647 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/04(金) 12:54:32.71 ID:rKfoYU/xP [1/3]

「おとうさん、だいじょうぶ…?」
「くっ…俺としたことがなんという失態を……っ!」
「ほーら、あんまり動いたらよくなるものもよくならないわよ。大人しく寝ててくださいね」

ある日の朝、おきてきてリビングにだれもいないなーと思ってたら、親父達の部屋から声がきこえたのでのぞいてみると親父が赤い顔をして横になっていた。
話の流れからしてどうも風邪をひいてしまったらしい。
あれ?でも今日って……

「この様子じゃ今日の桐乃の授業参観は無理そうね」
「いや、俺は行くぞ!!桐乃の可愛い姿をこの目で「それでその可愛い娘のお友達に風邪を移してもいいと?」む、ぐぅぅ……」
「お父さん、むりしないで。あたしはだいじょうぶだから」
「き、桐乃」
「ごめんね桐乃。お父さんこんなだからちょっとお母さんも看病してあげないといけなくて…」
「ううん、へいき。だいじょうぶだよお母さん。あ、お兄ちゃんおはよう」
「うん、おはよう桐乃。お父さん、風邪引いたの?」

なんだか入りづらくて入り口で立っていたんだけど、桐乃が気付いてこっちをむいた。
その顔はどっかしょんぼりした感じで、なんかの拍子に泣いてしまうんじゃねえかってぐらいに暗く見えた。

「いってきます」「いってきます」

桐乃と二人で連れ立って家を出るけど、やっぱり桐乃は元気がなかった。
当たり前か。桐乃は今日のことずっと楽しみにしてたし、すっげぇはりきってたし。

「お父さん達、ざんねんだったな。お父さんも楽しみにしてたのに」
「しかたないよ。かぜひいてるお父さんにむりしてほしくないもん」

桐乃はこんな年なのに我慢を知ってる。普通ならなんでなんでとさわいでもおかしくなんだけどな。
かしこいことはいいことだけど、こんな暗い顔してうつむいてる桐乃を見てほっとけるわけがない。
だから俺はそんな桐乃の頭をぐりぐりとなで回す。ちょっとでも明るい顔をしてほしいもんな。

「なーに、だいじょうぶだって。お父さんならすぐによくなるよ」
「あっ、あっ、もうお兄ちゃん、かみのけぼさぼさになっちゃうよー!」

そうやってプンプンと聞こえてくるような顔をして、俺をポカポカと叩いてくる桐乃の顔はさっきよりは明るくなってた。
「おー痛い痛い、にげろー」「もう!おにいちゃんってば!」そんなやり取りをしながら学校につく。

「んじゃ、な。桐乃」
「うん、お兄ちゃん」

学校での別れぎわ、そういって手を振る桐乃の顔はひどくさみしそうに見えた。


授業中、別れぎわに見えた桐乃のさみしそうな顔が、どうしても頭から離れない。
たしか桐乃の授業参観、午前中だったよな。
周りにはお父さんお母さんがたくさん来てる中で、ポツンと一人で座る桐乃の姿が浮かんでは消える。
なんとかしてやりたいけど、俺にできることなんて……
そんなことばっかり考えて授業に集中できずに時間はどんどん過ぎていく。
1時限、2時限、3時限……4時限目入ろうとする直前、俺は決心した。

俺が桐乃の授業参観にでる!

先生に怒られたってそんなことしるもんか。桐乃のほうが今は大事だもんな。
そうと決まればはやく行動にでないといけない。時間はもうほとんど残ってないし。
俺はかくれるように体をかがめながら教室を出た。

待ってろよ桐乃。今、兄ちゃんがいくからな!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


お父さんがかぜをひいた。
きょうはじゅぎょうさんかんの日で、お父さんはすっごくたのしみにしてて、あたしもたのしみにしてた。
でもかぜをひいてこれないってきいて、あたしはすごくかなしかった。
でもしかたないよね。お父さんにむりしてほしくないもん。あたしはだいじょうぶ。

がっこうにいくまで、すごくすごくかなしかったけど、そんなあたしをお兄ちゃんはちょっとらんぼうに頭をなでてくれた。
いつもとってもやさしい大好きなお兄ちゃん。それがうれしくて、でもちょっとだけまださみしくて。

がっこうについて、おともだちとしゃべってると、どんどんしらない人たちがきょうしつに入ってくる。
きっとみんなのお父さんとかお母さんなんだろうな。
すこしだけ、きてないかなってお父さんをさがしたけどやっぱりいなかった。
いるわけないよね。お父さんかぜひいちゃったもん……。
わかってたはずなのにちょっとだけ、ほんのちょっとだけなきそうになっちゃった。

しらない人がいっぱいきててきんちょうしたけど、やっと一じげん目がおわった。

「きりのちゃん!きりのちゃんのお父さんってだれ?きてるよね?」

おともだちにそうきかれて、あたしはすぐにへんじはできなかった。

「えと、お父さん、きょうかぜひいちゃったから……」
「ええー!じゃあきょうお父さんきてないの?お母さんも?」
「うん……お父さんみてあげないといけないからって……」
「そっかー、ざんねんだね。あ、お母さん!!ごめんね、きりのちゃん。あたしお母さんのところいってくるね」
「うん」

うれしそうにお母さんのほうにはしっていくおともだち。うらやましいな……

それから2じげん、3じげんめがおわるたびに、お母さんやお父さんのところにはしっていくおともだちをみるとにむねがいたかった。
それから、すごくさみしかった……。
4じげんめは図工。きょうはせんせいが、きてくれてるお父さんやお母さんのにがおえをかくって言ってたのをおもいだした。
あたしのお父さんもお母さんも、きょうはきてないのに……
じゅぎょうがはじまって、クレヨンをにぎってもどうしてもてがうごかなくて。
なきそうになってたあたしの耳にカラ、ってドアのひらく音がきこえた。
なんとなく気になって、そっちのほうをむいたら……入ってきたお兄ちゃんと目があった。

え? なんでお兄ちゃんがここにいるの? え? え?
もしかして……きてくれたの? お兄ちゃんもじゅぎょうあるはずなのに、きてくれたの?

そうおもったら、すごくうれしくて、じわって前がみにくくなって。
お兄ちゃんはそんなあたしをみて、あわててこっちにこようとしてせんせいにみつかっちゃった。
せんせいがなにかお兄ちゃんにいって、お兄ちゃんはなにかいいかえしてたけど、そのうちもう一人せんせいがきて、お兄ちゃんをつれていこうとした。

お兄ちゃんがつれていかれちゃう。せっかくきてくれたのに! やだ! いっちゃやだ!

あたしはいつのまにかいすから立ってお兄ちゃんのほうにはしってた。


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こそこそとかくれながら移動してやっと桐乃の教室についた。

(おじゃましまーす)

あまり音を立てないように教室の戸を開いて中へと入る。もちろん先生には見つからないようにしっかり注意してだ。
少しだけ開けたすきまにすべりこむように教室に入って、桐乃を探す。
桐乃は思ったより簡単に見つかった。教室の真ん中のほうでぎゅっとクレヨンをにぎっていた。
俺が見つけると同時に桐乃もこっちをむく。どうも開けた戸の音が聞こえてたみたいだ。もしかして先生にも聞こえちまったか?
ぱちっと目が合った桐乃は数回パチクリとしたあと、じわっと涙を目にためだしてしまった。
それにあわてて、今の状況を忘れてかけよろうとしたのがまずかった。
とうぜんのごとく先生に見つかってしまう。やっちまった……

「あら、あなた何年生の子かしら?もう授業は始まってるわよ?」
「え、えと……」
「何しにきたのか知らないけど、早く教室に戻りなさい。先生に怒られるわよ?」
「じ、実は今日妹の授業参観で……」

やばいなぁ。この状況、どう考えても俺が悪いし……どうやって切り抜ければいいんだ……
大した言いわけも思いうかばず、言いよどんでるうちに話はどんどん進んでいく

「それで妹さんの様子を見に来たの?それなら休み時間なり何なり出来たでしょう?
 もう授業は始まっているのだから教室に戻りなさい」
「で、でも……!」
「あ! やっぱりここにいやがったか! 探したぞ高坂」
「げ、住人(すみひと)先生」
「あら、須礼(スレ)先生。もしかしてこの子先生の所の?」
「そうなんです。すいません、ウチの生徒が迷惑かけまして……ほら高坂、妹が心配なのはわかるが今は授業中だろ?教室に戻るぞ」
「うわっ!先生、ちょっと待って……!」

まずい、ようやくここまでこれたというのに。スマン桐乃……

「せんせい!まって!」

もうだめだと俺があきらめかけてたその時、声をあげて桐乃がかけよってきた。
そのまま俺の腕に抱きついてくる。
先生達はその声に驚いたみたいに二人して桐乃に振り向いた。

「あの、お兄ちゃんをつれていかないでください!」
「あら、もしかしてこの子桐乃ちゃんの?…そうは言ってもね、桐乃ちゃん。お兄ちゃんも授業があるから……」
「お兄ちゃんは!きょうあたしのおとうさんがかぜひいちゃって、これなくて、だからきっとそのかわりにきてくれて……だから!」
「高坂、そうなのか?」

桐乃に直接そういったわけじゃないけど、たしかにその通りなのですなおにうなづいた。
桐乃も、じっと先生をみつめる。
そうすると先生は困った顔をして頭をガリガリとかきはじめた。

「ったく……あとで怒られるのは俺なんだけどなー……今でこの様なんだから将来ああもなりもするわなー…コノシスコン……」
「せ、先生?」
「わかった。わかったよ、ったく。今回だけ、今回だけだからな」
「先生、よろしいんですか?」
「しかたないでしょ。高坂の親が来てないってのは本当みたいですし。第一こんな顔で懇願されちゃ断れませんって。       アーモウロリリンカワイイヨロリリン」

なんだか先生にすごく危ないものを感じる。気のせいならいいんだけど。

「はあ。先生がよろしいというなら構わないんですが…」
「そのかわり!高坂は放課後残れよ? 居残りで反省文しっかり書いてもらうからな」
「えー…」

正直面倒くさい。ここまできたらもういいじゃんよーと思う

「いやならいいんだぞ、ん? そのかわりお前の大事な妹が泣いてもしらんがな」
「よろこんで書かせていただきます」
「よろしい」

そう言われたらしたがわざるをえないでしょうよ。それに……

「じゃあ、お兄ちゃんここにいていいんですか?」
「ああ、もう連れて行ったりしないよ」
「やったぁ!」

こんなうれしそうな桐乃の顔を、もう暗くしたくないしな。

「じゃあ先生、高坂のこと、よろしくおねがいします」
「はい。まかされました」

そういい残して住人先生は教室に戻っていった。ありがとう。先生。

「それじゃ桐乃ちゃん、席に戻ってくれる?高坂くんも、後ろで静かに見ててね」
「「はーい」」

さっきまでとはうってかわって、桐乃はまるでスキップでもしそうなほどウキウキしながら席に戻っていった。
席について、うーん、とちょっと悩んでたみたいだったけどすぐにクレヨンを持って絵を描き始める。
時間が結構たってて間に合うか心配だけど、元気がでてよかった。俺も無理してここに来たかいがあったな。でも――

「ふふ、いいお兄ちゃんよね。なんだか息子も欲しくなってきちゃった」
「そうよね。あの子もあんなお兄ちゃんがいて幸せよね」

ほかのおばさんたちの話が聞こえてすっげぇ恥ずかしかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


お兄ちゃんとのかえりみち。
お兄ちゃんはおそくなるからまってなくてもいいっていってたけど、きょうはいっしょにかえりたかった。
わたしたいものもあるもん。だからあたしはお兄ちゃんがでてくるまでまってたの。
がっこうからでてきたお兄ちゃんはあたしをみつけてびっくりしてた。

「帰っていいって言ったのに待ってたのか?」
「うん、だっていっしょにかえりたかったもん」

あたしがそういったらお兄ちゃんはそっぽむいちゃった。おこっちゃったかな?
でもね、お兄ちゃんにどうしてもいいたかったことがあったから

「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?なんだよ?」
「きょうは、きてくれてありがと!それとね、これ!」
「え、これって…俺と桐乃か?」
「うん!」

いつだってやさしいやさしいお兄ちゃん。だからおれいがしたくて、きょうがんばってかいたんだよ。

「うん、上手く描けてるじゃんか。これ俺にくれるのか?」
「うん。もらってくれる?」
「あたりまえだろ。ありがとな、桐乃」

あさとはちがってやさしくなでてくれる。このときがあたしは一ばんすきなんだ。
これからもずっと、こんなふうにいっしょにいれたらいいな。


お兄ちゃん、だいすき!



End





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最終更新:2011年05月01日 22:30
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