SS『雨の帰り道』
先月までの朝晩の暑さがあっという間に過ぎ去って、朝の冷えた空気が心地いい、そんなある日の放課後の帰り道。
あたしは今、昼過ぎまで気持ちよく晴れていたはずの空とにらめっこしていた。
「はぁ、、、雨なんて、天気予報じゃ言ってなかったのになぁ、、、。」
少し遅くなった帰り道の途中で急に降りだした小雨の中、あたしは空に向かって愚痴をこぼす。
強く降ってるワケじゃないけど、止みそうにない空模様。
「しかたない、バスで帰るか、、、。」
ちょっと先にあったバス停まで小走りで駆け出す。
と、そのとき、ちょうどタイミングよくバスがやってきた。
「あ、らっきー♪」
あたしは一緒にバス停に辿り着いた、そのバスに飛び乗った。
へへ、やっぱ日ごろの行いだよねーwこーゆーのって。
雨のせいでちょっとだけ憂鬱になっていた気持ちが少し軽くなる。
「えっと、、、。」
乗り込んだバスの中で、あたりを見渡す。
人は疎らで席は空いているものの、生憎、一人掛けの席は埋まっている。
あたしは仕方なく後方の二人掛けの席に足を向けた。
『発車します。ご注意ください。』
ゆっくりと動き出すバス。
そーいえば、あいつもこの通りを通って学校に行ってるんだよね、、、。
もしかしたら、、、って、そんなワケないか。
たまたま飛び乗ったバスにあいつが乗ってくるワケないよね。
そんなことを考えながら、窓のほうをぼんやりと眺める。
急に降り出した雨のためか、窓が少し曇っていた。
、、、、、、、、、。
あたしは何となく、その窓に指を走らせる。
と、そこで次のバス停に着いたバスが停車する。
やば、消さなきゃ。
あたしは持っていたハンカチで窓をさっと拭き、書いた文字を慌てて消して---
そして、何事もなかったように前を向き直す。
乗車口が開き、何人かの乗客が乗り込んでくる、、、って!ええっ!?
乗ってきた一人があたりを見渡し、あたしと視線がぶつかる。
ちょっとだけ驚いた表情になるそいつ。
そしてそいつは、ゆっくりとコッチに向かって歩いて来て---
あたしの横にとすんと座る。
「よう、今帰りか?桐乃?」
「な、なんで!?」
「いやー、今日雨降るって知らなかったから傘持ってきてなくてさ、俺。」
「じゃなくて!なんでこのバスに乗ってきたのよ!あんた!?」
「へ?いや、たまたま来たバスに乗っただけなんだが、、、?」
あ、、、そか。そりゃそうだよね、、、。
考えたら当たり前のことなんだけど、さっき変なことを考えたせいか、つい変に意識しちゃったじゃん!
むー、、、。
あたしはそいつを睨みつける。
「な、なんだよ?どうしたんだ、いったい?」
、、、ったくもう。
「ふんっ、なんでもないってーの!」
あたしは赤くなった顔を見られないように、ぷいっ窓に顔を向ける。
その窓に映るそいつが『ふっ』と笑みをこぼす。
あーもーむかつくなー。
「なにニヤニヤしてんのよ!きもっ!」
あたしはそいつの脇を肘で突きながら、小声で話す。
「別に大したことじゃねーよ。バスに乗るときに、そういやおまえの通学路だなって思ってさ。もしかしたらって思って乗ったらホントに乗ってやがんだもんな。つい笑っちまったぜ。」
「、、、、、、ふんっ!」
なに同じコト考えてんのよ!このシスコン!
心の中でそう言いながら、また窓に向かって顔を向ける。
「あ、そーだ、桐乃?」
「、、、なに?まだなんかあるワケ?」
「いや、なんつーかさ、、、。」
なに照れてんの?こいつ?
「なによ?ハッキリ言えっての。」
あたしがそう言うと、そいつは頬を指で掻きながら、こう口にしたのだった。
「えと、、、な、、、桐乃。窓に指で書いた落書きってさ、、、。ちゃんと消さないと跡が残るって知ってるか?」
「へ、、、?」
こいつ、なにを言って、、、って!!!
あたしは、ばっ、と窓のほうに顔を向ける。
そこには再び曇ってきた窓ガラスと、消したはずの文字が大きく書かれていたのだった。
「ちょっ!!!み、見んなっ!!!」
慌てて隠そうとしながら振り返る、、、!
ぱしゃ。
「な!なに写メ撮ってんのよ!あんた!」
「ひひひ、バッチリ写ってるぜ?桐乃w」
「ちょ!か、返せぇぇぇぇぇっ!!!」
『あのー、、、お客様。乗車中の痴話喧嘩は大変危険です。バスを降りられましてからお願いします。』
どっと起こる笑い声。
そのあと途中のバス停で二人とも降りる羽目になったのは言うまでもない。
Fin
「ちょっと!もっとコッチ寄れっての。濡れちゃうじゃん!」
「だからコンビニで傘2本買おうっつただろ?」
「だ、だって勿体ないじゃん!」
「やれやれ、、、。これじゃさっきの落書きと同じだな。」
「お、思い出した!帰ったらちゃんと返してよね!」
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最終更新:2015年11月29日 01:55