741 名前:【SS】:2014/04/30(水) 08:13:51.27 ID:Xe4cm/DPI

SS 『二回目の二人乗り』



がちゃ。

「ただいまー。」

「あ、やっと帰ってきた。」

大学から帰って来て、扉を開けると、玄関で桐乃が待ち構えていた。

「はい、コレ。」

そう言って、なにやら封筒を渡してくる。

「なに、コレ?」

「ん?ソレ?教習所の申込書。」

、、、。

「知ってるとは思うが、俺はもう免許を持ってるんだけど?」

「うん、知ってる。こないだ一緒にドライブに行ったじゃん。」

「、、、だよな。で、これは?」

「バイクのほうの教習所の申込書。」

「は?」

「人生相談。バイクの免許、取ってきて。今すぐ。」

、、、。

俺はこめかみを押さえながら聞き直す。

「すまん、もう一度言ってくれるか?」

「だからー、バイクの免許を今すぐ取ってきてっつったの。」

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

「えーと、、、車の免許は取ったんだから、原付きのバイクならもう乗れるんだが?」

「ダメ!それじゃ!意味無いから!」

「へ?なんで?」

「な、なんででもいいでしょ!いいから、とにかく、すぐに取ってこいっての!いい?わかった!?」

相変わらず理不尽な態度で人にモノを頼むヤツだ。もうちょっと可愛げのある頼み方ができねーもんかね、コイツは。

「、、、てゆーかさ、俺、バイクとか持ってねーし、買う金もないっつーのに、何でわざわざバイクの免許なんか取らなきゃいけないんだよ?」

「沙織がバイクを譲ってくれるって言ってんの!」

「沙織が?なんで?」

「沙織のお姉さんのバイクが使わないままになってるから、譲ってくれるって。」

「じゃなくてだな。そもそも何で沙織が俺にバイクを譲ってくれる、なんて話になったんだ?」

「は?イチイチそこから説明しなきゃいけないワケ?」

「あたりまえだ!はいそうですか、で、取りに行くようなもんじゃねーだろ!金だってかかるんだしよ!せめて理由くらいちゃんと説明しろっての!」

「はいはい、ったく、しょうがないなぁ。じゃあ、ちゃんと説明したげるから、あんた、お茶とお菓子持ってあたしの部屋に来てよ。」

「なんでだよ!」

「だから、説明してあげるからって言ってんでしょ?」

「じゃなくて!なんで俺がお茶とお菓子を持っていかなきゃいけないんだよ!逆だろ!普通!」

「え?だって、可愛い妹があんたにお願いしてあげるっつってんだから、手土産のひとつくらいとーぜんっしょ?」

「日本語がおかしいだろ!」

お願いってのは、いつから『してあげる』ものになったんだよ!?

「うっさいなぁ。じゃあ、あたしがお菓子用意するから、あんた、お茶入れてよ。」

、、、。

はたしてこれを、一緒に手伝うようになった分だけマシになった、と喜んでいいものなのだろうか?

「ったく、お茶くらい自分で入れろっての。」

そんな文句をブツクサ言いながらも、桐乃と一緒にキッチンに向かう俺だった。



「で?どういう経緯でそういう話になったんだ?」

桐乃の部屋に入っていつもの座布団に座り、入れてきた紅茶を一口飲んでから問いかけると、

「はむ。ふぇいいっへ?」

と、クッキーをくわえながら、桐乃がそう聞いてくる。

「沙織がバイクを譲ってくれることになった経緯だよ!」

自分で話しといて、忘れてんじゃねえよ。

「むぐむぐ、、、っん。えーっとねぇ、、、こないだ池袋でぇ、、、」



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「へへへー、どう?」

「ぐぬぅ、、、。た、確かにお兄ちゃんは車の免許を持ってないから、こんな写真は撮れないです、、、。でもでも!ほらっ!コレ!見てくださいよ!」

「んー?写メ?どれどれ?、、、なっ!、、、な、、、ん、、、だと、、、!バイクで一緒に、二人乗り、、、だと、、、!?」

「ふふーん、どうです?確かに桐乃ちゃんの写真の先輩もシスコンだと思いますけど!それはあくまで助手席に座らせてるだけの話!」

「ぐ!」

「その点、ウチのお兄ちゃんなんて、妹とくっついて二人乗りですよ!これはもう、ウチのお兄ちゃんの圧勝ですね!今日は!」

「ぎにに、、、。」



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「、、、ってワケ。んで、」

「いや、、、その前にだな、、、。お前らはいったい何を競いあっとるんだ?」

「え?どっちの兄貴がシスコンかの対決だけど?」

「くだらねぇ!」

しかも『今日は』って、いつもそんなことやってんの?おまえら?どんだけブラコンなんだよ!

「は?どっちの妹が可愛いかで競いあってたあんたらに言われたくないんですケド?」

、、、。確かにそうですね、はい。

「それにそれに!帰りにせなちーのお兄さん、バイクでせなちーを迎えに来たんだよ!カッコよくない!?」

、、、さすがだな、赤城。友達と遊んでた妹を、わざわざバイクで迎えに行くとは。

まぁ、あいつのことだから、『真壁ごときに大切な妹を迎えになど行かせん!』とか言ってそうだけど。

「えーっと、、、じゃあ、俺もおまえを車で迎えに行けばいいってことなのか?」

「は?あんた車なんか持ってないじゃん。」

「だから親父の車で、、、」

「ありえないってーの!向こうはカッコいい自分のバイクで、こっちはお父さんに借りた車とか!」

「ぐ、、、。」

しかたないだろ!貯めてた貯金はぜんぶ卒業式の日に使い果たしちまったんだからよ!

だいたい、大学に入ったばっかりで自分の車に乗ってるやつなんてそんなにいねーっての!普通!

「んでさー、アキバであいつらと遊んでる時にその話をしたらさー、、、」



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「、、、ってなカンジで、せなちーのお兄さん、バイクで池袋までせなちーを迎えに来たんだよ!カッコよくない?」

「そうかしら?」

「大勢の人の前で颯爽とバイクで登場して、ヘルメットをせなちーに渡して『ほら、行くぞ』だって。なんかドラマみたいじゃん!」

「だったらあなたも、あの人に車で迎えに来てもらったらどうなの?」

「いや、あいつ、車なんか持ってないし。それに、車で迎えに来てもらうくらいだったら電車で帰ったほうが早いっての。」

「相変わらず素直じゃないわね。」

「なんか言った?」

「別に。」

「ふむ、、、それなら、京介氏にもバイクの免許を取ってもらったらいかがでござるか?」

「は?」

「きりりん氏が『お兄ちゃん、お願いっ♪』と萌えキャラっぽく頼めば、京介氏はすぐにでも免許を取ってきてくださると思いますが?」

「するかっ!」

「というか、あなた、本当は免許を取ってきてほしいのでしょう?」

「ち、違うっての!」

「だいたい、今の話を聞く限り、どこをどう聞いてもそういう結論にしかならないと思うのだけれど?」

「う、うっさい!」

「まぁまぁ。でももし、京介氏がバイクの免許を取得なさるのであれば、拙者の家にあるバイクを1台、提供させていただいてもよいのでござるが?」

「え?なんで?」

「いやなに、拙者の姉が昔使っていたバイクが何台も家にあるのでござるが、最近は全然乗らずじまいで。それでひたすらメンテナンスだけをやっている状態で、困っていたところなのでござるよ。」

「そうなの?」

「はい。ですから、京介氏にメンテナンスしていただけるのであれば、無期限で1台貸し出ししても良いのでござるが、いかがですかな?」



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「マジか!?そーゆーことなら、頑張ってバイクの免許取りに行くっきゃねーな!」

「でもやっぱ、あんたには痛チャリのほうが似合ってるかもね。」

「嬉しくねぇ!」

「けどあんた、最近、普通の自転車に乗ってたことあったっけ?」

「ぐ、、、。た、確かに最近、痛チャリにばっか乗っているような気はするが!断じて好きで乗ってるワケじゃねぇ!」

「とか言って、けっこー気に入ってんじゃないのーw?」

「んなワケあるか!」

「まぁ、別にどっちでもいいんだケドー。つーか、頼んどいてなんだけどさー、あんた、取れる自信あんの?バイクの免許?」

「ふっ、なめんなよ、桐乃。すぐに取ってきてやるぜ!」

ビッと親指を立てて見せる俺。

「あっそ。ま、せいぜい頑張ればぁ?」

そう言って、ぷいっとそっぽを向く桐乃。

モノを頼むヤツが言う台詞じゃねぇだろ?それ。

まぁ、翻訳すると『じゃあ頑張って早く取ってきてよね』ってことなんだろうが。

「んで?」

「は?なに?なんかまだあるワケ?」

「『お兄ちゃん、お願いっ♪』は?」

「す、するかぁぁぁぁっ!」



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で、時は流れて一ヵ月後。



キーンコーンカーンコーン。

『きりのー、じゃあまたねー。』

「うん、ばいばーい、ランちーん。」

ドドドドド、、、キキーッ、ヴォン、ドッドッドッ、、、。

「うぇ?な、なに?」

「よう、桐乃。」

ヘルメットのシールドを上げて声をかける。

「え、、、?も、もしかして、あんた、京介?」

「他の誰に見えるってんだよ?」

「そ、それ、、、?」

「ああ、沙織のバイクだよ。」

「き、昨日はなんも言ってなかったじゃん!いつのまに免許取ったワケ!?」

「へへ、こないだ。おまえを驚かそうと思って黙ってたんだよ。」

『なーに?きりのー?もしかして、彼氏ー?』

「や、えと、あの、、、。」

『かっこいー!さすが桐乃の彼氏だねー!』

『ねー、似合ってるよねー。』

「あ、あはは、、、そ、そう?」

「ほらよ。おまえのメット。」

「あ、う、うん。」

『いいなー。』

『わたしも彼氏に迎えに来てもらいたーい。』

「うう、、、恥ずかしすぎる、、、。」

「なんか言ったか?」

「う、うっさい!は、早く出せってーの!」

そう言って俺のメットをぺちぺち叩いてくる。

「へいへい、分かった分かった。じゃあ、しっかりつかまってろよ?」

「わ、分かってるっての。」



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そして、近所の公園まで帰って来たところで、桐乃を降ろすために一旦バイクを止める。

バイクの件は親父にも説明してあるのだが、さすがに制服で二人乗りなんかしてるところを見られたら怒られちまうからな。

「あ、あんたねぇ、、、。」

「ん?どうした?」

「ど、どうした?じゃないっ!ったくもう、いきなり学校まで迎えにくんなってーの!びっくりしたじゃん!」

「へへ、どうだったよ?初めてのバイクの乗り心地は?」

「恥ずかしすぎるっての!あーもう、、、あした学校で何て言おう、、、。」

「普通に兄貴に迎えに来てもらったって言えばいいんじゃねーの?」

「簡単に言うな!ブラコンだって思われちゃうじゃん!」

「そーかぁ?」

ブラコンだってバレちゃうじゃん!の間違いじゃね?

「そーなの!あーもー、いーや、彼氏ってことにしとくから!」

「いいのか?それで?」

「仕方ないじゃん!」

「まあ、俺は別にいいけどよ、、、。」

「だからあんた、今度からちゃんと迎えに来てよね!」

「は?なんで?」

「い、一回迎えに来ただけだったら、あたしがフラれたみたいに思われちゃうじゃん!だからちゃんと続けろってーの!」

「ちゃんと続けろって言われてもな、、、。俺だって大学があるんだから、毎日迎えになんて来れないぞ?」

「ま、毎日来るつもり!?どんだけシスコンなワケ!」

「おまえが続けろっつったんだろ?」

「それはそーだけど、、、。さすがに毎日は恥ずかしすぎるっての。」

「じゃあ、どうしろってんだよ?」

「え?えっと、、、えっと、、、じゃ、じゃあ、迎えに来て欲しいときにメッセするから、そんときに迎えに来てくれる?」

「ったく、しょうがねえなあ。わかったよ。ちゃんと迎えに来てやるよ。」

「ホントにいいの?」

「ああ。」

「ぜ、ぜったい?ほんとに、ほんと?」

「絶対の絶対。本当に本当に本当だ。」

そんな懐かしいやりとりのあと。

「へへ、、、約束だかんね。」

嬉しそうに桐乃が笑う。

やれやれ、赤城のことを笑えなくなっちまったな、俺も。

でも、妹のこんな笑顔をみたら、兄貴なら誰だってそうしてやりたいって思っちまうんじゃねぇかな?

ただ、それを素直に言葉や態度にできるかできないか、という違いはあると思うんだけどよ。以前の俺と、今の俺みたいにな。



「でもよ?」

「なに?」

「それで、もし兄妹だってバレちまったら、なんて言い訳するつもりなんだ?」

「う、う~ん、、、。」

腕を組んで考え込む桐乃。

「おまえ、ウソがヘタなんだからよ。普通に兄妹だって言っといたほうが、いろいろボロが出なくて良いんじゃねえか?」

「ん~~~でもなぁ~~~~。」

、、、。そんなにブラコンだって思われたくないのか?

「ん~~~~~。」

「、、、桐乃?」

頭を抱え込んだ桐乃に近づいたその瞬間。

「んんん、、、ん!ひらめいた!」

バッと桐乃が顔を上げる。

あぶねぇ!危うく桐乃の頭に顎をぶつけるところだった。

幸い、そうはならなかったのだが、かわりに、鼻先がぶつかりそうになるくらい近くに桐乃の顔が迫る。

「ななな、なにをだ?」

動揺してあせりまくりながら思わず仰け反る。くそっ、どもっちまったじゃねーか!

い、いきなり目の前に可愛い顔を見せんじゃねーよ!ドキッとすんだろ!

「ふひひ~。聞きたい?聞きたい?」

そんなことは気にも留めずに、嬉しそうにはしゃぐ桐乃。

ウッゼぇ!

昔の俺なら、そう考えるところだな、たぶん。

でも今では、この笑顔を見て、こっちまで嬉しくなってくるんだから、不思議なもんだ。

「あ、ああ。いったい何をひらめいたんだ?」

俺は素直に聞き返す。

「へへへ~、しょうがないなぁ♪じゃあ、教えたげる♪」

桐乃も嬉しそうに答えてくる。

「もし、、、もしバレちゃってもさ、、、へへ、あんたがあたしの彼氏のフリをしてたフリをすればいいんじゃん!」

「フリをしてたフリ?」

「そう!あたしが彼氏を作りたくないから、あんたに彼氏のフリをしてもらってた、ってコトにすんの!そしたらバレても関係なくない!?」

、、、なるほど。

バレなければそのまま彼氏として、バレても彼氏のフリを続ける兄貴として。

どっちにしても彼氏として振舞い続けておけばいいってことか。

へっ、なかなかどうして、よく考えたもんだな。

「良いんじゃねーか?それ?」

「でしょでしょ!」

お互いに満面の笑みで。

「「ひひひひひ。」」



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「うし!じゃあ、帰るか。」

「うん!あ、そーだ!チョット待って。」

「ん?」

ぱしゃ。

「へへへ、初めての二人乗り記念。」

「、、、前にチャリで二人乗りしただろ?」

「バ、バイクでのって意味で!だいたい、あんなんじゃ、思い出にはなっても、記念になんかできないし!」

「まあ、確かにな。あんときは補助輪付きの超恥ずかしい痛チャリだったからな。」

「そうそう、あんたが教会に来たときに、みんなの前で『兄なんで。』とか言う羽目になったり、信号待ちで車に乗ってた親子に『見ちゃダメ!』って言われたりして、すっごい恥ずかしかったんだからね!おまけにあれからランちんにまでからかわれるようになっちゃったし!」

「最後のは俺のせいじゃない気もするが、、、。でも乗ってたら慣れただろ?」

「慣れるかっ!」

「そうか?俺は慣れたけど?」

「慣れんなっ!さすがに引くってーの!はっ!まさかあんた、これを痛バイクにする気じゃないでしょーね?」

「するわけねーだろ!慣れたってのは、あくまでもそんときだけの話だっての!御鏡と一緒にすんじゃねーよ!」

「だよねー。あたしもチョー欲しかったけど、さすがに普段乗ったりはできないかんねー。」

欲しかったのかよアレ!?さすがに引くってーの!はっ!まさかこいつ、そのうち痛チャリを買って俺の部屋に飾ったりするんじゃないだろーな!?

一瞬、有り得ない、、、いや、有り得なくもない考えが脳裏をかすめる。

、、、口に出さなかったのは賢明だったかもしれん。

『するワケないでしょ!』って答えじゃなくて、『その手があったか!』って答えが返ってきていたかもしれんからな。

「てゆーか、あんときのあんた、自転車漕ぐので精一杯で、それどころじゃなかったもんねー。来る途中でコケたとか言ってたし。」

「ああ、そうだったな、確か。あんときは、ぜってー間に合わせるって、必死だったからな。」

「でも加奈子たちのライブには間に合わなかったじゃん。」

「う、、、。で、でも、いちばん見たがってたクラリスのライブには間に合っただろ?」

「まーね。、、、へへ、嬉しかったな、あんときは。」

不意に出てきた素直な言葉とその笑顔に、思わずドキッとしちまう。

「、、、ライブ、楽しみにしてたもんな、おまえ。」

「うん、ライブ見れたのも嬉しかったけど、、、」

「けど?」

「、、、な、なんでもない。」

「?」

「なんでもないっての!そ・れ・よ・り!」

「?」

「せっかくバイクの免許を取ったんだから、今度どっか連れてってよ!」

「あ、ああ、そーだな。じゃあ、今度の休みにでも、どっか出かけるか?」

「うん。」

「決まりだな。んじゃ、そろそろ帰るか?」

「そだね。」

そして、バイクを押しながら、桐乃と一緒に歩き始める。

「ねぇ、、、。」

「ん?」

「あんたは、あんとき、どんなこと考えてたワケ?」

「え?あー、忘れちまったよ、そんなこと。」

「ホントにーw?」

「ああ。あんとき、どんなこと考えてたかなんて覚えてねーよ、さすがに。でも、まぁ、どんなこと考えてたかは想像つくけどな。」

「へぇ?どんなこと?」

「、、、なんでもいいだろ?」

「言いかけてやめんなっての。」

「おまえも言いかけてやめてただろ、さっき?」

「そ、それはそれ!これはこれ!」

そんな妹の態度に、思わず、ぷっ、吹き出す。

やれやれ、、、相変わらずな妹様だな、まったく。

「な、なに笑ってんのよ!」

「別に。あんとき考えてたこと、ね。」

これまで自分自身の行動を『妹だから』とか『兄貴だから』とか、いろいろ理由をつけて考えてきたんだけどさ。

「それはさ、、、」

そんなのは全部、後付けの理由でしかなくて。

「それは?」

本音のところは、結局---。



「、、、おまえの笑顔が見たい、ってことかな。」



「っ、、、!、、、こ、こ、こ、この、シスコン!マジ顔でなに言ってくれちゃってんのよっ!」

真っ赤になった桐乃が大声でまくしたてる。

「うっせ。おまえが聞いてきたんだろ?」

「ふん!このシスコン!、、、シスコン!シスコン!シスコンっ!」

そう言いながらちょっとだけ先回りして振り返り、べーっ、と舌を出す。

「悪かったな!何度も言わなくったって分かってるっての!」

俺はバイクを押しながら、そう言い返す。

「ふん!あんたが恥ずかしいこと言うからでしょ!」

「へいへい。」

そんなことを言い合いながら、俺がそばまでたどり着くと、

「ったくもう。いきなり言うなっての。」

そう言って妹はまた、となりに並んで一緒に歩き始める。



そうやってしばらく並んで歩いたあとで。

「、、、、、、、、、、、、、、、でもね。」

少し間をおいて、彼女は小さく、そう呟いて。

バイクを押す俺の腕に、そっと自分の腕を絡ませる。

「っ、、、!」

「あたしもね、、、。」

あのときの光景を思い出すように、そっと目を閉じて---そして、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

「あたしも、、、ホントに嬉しかったよ?、、、あんたがあたしを、教会まで迎えに来てくれて。」

「っっっ、、、、、、!!!」

そう言って、顔を上げて、照れくさそうに優しく微笑む。

「へへ、、、ありがとね、兄貴。」



そんな桐乃の笑顔を見つめながら。

きっとあのとき思ったのと同じように。

俺はまた、こう思うのだった。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない、ってな。



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それからしばらく経った、とある休日。

沙織からの連絡を受けてアキバにバイクでやってきた俺たちは、いつものようにレンタルルームに集まっていた。

少し遅れて沙織がやってくる。

「いやぁ、お待たせし申した。」

「遅かったじゃん。ねぇ、今日はここでなにすんの?」

「いやなに、今日はちょっとした鑑賞会をしようかと思いましてな。」

「鑑賞会?なんの?」

「むふふ、ちょっとばかり準備を致しますので、しばしお待ち下され。黒猫氏、これを。」

「ふふふ、これが闇の記憶を封印せし魔導具ね。はたしてどんな記憶が刻まれていることかしら。」

そんな邪気眼全開の台詞を口にしながら、黒猫は沙織からなにやら受け取ってパソコンにセットしたあとでキーボードを操作する。

「ふっ、これで全てが白日の下に映し出されるわ。さあ、その闇の記憶を呼び覚ますがいい!」

ノリノリだな、あいかわらず。

切り替わったプロジェクタの画面に目を向けると、地図と点線が映し出されていた。

「?これは?」

「おや?お分かりになりませぬか?」

「いや、地図ってのは分かるけど、この点線はなんなんだ?」

「ああ、なるほど。言い忘れておりましたが、あのバイクにはドライブレコーダーが付いておりましてな。」

「それで今日は、きりりん氏と京介氏のバイクデートコースを皆で堪能しようね会を」

「「するなぁぁぁぁっ!」」



Fin



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最終更新:2014年10月03日 20:20