SS『SweetMemory』



ふあぁぁぁ、、、。さて、寝るかね、、、。

ばんっ!

「どわ!な、なんだ?!」

俺が布団に入ろうとしたところで、桐乃が勢いよくドアを開いてきた。

「あたしの部屋に来て!今すぐ!」

「こんな夜更けにどうしたんだ?」

「いいから!早く!」

ばっ、と俺の手を取って、いつものように引っ張っていく桐乃。

やれやれ、、、毎度のことながら、まったくこいつは。
おとなしく部屋に入ってくる、ということができんもんかね、、、。
そう心の中で愚痴りながらも、いつものように渋々ついていく俺だった。



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「で?何なんだ?いったい?」

部屋に入って、そのまま、とすん!と椅子に座った桐乃に俺は問いかけた。

「これ!」

パソコンのモニタを桐乃が、びっ、と指差す。

「これ?」

そう言いながら俺はモニタを覗き込む。

そこに映し出されていたのは、とある動画サイトだった。

「?これがどうしたってんだ?」

「いいから!見てて!」

桐乃が動画の再生ボタンを押して、表示されていた動画の再生を始める。

「えっと、、、アニメ、、、なのか?」

始まったのは、なにかのアニメのようだった。校舎の映像に合わせてプロローグを物語る主人公?の声が重なる。
そしてやがて、OPのイントロが流れ始め、そのアニメのタイトルがでかでかと表示される。

「うぉっ!」

俺は思わず驚嘆の声を上げた。

「こ、これって、もしかして、ラブタッチのアニメなのか!?」

そう、画面に表示されたタイトルは、なんと、以前、俺と桐乃が嵌っていたゲームと同じものなのだった。
そして、OPの歌が始まり、ラブタッチのキャラが画面に大きく映し出される。

「おおっ!きりたん!それに、あやかたんも!」

ゲームと同じヒロインたちが、歌に、そして音楽に合わせて、所狭しと動き回っていた。

「すげぇ!」

俺は思わず感嘆の声を上げる。

好きなゲームがアニメ化されるって、嬉しいもんなんだな!
俺は画面に釘付けになって、アニメの映像を楽しんでいたのだが、

ぴっ。

桐乃がおもむろに早送りを始める。

「おい!なんてことしやがる!」

「み、見てほしいのはここじゃないの!」

「え?このアニメを見せたかったんじゃないの?おまえ?」

桐乃はそれには答えず、しばらく無言で早送りを続けたあと、ぴっ、と再生ボタンを押して口を開く。

「えっとね、、、ここ。このシーン。」

桐乃が早送りを止めたのは、ヒロインの一人であるきりたんが、お兄ちゃん、つまり、主人公と夕日の中を自転車の二人乗りで走っているシーンだ。
夕日がすごくきれいなシーンなのだが、、、何故か自転車に不自然な光の帯が重なっていた。
そして、口ではグチグチ言い合いながらも、お互い幸せそうな笑みを浮かべている二人。
おまけにヒロインは、主人公はスーツ姿で、ヒロインはドレス姿で、、、
って、これってなんか、見覚え、というか、身に覚えがあるような、、、。

「ど、どう思う?」

「ど、どうって、、、。」

どうやら桐乃も同じことを考えたらしい。

「、、、これってやっぱり、あんときとおんなじだよね?」

「た、確かにそっくりなシチュエーションだが、、、ぐ、偶然か?」

偶然にしちゃ、そっくりすぎる気がするが、、、。
まあ、元々ヒロインである、きりたんの容姿がちょっとだけ妹に似ていることに加えて、この主人公の髪型とかが、どことなく俺に似てることもあって、余計に既視感を感じるのかも知れないが。
それにしても、、、なあ。

「でも、ドレスまでおんなじデザインだし、、、。」

「だ、だよなあ、、、。」



そうしているうちも物語は進んでいき、やがて終盤に差し掛かる。
そして最後に二人で手を取り合って歩いていく後ろ姿に、EDの音楽が重なり流れ始めた。

「、、、なあ、さすがにここまでおんなじだと、偶然とは考えられないんだが、、、。」

「だよねー。でも、あんとき誰かに見られてたっけ?」

確かにあんとき、『ドレス&スーツの痛チャリが街中を爆走!?』なんてネットでネタになっていて驚いたものだったが、幸い、身元バレするような写真なんかは出ていなかったし、それもなんか『二人乗りってアウトじゃね?』とか『補助輪付きだからセーフっしょ?』とかいう変な流れになって、そのまま忘れ去られていったはずなのだが、、、。

「うーん、、、。」

二人で頭を抱えながら、EDのスタッフクレジットを眺めていると、、、

「あっ!」

桐乃が突然、声を上げた。

「ど、どうした?」

「ちょっと待って、、、。」

少しだけ巻き戻したあと、再び再生を始める。そして

ぴっ。

「これ。あんた、見覚えない?」

「これ?」

一時停止された画面に書かれていたのは、衣装デザイン協力のメーカーのロゴだった。

「えっと、、、E、、、B、、、S、、、か?」

「そう、EBS。わかんない?」

「なんか、ロゴには見覚えがあるんだが、、、何だっけ?」

「エターナル・ブルー・シスターの略、って言ったらわかる?」

「エターナル・ブルー、、、って、エタナーのことか?それに、シスター、、、、、って、まさか!」

「気が付いた?」

「ああ、、、ってことは元凶はヤツか、、、。でも何で自転車で二人乗りしてるとこまで再現できたんだ?あいつ、俺にチャリを貸して会場にそのまま残ってたから、そんなとこを見てるはずが無いんだが、、、ともかく、ちょっと待ってろ。」

ぴ、ぴ、ぴ。

俺は携帯を取り出して、ヤツに電話を掛ける。

ぷるる、、、ぷるる、、、がちゃ。

『やあ、京介くん。こんな夜更けにどうしたの?』

「いや、ちょっとおまえに聞きたいことがあってな。いま、とあるアニメをネットで見ていて、ちょっと気になるシーンがあったんだが、、、。」

『ああ、ラブタッチのことだね。気に入ってくれたかい?』

「やっぱりおまえか!」

『いやあ、あのアニメの脚本家さんが知り合いでね。なんか、ネットのニュースで君たちの二人乗りのことを知ったらしくて、アニメのネタに使いたいって言ってたから、じゃあ詳しく教えてあげますよ、って言ったんだ。』

よ、余計なことを、、、!

「でも俺、自転車を借りたあと、おまえと会っていなかったと思うんだが?」

『会場にドレス姿の女の子とスーツ姿の男の人が二人で手を繋いで入ってくれば、そりゃ目立つって。というか、二人とも気付かなかったの?すごく目立ってたのに。』

マジか、、、。

「で、でもだな、、、。自転車で二人乗りのシーンまでそっくりだったんだが、あれはどういうことだ?」

『ああ、あれ?あれは美咲さんだよ。』

「は?美咲さん!?」

「え?美咲さん!?」

横で電話の内容を聞いていた桐乃が、驚いて俺の言葉を繰り返す。

『うん。ドレスの詳細を聞こうとして連絡したら、ちょっと遠くからだけど、録画したのがあるから使っていいわよ、って、言ってくれてさ。』

な、なにしてくれてんだ?あの人?

「つ、つーか、、、なんでまたそんなものを撮ってたんだ?あの人?」

『あのとき、美咲さん、何か言ってなかった?』

「いや、宣伝になるかも、みたいなことは言ってたけど、、、。」

『ああ、じゃあ、それだよ。』

「は?」

『美咲さんが、ただ宣伝で着て行くためだけに、ドレスを貸してくれたって思ったのかい?そんな面白そうなこと、あの人がほっとくわけないでしょ?』

なっ!?!、、、なん、、、だと、、、!?

『でもまあ、そのおかげで、宣伝を兼ねて、二人の記念の思い出を映像として残すことが出来たってわけ。とは言っても、さすがにアニメでエタナーのロゴは使えなかったから、代わりに僕の個人ブランドのロゴだけどね。でも、美咲さんからの依頼ってことで、ちゃんとクレジットにも入れてもらえたんだよ、二人の名前も。』

え!?いま、なんつった?!こいつ?!

と、思うと同時に、

「あ゛っ!」

続きを見ていた桐乃が驚きの声を上げる。

振り返ってその視線の先にあるパソコンの画面を見ると、EDの最後にこんなクレジットが映し出されていたのだった。



『Special Thanks to 桐乃ちゃん&京介くん』



Fin



「でも、どうやって録画したんだ?美咲さんも、そんなに暇じゃないだろう?」

『なんかちょうどそのとき、いつもお金に困ってる知り合いがやって来てて、お金を貸してくれ、って五月蠅かったんだって。』

、、、なんか、俺の知り合いの、あの人みたいな感じの人だな。そう言えば、容姿だけは美咲さんに似てたしな。もしかして、美咲さんの知り合いって、ホントにあの人だったりして。って、まさかな。

『そんな時に京介くんが桐乃さんを迎えに来たのを見てピンと閃いたらしくて。それで君たち二人を見送ったあと、その人に、いい映像が取れたら高値で買い取るわよ、って話したら、二つ返事で了解して、追っかけて行ったって話だよ。』

、、、なんか、、、ホントにあの人にそっくりな行動パターンなんだけど、、、。

『でも結局、録画した映像が小さすぎて、使い物にならないってことで、追跡分のタクシー代だけ渡して追い返したみたい。なんか、可哀想な人だよね。』

、、、ぜってー、あの人だろ、間違いなく。


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最終更新:2015年11月29日 00:44