってて良かったよ、ほんと」
京介「……ただいまーっと」
一応、挨拶はしておかないとな。 礼儀として。 良く親父に躾けられたもんだぜ。
京介「……真っ暗。 ってことは皆寝てるか」
難関は階段。 軋んで音が出るからな。
俺は恐る恐る、一段一段、慎重に……だけども、なるべく早く上る。
上り終えさえすれば、部屋はすぐ目の前だ。 後は朝早くに起きて、今帰ってきましたよって顔をすれば完璧ってわけよ。
へへ、我ながらナイスアイデア。
ガチャリ。
……やべ! 親父か? それともお袋か?
桐乃「……ふわぁあ」
京介「き、桐乃?」
桐乃「……ひっ!」
大声を出しそうになった桐乃の口をすばやく押さえる。 さっきまで寝てたような顔をしているし、トイレにでも行くところだったのだろうか。
京介「……声出すな! 分かったら頷け。 手、離すから」
桐乃は目に少し涙を溜めつつも、一度頷く。
京介「……よし。 離すぞ」
桐乃「……なんで居るの、あんた」
桐乃もなんとなく状況を把握したのか、限りなく小さい声で俺にそう尋ねる。
京介「……いや、実はだな」
こうなってしまった経緯を説明。 途中、桐乃はそれを黙って聞いていた。
桐乃「なるほどね。 で、話は終わり? あんたに構ってる暇無いんだケド」
別に俺も構って欲しくは無いっての。
……いや、ちょっと待て。 さっきまで暗闇に目が慣れてなくて見えなかったが、こいつの着ている服って。
京介「……それ、俺の寝巻きじゃね?」
俺が言うと、桐乃はびくっと体を反応させる。
あれ……。 マジで図星だった……とか?
桐乃「そ、そんなワケ無いでしょ。 意味わかんないこと言わないで」
京介「でもお前そんなの持って無いだろ」
桐乃「こ、これは……! これは、買ったの。 今日」
京介「その割にはくたびれてる感じがするが……」
桐乃「……それは! め、めちゃくちゃ動いたから。 チョー動いた」
京介「……寝巻きで?」
桐乃「……寝巻きで」
顔が明らかに引き攣ってる。 怪しさで表すと覆面を被った奴が銀行に入ってきたくらいの度合いで怪しい。
京介「やっぱりそれ、俺のだろ」
桐乃「……だ、だから違うっての! 大体、なんであたしがあんたの寝巻きを着ないといけないの? 頭おかしいんじゃない?」
知るかよ。 その理由が知りたいのは俺だってのに。
京介「……他に服が無かったとか?」
桐乃はその言葉を聞くと、ぱっと表情を変える。 まるで思いついたかの様な顔。
桐乃「そ、そう! 他に着る服が無かったの! だから嫌々……本当にキモいんだけど、気付いたときはお父さんもお母さんも寝てたし、それでたまたま……本当にたまたま、あんたのがあったから借りてたってだけだから」
さっきと言ってること違げえし! お前、頑なに着てないって言ってたじゃん!
京介「……分かった分かった。 とりあえずそれ、明日戻しとけよ。 俺もう寝るから」
桐乃「……そのまま返せって言ってんの!? あ、あんたどうせ……シスコンだから、あたしの匂いが付いたの嗅ぐつもりでしょ」
京介「んなことしねえよ……。 どんな発想だっての」
桐乃「あーキモいキモい。 シスコン」
京介「もうそれでいいや。 じゃあ洗ってからでも良いから、お袋に洗ってもらっといてくれ。 じゃあな」
俺は桐乃にそう告げ、部屋に入る。 借りてるなら借りてると最初からそう言えば良い物を。
俺だって、そんなことで一々怒ったりしないっつうのに。
終わり
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最終更新:2013年09月14日 03:25