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 俺の名前は高坂京介。ごく普通の高校生だ。
 私立きらめき高校に入学し、俺は、特に憧れてもいない幼馴染みと毎日登校している。
 が、特に恋仲に発展することもなく、すでに二年生へと進級していた。
 マズイ。
 このままでは、俺のエピローグが――

『思えば、勉強ばかりしていたなあ』

 この一文で、三年間の青春が片付けられてしまう。それは嫌だ!
 と、思っていたのだが。
 高校二年生の夏、俺の物語は劇的な変化を迎えることとなった――

「っと」
「あっ……」

 以上。妹との出会いのシーンである。
 階段を下りたところで盛大にぶつかり、見事フラグが立ったというところだ。
 んで。
 本日は、日曜日。
 日曜日といえば、女の子を誘わないと始まらないよな。
 さっそく俺はケータイを取り出し、電話帳を呼び出す。

『田村麻奈実』『赤城浩平』

 ……こまったぞ。よく考えたら、妹の電話番号を知らないじゃないか。
 こういうときは、こいつだな。
 Prrrrr。

『もしもし』
「よう、赤城」
『なんだ、おまえかよ』
「俺で悪かったな」
『まぁいいや。で、なんの用だ?』

『女の子の電話番号を聞く』
『女の子の評価を聞く』

「女の子の番号を教えてほしいんだけど」
『いいぜ、誰の番号が知りたいんだ?』
「俺の妹の番号なんだけど」
『知らねーよ』
「チッ……使えねーやつだな」
『おいおい、ひどいこと言うなぁ』
「知らねーならいいわ、じゃあな」

 ピッ。
 こうして、俺の休日は過ぎていった。

 時は流れて、俺は三年生になっていた。
 先日、遂に妹の番号をゲットしたものの、強制イベント『妹の留学』が発生し、それを連れ戻すイベントをこなしてきたばかりである。
 んで。
 本日は言うまでもなく、日曜日だ。
 なぜ日曜なのかと聞かれると、正直、俺にもよく分からないのだが。
 俺たちの住むこの世界では、日曜や祝日しか女の子を誘えない不思議な力が働いているのだ。
 しかも、一日に一人までしか電話をかけることが許されないという掟もある。まったくもって不便極まりない。
 それはさておき、俺は電話帳を呼び出す。

『高坂桐乃』『五更瑠璃』『槇島沙織』
『新垣あやせ』『赤城瀬菜』『田村麻奈実』
『赤城浩平』

 一番最初に登録されてある番号をプッシュする。
 Prrrrrr。

『なに?』

 ワンコールでつながった。

「よう、桐乃。元気か?」
『は? あんたの部屋の隣にいますケド』
「あ、ああ、そうだったな」
『で、なんか用?』
「えっと、な――」

『デートしようぜ』
『女の子の評価を聞く』

「女の子の評価を教えてほしいんだけど」
『ちっ……ウザッ』

 と、言いながらも、桐乃はちゃんと評価を教えてくれた。
 こんな感じ。

 黒――(●´ω`●)
 沙――(@ω@)
 あ――ヽ(`Д´#)ノ ●~*
 瀬――(*`ε´*)
 麻――(●´ω`●)

「さんきゅーな。ちなみに、おまえの俺への評価はどんな感じなんだ?」
『……聞きたい?』
「いや、やっぱいい……」
『んで、他に用は?』
「デートしようぜ」
『キモッ』

 ぷつっ。ツーツー。

「うーん、機嫌が悪かったみたいだ」

 またある日のこと。
 下校中に、妹の姿を発見した俺は、

『一緒に帰ろうと誘う』
『一人で帰る』

「おーい」
「ん? なんだあんたか……なに?」

『桐乃』『桐乃さん』『桐乃ちゃん』
『高坂』『高坂さん』『高坂ちゃん』
『きりりん』『まるりん』『ラブリーマイシスター桐乃たん』

「桐乃たん、一緒に帰ろうぜ」
「きもっ、一緒に帰ってご近所さんに噂されると恥ずかしいから、五メートル以内に近づかないで」
「………………」

 うーん、まずかったみたいだ。

 後日。
 俺は、念願のデートの約束を妹と取り付けたのだが。

「お兄さん」
「はい」
「桐乃をしつこくデートに誘っているそうですね」
「いいぇ」
「語尾が聞き取り辛いです」
「いいえ!」
「大声を出さないでください。不快です」

 どうしろってんだ!
 ちゅーか、たかだか、十三回ほど電話でデートに誘ったくらいで大ゲサなやつだな。
 これくらい、ちょっぴり妹想いの、普通の兄貴の範疇だろうが。

「これ以上、桐乃に付きまとっていると…………ブチ殺しますよ?」
「わ、わかったわかった! だからその光るモノはしまうんだ!」

 くっそぉ……こいつなんなんだよ……俺の恋路を邪魔しやがって。
 今度からゲートキーパーあやせと呼んでやろうか……………………はっ!
 …………思い出した。
 そういえば、あやせの好感度の表示部分に『爆弾』のようなものが点灯していたような……。
 いかん……桐乃一筋になりすぎて、爆弾を放置していた代償がこれか!
 このままだと、俺のエピローグが――

『思えば、入院ばかりしていたなあ』

 この一文で、三年間の青春が片付けられてしまう。ていうか、普通に入院は嫌だ!
 今だから明かすが、俺があっちにフラフラこっちにフラフラしていた原因がこれ(爆弾)だ。
 いやー……ほんと、このシステムさえなければ、初っ端から妹ルート一直線で済むんだけどさ、背に腹はかえられないというか、いのちだいじに、みたいな。
 ということで。

「あやせ、デートしようぜ」
「な、何を企んでいるんですかこの変態!?」

 爆弾除去作業です。

「まぁ……別に嫌なら無理にとは言わないが」

 一応、誘うという行為だけでも、爆弾は消えてくれるしな。

「だ、誰も嫌だなんて言ってないです!」
「ちょ、襟を締め上げるな! 苦しい!」

 殺す気か!
 あやせは咳払いをし、

「じゃ、じゃあ……来週の日曜日に公園で待ち合わせということでいいですね」
「あ、ああ」

 と、デートの約束をしたものの。
 来週の日曜日は、桐乃とのデートも取り付けてある。
 そう。これが、世にも恐ろしい、ダブルブッキングというやつだ。
 で、日曜日。

「さーてと、今日はどこで待ち合わせだったかな」

『公園で待ち合わせ』
『駅前で待ち合わせ』

「そうだ、今日は駅前で待ち合わせだった」

 というわけで、俺はいそいそと駅前に向かうのであった。

「よう、お待たせ」
「別に待ってないし」

 桐乃はそう言ってるけど、実は結構待ってたんじゃないか?
 まあ、あえて深くは聞かないでおこう。

「そっか、じゃあどこ行く?」
「あんたが決めていいよ」

 そうなっちゃうよね。
 さて。

『定番だけど、映画に行こうよ』
『ショッピングでもするか?』
『実は、俺、ジャンク屋に行きたいんだ』

「定番だけど、映画に行こうよ」
「……まぁ、いいケド」

 現在、上映中の映画は、『リトルシスターズ』というアニメ作品のようだ。
 鑑賞を終え、出てきたところである。
 さて、彼女の反応は……

「っあ~~~~~~~~~~! 面白かった! 大ッッ満足!」

『良かったな』
『うるさいよおまえ』
『俺も楽しかったよ』

「俺も楽しかった……かな」
「ほんと?」
「おう。でも、楽しく感じたのは、おまえと一緒だったからかもな」
「き、キモ……」

 よし、バッチリいい印象を与えたみたいだぞ!
 妹は『キモ……』って言ってるけれども――バッチリいい印象を与えたみたいだぞ!!!!

 その後、追加デートが発生し、俺と桐乃はスイーツショップでいちゃいちゃするのであった――――。

 どっかーん!
 Prrrrrr……。
 Prrrrrr……。

「はい」
『オイオイ! やっちまったなぁ!』
「いきなりなんだよ、赤城。なんか用か?」
『実はな……』

 ――どうやら、俺があやせを傷付けたという噂が流れているらしい。

『こりゃあ、あやせたんに嫌われちまったな」
「………………」
『ちなみにみんなの評価は――』

 桐――(*´д`*)ハァハァ
 黒――ヽ(`Д´#)ノ ●~*
 沙――(@ω@)
 あ――ヽ(`Д´#)ノ ●~*
 瀬――ヽ(`Д´#)ノ ●~*
 麻――ヽ(`Д´#)ノ ●~*

『こんな感じだぜ。じゃあ、フォローがんばれよ。おっと、別に瀬菜ちゃんには電話しなくてもいいぞ? じゃあな』

 ど、どうしよう…………! 魔の、爆弾連鎖地獄が、現実のものにっ……!
 と、一瞬、思ったのだが。
 どうやら桐乃は、他人の爆弾の影響を受けないようなのだ。無敵だな。大倉さんばりのチートキャラって感じか。チョロい女である。
 それに、なんかよくわからんが、はぁはぁ言ってるし。うむ、このまま攻略を進めよう。
 他の連中の爆弾を、どっかんどっかん爆発させながら妹とイチャコラするのも、また一興だ。
 んで!

 ――時は流れて、バレンタインデー当日。
 俺の高校生活は、あと幾日も残っていない。
 高校生活最後のバレンタインデー。今年くらいはいい思い出を残し、有終の美を飾りたいものだ。
 が。
 えー……何を隠そう、すでに帰宅しているのである。
 現在、収穫は0。ゼロだ。何度カバンを確認しても、零なのだよ、メーン。
 まあ、わかってたけどさ。爆弾を放置した結果、こうなるってことくらい。
 しかし……だな、桐乃からももらえないのは、おかしい。腑に落ちない。
 だってさ、あいつの好感度ってMAXときめき状態だろ? なんでチョコ持ってきてくれねえんだよ。
 もしかして……あのヤロウ、今日バレンタインデーだって忘れてるんじゃ……? いや、さすがにそれは………………ありえるの、か?

『あのー、桐乃、さん? ……チョコとか用意してないんすかね?』
『は? なんで?』
『いや、だから、バレンタインのさあ……』
『あっ……今日バレンタインだっけ』
『…………』

 ………………。
 普通に凹むなーこれは。
 ていうかひょっとして、マジでこんな展開があんの? いやいや、そんなはずないって。神が許さないってこんな展開。
 と。
 自分を励まし続けているものの、冗談抜きで不安になってきたぞ。
 なぜなら、

「もう、夜の十一時だぞ……うそだろ……」

 マジかよ……くそおっ、この台詞を言う時間がきてしまったじゃないか……。

「はぁ…………今年はひとつもチョコ――」

 と、そのとき。
 こんこんっ。
 控え目に、ドアがノックされ、

「入るよ……」

 妹が現れた。

「ど、どうした? こんな夜中に」

 俺は慌ててベッドから身を起こす。

「あの、ね?」

 俯きながらベッドに腰掛け、兄妹の距離を超えて寄り添ってくる桐乃。
 そして、頬を染めながら、上目遣いで俺を見上げ……

「遅れてごめん……ずっと渡そうと思ってたんだけど、恥ずかしくて……」
「――――」

 ぐはぁ! なんだこの可愛い生き物は!
 もうチョコとかどうでもいい! いや! 本当はよくないけど!
 でも、どうでもよくなるくらいの破壊力を持っていたのは間違いない。

「これ……バレンタインチョコなんだけど、受け取ってくれる?」
「あ、当たり前だ。……今日一日、ずっとおまえが来るのを待ってたんだぞ」
「そ、そうなんだ……じゃ、これ」

 桐乃が差し出してきたのは、ちいさなハート型のチョコレートがひとつだった。
 そのまま手渡してくれるのかと思いきや、彼女はラッピングを綺麗にはがし始めた。

「い、言っとくけど……口に触れたらコロスかんねっ」

 これ以上ないくらい真っ赤になって、ツンデレ台詞を口にしながら、愛情がたっぷり詰まっていそうな(形はいびつだが)そのチョコをくわえた。
 そして、

「ん……」

 やばい……これはグッときた。なんと素晴らしいシチュエーションだろう。もし、狙ってこれをやってるとすれば、完全に小悪魔系美少女だなコイツ。
 ちょっとカメラさん、ちゃんと撮ってる? 絶好のイベントCGのポイントだよコレ? オッケー?
 …………よしっ。
 俺は、ごくりと喉を鳴らし、

「じゃ、じゃあ……いただくぞ」
「…………」

 妹の肩に手を置いた。
 すると、わずかに彼女の緊張が伝わってくる。
 そのまま、ゆっくりと顔を近づけて――
 カツン。

「あ」

 唇に触れないよう慎重になりすぎて、歯がチョコに当たってしまった。

「むぐ……」

 しかも、その拍子に、チョコを桐乃の口に押し込んでしまったようだ。

「わ、わりぃ……桐乃、もう一回くわえ直してくれ」

 いかんいかん、俺も緊張していたようだ。やり直しである。
 チョコは桐乃の唾液まみれになってしまっただろうが、問題ない。ちょっぴり性的な絵面になるが、なんせひとつしかチョコがないからね。これは仕方がないことなんだ。
 言っておくが、狙ってやったわけじゃないぞ? ……勘違いしないように。
 と。

「……………………」

 チョコを口の中に放り込まれた桐乃が、プルプルし始め、

「……………………」

 もの凄い勢いで顔色が悪くなっていく。

「き、桐乃?」
「………………………………………………ま」

 で、

「まっず――――――――――――いっ!!!」

 大噴火した。

「だ、大丈夫か?」
「ちょ、超まずいじゃん! そんなばかな! どういうこと!」
「えーと……ソレ、おまえが手作りした……んだよな?」
「う、うん……」
「ど、どうしてそんな物体Xになった?」
「えと……去年と同じ作り方で作って……」
「…………」

 この時点で俺はピンときたのだが、たどたどしく説明する桐乃を止める気にはならなかった。
 ちゃんと最後まで聞いてあげよう。

「そ、それでねっ……去年はあやせもあんたも美味しかったって言ってたし、お父さんも喜んでたから……」
「すまん、前に食べたときは、嫌がらせかと思って強がった」

 俺は素直に謝った。

「え! で、でも! あやせだってパクパク食べてたし!」
「あやせはおまえの作ったものだったら、毒でも完食して、美味いって喜ぶよ」

 ド根性の女なのだ。あいつが男だったら、桐乃を取られていたかもしれん。

「あやせめぇ……ちゃんと感想言ってくれないと意味ない――ってか、もう一回り大きかったら死んでるトコだった」
「そ、そうか……」

 なにがどうなったら、チョコレートから毒物を練成できるんだ。

「桐乃、そのチョコ、余ってないのか?」
「一応、余ってるけど、なに? もしかして自殺志願者?」

 そこまでなんだ。おまえのチョコの破壊力って。
 ――という感じで、俺の高校生活最後のバレンタインデーは過ぎていった。
 収穫は一個だったが、量よりも質――もよくなかったけど、愛があればそれでいいのだ。

 話は飛んで。
 卒業式前日、下校しているとき。

「あ、兄貴っ!」

 俺の前に妹が現れた。

「おっ、桐乃か。どうした?」
「えと……あ、あんたがどーしてもって言うなら、一緒に帰ってあげなくもないケド?」

『一緒に帰る』
『残念ながら俺様は忙しいのだ』

「そーだな、一緒に帰るか」
「そっか、よかった――じゃなくて! そんなにあたしと帰りたいわけ? しょーがない。超可愛い妹と一緒に帰れること、感謝しなさいよねっ」
「へいへい」

 というわけで、並んで帰っていると、

「明日、卒業式だね」

 卒業式の話題を振ってきた。

「おう」

 俺たちは、明日、それぞれの学校を卒業することになる。

「ねぇ、あんたの教室と、席の場所教えてよ」
「は? なんで?」
「いいから」
「ま、いいけどさ、えっとな――」

 そして翌日。

『はあ……今日でこの学校ともお別れか――ん? あれ?』

 机の中からはみ出した、白い封筒。……あやしい。
 俺はそれを手に取る。

『えーと、なになに……お話があるので、伝説の樹まで来てください、か』

 ふむ…………どうやら、無事、ハッピーエンドを迎えられるというわけだな。
 というわけで、俺は浮き足立ちながら伝説の樹へと向かったのである。

『はぁ、はぁ……』

 息を切らす俺の前に現れたのは…………

『急に呼び出してすまない、高坂』
『お、おまえ!』

 浩平兄貴だった。……うそだあ。

『どうしても今日、おまえに話しておかなければならないことがあったんだ』
『な、なんの話だ?』

 お、俺は、おまえにフラグを立てた記憶はないのだが!?

『実は……俺……』

 うわあ! やめてくれ! 聞きたくない!

『おまえが好きなんだ!』

 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!

『ちょ、ええっ!? ま、マジで?』
『マジだ』

 やめろ赤城! 真顔で言うな、ガチっぽいから! 冷静になれ、まだ引き返せる! これ以上はマジでやばいぞ!

『高坂、俺はおまえが好きだ』
『えっと……実はおまえが綺麗な女の子――みたいな、オチは……?』

 なんで俺は『赤城が実は女の子ならいいよ?』みたいな言い方をしてるんだ……ツッコむべきはそこじゃないだろ!

『ない! 俺は正真正銘、男だ! いいか、高坂。これはガチなんだ』
『ガチなの!?』
『ああ。俺は――ガチホモなんだあああああああああああああああ!』

 卒業式の日に大声で何を告白してるんだこいつは!

『さあ、高坂』

 とても爽やかな笑顔で手を差し伸べてくる赤城。伝説の樹の裏から『でゅふふふふふ!』という嫌な祝福の音も響いている。

『俺と伝説になろう』

 うわあああああ! も、もう駄目だ! 断れない! システム的な意味で!

『うっ……うう……赤城、実は俺も、おまえのことが――』

 ジリリリリリリリリ。

「――はっ!」

 ゆ…………夢か。
 はあ~っ…………………………よかったああああああああああああああ!!
 夢オチなんて二度とごめんだ、とは言ったが、この安堵感は前回の比じゃないぜ!
 危うく赤城エンドを迎えてしまうところだったんだからな…………どこぞの腐女子が『ちぃっ! もう少しだったのに!』と、歯軋りしている様子が目に浮かんだが、本当に夢でよかった。
 そして、卒業式が終わり、

「高坂、これからみんなで遊びに行くんだけど、おまえもどうだ?」
「わ、悪いな、遠慮しとくわ」
「どうした? 顔赤いぞおまえ?」
「な、なんでもねぇよ!」

 変な夢を見たせいで、赤城と顔を合わせづらい。
 と。

「これは……」

 俺の机からはみ出していたのは、一通の手紙だった。
 中身を確認してみる。

『伝説の樹の下で、待っています』

「差出人の名前は…………書いてねえな」

 とにかく行くしかないだろう。
 俺は、伝説の樹の下へと駆け出した。

「はぁ……はぁっ……」

 息を切らしながら、顔を上げると――

「桐乃」

 妹が待っていた。

「来て、くれたんだ」
「あの手紙、おまえだったのか」
「うん……」

 頬を染めながら彼女は答える。ふう~…………よかった。赤城じゃなくて。

「ごめんね、こんなところに呼び出したりして」
「構わねーよ」
「あのね、今日はどうしても、あんたに話したいことがあったの。……聞いてくれる?」
「ああ」

 いまさら嫌だとは言うまい。
 この二年間、おまえと仲良くなるために過ごしてきたんだから。

「えっと、何から話せばいいのかな……まだ考えが纏まってないんだけど」
「ゆっくりでいいよ。ちゃんと最後まで聞くからさ」

 俺は妹の頭に手を置いて、そう言った。

「うん……ねぇ、兄貴」
「なんだ?」
「いままでずっと、あたしのワガママを聞いてくれて、ありがとう」
「へっ――どういたしまして。――いまさらどうした? 気持ち悪いぞ?」
「あたし、兄貴に――ううん、京介に伝えたいことがあるの」
「………………」

 俺は、

「あたしね……」
「待て、桐乃」

 妹を止める。
 決めていたんだ。自分から告白するって。
 いまこそ『告白する勇気』を見せなければ。

「俺はおまえが、」
「その先は言っちゃだめぇっ!」
「す………………へっ?」

 桐乃の怒号が響き、告白が遮られる。
 えっと……なんだ。その……もしかして告白する前に振られた的な?
 一瞬、呆然としてしまったのだが、そういうわけではなかった。

「もしかしてあんた知らないの? 伝説の樹の下では、『女の子から告白』しないと意味ないんだよ? 男から告白するとかばかじゃん?」

 妹は、腰に手を当てながら俺の告白を止めた理由を言った。

「そ、そうなんだ……知らなかった」
「たく……あんたはあたしの告白を最後まで聞いてればいいの……てかっ、どこまで台詞言ったっけ?」
「『あたしね』までだ」
「そうそう、あたしね……」

 なんだろう。ドラマのリテイクみたいになっちゃった。

「この二年間で、たくさん想い出ができた。あんたの妹でよかった」
「俺もだ。おまえの兄貴で、よかった」
「そっか。でもね、あたしは…………もう妹だけじゃやだ」
「桐乃……」
「あたし、あんたのことが! ――じゃなかった」

 照れくさそうに「もう一回ね」とさらなるリテイクを要求する桐乃。グダグダだな。まぁ、それが俺たちらしいってことかもしれないが。

「あなたのことが好き……だから」

 だから妹だけじゃ嫌だ、と。
 恋人になりたいと彼女はそう伝えてくれた。

「俺も、おまえのことが好きだよ」
「……ほ、ほんと?」
「ああ、ほんとだ」
「…………嬉しい」

 俺も嬉しい。

「ねぇ」
「ん? どうした?」
「今日からあんたのこと、京介って呼ぶから」

 こうして、俺の高校生活三年間は幕を閉じた。
 思えば、エロゲーばかりしていたような気がするなあ。
 ともあれ、無事卒業できてよかった。
 第一志望の大学にも合格できたし、何も言うことはないな。
 そういえば桐乃は、俺たちが通っていた高校とは違う高校に通うことになった。
 桐乃は、いつも俺のそばにいて、世話を焼いてくれている。
 こんな素敵な子が、ずっとそばにいてくれたことに、どうして俺は気付かなかったんだろうな。
 でも、もう二度と離さない。
 この学校の伝説は成就されたのだ。永遠に二人は幸せになれる。
 なんて、伝説の力を借りなくとも、俺が桐乃を幸せにするから何の心配もないのだが。
 つまり、なにが言いたいのかというとだな。
 俺たち二人の愛は永遠に続く――ってことだ。

 おしまい。

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最終更新:2014年05月25日 02:01