855 :名無しさん@お腹いっぱい。:2016/07/26(火) 00:23:55.78 ID:vChfHUzW0
SS『等身大』※京・桐・あ・加
「そうだ、加奈子、あやせ、そんなら俺の家に来るか?」
そう、お兄さんに言われてまんまとお兄さんの家に行くことになってしまったのは、高校最後の夏休みでした。
大学進学にあたって、わたしは、地元から離れた大学を受験しようと考えていたのです。
わたしにとって、親元を離れての初めての生活。
そんな生活に少しの不安を抱くのも仕方ないじゃないですか。
「あやせがぁ、一人暮らしねぇー・・・つーか、あの過保護な親がよく許したよなぁー?」
「ええ。母はまだ反対していますけど、父は、一度社会を見ておくことも大事だって」
「いいなぁー。一人暮らしとか憧れるんですけどぉー。加奈子もぉ、してみたいんですケドぉ」
「加奈子・・・。一人でちゃんと生活できるの?」
「はあ!?加奈子だって、料理や洗濯くらい出来るようになったっつーの!」
冗談で言ったんですから、キレなくても良いでしょうに。
「まあ、俺だって、色々出来るようになったくらいだしなあ」
ある意味似た者同士ですね、あなた達。
そんな話をしているうちに、ほどなく目的地に到着しました。
「―――着いたぜ。ここが俺の家」
少し古ぼけた外壁に、カバーの変色した蛍光灯、ここだけは物々しささえ感じるエントランスの防犯設備。
現在のお兄さんの自宅は、ここまで歩いてくる間にもいくつも見たような、5階建てのマンションでした。
飾りっけの一つも無く、とても貧相なマンションですけれども、普通の大学生の住居はこんな感じなのでしょうか?
いえ、桐乃から聞いた話だと2部屋あるそうなので、これでも並の大学生よりは良い住居なのでしょうね。
暗証番号を入力して、階段で3階へ。
階段を登って右手に3つ目の部屋がお兄さんの部屋でした。
「・・・・・・なー、あやせ。ちょっとヘボくね?」
「・・・ちょっとだけ、ちょっとだけ、ね」
加奈子はお姉さんと、もっとちゃんとした綺麗なマンションに住んでいますし、
沙織さんのマンションも、豪華というほどではないですけど、十分に綺麗でしたし、
私の自宅も・・・その・・・近所の人からは豪邸なんて言われているみたいですし・・・
「―――さ、入って、入って」
入りました。
視界の真ん中に、等身大のお人形さん(可能な限り温和な表現にしたつもりです)が飾られてました。
「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああ!?」
「・・・なんですかコレは・・・」
玄関で度肝を抜かれ絶叫する加奈子。
そんなわたし達を尻目に、お兄さんはきょとんと首をかしげ、
「桐乃・・・かな?」
「んなものは見りゃわかんだろーがよぉ!?」
げしっ。無言で脇腹に痛めの蹴りを入れるわたし。
「お兄さん・・・コレは、なんですか・・・」
実の妹と結婚してしまう変態鬼畜お兄様に対しては愚問かもしれませんが聞いてみますと、お兄さんは脇腹を押さえてのたうちながら、
「い、いや、だって可愛いだろ?俺はただ、この造形と質感と触感が素晴らしいなあと思って、○リエント工業に注文しただけなんだけど。
・・・・・・そっ、それに、桐乃が居なくても寂しくないしね?」
「・・・・・・・・・」
ウソか本当か判断に困ります。えっちな目的以外でこのお人形さんを買う人間が果たして存在するのか否か。
お兄さんが『普通の』お兄さんでないことが、お兄さんの主張の説得力を大きく上げています。
「あやせってば何黙ってんだよぉ!こんなすっとぼけた言い訳がとおるわきゃねーだろぉ?こいつゼッタイ使ってるって!」
「わたしだって、普通ならそう考えます。でも、この変態鬼畜お兄さんは、実の妹じゃないと愛せない変態なんですよ!」
「まぁそーだわなー。コレも桐乃だもんなぁ」
「勝手に自分で納得しないでください!というかコレと桐乃を一緒にしないで下さい!!」
わたしは件のお人形さんをビシリと指差します。
「そうだな、ドールは本物の足元にも及ばないからな」
「お兄さんは黙っていて下さい!!!」
わたしの親友とお人形さんを比較するなんて、なんて非常識な人達なんでしょう!
「はは、さて―――玄関でいきなり素敵なリアクションを貰っちゃったけど、お客さんをいつまでも立たせておくわけにはいかないからな。上がれよ」
「「・・・・・・・・・」」
わたしは加奈子と顔を見合わせ、アイコンタクトを試みました。
(おい、どうするよぉあやせ・・・?次、何が飛び出すか分かったモンじゃねーよぉ)
(さすがに招待までしてもらって、『さようなら』というわけにも行かないでしょう?)
(・・・おめー、昔に比べてずいぶんと神経ふとくなったよな?)
だいたいこんな感じです。
「「お、お邪魔します」」
おずおずと上がらせてもらうわたしと加奈子。
玄関はそのままキッチンになっており、意外にも綺麗に整理されて(しかも日常的に使ってる様子すら)見えました。
その先には扉が3つ。手前の一つはユニットバスでしょうから、残りがお兄さんの勉強部屋と寝室でしょうか?
お兄さんは奥側左の扉を開き、わたし達に笑いかけました。
「こっちだ、どうぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
率直な感想を漏らすわたし達。
通された先は寝室(?)でした。
問題は・・・
・・・
・・・
いえ、先送りにするのは止めましょう。
問題は・・・その・・・まず目に飛び込むのは、部屋一面に貼られた・・・その・・・比喩的に言えば、ピンク色のポスター。
壁面には、縦長のガラスショーケース。もちろん中には、その・・・あられもない姿をした女の子のお人形。
部屋中に配置されたカラーボックスには、多分、全部えっちなゲームの箱・・・
「おい、きょーすけ」
「どうした、加奈子」
「んな『ある意味』スゲェ部屋が一人暮らしの参考になるかっての!」
キモすぎます。一般の大学生の住める部屋じゃありません。
「そうか?家賃だって都心近くにしちゃ安いほうだぞ?」
「そこが問題じゃねーんだよぉ!!!・・・ちなみに、いくら?」
「ここの家賃?えーと、確か・・・全部入れて5万2千円だったかな?」
仕事の収入を考えれば、仕送りがなくても何とかなる家賃ですね。
「むぅ・・・加奈子の給料でもなんとかなるかなぁ?」
加奈子の収入なら、ここの5倍高くても大丈夫ですよ。
まあ、加奈子にはナイショで9割までは貯金させてますけどね。
「まーせっかくだしぃ、見ていこーぜ、あやせ。他にもヘンなモンあるかもしれねーしぃ」
前向きですね。加奈子は部屋を見渡して、
「へー、きょーすけベッド派なんだ」
好奇心旺盛にベッド(もちろん、ピンクの髪の女の子がプリントされています)に近づくと―――金髪の女性が寝転んでいました。
「うへぇ」
「・・・・・・・・・・・・」
驚いて声を上げる加奈子。
さっきの位置からでも見える位置でしたけど、あまりの部屋の様子に、その女性に気が付かなかったのです。
「おにーちゃん?おはよぉ」
気だるそうな声。
「えっと・・・・・・・・・」
言葉に詰まったわたし達に代わり、お兄さんが寄ってきて、こう言いました。
「ああ、桐乃。昨日は疲れたろ?もうちょっと寝てても良かったんだぞ」
金髪の女性・・・お兄さんの実の妹・・・わたしの親友、桐乃です・・・
「おなかすいたぁ。あーんして」
「よしわかった!すぐ作ってくるからな!待ってろ!」
というか、何ですか、このお兄さんに甘えきっている妹は!?
「てゆーかー、そこに誰かいr・・・・・・・・・・あやせ!?」
「・・・・・・・・・」
わたしと加奈子の姿を認め、慌てる桐乃。
ああ、こういうときは、決まって・・・・・・・・・
「ち、ちがうの!昨日は京介が激しすぎて、ちょっと疲れただけなの!あーんしてとか時々しか言わないし!
っていうかいつもはあたしがあーんしてあげてるっていうか、お料理も二人の共同作業だし、ときどき京介が我慢できなくなって食べられない日もあるし、
そっ、そもそもときどきは家にちゃんと帰ってるし!洗濯物だって一日一枚しか盗んでないし!お風呂も一緒だし!!!」
桐乃は、なおも何かわめき続けていますけど、わたしのするべきことは決まっています。
『うへぇ』以外の言葉を忘れてしまった加奈子を地面に埋め、お兄さんに向かって、(やや引きつった)満面の笑みで、こう、言うのです。
「お兄さん、ブチ殺しますよ♪」
End.
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最終更新:2017年08月26日 13:52