さて、あのクリスマスイブの一夜からそれなりの時が過ぎた。
兄と付き合い始めたあたしが、どんな日々を送っているのかを語ろうと思う。思うんだけど、
間違っても恋人同士の甘いいちゃいちゃを期待しないでよね。
ぶっちゃけ、そういうのないから。
でもね、クリスマスイブにあんな告白してきた京介に対してなんにもしてあげないってのは、なんか可哀相だからさ、
オフ会の日にゲーセンで会った櫻井さんが言ってた『お布団デート』をしようと思って、
こないだ寝ている京介のベッドに潜り込んで添い寝してあげたの。
そしたらあいつ、寝ているあたしの胸つんつんしたんだよ!?
マジありえなくない!?そこは『ぎゅっと優しく抱きしめてあげた。』一択っしょ!
ぜんっぜん妹心が分かってない!
…………べ、別にあたしが抱きしめて欲しかったわけじゃないケド、
あれだけやらせたエロゲーは一体なんだったの!?って話。
とゆーことで、あたしはしばらく『お布団デート』をしてあげないことに決めたのだった。少しは反省しろっての!

そんなワケであたしと京介の新婚生活……もとい新生活、色気もいちゃラブもない、ごく平凡な日常を語るね。
それは例の『お布団デート』から数日たったある朝のこと―――。


あたしの名前は高坂桐乃。自分で言うのもなんだけど、
「妹」という肩書きを持つ超絶美少女中学生。
朝。あたしはまどろみの中からゆっくりと目覚めていくところだった。
「……ん……ん……」
ぼやけた頭で、いつもと違う、と感じた。
春にはまだ早い季節―――あたしの部屋にエアコンはあるけど、寝る前には消してしまうので、
毎朝あたしは決まって『う~~~さむっ』と目を覚ます。
の、だけど……。今朝は『ん……?なんかあったかい……』という感覚と、何かに触れられたような感触で目を覚ました。
少しずつ頭のもやが晴れていき、そしてあたしはまぶたを開く―――
―――と。
「――え?」

目の前で、京介がすやすや寝息を立てていた。

「すぅ……すぅ……」
「……な……!?きょ、京介!?」
突然の出来事に身体が動かない……。てゆーか……顔……近い…………。
かろうじて腕は動くようなので自分の頬をつねってみるも―――夢じゃない。
現実だ。
あたしの隣で、京介が寝てる!しかもあたしが腕枕されてる!?
ずっと前―――そう、あたしがまだ小学生だった頃、よく京介がしてくれた、
あたしが大好きだったお兄ちゃんの腕枕…………なんて事をふと思い出す……。
あの時あたしは決まってお兄ちゃんに―――


1.『ぎゅっと優しく抱きついた。』


「却下っ!」
ムリムリムリムリ!中学生の妹が、高校生の兄の寝込みに抱きつくとか、狂気の沙汰でしょ……!
エロゲーのヒロインの娘たちは、当たり前のようにお兄ちゃんに抱きついていたケド、
実際自分がするとなると、とても勇気のいる行動だった……。
いまにして思えば小学生とはいえ、あの頃の無邪気なあたしSUGEEEEEEEE!と称賛の拍手を送りたい。
…………それは置いといて。
今あたしが置かれている状況を理解すべく、名残惜しさを振り払い、ようやく身体を起こす。
そこには京介がいた。仰向けになり腕があたしの方へ伸びている。
やはり腕枕をされていたようだ。
とりあえずここであたしが選べる他の選択肢は…………


2.『起こしてしまわぬよう、そっとベッドを抜け出した。』


「ふむ……」
無難な選択ではあるけど、そもそもあたしのベッドなのに、なんであたしが気を使わなきゃなんないワケ?!

3.『問答無用で布団から蹴り出した。』


……まあ、現実的にはこれだよね……。
分かってるっての!これしかないって。……でも……なんかモヤモヤすんだよね……こいつの顔見てると。
意外とかわいい寝顔かもだし……なんか……いい匂いもするし……。
……やば……ドキドキしてきた……。
「……………………」


1.『ぎゅっと優しく抱きついた。』
1.『ぎゅっと優しく抱きついた。』
1.『ぎゅっと優しく抱きついた。』


「あ、あああああたしってば何考えてんの……?!」
違う!違うし!……う~~~、世界の外側からあたしを操ろうとしてるヤツがいる……ッ!
もちろんそんなワケないんだけど、感覚としては似たようなもんかな。
まるで『エロゲ主人公が選んだ選択肢によって行動を変えるエロゲヒロイン』のごとく、
自分の意志とは裏腹に、身体が勝手に動いてしまう。
あたしは再び京介に目を落とし―――
…………てゆーかさっきから気になってたんだケド……、京介の……………………なんか膨らんでない?
……そういえば聞いた事がある……。健康な十代の男子が毎朝寝起きに……元気になってしまうっていう……アレ……。
こ、これが噂の―――


4.『ちょんと優しく触ってみた。』


「ぎゃーっ!」
がばぁっ!
「お、おおおおおまえ、どどどどどこ触ってんだよっ!」
「きゃああああああ!ちょ、あんた……お、起きてんじゃん!」
驚きすぎて死ぬかと思ったっての!いきなりパッチリ目、開けて飛び起きちゃってさ!
双方慌てふためきながら口を動かす。
「さてはタヌキ寝入り!?」
「違う!おまえがデカい声出すから起きちまったんだろ!」
「その時点でさっさと目、開ければよかったっしょ!」
そしたらこんな事故は起きなかったはずだし!
「うっせ!つーか話そらそうとすんなっ!いまっ……おまえ、おおお、おまえ―――」
京介はまるでダンゴムシのように、身体を丸めてアソコをかくす。
「俺の…………あ、アソコさわろうとしただろ!」
なんて人聞きの悪い。
「して……ないケド?」
「ちゃんとこっち見て答えろ。さわろうとしたよな?てかさわったよな?」
……そんなカッコでこっち見ろって言われてもねぇ……。
「してないし。さわってないし」
きっぱり。
「は?さわったろ?」
「さわってないっての。しつこいなあ……ちょっとズボンつついただけでしょ?」
「完っ全にアソコの位置だったけど!?この―――エッチ!変態!」
起きた瞬間ネチネチネチネチ女々しいっての!
てゆーかなんであたしがここまで言われなくちゃなんないワケ?
そもそも勝手にあたしのベッドに入ってきたのはそっちでしょ?!
いい加減ムカついてきたあたしだったけど、今のやり取りの中で気がついた重大な事実を追及することにした。
「そういえばあんた起きてたってことは……いわゆる……その……生理現象でおっきくしてたわけじゃないんだよね?」
「……………………」
「とゆーことは……別の意味で……おっきくしてたってこと?」
京介はダンゴムシのまま向こうに転がり、目を逸らした。
「~~~~!マジサイアク!ヘンタイ!つーか死ね!妹に欲情するとかマジキモい!」
「彼女に欲情してなにが悪い!」
血液がフットーしそうなくらい全身が熱くなっていくのを感じる。
「開き直ってとんでもないこと口走ってるのわかってる?」
「好きな娘のおっぱい触って反応しないほうがよっぽどおかしいだろ!」
やっぱり!さっき寝起きの時の触れられたような感触って…………
「あたしのおっぱい触って……おっきくしたってこと……?」
「…………ああ、……そうだ……」
「ほ、ほう……へぇ~……」
「……なんだよ、怒ってないのか?」
「怒ってるに決まってんでしょ!つまりあんたは妹が寝静まったあと、
妹の部屋に忍び込んで無防備な妹のおっぱいを触りにきたってことでしょ!?」
「違う!断じて違う!俺はおっぱいを触りにきたわけじゃねえ!」
「でも触ったじゃん」
「それは……そうだけど…………なんつーか、魔がさしたっていうか……」
「……じゃあさ、あんたはなんであたしのベッドで寝てたの?」
「……………………なんだっていいだろ」
いまだダンゴムシの京介は向こうを向いたままぼそっと呟く。
「目をそらさないでちゃんとこっち見て答えて」
京介は「しかたねえ」という感じでゆっくり首だけをひねり、ちらっとこっちを見て
「……俺が腕枕してやったら、おまえ、どうするかなって……」
「…………………」
やば……超恥ずかしくなってきた。
あたしが黙っていると、京介も恥ずかしいのか、また首を向こうに戻し、慌てて言葉を続ける。
「昔……おまえ、俺が腕枕してやると嬉しそうにしてたろ?だから……今でも喜んでくれるかなって思って、さ」
「…………ふうん」
覚えててくれてたんだ……。あたしが京介の腕枕……好きだったってこと。
刹那、あたしは何か見えない力に動かされ、京介の背中に―――


1.『ぎゅっと優しく抱き着いた』


「き、桐……乃……?」
「…………あんた、本当は……こうして欲しかったんでしょ?」
「どうして……それを……」
「あたしが気づいてないとでも思ってた?あんた昔、あたしに腕枕したあと、ちょ~期待した目であたしのこと見てたじゃん。
たまにぎゅっとしてあげない時は、すっごい悲しそうな目でこっち見てたし?
ぷぷっwシスコン超キモーいwww」
「……………………」
あちゃ~……、ちょっとやり過ぎちゃったかな……。……んもー、しかたないなぁ……。
「ま、まあ、せっかく付き合い始めたんだし?気が向いたらまた『お布団デート』してあげるからさ!」
「…………桐乃」
「ただし!また無断で胸つんつんしたら許さないかんね!」


とまあ最近のあたしたちは、毎日こんな感じ。
ね。ちっともいちゃいちゃしてなかったっしょ?


~終~

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最終更新:2013年12月25日 03:25