SS『わたぬき』



朝晩の寒さがようやく和らぎ、暖かな春の日差しが段々と眩しくなってきた、そんなある日の朝。

俺がリビングで寝ころがって一人でマンガを読みながら寛いでいると、不意にかちゃりと扉が開く音がした。

「あれ?お袋、さっき出かけるって言って---っ!!!」

そこまで言いかけて、扉のほうに視線を向けた俺は、一瞬で言葉を失う。

「へへ、、、どう?可愛いっしょ?」

そんな風に話しかけてきたのは、スポーツ万能、学業優秀、容姿端麗な中学生---じゃねぇな、もう。

この前まで中学生だった、俺の妹だ。

で、その件の妹がどんなカッコしてるかっつーと、、、

「そ、それ、新しい高校の制服か?」

「そ。」

そう言って、くるんと一回り身を躍らせて---

「どう?」

俺に背中を向けた状態で、見せびらかすようにスカートの裾をちょんとつまみ、少しだけ振り返った横顔で、そう聞いてくる妹。

「どどどどうって言われても、、、」

あー!もう!なにドモりまくってんの!?俺!?動揺してんのバレバレじゃん!

「ひひひ、あんた、顔、真っ赤。」

正面に向き直った桐乃が、いつものように両手を偉そうに腰に当てて、嬉しそうに、にひひ、と笑う。

「に、入学式って、まだ先なんじゃねーの?」

話をはぐらかそうと、俺は話題を変える。

「んー、まあ、そうなんだけど、、、。」

桐乃は自分の制服を眺め回しながらそう言ったあと、チラっとこっちを見る。

「、、、ま、まあ、か、可愛いんじゃねーの?」

真っ赤になった顔を隠すようにマンガに視線を戻しながらそう言いつつ、横目でチラリと妹に目を向けると。

「ん。」

満足げな表情で、そう答える妹。

、、、しかしなんでまた、入学式でもないのに、制服着てんだろうな?こいつ?

ん?もしかして、、、一番最初に俺に見せたかったとか?

って、はは、まさかな。

というか、、、中学のときと違って大人びて見えるのは、制服のせいなんだろうか?

そんなことを考えていると、

「ねぇ、ちょっとコッチ来て。」

そう言って制服姿の桐乃が俺の手を引っ張ってきた。

「な、なんだ?」

それにつられるようにしてソファーから身を起こしつつ、俺がそう問い返すと、

「いいから。早く。」

と、急かす妹。

「やれやれ、、、。」

そして立ち上がった俺は、いつものように苦笑しながら妹についていくのだった。



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で、やってきたのは桐乃の部屋。

「それで?なんなんだ?いったい?」

改めてそう問いかけると、桐乃はそれに答えずに、壁に掛けられた制服を手に取り---

「はい、これ。」

と、それをこっちに差し出す。

「これ?」

そう言って俺が受け取ったのは、俺の高校のときの制服だった。

結局あれからそのまま、桐乃の部屋にかけた(飾った?)ままとなっているのだ。

「えっと、、、これを着ろってこと?」

「そ。」

ふひひー、と笑いながらそう答える妹。

「、、、まあ、いいけどよ、別に。」

なんなんだろうな?いったい?



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「えーっと、、、これでいいのか?」

自分の部屋で久しぶりに制服に着替えた俺が、桐乃の部屋の扉を開けると、

「ん。じゃあ、こっち来て。」

と言って、同じく制服のままで待っていた桐乃が立ち上がって、ちょいちょいと手招きをする。

何やら後ろ手に棒のようなものを持っているようだが、、、まさか鈍器とかじゃあるまいな。

「ああ、、、。」

いぶかしげに俺が近づくと、桐乃がいきなり俺の腕を取って腕組みしながら、もう一方の手に持っていた棒を目の前にかざす。

「な、なんだ!?」

そして---

ぱしゃ。

ん?ぱしゃ?

突然の出来事に驚きながらも、桐乃が手に持っていた棒の先に目を移すと、そこにスマホが取り付けられていた。

「な、なんだ?それ?」

「知んないの?」

桐乃は先端についていたスマホを取り外しながら、

「自撮り棒っつーの、コレ。最近けっこー流行ってんだよ?」

と教えてくれた。

「じどり棒?」

意味が分からずに、そのまま問い返す俺。

「自撮り棒。ほら、こんな風に使うんだってば。」

そう言って見せられたスマホの画面に写っていたのは---

「なっ、、、!」

俺と桐乃が、お互いの高校の制服姿で腕を組んでいる、ツーショット写真なのだった。

「め、、、めっちゃ恥ずかしいんだが、コレ!?」

思わずそう口にした俺に、桐乃が同じように真っ赤になって声を上げる。

「く、口に出して言うな!こっちまでテレるじゃん、、、!つかコレ、今日しか取れない、特別な記念写真なんだかんね!ちゃんと感謝すること!分かった!?」

「え、、、?今日だけ?」

「そ、そう!今日だけ!」

そう言って、となりでぷいとそっぽを向く妹。

「???」

そんな妹が手に持って俺に見せているスマホの写真を、もう一度よく眺めて見た俺は。

「、、、ああ、なるほど、そういうことか。」

そこに写る今日の日付を見て、ようやくその言葉の意味を理解したのだった。



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「しかしアレだな、、、。」

「ん?なに?」

「いや、制服着てたのなんて、そんなに昔のことじゃないのによ。」

「うん。」

「いざ卒業した後で着てみたら、コスプレしてるみたいに思えるのは、なんでなんだろうな?」

「あ、あたしが知るかっ!」



Fin



ちなみに、そのあと。

部屋に戻って着替えてから、制服を返しに来た俺が見たものは。

中学生のコスプレをした妹の姿なのだった。



「ち、ち、ち、違うんだからね!これは!そ、そ、そ、そういうんじゃなくって!ええっと、、、つまりその、、、あ!こら!待て!黙って扉を閉めんなぁっ!!!」



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最終更新:2015年11月29日 00:46