392 名前:【SS】桐乃留学中「あやせ視点」1/3[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 01:14:33.48 ID:9G6uTGZh0 [1/3]
アニメ12話TRUE ROUTE~原作6巻第1章迄を、あやせ視点で書いてみました。
原作のネタバレを含むので、アニメしか見てない方はご注意を。


『桐乃、なんか様子おかしくなかったか?』

昨日お兄さんが変なこと言うから、いつもより早く来ちゃった。お兄さんの言葉を思い出しながら桐乃の家に向かう。
いつものように授業受けていたし、おしゃべりしたりお弁当食べたり。特に変わったところとか無かったよね?
なんてことを考えていたら、桐乃の家の前にお兄さんがいるのが見えた。
「おはようございます。お兄さん。珍しいですね、こんな時間に外にいるなんて。」
「…あやせ。おまえが今日ここに来るってことは、桐乃から何も聞いていないんだな?」
「なんのことです?それより桐乃いますか?」
「桐乃ならいねーぞ。」
「え?もう学校行っちゃったんですか?」
「…いや、あいつは今ごろ成田空港に向かってるはずだ。」
「何をわけのわからないことを言ってるんですか?」
「あいつはおまえにも俺にも何も言わずに、アメリカ留学を決めちまったらしい。」
「…どういう…こと…ですか…?私…桐乃から何も聞いていませんよ?」
「俺だって何も聞いてねえよ。ついさっき親父とおふくろから聞いたばっかだ。」
「…嘘、嘘、嘘っ!!桐乃が私に黙って行っちゃうなんて、ありえません!」
「あやせ…。気持ちはわかるが、そういうことだ。」
「…………。」

私はフラフラと学校の方へ向かって歩き出す。
あの嘘つきお兄さんの言うことだから冗談に決まってる…。
教室に入ればいつもの笑顔で『おはよう。あやせ。』って言ってくれるはず…。
そんな期待は無惨にも打ち砕かれた。

「高坂のことだが、今日からロサンゼルスにスポーツ留学することになった。おそらくみんなは何も聞いていないだろう。
本人の強い希望で、誰にも言わないでくれと言われててな…。だが、一年間だけの短期留学だ。
またすぐに会えるし、高坂もいろいろ悩んでのことだろうから責めないでやってくれ。」
教室はざわめいているようだったが、私にはよく聞こえなかった。
先生の言うことも途中からあまり覚えていない。
頭の中は真っ白だった。

私は毎日泣いた。さすがに人前では泣くことは無かったが、一人になると桐乃のことを思い出して泣いてしまう。
そんな日々が一週間ほど続いた。それでも撮影の日はやって来る。
今日は何回NG出しただろう?モデルを始めたころ、桐乃に言われた
『どんな時にも胸を張って、笑顔』という言葉だけを支えになんとか持ちこたえていたが、それももう限界だった。
…モデル、やめちゃおう…かな…。


393 名前:【SS】桐乃留学中「あやせ視点」2/3[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 01:15:19.69 ID:9G6uTGZh0 [2/3]
休憩に入りベンチでうつむいている私に加奈子が話しかけてきた。
最近私と同じ事務所に入り、今日は現場が一緒なった。
本当は私が撮影経験の少ない加奈子にいろいろアドバイスしてあげなきゃいけないのにね…。
桐乃が私にしてくれたように。あ…。また桐乃のこと考えたら涙が……。そんな私に加奈子は、
「桐乃、黙ってアメリカ行っちゃうなんて、薄情な奴だよな~」
「…………。」
いつもなら首を締め上げるところだけど、今の私にはそんな気力も無い。
「でもよ~、あやせもつらいと思うけどさ…、桐乃はもっとつらいんじゃね?」
私はハッと顔を上げた。加奈子の言う通りだ。
一人きりでアメリカへ行った桐乃。不安じゃないわけがない。
私以上に寂しい思いをしてるに決まってる。それでもきっと頑張ってるはず…。
「…ごめんね加奈子。このままじゃ…いけないよね。
よし!私、決めた。桐乃が帰って来るまでもう泣かない。だから…、加奈子も泣かないで!」
「うっ…ううっ…ひっく…ぐすっ」
私はそっと加奈子を抱きしめた。
そうだよね。加奈子だって寂しかったんだ。私は一人じゃなかった。桐乃のことを大切に想っている仲間がいるんだ。
いつまでもクヨクヨしていられない。私は桐乃のために何かできることはないだろうか…。
「あっ。そうだ加奈子。ちょっとお願いがあるんだけど。」


私と加奈子は事務所の社長にお願いをしに行った。
前に桐乃がインフルエンザで倒れた時と同じく、桐乃の仕事の穴を埋めたいと。
桐乃が帰ってきた時にいつでも復帰できるように。いつもの居場所に戻れるように。


それからの毎日は多忙を極めた。けれど仕事に追われていると、桐乃がいない寂しさを紛らわすことができた。
もちろん、桐乃のことを忘れるためなんかじゃない。むしろ毎日桐乃のことを考えている。
桐乃の居場所を護るための忙しさは、私の心の支えになっていた。


桐乃から連絡が無いまま三ヶ月が過ぎたある日、
麻奈実お姉さんの携帯を借りてお兄さんが電話してきた。
「ちょっと、おまえに聞きたいことがあってさ。」
「聞きたいこと?」
「おう。妹のこと―なんだけどさ。」
「桐乃の……こと、ですか。」
「ああ。あれから―おまえんとこに桐乃から連絡とか入ってるか?」
「……ないです。あれから一度も……。私からは、何度もメールしてるんですけど……。ぜんぜん返事……こなく、て。」
泣かないと決めていたのに、久しぶりの桐乃の話題に涙が込み上げてくる。
「お兄さん……私……桐乃に、嫌われちゃったんですかね……。」
「んなわけねーだろ!」

394 名前:【SS】桐乃留学中「あやせ視点」3/3[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 01:15:30.67 ID:9G6uTGZh0 [3/3]
突然声を荒げるお兄さんに、何か既視感を覚えた。前にもこんなことあったな……。
そうだ。桐乃の趣味のことで喧嘩して、私が涙声で
『その趣味って私よりも大切なものなの?』
『そんなわけないでしょ!』と、桐乃に怒鳴られたあの時だ。
「……あいつがおまえと喧嘩しちまって、どんだけ辛そうにしていたのか……。俺はよく知ってるよ。そんなあいつが、
おまえのこと嫌いになるわけがない。つかさ、そんなの、俺なんかが言わなくたって……おまえが一番分かってることだろが。」
「……そう、ですよね……。ごめんなさい。」
「いや、こっちこそ、悪かった……怒鳴っちまって。」
自分のことじゃないのに、こんなに必死で…、一生懸命で…。まったく…この二人は本当に似たもの兄妹なんだから…。
「お兄さん?あの、桐乃が、どうかしたんですか?もしかして、事故、とか―」
「いや、何にもないよ、安心しろ。」
嘘。お姉さんの携帯借りてまで私に連絡してくるなんて、何もないわけがない。
事故とかでないにしろ、桐乃からなんらかのメッセージがあったのかも……。
でもお兄さんは私に心配かけまいとして、きっと嘘をついている。
なんだかんだ言っても、この人はとても優しい…。きっと桐乃もお兄さんのこういうところが大好きなんだろうな…。クスッ。
そこで私はこんなことを口にする。
「桐乃が連絡してくることがあるとしたら……きっとお兄さんのところだと思うんです。
…………その時は、どうか、桐乃の力になってあげてください。」と。
心の底からそう思った。
「……分かった。」

そして通話を終えると私は一人つぶやく。

まかせましたよ。お兄さん。


それから数日後、桐乃から携帯に着信があった。
授業中で出られなかったが、留守電に謝罪と、明日帰るという旨のメッセージが残されていた。
折り返しすぐに電話したのだが、出てもらえなかった。急な帰国で手続きなどが忙しいんだろう。
私も留守電に、桐乃が成田空港に到着する日時は仕事で行けそうにないことと、
桐乃が家に戻ってきたら、都合がつき次第すぐに会いに行くよ。というメッセージを入れておいた。
……久しぶりに聞いたな…、桐乃の声……。思ったより元気そう…。
さすがはお兄さん。一年は帰らないと聞いていた桐乃を説得して、留学途中で連れて帰るなんて私には絶対無理。
きっとあの二人には、私の届かない…深い…深い絆があるのだろう。
あの日、私が気が付かなかった桐乃の異変を感じていたようだし…。
私はお兄さんへの敗北感を覚えながらも、心の中は妙に穏やかだった。

なんだか妬けちゃうな……。でも悔しいから今度桐乃に会う時は、お兄さんの前で、
おもいっきり桐乃に抱きついちゃおうかなっ!

~終~



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最終更新:2011年03月06日 02:51