「てかっ、どーしてあたしが盗んだ体で話が進んでるワケ?ありえなくない?」
俺のパンツ消失事件の初公判、通称兄ぱん裁判も各証拠が出揃い、度重なる異議も尽く論破され
もはや佳境へさしかかろうという時、俺の妹が今まで以上に高慢にぶちまけた。
「あたしが使うわけないじゃん!ぜったい有り得ないし!こんな追求無効だもん!」
「いや、状況証拠が揃いすぎてるんだが」
それこそこの世界の創造主に愛されているレベルで、あらゆる方面から証拠が揃っていた。
確かに状況証拠ばかりで、リアルの裁判なら必要な動機などは不明瞭だが、これだけ揃っていれば
もう言い逃れなどできようがないのに、この妹様は未だに認めようとしない。
「おーいあやせ裁判長……もういい加減判決でいいだろ?」
「えーと、よく聞いてませんでした」
俺が桐乃を論破する度にラノベ主人公ばりの聞こえなかったフリ連発してましたよねあなた!
というかこのあやせ、桐乃が『あんたと二人で公正な審判とかできるワケないじゃん!第三者を呼びなさいよね』
と連れて来たのだが、裁判長とは肩書きだけ。さっきまで桐乃と一緒になって異議を申し立てまくっていた。
「なら最初から各証拠を述べ直してやるからな!今度こそ聞いてくれないと俺泣いちゃうよ!?」
「もう、何言ってるんですか、お兄さん」
あやせ裁判長の瞳から光彩が消える。
「証拠なんて、潰せばいいだけですよ?」
「わあー、なんで俺こいつに司法任せちゃったんだろー」
あやせが言うとガチで恐いんだが。マジ泣くかも俺。
裁判長はそのまま天使の笑顔とラブリーな声色で、
「というわけで、この超っっっ汚らわしいものが、お兄さんの言う『証拠』ですか?」
「ちょっ、あやせそれっ!」
「おまっ!なんでおまえまで俺のパンツ持ってるんだよ!?」
俺のパンツを提示してきた。
「質問は却下します」
「がーっ!何でおまえがソレ持ってるか知らんが、確かにそれも証拠の一つだ。明らかに数が減ってる俺のパンツ」
「お母さんが捨てちゃったりお父さんが間違えたりしたと思えば違和感ないペースでしか減ってないし!」
……。今なんかまた誰かが自爆した気がするが、とりあえず自我の為に話を進めよう。
「しかもそれは数が減ってるからって一番使いまわしてる愛用の品だ!早く返して!俺恥ずかしくて死んじゃう!」
「!やっぱし!!!」
「ひいっ!け、汚らわしい!セクハラです!通報しますよ!」
「勝手に持ってきといてその言い草!?」
昨日も履いてたパンツを、美少女中学生の手で中三の妹の前に提示されるとか、どんなプレイだよ!
「もう何でもいいから早く返せっ」
「うう、で、ではこうしましょう。お兄さんが
『このパンツは自分で桐乃のタンスにこっそり潜り込ませておいた』と
正直に答えたらお渡しします」
「それ脅迫だからね!?それ認めたら俺兄として人として最低野郎じゃねーか!?」
しかし天使と女神の前で自分のパンツを晒される羞恥にも耐えられない!
俺が絶望にうちひしがれながらも、禁為のセリフを口にしようとしたその時、遠慮がちな声がした。
「あ、あのさ、あやせ。そのセリフってあたしが言っても渡してくれんの?」
「桐乃ーーーーーーっ!?」
あやせの大声ももっともだ。俺も驚いたぜ。
「桐乃、おまえ……」
「べ、別に勘違いすんなっての。あんたがあまりに恥ずかしそうだったから、代わってあげるってだけだし」
桐乃の照れ隠しと紅い頬に、俺も頭がクラクラしていた。
「じゃあ、言うね。『このパンツは自分であたしのタンスにこっそり潜り込ませておいた』 はい、おっけーでしょ」
あやせもあまりの事に、呆然としているようだ。
「じゃあそのパンツ、ちょーだい」
「う、うん……はい、これ……」
俺のパンツを素直に桐乃に渡した。
俺は涙を抑えられなかった。だって、だってさ。
「誰も勘違いとかしてねェから!!おまえパンツ欲しくて横から入ってきただけじゃん!!」
「え、な、ななな、何のことかぜんじぇん分かんないし!!」
せっかくあやせが(俺が変態になる被害は甚大だが)丸く治めてくれようとしてたのに!
「じゃ、じゃーあたしはコレでっ」
「待てこの盗パンツ魔!せめてそれだけは置いてけぇ~~っ!!」
おしまい
最終更新:2014年04月18日 22:14