614 名前:父兄参観【SS】 前編[sage] 投稿日:2011/03/04(金) 01:02:13.72 ID:k5w8AYo6O [1/3]
>>418を見て、自分なりに書いてみた

※※※
「京介、頼みがあるんだが」
「親父、起きても大丈夫なのかよ?」
「頼みを聞いてもらわんとな。俺の代わりに、桐乃の授業参観に行ってくれ」
「俺が?またなんでだよ?」
「見ての通り、俺はこんな状態で外出は無理だ」「私も、お父さんの看病や、警察から何かの連絡が入ったりするといけないから
付き添ってなきゃいけないのよ」
「幸い、お前は今日高校の創立記念日で休みだと聞いている。
頼む、代わりに授業参観に行ってはくれまいか」
「私からもお願い」

桐乃の授業を見に行く話は、すんなりとは受け入れにくいのだが、
さすがに両親の頼みを無下にはできない。俺は行くことにした。

しかし、俺が行ったってのがばれるのもマズイから変装してくか…
そう思い、例のマネージャースタイルでいこうと支度してたら、
毎度のことながらお袋がノックせずに入ってきた。
「京介、何その格好?」
「授業参観に行くんだからビシっとしてかないとマズイだろ」
「中学校にそのエージェントスタイルで殴り込むのはオススメできないわね
父兄なんだから、高校の制服で行ったほうが無難だと思うわよ」
お袋の話ももっともだ。それにマネージャースタイルだと、加奈子との遭遇で一悶着ありそうだしな。
というわけで俺は着慣れた制服で桐乃の学校へ向かう。

※※※
校門の掲示に従い、事務室で受付を済ませ、案内図を見ながら桐乃の教室を目指す。

「お兄さん!あ、あなたがどうしてここにいるんですか!」
おっ、早速あやせに遭遇とは。まあ、驚いてるのはあやせのほうだろうな。
「まさか思い余って桐乃や私の学校にまで侵入してくるとは…」
「見ての通り、今日は桐乃の父兄として、ちゃんと受付をしてから校内にいるわけだが」
「確かに、お兄さんは桐乃の父兄ですが、保護者と言われると、ちょっと違和感ありますね」
それは大きなお世話だ。
「と、とにかく、教室へ案内しますね。お兄さんはこの学校は初めてでしょうから」
「ああ、助かるよ」
俺はあやせに従って校内を進む。
「今日は私達のクラスは道徳の授業なんです」
道徳ねえ、何か眠たくなりそうな予感が…
「何でも、『家族について考えてみる』そんな授業のようですよ」
家族ねえ。てか、そんな題材の時に俺が参観とか、桐乃はどう思うんだろうな?
何か不吉な予感がしてくるんだが……

※※※
手洗いにいくあやせと別れて教室に入ると、やはり生徒や他の保護者からの視線を感じる。
まあ、高校の制服姿で俺が生徒の兄だとは理解して貰えてはいるようだが。
ふと、加奈子がこっちを見ているのに気づいた。やべえ、バレてんのか?
…と思ったんだが、加奈子はどうやら俺の隣にいる若い女の人を見てるようだ。するとその人が
「あなたも、生徒さんの兄弟?」と話しかけてきた。
「あ、はい。高坂桐乃の兄です」
「私は来栖加奈子の姉よ。よかった、同世代の若い子がいて。周りがいい大人ばかりだと一人だけ浮いてる感じでね」
へえ、加奈子の姉貴さんか。
授業が始まるまで加奈子の姉さんと話できたのはよかったが、お陰で俺が桐乃の兄貴だということはクラス中に知れ渡ったみたいだ。
桐乃は知ってか知らずか前を向いたままこっちに顔を向けようともしない。

616 名前:父兄参観【SS】 後編[sage] 投稿日:2011/03/04(金) 01:05:41.05 ID:k5w8AYo6O [2/3]
※※※
授業が始まった。先生はまず、有名な文学作品の親子関係から触れていく。
絶対口をきいてはいけないとの誓いを破って、母の名前を呟いた『杜子春』、
自分が虎になったのは己の詩作の余り妻子を蔑ろにしてきた事も理由であると李徴が悟る『山月記』……
様々な作品から、親子について考えさせる内容に、生徒だけでなく保護者も皆聴き入っている。
と、そこで先生が、家族についての思いを文章にするように生徒に課題を出す。
生徒たちは真剣に取り組んでるようだ。桐乃はもちろんのこと、あの加奈子さえも机に向かって熱心に書いているようだ。

記入時間が終わり、先生が生徒を指名して書いたものを発表させていく。
何人目かに、桐乃が指された。

「今日は後ろに、私の兄が来ています。」
他の生徒たちが振り向く。
おい、親父やお袋の話でなくて、俺のことかよ!!!

「割と最近まで、私と兄の仲は、かなり冷めたものがありました。
兄の存在なんか忘れていたかのように振る舞っていた時期もありました。
そして兄も私の存在など意識してはいないのだと思い込んでいました。
しかし、ある事をきっかけに、私は兄が、決して私を忘れてなどはいないということ、
兄が私のことを想って行動してくれているのに気づきました。
私は、どうも素直に感謝の気持ちを伝えるのが苦手なので
この場を借りて、兄に感謝の気持ちを伝えたいと思います。
『兄貴、いつもいろいろありがとう』と。」

拍手が教室中に響いてたが、なんだか俺はここからぼうっとしてしまい、その後の保護者会も半分上の空だった。
俺の妹がこんなに素直に気持ちを伝えるわけがない……

「何ボケっとしてんのよ、アンタ」
いつもの妹の声で俺は我に帰る。
「どうやらあたしが見事なまでに『兄を慕う素晴らしい妹』を演じてみせたのに
あんたも酔いしれちゃったみたいねw」
「うっせえな、お前のことだから、優等生ぶった模範演技だって分かってたよ!」
「はいはい、シスコンが強がっちゃって!あんたの目元、涙の筋が残ってんですけどw」
俺は思わず目元に指をやる。
「うわあ、マジで泣いてたの、キモッ、キモッ」
やれやれ、妹様のことを少しでも信じてしまった俺の負けですか……

「それはそうと、一緒に帰るわよ」
「俺とか?」
「他に誰がいるのよ。まだ『兄を慕う素晴らしい妹』を演じてる途中なんだからね!」

そんなわけで、俺は桐乃と家に帰る。
途中で桐乃が「今日は来てくれてありがとね」とか
「まさか兄貴がくるとか、ホントびっくりしちゃったんだから」
とか語りかけてくるのも『演技』なんだろうか?
まあ、後ろをつけてくるあやせと加奈子に対しての演技かもしれんが。

「まあでも俺は、お前の授業参観に行って、よかったと思う。
お前はほんと、世界一の妹だよ」
「…いきなり何言ってんのよ、シスコン兄貴が」


「…兄貴の癖に演技がうますぎるじゃん…馬鹿…」



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最終更新:2011年03月06日 02:58