SS『とある午後の昼下がり』



「ねぇ、今日の午後に、あやせが用事で家に来るから、あんた、どっか行っといてくんない?」

「なんでだよ!」

いきなりだが、あいかわらず理不尽な妹様である。

「あんた、あやせのことフッたんでしょ?気まずくないワケ?」

ああ、そういう意味か。一応、こいつなりに気を使ってるんだな。最初からちゃんとそう言えばいいのに。

「そりゃあ、まあ、そうだけどさ。だからって、金輪際会わないってワケにもいかねーだろ?あやせはお前の大切な親友なんだからさ。」

「どーゆー意味?」

「お前にとって大事な人なら、俺にとっても大事な人って意味だよ。それに、あやせと約束したしな、お前を幸せにするってさ。」

「へ!?な、なに勝手に話してくれちゃってるワケ!?」

「こないだ学校の帰りがけに偶然あやせと会った時に言われたんだよ、ちゃんと幸せにしろってな。」



『お兄さん、もし桐乃にいかがわしいことをしたら、ぶち殺しますよ。でも、ちゃんと桐乃を幸せにしなかったら、もっとぶち殺しますよ。』



もっとぶち殺すってなんだよ!?って、思わず突っ込みそうになったよ、マジで。

「そーゆーワケだから、どこにも行かねーぞ。ま、受験生なんだから、大人しく部屋で勉強でもしとくからさ。それなら別にいーだろ?」

「ふ、ふん、あっそ。」

そう言って、ぷいっとそっぽを向く。

あいかわらず良く分からん妹様だ---。

昔の俺のモノローグなら、そんなところだな。

でも今はもう違う。

理由は---これを読んでくれているおまえらなら、言わなくても分かるよな?



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ピンポーン。

「あ、来た来た。」

パタパタと、桐乃が玄関に出迎えに行く。

がちゃ。

「いらっしゃーい、あやせ、、、と、御鏡さん?」

「やあ、こんにちは、桐乃さん。京介くんは居ますか?」

「居るけど、どうして二人揃って?もしかして、、、そーゆう関係になったとか?」

「ご、誤解だよ!桐乃!」

「いやあ、京介くんと遊ぼうと思って歩いて来てたら、ちょうどそこでバッタリ会っちゃって。」

「そ、そうそう。」

「で、聞いたら、桐乃さん家に行くところっていうから、一緒に来たんですよ。」

「一緒に来たんじゃなくて、たまたま一緒の方向に歩いて来ただけですっ!」

「ははは。ということみたいです。」

「てか、俺はお前と遊ぶ約束なんてした覚えはねーけどな。」

頭をかきながら玄関に出迎える。いつもながら、呼ばれてもねーのに勝手に遊びに来るやつだ。

「そういえば、お前ら、仲直りしたの?」

以前、こいつは、あやせのストーカー事件の際に、あやせを守るために、女装してあやせに近づいて、危うくあやせに通報されかかったのだ。
ストーカーから守るために、ストーカーみたいな行為をやって、ストーカーとして捕まってりゃ、世話ねぇって話だ。

「美咲さんから新垣さんに説明してもらって、この前の誤解は解けたんだけど、誤解じゃなかった分はそのままというか、、、ね。」

「わたしのために行動してくれたってことは、もちろん感謝してるんですけど、、、。その方法自体は、やっぱり変態なんで、近づかないで欲しいっていうか。」

可哀想なやつである。



「で?何しに来たの?お前は?」

「さっき言ったじゃないか、遊びに来たって。」

「つっても、俺ん家に来ても、遊ぶモンなんてなんもねーぞ?」

男二人で遊ぶって言っても、ゲームとか持ってるわけじゃないからな。何して遊ぶってんだ、一体?

「うーん、じゃあ、今日は天気も良いからさ、一緒にエロゲーしようよ。」

ぶっ!!!話に全く脈絡がねーぞ!!!それが男ふたりでやることか!しかも女子中学生の前でなんて台詞を吐きやがる!
おまけに、よりにもよって、あやせの前で、とか、自殺志願者にもほどがあるだろ!

「なんですか、、、それ、、、。」

ほら見ろ!瞳から光彩が消えてキラーマシン状態になってんぞ!どうすんだ!?

「ほらこれ。アリスプラスの新作エロゲーを持ってきたんだ、『妹(マイ)家庭教師』。受験勉強中の京介くんへのお土産だよ。」

おい!なんてことを口にしやがる!わざわざ出して見せんな!しかもどんな内容なんだよ!

てか、火に油を注ぐなんてもんじゃないだろ!コレは!火に爆薬を投げ入れるようなもんだぞ!

まだほんの二、三分しか喋ってねーってのに、もう既にツッコミが追いつかん!

さすがに桐乃も引きつっている。

あやせに目をやると---っ!

やばい!とりあえず御鏡を外に追い出すっきゃねぇ!

御鏡を外に追い出そうと動いた直後。

「死ねぇーーーーー!」

あやせの回し蹴りが炸裂した!

運悪く間に入ってしまった、この俺にな!



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「ご、ごめんなさい、お兄さん。」

気がついたらソファーに横にされていた俺に、しきりに謝るあやせ。

「つつ、、、久々だから効いたぜ、、、なんてな。大した事ないから気にすんな。」

「そうだよ、京介くんにとっては、むしろご褒美なんだから。」

「お前が言うな!」

結局上がりこんでやがる。どんだけ神経図太いんだか。

「そ、そもそも!あなたがあんなものを出すから悪いんじゃないですか!」

そのとーり。

「これ?」

だから出すなって!

「だ、出さなくて結構です!ホントに最低ですね!この変態!」

「可愛いと思うんだけどなぁ、、、。」

そーゆー問題じゃねぇだろ。

桐乃が前にこいつに言った、TPOをわきまえろって台詞を、覚えてねぇのか?

それともTPOをわきまえた結果がこれなのか?

どっちにしても残念なやつだ。

「はい、これ。」

冷湿布を桐乃が持ってきてくれた。

「おう、さんきゅ。」

「あやせ、ここに居ると変態がうつるから、あたしの部屋に行こ?」

それには俺も含まれてるのか?てか、妹エロゲ好きのお前も含まれるべきなんじゃないのか?

と思うが、とりあえず、脳内ツッコミに留める。

「う、うん。お兄さん、本当にすみませんでした。」

「いいって、気にすんなっつったろ?」

「は、はい。では。」

パタン。



「ふう、京介くんも大変だね。」

「だから、お前が言うな!!!」



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「桐乃、ホントにごめんね。」

「あいつも言ってたっしょ、気にしなくていいって。あやせは全然悪くないんだからさ。」

誤りたいのはコッチなのに。こんなことになるんだったら、やっぱり京介を追い出しとけばよかった。

、、、まぁ、一番の原因は御鏡さんなんだケド。会うたびに残念さが増していってない?あの人。

「さ、じゃあ、気を取り直して始めよっか。」

今日は、卒業式の日にあやせが代表で読む答辞を一緒に考えるのが目的なんだから。



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「大体こんなトコかな。」

「うん、ありがとう、桐乃。」

「別にいいって。でも、こうやって答辞とか考えてると、いよいよ卒業かぁ、ってカンジがするよね。」

「そうだね、、、。わたし、桐乃に出会えて、本当によかった。」

「へ?ど、どうしたの、急に?」

「えへへ、なんか、答辞を考えているうちに昔のことを色々思い出しちゃって、、、。改めて、ちゃんと言葉にして伝えておかなきゃ、って思ったの。」

「、、、ありがとね、あやせ。あたしも同じ気持ちだよ。3年間、一緒に居てくれて、友達で居てくれてありがとう。それと、これからもよろしくね。」

「あたしのほうこそ、だよ、桐乃。本当に、本当にありがとう、、、。ねぇ、桐乃、今、幸せ?」

「へっ?と、突然なに言って、、、?」

「ちゃんと応えて。」

優しいけれど力強い口調でそう言って、あやせがじっと見つめてくる。

「ど、どうして、、、?」

「最近、桐乃、わたしにお兄さんの話、しなくなっちゃったじゃない?」

「そ、それは、、、その、、、。」

「桐乃、わたしに気を使ってくれてるんでしょ?」

「うう、、、。」

「桐乃。わたし、後悔なんてしてないよ。黒猫さんも、きっとそう。だって、あのとき、桐乃をたきつけたのはわたしたち自身なんだから。」

「だからね、桐乃。わたしたちのことを想ってくれているのなら、その分、しっかり幸せになってほしいの。」

「あやせ、、、。」

「ね?だから、ちゃんと応えて。」

「ぅぅ、、、、うん、、、、幸せ。」

う~、めっちゃ恥ずかしいんですケド。でも、ちゃんと言わなくちゃ、だよね。

「うん、なら良かった。これからは気を使ったりしないで、今までどおりの桐乃で居てね。約束だよ?」

「、、、うん、わかった。ありがとね、あやせ。」

、、、ホントに、あたしは、なんて幸せ者なんだろう。涙が出そうになる。

少し前まで、一生誰にも言わずにいるしかないと、ひとりで我慢し続けていたこと。

絶対に叶わない夢だと分かっていて、それでも、どうしても捨て切れなくて、叶えたくて、頑張り続けてきた日々。

その夢が、今、この手の中にある。そして、それを応援してくれる人たちがいる。

なにより、ずっといちばん近くに居たかった人が、いちばん近くでそばに居てくれる。

「じゃあ、指切り。」

そういって、あやせが小指を差し出してくる。

「うん。」

あたしも同じようにして小指を重ねる。

「わたしたちにも答えは分からないけど、これからもずっと応援しているからね。」

「あやせぇ、、、。」

思わずあやせに抱きついた。我慢していた涙が零れ落ちる。

あやせが、そっと、あたしの頭を撫でてくれた。

「えへへ、いつもと逆だね。」

期間限定-----。

このことをあやせが知ったら、どう思うかな?

怒るかな?

でも、これが今のあたしたちにできる精一杯。それから先の答は、まだ見つからない。

だけど、この想いだけは、この期間が終わっても、ううん、これから先、どんなことがあっても、絶対に手放したりはしない。

あたしがあたしであるために。

これまでのあたしに、そして、これからのあたしに誓って---。



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「で、マジでどうすんの?」

「だから妹(マイ)家」

「却下だ。」

「つれないなぁ。」

「そんなにやりたきゃ、兄貴とやれば?」

「今日は用事があって出来ないって言われたんだ。」

「今日は、って、まさか、ホントにやったことあんの?」

「たまにね。」

御鏡兄、恐るべし。やるか?普通?いくら生活の面倒を見てもらっている弟の頼みだからっつっても。

、、、といっても、これが弟じゃなくて妹だったら、と考えると、やってることは同じなのか?うーん。

男同士の弟だったらダメで、妹だからセーフ?とか考えてしまう俺もつくづく末期症状だな、間違いなく。

それはそうと。

「で、お前のほうは、あやせとはホントになんでもないんだな?」

もう俺が口を出すことじゃないのは重々承知しているのだが、それでも、心配ではある。

ま、こいつが三次元の女の子とどうにかなる、なんてことがあるはずもないが。

「うん、なんでもないよ。だけどそんなに気にするってことは、京介くん、もしかして、、、。」

「そんなんじゃねーよ、ただ単純にあやせのことが心配なだけだ。お前はいいやつだけど変態だからな。」

「だったらいいけど。いや、僕のことは良くないけど。でも京介くん、新垣さんは確かに可愛い子だけど、浮気とかしちゃダメだよ。」

「するか!」

「ならいいけど。この世の中に女の子はたくさんいるけど、京介くんにとっての妹は、この宇宙でただひとり、桐乃さんだけなんだからね。」

「えらくまたスケールの大きい話になったな。」

思わず苦笑する。

でも、言われなくても分かってるよ。

桐乃は俺にとって、かけがえのない、たった一人の妹で、そして、誰よりもいちばん大切な存在だ。

これだけは、絶対に変わらない。

たとえ約束の時が過ぎて、恋人から兄妹に戻ったとしても。

これから先、どんなことがあっても絶対に護り抜くと、俺自身が決めたことなんだから。

俺が俺であるために。これからの生涯をかけて。

『こんなの、俺がなりたかった俺じゃねぇよ!』

ガキの頃、思い描いていた自分自身。どんなときでも妹のことを護ってやれる、すごい兄貴。

思い描いていた俺と違って、カッコ悪くてすまないな。

でも、たとえどんなにカッコ悪くても、妹のことは必ず護ってみせるからな---。

「幸せそうだね、京介くん。」

「、、、ほっとけ。」



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「おじゃましましたー。」

二人を玄関で見送ったあと。

「これからどうすんの?」

そう桐乃が聞いてきた。

さて、どうするか。結局、今日は全然勉強できてないしな、、、。

「まあ、受験勉強の続きをするさ。」

「妹(マイ)家庭教師で?」

「なワケねーだろ!」

「ひひ、じゃあ、しょうがない、あたしが代わりに妹(マイ)家庭教師をしてやろっか?」

「それって、おまえがエロゲーやりたいだけじゃねーの?」

「じゃなくて。あたしがあんたに勉強を教えてやろうかっつってんの。」

「中学生に勉強を教わる高校生の兄貴って、どんなだよ!なにを教えてもらうってんだ!?」

「英語のヒアリングとか?」

「む、、、。」

確かにこいつ、留学してたから、英語は普通に話せるんだよな、、、。

「聞き慣れたら、英語なんてそんなに難しくないって。普段使う機会が無いから聞き慣れないだけで。」

「それに、あたしも時々は話す練習しとかないと、忘れちゃうしね。一石二鳥っしょ。」

うーん。

「まあ、それは分からなくもないが、、、。お前が教科書を読んで、俺がその聞き取りの練習でもすんのか?」

「うーん。」

しばらく考えて、桐乃はしれっとこう言った。

「じゃあ、妹(マイ)家庭教師を一緒にプレイしながら、あたしがそれを英語で喋って、あんたが聞き取りする、ってのはどう?」

「ドヤ顔でとんでもない提案してんじゃねぇよ!!!」

発想が斜め上過ぎだろ!

「エロゲもできて、あたしの英語の勉強にもなるし、あんたの英語の勉強にもなるし、一石三鳥じゃん!」

真顔で言ってくる。ダメだこいつ、、、早くなんとかしないと、、、。

はぁ。しょうがない。

「、、、てことは、そういうシーンもお前が英語で喋ってくれんの?」

「な!な、な、んなワケないでしょッ!このどエロ!変態!シスコン!妹にエロゲーの朗読プレイさせるとか!あ、ありえないし!」

「お・ま・え・が・言・う・なーーーっ!」



Fin


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最終更新:2014年02月01日 01:30