726 名前:【SS】:2014/10/17(金) 14:13:37.05 ID:MAIOeXvU0
SS『誕生日の贈り物』
「お兄さんっ!お話がありますっ!」
久々にメールで俺をいつもの公園に呼びだしてきたあやせが、いきなり怒ったように怒鳴りつけてきた。
「昨日、不審な男がバイクで桐乃を連れ去ったって聞きました!いったい、どういうことですかっ!」
懐かしさを感じる光景ではあるが、今はそれどころではない。
「お、おちつけ!あやせ!それは俺なんだよ!」
「な!や、やっぱり、お兄さんは不審者だったんですか!?」
「違げぇよ!不審者のほうと結びつけるんじゃない!バイクで連れ去っ、、、じゃねえ、迎えに行ったのが俺だってことだよ!」
「で、でも、お兄さん、バイクなんて持ってないじゃないですか!」
「こないだ免許を取ったんだよ!」
「で、ですけど!蘭が言ってたんです!桐乃のお兄さんだったら、いかがわしい痛バイクのハズだから絶対違うって!」
あ、あいつか、、、。まったく余計なことを言ってくれやがって、、、。
「なぁ、あやせ、、、落ち着いて聞いてくれ。俺がそんな痛バイクなんて乗ると思うか?」
「はい。」
「だろ?だから俺じゃないんだ、、、って、肯定!?」
「だ、だって、お兄さんだったらありえる話じゃないですか!」
、、、泣いてもいいすか?俺。
「それに、蘭に聞いたんです!お兄さんが前にもいかがわしい自転車で桐乃を迎えに来たって!」
重ね重ね余計なことを、、、。
「あんときの自転車は借りもんだっての!どうしても桐乃をイベントに間に合わせたくて、ちょうど近くにいた知り合いに借りたんだよ!」
「借りたって、、、そんないかがわしい自転車に普段から乗ってる人なんて、いるわけないじゃないですか!」
「いるんだよ!知り合いに!」
「だ、誰なんですか!その人!」
「、、、御鏡。」
「、、、。」
「、、、。」
「、、、ああ、、、あの人ですか、、、。」
さっきまでの勢いがウソのように消え、代わりに諦めとも呆れともつかないような口調になるあやせ。
「わ、分かってもらえたか?」
「、、、はい。すみませんでした。疑ってしまって。」
「ま、まぁ、それはいいけどよ、、、。」
とはいえ、、、。
これで納得してもらえたのは良いんだが、御鏡に申し訳ない気がするな。せっかく自転車を貸してくれたってのに。
でも全部ありのままの事実だから仕方がない。何かせめてフォローできるようなことはないものか、、、。ええと、、、
『でもあれ、イラスト自作の超すっげぇ痛チャリなんだぜ!』
、、、ダメだ、全然フォローになってねぇ。むしろ、傷口に塩を塗ってるだけだ。
、、、う~ん、なんも出てこねぇな、、、すまん、御鏡。
というわけで、俺はフォローするのをそこで諦めた。ま、いいか。御鏡だし。
「ところでさ、不審者ってのはいったい誰が言ってたんだ?」
「え?ええと、、、わたしが聞いたのは、男の人がバイクで桐乃を迎えに来た、ってことだけだったんですけど、、、。」
「それがなんで不審者が連れ去ったなんてことになったんだ?」
「だ、だって。お兄さんじゃないのに、桐乃が男の人のバイクに乗るなんてこと、ありえないじゃないですか!だから、、、。」
「誰だか分からないやつが桐乃を連れ去ったんだ、って思っちまったってことか?」
「、、、はい。それで放課後、直接桐乃に話を聞こうと思ってたんですけど、急に仕事の打ち合わせが入っちゃったみたいで、授業が終わった途端に慌てて出ていっちゃったから、、、。」
「それで俺に聞いてみることにした、と。」
「はい。」
やれやれ、あいかわらずの心配性だな、こいつは。
「それに、お兄さんがバイクの免許取ったなんて話、桐乃、ひとことも言ってなかったですし、、、。」
「でもそれって、単に言うほどのことじゃなかったってことかもしれないだろ?」
「桐乃に限って、それはありえません!」
「な、なんでそんなに自信満々に断言できるんだ?」
「桐乃はお兄さんが夢に出てきたこととかも嬉しそうに話してくれるんですよ!なのに免許を取ったことを話してくれないなんて、ありえません!」
「そ、そうか。」
「はい。」
そういえば、今年の年明け早々にも、桐乃の初夢のせいであやせに呼び出されて、何故か俺が理不尽に問い詰められたことがあったな、確かに。
ていうか、、、いったい、学校でどんな話し方してやがるんだ?あいつ?
しかも『嬉しそうに』って、ねぇ、、、。
『嬉しそうに罵倒しながら』とかの間違いなんじゃないの?
「お兄さん?」
「え?」
「どうしたんですか?ぽーっとして?」
「あ、ああ、悪い悪い。いや、実はさ、桐乃を驚かそうと思って、免許を取ったこと、桐乃にも秘密にしてたんだよ。」
「そうだったんですか?」
「ああ。」
「はぁ、なんだ。びっくりさせないで下さいよ。」
ホッと胸をなでおろすあやせ。
「すまなかったな。」
別に自分が悪いわけじゃないんだが、つい謝ってしまう俺。
「いいえ、こちらこそ、いろいろ早とちりしちゃってすみませんでした。」
そして俺はあやせに、これまでの経緯と事情を簡単に説明した。
こいつは黒猫と同じように桐乃のことを考えてくれる、桐乃の、いや、俺たちの大切な友人だ。
こいつにはもうウソを吐きたくないし、なにより本当のことを知っておいてもらったほうが良いと思ったからな。
「ふーん、そういうことですか。」
「ああ、だからこれからもちょくちょく桐乃を迎えに行くことになると思う。」
「分かりました。じゃあ、蘭にはちゃんと上手く説明しておきますね。あの子、おしゃべりだから。」
「すまん、助かるよ。」
「いえいえ、これも桐乃のためですから。」
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「それはそうと、、、俺もちょうどおまえに相談したいことがあったんだけど、、、聞いてくれるか?」
「そうなんですか?めずらしいですね、お兄さんがわたしに相談だなんて。」
「はは、確かにな。」
「それで?どんなご相談ですか?」
「ああ、あやせ。実は、、、ちょっと言いにくいんだが、、、。」
「、、、ふふふ。」
「ど、どうした?」
「いえ、まぁ、なんとなく予想はつきますけどね。桐乃のことでしょう?」
「あ、ああ、良く分かったな。」
「お兄さんのことですから大体は。あ、でも、わたしがお兄さんのことを想っていたから、とかじゃありませんよ?お兄さんが、『わたし』に相談したいことがあるって仰った時点で、ピンときたんです。」
「そっか。じゃあ、もしかして、相談の内容も分かってたりすんのか?」
「恐らく。でも、ちゃんとお兄さんの口から聞かせてください。」
「おう。実は桐乃の誕生日に何かプレゼントしようかと思ってるんだけど、、、いったいどんなものをプレゼントしたら喜ぶのか分からなくてな。」
「ふふふ、やっぱり。前と逆になっちゃいましたね。」
「そ、そう言えばそうだな。」
「わたしの答えも同じになっちゃいますけど、、、桐乃が好きなものをわたしに聞くんですか?それはお兄さんが一番分かってると思うんですけど?」
俺は苦笑しながら答える。
「でもそれは、俺から送るプレゼントって意味で、桐乃がもらって一番嬉しいものじゃないと思うんだ。それにその、、、そういったものならいつも一緒に買いに行ってるからな。」
「一緒に、、、ですか?」
「すまん、そこは通報せずに聞き流してくれ。」
久々に防犯ブザーを取り出したあやせに俺は懇願する。
「あはは。まぁ、これは一応、冗談ですけど。」
一応かよ、、、。
「で、だ。あいつも女の子なんだからさ。やっぱりプレゼントは、ちゃんとしたものを貰いたいんじゃないかなって思ってな。それで、最近桐乃が気に入ってるものとか、欲しがってるものとかあれば、教えて欲しいんだけど、、、。」
「う~ん、、、でも、お兄さんからのプレゼントなら、桐乃はなんでも喜ぶと思いますよ?」
「そうかもしれないけどさ、、、もし、それがずっと欲しかったものだったりすれば、よりいっそう嬉しいんじゃないかなって思ってよ。」
「なるほど、、、。分かりました、お兄さん。わたしに任せてください!」
「あ、ああ、ありがとよ、あやせ。」
「ふふふ、本当に前と逆になっちゃってますね。」
「そうだな。でも、、、本当にありがとうな、あやせ。」
俺は素直に頭を下げた。
「ど、どうしたんですか?突然?」
「いや、、、本来なら俺がおまえに頼めるようなことじゃないと分かってはいるんだけどよ、、、。でもオタクじゃない部分の桐乃を、誰よりも一番分かってるのは、やっぱりおまえだと思うからさ。」
「、、、お兄さんらしいですね。」
「え?」
「いえ、なんでもないです。じゃあ、何か分かったら、またご連絡しますね。」
「ああ、よろしく頼む。」
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そして数日後、、、。
「あ、お兄さん、こんにちは。」
あやせからメールで呼び出された俺が、いつもの公園にたどり着くと、すでに彼女は先に来て待っていた。
「よう。すまん、待たせちまったか?」
「いえ、今来たところですから。」
「連絡ありがとな、あやせ。で、こないだの件ってことだったけど、、、。」
「はい。昨日、桐乃を誘って、一緒に買い物に行ったんです。それで、いろんなお店を回りながら、こっそり様子を見てたんですけど。」
流石だな、あやせ。俺は前に、あやせの頼みで桐乃に探りを入れようとして、あっさりと見透かされちまったもんだったんだが。
「で、どうだったんだ?」
「それが、、、洋服とかアクセサリーとか、いろいろ見てまわったりしてたんですけど、、、桐乃ってば、欲しいと思ったら自分ですぐ買っちゃうんですよね。」
「あ、、、そか。」
あいつ、読モ続けてるから、自分で買えちゃうんだもんな。
「じゃあ、やっぱり分からなかった、ってことか?」
「いえ、そうじゃなくて。桐乃がすごく気に入ってたみたいだったのに、買わなかったものが一つだけあったんです。だから逆に分かりやすかったというか。」
「へぇ、それって何だったんだ?」
「、、、お兄さんは何だったと思いますか?」
「え?」
「少しくらいは自分で考えてみてください。」
そう言って、頬をぷうっと膨らませるあやせ。
まぁ、考えてみりゃ確かにそうだよな。
考えていなかった、というわけじゃないのだが、俺はもう一度、考えを巡らせてみる。
「う~ん、、、、、、、、、。」
そう言って、腕を組んで困ったように考え込むお兄さん。
きっとこの人のことだから、考えてなかった、とかじゃなくて、どれがいちばんなのか、本当に悩んでいるのだろう。
ちょっぴり妬けちゃうから、お兄さんにはちょっとだけ悩んでもらうとして。
せっかくだから、少しだけ時間を戻して話をしよう。
桐乃と買い物に行ったときの話を---。
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「あやせ、これ、可愛くない?」
「どれ?」
「これこれ。どう?」
「うん、すごく似合ってるよ、桐乃。」
「マジ?んじゃ、これにしよっかな。すみませーん、これくださーい。」
あ、これも買っちゃうんだ、、、。
わたしはいま、桐乃と二人で渋谷に買い物に来ている。
お兄さんから相談を受けたわたしは、さっそく桐乃を誘って買い物に出かけたのだ。
そこで桐乃が欲しがっていそうなものをこっそり調べよう、と思っていたのだけれど、、、。
「桐乃?さっきも服買ってたよね?」
「ん?まーね。でも、買い物は一期一会だし?次に来たときになくなってたりしたらショックじゃん?」
「まあ、そうだけど、、、。」
そうなのだ。さっきからこの調子で、桐乃は気に入ったものをどんどん自分で買ってしまっているのだ。
「特に限定品とか、レアものとかは、一度買い逃すと二度と手に入らなかったりするんだよねー。沙織も言ってたケド。」
「沙織さんって、、、サークルの?」
「そ。」
「へえ、、、沙織さんとも買い物に行ったりするんだ。」
「うん、よく行くよ?」
「ふうん。」
ちょっとだけ口を尖らせるわたし。
「あいつってば、アキバに超詳しいし?レアものとかがありそうな店をよく知ってんだよねーw」
あ、、、そっちのほうのお店、、、ね。
「こないだも、超レアもののグッズが置いてある店、教えてくれたんだー。あのとき買った限定版メルルのフィギュアも美琴さんのメイド版フィギュアも、超可愛かったな~、ふひっ♪」
「き、桐乃?」
「しかも、しかも!ちょうゆっくりやったら、キャストオフまで出来ちゃったし!ふひひ~、たまんないよね~♪じゅるっ。」
「キャ、キャスト、、、なに?」
「え?あ!ゴ、ゴホン。まあ、それは置いといて。最近忙しくて服とかの買い物とかできてなかったしさ。それに、せっかく渋谷まで来たんだし?ここで買わなきゃいつ買うの?ってカンジじゃん?」
「そ、そうだね。」
「ん。だから今日は誘ってくれてありがとね、あやせ。」
「う、うん。」
そう答えてはみたものの、、、。
これじゃ、お兄さんの相談に応えられないじゃない、、、。はぁ、どうしようかな。
、、、ううん、まだまだ。まだ、あきらめないんだから。
「桐乃?じゃあ、次、あの店に行ってみようか?」
「あ、いいね。行こ行こ。」
そんな感じでいくつものショップを巡るけれど、なかなか目的の答えが見つからない。
そうこうしているうちに、、、。
「あ、もうこんな時間じゃん。」
あたりも暗くなり始め、そろそろ帰らないといけない時間になってしまっていた。
「じゃあ、最後。あの店にちょっとだけ寄ってこ?桐乃。」
もう一軒だけ。
そう思って桐乃を誘って入ったのは、とあるアクセサリーショップ。
神様、どうか、目的のものが見つかりますように。
そう願いながら、二人で店内を見てまわる。と、そこで。
「、、、!あ、これ、新作出たんだ。やっぱ可愛いよね~。」
とあるショーケースを、桐乃が覗き込んで、そう口にする。
それにつられるように、わたしもショーケースを覗き込む。
「あ、ほんとだ。可愛い。」
「でしょでしょ?」
あれ?
「、、、そういえば桐乃、少し前に似たようなの付けてたよね?最近付けてないけど、あれ、どうしたの?」
「ん?あれ?あれは、、、ちょっと、ね。」
「無くしちゃったの?」
「や、無くしちゃったワケじゃないんだけど、、、。」
「ふうん。」
珍しく言葉を濁す桐乃。
「じゃ、そろそろ帰ろっか?」
「え?これは買わないの?」
「うん。代わりのもの、ちゃんとあるし。」
「そうなの?」
「うん。だから、、、いいの。」
そう言ってそれを見つめる桐乃の横顔は、幸せそうな微笑みを浮かべているものの、、、どこかちょっぴり切なげで。
それを見て、わたしはなんとなく直感したのだった。
そっか。
これなんだ。
きっとこれが、桐乃がいちばん欲しいもので、、、そして、お兄さんが桐乃にあげるべきものなんだろうな、って。
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う~~~~~~ん、、、。ダメだ。
ひとしきり考えてはみたのだが、やっぱり答えが見つからない。というか、選べない。
「えっと、、、な。」
しかたなく俺はあやせに、こう答える。
「えっと、、、おまえに相談する前に考えてたのは、やっぱりアクセサリーとかかな、とは思ってたんだけど、、、。」
「、、、なるほど。」
「でも桐乃がいちばん好きなアクセサリーってのが、どんなものなのか分からなくてさ、、、。それで、その、、、これっていうのが選べなくてな。」
「やっぱり。」
「やっぱり?」
「いえ、こっちの話です。じゃあ、ヒントをひとつだけ。」
「ヒント?」
「はい。それは、、、えっと、、、桐乃が普段、身に付けていないものです。」
「身に付けていないもの、、、?」
「はい。あ、でも、一時期だけ、ずっと身に付けていましたけどね。」
「一時期だけ?」
「ええ。それで珍しいな、と思ってはいたんです。だけど最近は付けてなくて。あ、もしかしてヒント出しすぎちゃったかな?」
「、、、そっか。」
桐乃が一時期だけずっと身に付けていたもので、今はもう身に付けていないもの。
それで思い当たるのは、ひとつしかない。
「ありがとな、あやせ。おかげで何をプレゼントすればいいか、分かったよ。」
「ほんとですか?」
「へっ、そんだけヒントをもらえりゃあな。ちなみになんだが、その買い物に行った店は、渋谷の109だったりすんのか?」
「、、、さすがですね、お兄さん。」
「よし、んじゃ、ちょっと行ってくるか。」
「え?今からですか?」
「おう。今から行けば、まだ十分間に合うだろ?」
「それはそうかもしれませんけど、、、。」
「ホントありがとな、あやせ。じゃあ行ってくる!」
そう言って、あやせに手を振ってから、真っ直ぐに走り出す。
まったく俺ってやつは、どこまで鈍いんだか。
こうやって言われなきゃ、気付けないんだからな。
答えは最初っから、俺の中にあったってのに。
それは、俺がいちばん、桐乃に渡したかったもので。
この特別な誕生日にこそ、渡さなきゃいけないもの。
そして、何よりも。
夢を叶えてくれるものじゃなくっちゃあな---『魔法』ってのはよ。
---うし。
待ってろよ、桐乃。
おまえの16歳の誕生日。
ずっと思い出に残る、とびっきりのプレゼント、届けてやるからな!
Fin
その後ろ姿を眺めながら。
真っ直ぐに駆け出していくその背中を見て、思わず、ふふっと微笑む。
まったく、、、あいかわらずですね。
それを見送りながら、わたしは小さくつぶやくのだった。
「、、、行ってらっしゃい、お兄さん。」
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最終更新:2014年11月08日 23:54