823 :【SS】:2015/11/30(月) 14:27:29.21 ID:Rwa8sAIH0

SS『小春日和の休日に』



街路樹が鮮やかに街を彩り始めた、そんなある日の午後の公園で。



「あの、、、お兄さん、、、その、、、人生相談が、あるんだけど。」



そんな言葉を耳にした俺は、自分の耳を疑って、そのままオウム返しに問い返す。



「じ、人生相談?」

「、、、うん。」



マジか、、、。

ま、まさか、この子から、この言葉を聞くことになるとはな。

ん?ああ、すまない。説明不足だったな。

大学から帰宅している途中の商店街で、この子に呼び止められた俺は、近くの公園に連れてこられたってワケ。

、、、てか、この公園に来ると、いつも人生相談を受けてんな、俺って。もういっそ人生相談公園ってことにしちまうか?

そんなくだらないどうでもいいことはさておいて。

この子の名前は、筧沙也佳ちゃん。

覚えていないやつもいるかもしれないので、一応説明しておこう。

以前、俺が一人暮らししてたときに、あやせが俺の家に通っていろいろと面倒を見てくれてたことがあったんだけど、それを見て誤解した結果、あやせのファンからストーカーにクラスチェンジした女の子だ。

といっても、その件はもう解決済みで、今ではあやせのことを慕っている後輩になっていた、はずなのだが、、、。

「えっと、、、人生相談って、どういう相談なんだ?」

「あの、、、。あやせちゃんのこと、、、なんだけど、、、。」

「あやせの?あやせがどうかしたのか?」

「えっと、、、前にお兄さんの家で話し合ったでしょ?」

「ああ。」

このあたりを説明しだすと長くなるので、あのとき俺がやったことを簡単に説明するとだな。

この沙也佳ちゃんとあやせと俺の三人による話し合いの場を作ってやって、そこで俺が沙也佳ちゃんにエロフィギュアを見せて説教したのだ。

、、、いかん。これだと単なる変態じゃねえか。誰かさんの『通報しますよ!』が聞こえてくるようだぜ。

ええと、要するにストーカー行為を止めさせるために、三人で話し合いをしたってワケ。

「あのあとあやせちゃんに、写真を撮らせてってずっとお願いしてるんだけど、、、いつも『そのうちね』って言われて、、、なかなか撮らせてもらえなくて、、、。」

あーーー、そういうことか。

「それで、どうしていいか分からなくなっちゃって、、、。」

そう言って、彼女はしゅんと俯く。

あの話し合いの場で、俺は確かにこの子にそう伝えた。

だからこの子はちゃんと謝って、素直にお願いしたってことか。

でもまだ撮らせてもらえていない、と。

ったく、あやせも写真くらい撮らせてやればいいのに、、、。

つっても、元々は俺が提案したことなんだし、、、ちゃんと最後まで面倒みてやらねーとな。

「分かったよ。沙也佳ちゃん。」

「え?」

「俺に任せとけ。きっと何とかしてやるからさ。」

「あ、、、うん。、、、その、、、。」

「ん?」

「、、、あ、ありがとう。」

ぺこりとお辞儀をする彼女。やっぱ、根は素直ないい子じゃねぇか。

ポンと彼女の頭に手を乗せて俺は、こう言ってやった。

「楽しみに待ってな。」

「うん!」



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「あーーー、もしかして、写真の件ですか?」

帰り着いてから早速あやせに電話して、沙也佳ちゃんの名前を出したところ、この返事が返ってきた。やっぱりあやせも気にはしていたようだ。

「俺が言うのもなんだけど、写真くらい撮らせてやってもいいんじゃないか?ちゃんと素直にお願いしてるんだからさ?」

「それはそうなんですけど、、、。」

「やっぱり事務所の関係とかでダメだったりすんの?」

「いえ、そうではないんです。別に写真を撮るのがダメってわけじゃなくて。」

「なくて?」

「その、、、撮った写真があのブログに載るのがちょっと、、、。」

あーーー、なるほど。そっちのほうの問題か。

「ブログ自体は彼女が個人的に作っていたものだし、無許可で撮ったものではありますが、写真自体も変な内容とかではないので、それについては別にいいんですけど、、、あの文面だけはちょっと、、、。」

確かにあの文面はキモかったしな。気持ちは分かる。

見てる分にはキモ可愛いってことでいいのかもしれないが、載せられてる本人としては複雑だろう。

「それに、写真を撮らせてあげる、って言っても、あの子の前でモデルみたいなことをするのも、ちょっと恥ずかしいですし、、、。」

言われてみれば、あやせがあの子の前でモデルをやって、カメラマンとしてあの子がそれを写真に撮ってるところ、ってのも想像しにくいものではあるな。

「そういうわけで、わたしも正直どうしていいか、悩んでいたところだったんです。お兄さん、どうしたらいいと思いますか?」



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やれやれ、まいったな、、、。

沙也佳ちゃんだけじゃなくて、あやせからも相談を受けることになっちまうとはな。

さて、どうするか。

内容的に、俺一人で悩んでいても埒があきそうにない。誰かに相談するか、、、。

写真とか撮られるのに慣れてて、そういう業界とかに明るくて、ブログとかネットとかにも詳しいヤツ、、、って、一人しかいねえよな、やっぱ。



「、、、という訳だ。」

「あんたってば、相変わらずおせっかい振り撒いてんね~。」

「しかたないだろ?俺がその話をしちまったんだからよ。」

「やれやれ、しょーがねーなーw」

真似すんな。

「要するにさ、その沙也佳ちゃんはあやせの写真が撮れればいいワケでしょ?」

「ああ。」

「だったらモデルってことに拘らなくてもいいんじゃない?」

「どういう意味だ?」

「だからー、モデルとしてじゃなくて、普通に写真を撮れるようにすればいいってこと。あんただったら普段、どんな時に写真を撮る?」

「そういうことか。えーと、俺が写真撮ったりすんのって、、、おまえと出かけた時とか?」

「なっ、なに言っちゃってんの!」

「いや、ほかの時に写真とか撮らないし?俺。」

「じゃなくて!一般的にって意味で!なんであたしと出かけた時に限定すんのよ!あんたは!」

「おまえが『おれだったら』って言ったんだろ?」

「そ、それはそうだけど!」

「まあ、一般的に言えば出かけたりした時、ってことだから、、、つまり、一緒に遊びに行って普通に写真を撮れる機会を作ればいいってことか。」

「ったく、、、そーゆーこと。あとはブログの問題だけど、、、これは限定公開にしてもらえばいいんじゃない?」

「限定公開?」

「そ。知ってる人だけに見れるようにすんの。友達とか、知り合いとかさ。それだったら、他の人には見られないからいいんじゃないかと思うんだけど?」

「なるほど。」

「ま、これはあやせにも聞いてみないといけないんだケドね。でも多分、大丈夫じゃないかな、きっと。」

「そっか。」

よし、これで解決策は見えてきた。だが、肝心なところがまだ見えない。

それは、どうやってあの二人を一緒に遊びに行かせるか、ってことなんだが。

沙也佳ちゃんと二人で遊びに行く、っていうことに対して、あやせが誘いに乗ってくるようには思えないんだよな。

つまり、あやせをおびき出すエサが必要ってことだ。

一番のエサは目の前にいるこいつなんだが、、、。

「ところでさー、その沙也佳ちゃんって妹?可愛い?」

、、、どうやらこいつをおびき出すエサも見つかったようだった。



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「で?なんであんたまでいんの?」

「しかたないだろ!俺が言い出したことなんだから!」

ちなみに今いるのはとある遊園地。

三人をおびき出す算段までは出来たものの、誰からその話を切り出させるか、ってところでまた煮詰まってしまった結果、俺は結局、自分で話を切り出す羽目になったのだった。

まあ、いつぞやの旅館で日向ちゃんと珠希ちゃんを目の前にした桐乃を知っている俺としては、桐乃が暴走した時のストッパーとして行かないわけにはいかないだろう、というのもあったのだが。

「まぁまぁ、桐乃。でも珍しいよね、桐乃とお兄さんが二人一緒の時に遊びに行くのって。」

確かに、このメンバー、っていうか、あやせと桐乃と俺って組合せは、これまで殆ど無かったしな。

沙織の宅配テロの同人誌を見せまいとしてすったもんだの末に桐乃の胸を揉んじまった時とか、コミケの帰りに桐乃が同人誌を見られた時とか、公園で俺があやせに同人誌を見せて絶叫した時とか、一人暮らしで全員が一堂に会して騒動になった時とか。

いかん、ろくな思い出がねえな、こうして思い出してみると。

「まぁねー。今日はよろしくね、沙也佳ちゃん。」

「は、はい。今日はありがとう、桐乃ちゃん。」

「いいって、いいって、お礼なんか。んじゃ、さっそく行こーか。」

流石にあやせが一緒ということもあってか、桐乃は今のところ沙也佳ちゃんに喰らいつくこともなく、ちゃんとお姉さんらしく振る舞っていた。

それを見ながら、何となくリアのことを思い出す俺なのだった。



それからしばらく、いろんなアトラクションに行っては写真を撮りつつ、アトラクションを楽しむ三人。

俺はというと---



「ねぇ、のど乾いた。ジュース買ってきて。」

「はい、これ持ってて。みんなの荷物。」

「次!あのアトラクションに先に行って並んでて!」



、、、ま、いいけどな、別によ。



そんな感じでアトラクションを楽しむ三人の帰りをベンチで待つ俺。

と、そこで

「高坂!高坂じゃんか!」

後ろからいきなり声をかけられた。振り返ってみると、そこに立っていたのは---

「、、、誰?」

ピンクのウサギに知り合いなんていないんだけど、俺。

つか、俺の知り合いに着ぐるみが好きなヤツなんて、、、まあ一人、いるっちゃあいるか。

でも声も違うし、何よりこれほどのフルアーマーで装備するようなヤツじゃないしな。

「俺だ!赤城だ!見て分かるだろ!」

「分かるか!バカ!つか、こんなとこで何してんの?おまえ?それにその着ぐるみは?」

「これか?これはバイトの着ぐるみだ。実は、我が愛しい瀬菜ちゃんと、憎き真壁のヤロウがここに来るという情報を仕入れてな。それで俺はこれで身を隠しつつ、園内を探し回っていたのさ。」

「なにやってんだよ、、、おまえ。」

「そしてさっき遂に二人を見つけたんだ!だけど追いかける途中で運悪く子供たちに絡まれちまってさ、、、で結局、二人をまた見失っちまったんだよ。」

絡まれた、って言うな。仕事だろーが、おまえの。

「それで仕方なくこうして再び園内を探し回っている、という訳だ。で、どこかで見かけなかった?瀬菜ちゃん?」

「いや、、、見てねーな。」

「そうか、、、。」

がっくりと肩を、てか顔?を落とす赤城。

どーでもいいが、着ぐるみのままリアクションすんな。悄気るウサギとかシュールすぎんだろ。

と、そこへ再び背後から声がかかってくる。

「何してんの、あんた?あれ?櫻井さん?どしたの、そのカッコ?」

おい。着ぐるみを櫻井って決めつけんな。

俺も人のことは言えんけど。

「桐乃ー、ジュース買ってきたよー?」

そこへ四人分のジュースを持ったあやせと沙也佳ちゃんが戻ってくる。

「なにっ!キミは!ラブリーマイエンジェル!あやせたん!」

「な、なんですか?この着ぐるみ?気持ち悪い!」

「ぐはぁっ!」

直接口撃を食らって倒れ込むピンクのウサギ、もとい、赤城。

まぁ、いきなり着ぐるみにそんな呼び方されたら、そーなるわな。

まだ蹴られない分だけマシだと思うぞ?

「あ、そう言えばさ、桐乃。ここで瀬菜、見かけたりしたか?」

「え?せなちー?さっき会ったよ?観覧車のトコで。真壁さんと順番待ちしてたけど?」

「観覧車かぁぁぁっ!」

それを聞くや否や、倒れ込んでいたウサギは飛び起きて、そのまま駆け出して行ってしまったのだった。

「なに?あれ?あんたの友達?」

「まあ、一応な。」

「ふーん、あんたの友達って、着ぐるみばっかだよねw?」

「おい!誤解を招くような言い方はやめろ!」

「変態(るい)は変態(とも)を呼ぶ、ってことですね。」

「そこ!変な当て字にすんな!」

「お兄さんの友達は、変態ウサギ、っと。」

「おまえも何をメモってんだよ!」

しかもやたらパシャパシャ写真を撮りやがって、、、。だいたいあやせの写真を撮るのが目的だったんだろーが、おまえは。

なんで俺とウサギのツーショットなんて撮ってんだよ!?



と言うか、、、。

居場所を教えておいて言うのも何だが。

あいつ、追いかけて行ってどーするつもりなんだ?

まさかあのカッコのまま観覧車の中まで乗り込むつもりじゃあるまいな、、、。

ふと三人で観覧車に乗りこんでいる絵面を想像して、思わず苦笑する俺なのだった。

、、、健闘を祈るぜ。真壁くん。



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やがて日も陰りはじめ。

俺たちは揃って出口に向かって歩きはじめた。

「どうだ?いい写真、撮れたか?」

俺はほくほく顔でカメラを持つ沙也佳ちゃんにそう尋ねてみた。

「うん!いっぱい撮れたよ!それに、前に撮った写真よりずっといい写真が撮れたし!」

満面の笑みで返事を返してくる沙也佳ちゃん。

「へへ、そりゃ良かったな。」

「うん。なんていうか、、、今日は本当のあやせちゃんが撮れた気がする。」

「と言うと?」

「えっと、、、前に写真撮影をこっそり撮ってた時の笑顔と違ってね、桐乃ちゃんと一緒にいる時のあやせちゃんって、すっごく嬉しそうだったの。ファインダー越しに見てても何となく伝わってきたんだ、それが。」

「だから、ホントに素顔のあやせちゃんは、こっちなんじゃないかなって。」

「へぇ、、、。」

俺は素直に感心した。

そういったところに気付けるってことは、この子のカメラマンとしてのセンスもなかなかいい線いってんじゃねぇかな、って思ってさ。

「それと、、、あの、、、ね。」

「ん?」

「、、、ありがとう、お兄さん。」

「なんだ?あらたまって。てか、お礼ならあの二人に言ってやんな?俺は特に何もしてねぇよ。」

「でもやっぱり、ちゃんとお兄さんにも言っておきたかったんだ。」

「そか。じゃあ、どういたしまして。だな。」

「えへへ、、、。」

「可愛えぇっ!沙也佳ちゃんっ!」

がばっ!

「ひゃ!」

あやせと一緒に後ろを歩いていたはずの桐乃が、急に背後から沙也佳ちゃんに抱きついてきた。

「こら!桐乃!いきなり抱きついてんじゃない!」

おまえ、あやせと話してたんじゃなかったの!?

「き・り・の?」

「うひゃあ!じょ、冗談だってば、あやせ!」

「、、、まったくもう。」

ぷぅっと頬を膨らませて、ぷいっとそっぽを向くあやせ。

「機嫌直してってばぁ!あやせぇ!」

今度はそんなあやせに抱きつく桐乃。

「もしかして、あやせちゃん、桐乃ちゃんにあたしが抱きつかれちゃったから妬いちゃったのかな?」

嬉しそうに小声でつぶやく沙也佳ちゃん。

いや、、、逆だと思うんだけど、、、ま、いいか。



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そして遊園地を出たあとの、駅まで続く帰り道。

「今日はありがとうございました、お兄さん。」

帰り際にあやせがとなりに来て、そう話しかけてきた。

沙也佳ちゃんと桐乃はというと、何やら楽しげに話しつつ、前を歩いている。

それを見ながら、あやせは話を続ける。

「おかげで、あの子が撮りたがってた写真もたくさん撮れたみたいだし、桐乃とも一緒に遊びに来れたし、、、わたしも楽しかったです。」

「そりゃ良かった。そう言えば、写真のほうはサイトに載せても大丈夫なのか?」

「はい、一応、桐乃が言ってくれたとおり、限定公開ってことで話をしてますので。」

「そっか。」

「あと、、、」

「?」

「桐乃もすっごく嬉しそうでしたよ?」

「っ!ま、まあ、おまえや沙也佳ちゃんが一緒だったからな。」

「ふふふ、、、じゃあ、そういう事でも良いです。だけどそのかわり、、、」

「そのかわり?」

「今度は二人っきりで誘ってあげて下さいね?約束ですよ?」

「、、、分かったよ。さんきゅな、あやせ。」

「いいえ。どういたしまして、お兄さん。」



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やがて駅に辿り着き---

「じゃあ、わたしはこの子を送っていきますので。それでは、失礼します、お兄さん。またね、桐乃。」

そう言ってあやせは沙也佳ちゃんと一緒に、駅の中へと歩いて行った。

その後ろ姿は仲のいい姉妹みたいで。

これであやせと沙也佳ちゃんの距離も少しは縮まったんじゃねえかな。

そんな風に思える後ろ姿だった。



「、、、さんきゅな、桐乃。」

「へ?なに?急に?いきなりどうしたっての?」

ちょっとだけ驚いたような素振りで俺の顔を見る桐乃。

「いや、おまえのアドバイスのおかげで、全部上手く行ったからよ。そのお礼だ。」

「べ、別にあんたのためにやったワケじゃないんだケドね。」

「まぁいいじゃねぇか、お礼くらい素直に言わせろよ。ってことで、そのお礼を兼ねて、また遊びに来るか。二人で。」

「え?何言ってんの?てか二人で、って!?」

「おまえと俺で。」

「な、なんで!?」

「お礼だっつっただろ?今?」

「だからあんたのためにやったんじゃないんだってば!」

「じゃあ、お礼じゃなくて、忘れ物を取り行くのに今度付き合ってくれよ。」

「わ、忘れ物?」

「そう。」

「だったら今から取りに戻ればいいじゃん!何で今度なワケ!?」

「今度じゃないと、取りに来れないからな。」

「ど、どーゆーこと?あんたいったい何を忘れたっての?」

「写真だよ。」

「写真?沙也佳ちゃんが撮ってた?」

「じゃなくてさ。」

「え?」

「俺たち自身の、だよ。」

「っ、、、!!」

「今日の主役はカメラマンの沙也佳ちゃんだったからさ。せっかくおまえと出かけたってのに写真撮ってないんだよな、俺。」

「、、、。」

「それで、その忘れ物を撮りに行かなきゃいけないってわけ。だから、頼むわ。」

そう言って、イタズラっぽくニカッと笑う俺。

「、、、はぁ、、、ったくもう、、、。あんたってば、ホンっト、ごーいんだよね。」

しょうがないなぁ、という表情で苦笑しながらそれに答える桐乃。

「じゃあ、決まりな。」

「はいはい。あんたがそんなにあたしと一緒に行きたいならしょーがない。付き合ってあげるから感謝しなさいよねw?」

「へいへいwありがとよ、桐乃。」



そんないつものやり取りをしていた俺たちの背後で。

『ひゅ~っ、、、』

「「ん?」」

二人で顔を見合わせると同時に『どぉん!』という音が鳴り響く。

振り返ると夜空に大きな花火が上がっていた。

「へぇ、花火なんてやってたんだ、ここ。」

「わぁ、、、きれー、、、。」

嬉しそうな表情で花火を見上げる桐乃。

「、、、もうちょっとだけ、見ていくか。」

「、、、そだね。」

「じゃあ、、、ほら、行くぞ。」

そう言って俺は桐乃の手を取る。

「ぁ、、、うん。」

その手を握り返してくる桐乃。

それから俺たちは、花火を見上げながら遊園地に向かって一緒に歩き始める。



「、、、なんかさ、、、。」

花火を見ながら桐乃の手を引く俺が呟く。

「、、、懐かしいね、、、。」

俺の手をきゅっとつかんで桐乃が呟く。

「、、、だな。」



互いの脳裏に描かれた思い出は。

妹の手を引く幼い頃の兄と。

兄の手を握りしめる幼い頃の妹と。

いつか見た大きな花火。



きっと今のこの光景も、やがて思い出となってゆくのだろう。



鮮やかに思い出された過去の俺たちと。

鮮やかに映る今の俺たちと。

そして、鮮やかに思い描く未来の俺たちと。

そんな幾つもの思い出を重ねあわせてゆきながら---。



後ろ手に引いていた彼女の手は、いつしかとなりに並んでいて。

掴んでいた互いの手は、いつしか繋ぎ合う手に変わっていたのだった。



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数日後。

沙也佳ちゃんからサイト更新のお知らせを受けた俺は、さっそくパソコンを開いてサイトにアクセスしてみた。

そこに書かれていたのは---

隠し撮りした写真を載せて自分勝手に妄想していた頃のキモい文章ではなく。

等身大のあやせの魅力をそのまま伝えるような文章になっていた。

へへ、ちゃんとした文章、書けてんじゃねーか。

これだったら、公開しても文句言わねーんじゃねえかな、あやせも。

そんなことを考えながら、サイトをスクロールさせていく。

被写体であるあやせと、一緒に写っている桐乃。

二人の楽しげな声が聞こえてきそうな、そんな写真たちがいくつも並んでいた。

そしてその最後に載せられていたのは---

みんなで一緒に写してもらった写真なのだった。



あたしの大好きな先輩たち!ってタイトルでな。



Fin



ん?

なんかすみっこに書いてあるな、、、『おまけ』だと?

それを何気にクリックしてみると。

一枚の写真が画面に大きく映し出されたのだった。



『お兄さんとお兄さんの変態友達のウサギさん!』



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最終更新:2017年08月26日 10:26