929 名前:【SS】:2014/07/07(月) 16:23:53.18 ID:2oNt78YAI

SS『初夏のねがいごと』



日増しに強くなっていく日差しに、真夏の到来を感じるような、そんな初夏のある日の午後。

大学から帰ってきた俺は、冷蔵庫から取り出した麦茶を飲んで一息ついたあと、いつものように階段を上がって自分の部屋の扉をかちゃりと開いた。

「あ、おかえりー。」

、、、。

説明しよう。桐乃が俺のベッドに寝転がってゲームをしていた。

「えと、、、何やってんの?」

「ゲーム。見てわかるっしょ?」

「そうじゃなくてだな。なんでわざわざ俺の部屋で、俺のベッドに乗っかってゲームやってんのかって聞いてんだが?」

「はぁ?別にいいでしょ?」

「、、、この部屋、クーラーもないのに暑くねーの?」

そう口にしたあとで言うのもなんだが、、、自分で言ってりゃ世話ねぇな、ったく。

「あたしの部屋、クーラーが効きすぎて、ちょっと寒くなっちゃったの。だからこの部屋に来てたってワケ。」

、、、それって、扇風機を強にして風にあたりながら言うセリフじゃないだろ。

「じゃあ、俺は暑いから、お前の部屋に入っててもいいか?」

「ダメ。」

あいかわらず理不尽な妹様である。

しかたなく、俺は扇風機を自分に向ける。

「ちょっと!扇風機、自分にだけ向けないでよ!暑いじゃん!」

「寒かったんじゃないのか?」

「っ!もう寒くなくなったの!悪い!?」

やれやれ。

俺は扇風機を首振りモードに切り替えて、机に荷物を置きつつ椅子に座る。

「ふぅ。」

「ねぇ。」

一息つくやいなや、桐乃が声をかけてくる。

「なんだ?」

見ると、さっきまで寝転んでやっていたゲームを枕の横に置いて、ベッドの上にぺたんと座り込むような姿勢になっていた。

「あのさー、今日って七月七日なんだけどぉ。あんた知ってた?」

「あ、ああ。知ってるよ。それがどうかしたのか?」

「ふーん、へぇー、知ってたんだ。」

いつものようにニヤニヤしながらそう言ってくる。

「んで?」

そしてこれも、すでに恒例となった問いかけだ。

「、、、七夕だろ?」

「そ。短冊にねがいごとを書いて笹に飾ったりすんだよね~。」

「つってももう、短冊を飾る年でもないだろ?それがどうしたってんだ?」

「ふひひー♪あんたさー、商店街に出してあった笹にねがいごと書いた短冊つけたっしょ?」

「なっ!なぜそれを知っている、、、!」

「やっぱしw帰りに商店街を通ったときに笹にたくさん短冊が飾ってあんの見てさー。なんか懐かしくなって、その短冊を眺めて見てたワケ。」

「ぐっ!」

「そしたらその中に、こんなねがいごとが書いてあったんだよねーw」

「『妹がいつまでも幸せでありますように。』ってw」

「そ、それが何で俺のだって分かる?他の誰かが書いたのかもしれねーだろ?」

「裏に『京介』って書いてあったし。」

、、、バカだろ?俺?せめてイニシャルとかにしとけよ。

「ひひひ、シスコンw」

「うっせ。」

それを言うためにわざわざ、この暑い部屋のなかでずっと待ってたおまえもおんなじだと思うぞ?



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そして、その夜。

「そう言えば、今日は七夕ね。」

家族全員が揃う食事の席で、お袋がそう切り出した。

一瞬、俺と桐乃の箸が止まる。

「昔はこの時期になるといっつも桐乃が、笹を飾ってって言い出してたんだけどねぇ。いつ頃からかしら?そう言わなくなったのって?」

「べ、別にいいでしょ?お母さん。あたしだっていつまでも小っちゃい子供じゃないんだからさ。」

「でもあんた、結構大きくなっても言ってたような気がするんだけど、、、。」

「き、気のせいだってば。」

「そうかしら?まあいいわ。それで飾った笹に二人でねがいごと書いてたわよね、あんたたち。」

「そ、そうだっけ?」

「そうよー、京介。でもあんたはどうも七夕のねがいごとの意味を勘違いしてたようだったんだけどね。」

「え?どういう意味だ?」

「あんたのねがいごとって、いっつも『ミニ四駆が欲しい』とか、そんなのばっかりだったから。」

、、、幼き日の俺よ、それはクリスマスのお願いだ。織姫と彦星は、プレゼントはくれないぞ。

「ばかじゃんw」

桐乃がそう言ってとなりで笑う。

「で、桐乃はいっつもおんなじねがいごとだったわよね。」

「へ?」

「確か、『お兄ちゃんとずっと」

「わーっ!わーっ!わーっ!!!お、お母さん!そ、そんなの昔のことでしょ!」

「ふふふ、懐かしいわねー。ねぇ、お父さん。」

そう言って笑うお袋の横で。

「ふっ。」

晩酌をしながら、微かに微笑む親父なのだった。



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そして、その翌日の朝。

大学に向かう途中の商店街で。

「まだ飾ってあんのか。」

そう言って、笹に結びつけてある自分の短冊を見た俺は。

同じところに寄り添うように結びつけられた、もうひとつの短冊を見つけたのだった。

その短冊にはこう、書かれていたよ。



『お兄ちゃんとずっと一緒にいれますように-きりの』



Fin



かしゃ。たたたたたっ、、、。ぴっ。

 宛先:桐乃
 件名:ひひひ
 こんな短冊見つけたんだけど?

、、、ぴろりん。

 差出人:桐乃
 件名:Re:ひひひ
 ちょ!な、なんでまだ飾ってあんのよ!

、ぴろりん。

 差出人:桐乃
 件名:Re:ひひひ
 ってか、あたしじゃないかんね!



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そして、そのメールのあとで気付いたのだが---



ふと、その短冊の裏を見てみると。

そこに小さく小さくこう書かれていたのだった。



『ねがいをかなえてくれてありがとう-桐乃』




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最終更新:2014年10月04日 14:41