あたし、高坂桐乃。職業――兄の奴隷。
行きつけのお店で購入した洋服一式をどさりと置いて、あたしはひと心地ついた。
「これでよしっと」
紙袋から白いワンピースを取り出し、鏡の前で合わせてみる。
うん…………たぶん大丈夫。自分で言うのもなんだけど、似合ってるはず。
あたしはそのままベッドに倒れこんだ。
「………………はぁ」
色々な想いが綯い交ぜになり、変な気分になってくる。
今日のお昼のこと。
『――明日一日、俺のことをお兄ちゃんって呼ぶ、とか』
『……………………』
『な、なんつってぇ』
『……分かった。それでいい』
『えっ…………マジで?』
――というようなことがあった。
京介とのつまらない賭けに負けたあたしは、明日一日『お兄ちゃんプレイ』を強要されることになったのだ。
それであたしは明日に控えるイベントのため、『お兄ちゃん』呼びに相応しい服装を入手しなければいけなかったってワケ。
あのシスコンキモすぎ。マジキモイ。ちょうキモイ。ほんっとサイッアク。妹にお兄ちゃんって呼ばせるとか、どんだけヘンタイなんだっつーの! 付き合ってたときもハブラシとかカップなんてエロアイテムでセクハラしてきたし、あのシスコンマジヘンタイ!
ヤバくない? アイツ超ヤバくない? マジで超キモいってゆーか、シスコン極めすぎってゆーかっ! ばっかじゃないの? エロゲーと現実を一緒にすんなっての!
呼び方変更とか妹モノのエロゲーやりすぎじゃん? ときメモじゃん? あたし攻略されちゃうの? 最初からときめき度MAXなのにゲームとして成り立つの?
………………やばい。明日のこと考えるだけで、すっごいドキドキする。
うー……最悪、最悪…………マジ最悪っ! ちゃんと責任とれっつーの! …………ばか。
なんて、言わないけど。言えるわけないケド。
でも、もし言ったら…………あいつどんな責任の取り方するのかな?
…………………………。
………………うぁ。
ヤバイヤバイ! ヤバイって! それはマジヤバイからっ! でも……いいの京介? あたしたち兄妹なんだよ……? なーんつって――――ッッ!
くっ…………駄目だ…………このままだと悶え死んでしまう。妄想死なんてシャレにならない。
そうだ! こんな時はエロゲーをしよう!
あたしはティッシュで鼻血を拭いて、宝物が詰まったふすまを開ける。
何にしよっかな…………あっ。
明日は京介のために『妹めいかぁ VOL・1』のヒロイン、『きりの』ちゃんの格好をするんだから、ちょっと復習しておくのもありだよね…………よし。
ということで――
あたしは、それからしばらく思い出のエロゲーを満喫するのだった。
『いっしょに学校行こう! おにいちゃんっ!』
「うん行くー! きりのちゃんと一緒に学校行くーっ! うへへー……じゅるっ」
あたしはよだれを拭いながら、ふとクリックする手を止めた。
そうだ…………このゲームを参考にシミュレーションすればいいんじゃん。
あたしはベッドに移動して、ゆっくりと思考を重ねる。
明日は、京介のことお兄ちゃんって呼ばなきゃいけないわけで。
限りなくエロゲっぽいシチュを再現できるように、服装もきりのちゃんとお揃いにしたわけで。
無理矢理にでもデートに連れて行ってもらうことまでは想定済みなわけで。
…………じゃあ、その後どうなるの?
……………………。
えっ…………ちょっと待って! てことは、なにっ!? ベッドでの告白シーンも再現しちゃうってことじゃないの!? てかっ、『最後はデレデレになるってホント?』ってなによ!? とっくの昔にデレてるっつーの! 読モなめんなっ!
………………冷静になろう。深呼吸して――すぅはぁ……よし、あたしは落ち着いた。たまにあるんだよね、こういう状態異常。女の子なら分かるはず。
で、なんだっけ?
そうそう、ベッドシーンね――
『お兄ちゃん……大好き……』
『桐乃……俺もおまえのこと――』
むっはーっ! やっっっば――――――い! これはダメだって! だ…………だだだ、だってこの後って! 一糸まとわぬきりのちゃんが……お、お兄ちゃんと!
……うああああ。
「ふぉぉぉぉ――――!!」
「桐乃てめえ、ガンガンうっせーよ! エロいゲームやって興奮してんのか!?」
はてさて明日はいったいどうなることやら。
おしまい。
最終更新:2014年04月18日 22:38