729 名前:【SS】:2014/08/02(土) 16:27:35.72 ID:AEgRSl/I0




『お守り』




~来る新年一月一日~




ここは近所のとある神社。境内には様々な出店が立ち並び、参拝客で混み合っていた。

ここにわたし新垣あやせは家族と初詣に来ていた。

本殿の前には30mほどの人の列があり、わたしたち家族もその最後尾に並ぶ。



財布の中から五円玉を探していると、人混みの中でも一際目立つライトブラウンの髪が視界の端に映りこむ。

声を掛けようと喉から言葉が出かかるが、寸前のところで呑み込んだ。

桐乃がお兄さんと歩いていたからだ。ご両親の姿は見えない。あちらはわたしの存在に気付いてないようだ。

そう知ったわたしは話し掛けずに様子を見ることにする。



2人は既に参拝を済ませたようで、お守りなどが売っている方へと歩いていく。

桐乃とお兄さんはそれぞれ高校受験と大学受験を控えているので合格祈願のお守りを買うのだろう。わたしは推薦で進学先が決まっているのでその点は心配ない。



2人は色取り取りのお守りを眺めた後、黄色いお守りを1つずつと、それに加えてお兄さんは白いお守りも買っていた。



売り場を離れると、お兄さんは桐乃に今さっき買ったばかりの白いお守りを差し出す。桐乃も予想外だったのだろう。驚いた顔をするが、すぐに相好を崩す。

それは今まで見たこともないような、最高の笑顔だった。



桐乃にあんな表情させちゃうなんて、妬けちゃうなぁ...



桐乃がお守りを受け取ると、お兄さんも照れくさそうにそっぽを向いて頭を掻いた。





2人が再び移動を始めると、わたしの並んでいた列も動き出す。慌てて間を詰めてもう一度2人を探す。



見つけた桐乃とお兄さんは、今度はおみくじを引いている。

桐乃は大喜びしているが、大吉だったのかな?お兄さんは微妙な顔をしている(お兄さんへの悪口ではない)。



一頻り喜んだ後、桐乃はおみくじに書いてある内容を熱心に読み始めた。

すると桐乃は途中でポッと頬を染め、同じところに何度も何度も目を通す。

そんな桐乃の様子にお兄さんも気付いたのか、桐乃の持つおみくじの方へ手を伸ばした。

それをいち早く察知した桐乃も素早く身を翻らせておみくじを守り、そのままの勢いで近くの木の傍まで駆け寄っていく。そしておみくじを大事そうにその木の枝に結び付けていた。



2人はその後、出店でベビーカステラを買って鳥居の外へ消えていった。





今見た桐乃とお兄さんの様子はとても仲睦まじい兄妹の様に見えた。事実2人は何だかんだ言いながらも仲が良く、今だって2人で初詣に来ていた。

しかし、長い間あの兄妹を見てきたわたしには、先程の2人が"仲睦まじい兄妹を演じている"ように感じたのだった。





~翌日一月二日~




翌日、わたしは事前に約束していた通り、桐乃・加奈子と初詣に行くために待ち合わせ場所に向かっていた。

待ち合わせ場所を見通せる場所まで来ると、向こう側から桐乃が歩いて来るのが見えた。

お互いに相手の姿を認め、二人同時に駆け足になる。そして丁度待ち合わせ場所であるバス停で落ち合った。



「明けましておめでと、あやせ!今年一年よろしくね」

「桐乃。明けましておめでとう。こちらこそよろしくね!」

既に年賀状やメールで済ませていた挨拶だが、やはり直接面と向かって言うのは特別だ。



約束の時間までは15分ほどあったので、誰々ちゃんから来た年賀状がカワイイ~みたいな話をしながら加奈子を待つ。

因みに今日行く神社は、昨日の所とは別の、少し遠くにある大きな神社だ。



暫く話していると後ろから声が掛かる。



「うい~~~っす。桐乃あやせ、あけおめことよろ。……って何だよそれ!?」

待ち合わせ場所に来るなり、加奈子は何やら不満げに声を荒らげる。



「加奈子明けまして……何のこと???」

桐乃は何のことか分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。



「それだよそれ!どうしてお揃いなんだよ!」

加奈子の指差す先にはわたしたちの持つハンドバッグ。桐乃のそれには2つのお守りがついていた。

実はわたしも昨日、桐乃とお兄さんを見送ったあと、桐乃がお兄さんに貰っていた白いお守りと同じものを買っていたのだ。



「あっホントだ!あやせもあの神社に行ったんだ?お揃いだね。へへへ」

「うん。家族で行ったんだ」

「そうなんだ。わたしも家族と…ね?」



嘘は言っていないが、お兄さんと2人きりであったことはボかす桐乃。



「お守りのことは分かったケドよー。オメーらそれじゃ"初"詣にならねーじゃんかヨ?」

とまだ不満を漏らす加奈子。



「細っかいなー。お正月中に神社にお参りするのは全部初詣ってことで良いの良いの」

「加奈子は昨日、家族で初詣とか行かなかったの?ほら…加奈子のお姉さんとか」

「姉貴は寒がりだからコタツから動こうとしねーんだもん」



そうこう言っているうちにバスが近付いてきた。



「あっそうだ。加奈子チョー良いこと思い付いちゃった。ニヒヒヒヒ」

「なになに?あたしにも教えてよ加奈子」



わたしたちの目の前にバスが停まる。



「これから行く神社で恋愛成就のお守り買うンだよ。桐乃も買っといた方がイイんじゃねーの?」

「あ…あたしは別に…良いかな?」

「あん?どーゆー意味だよ桐乃テメー」



バスの扉が開き、桐乃と加奈子が並んでバスに乗り込む。わたしも二人の後を追う。



「深い意味はないってば」

「目が泳いでんゾ?」



バスのステップを上っていく桐乃に合わせて2つのお守りが楽しそうに揺れている。



1つは合格祈願の黄色いお守り。

そしてもう1つの白いお守りは、お兄さんが桐乃に贈った、一年間の無病息災を願う健康祈願のお守りだった。







完。



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最終更新:2014年10月04日 15:15