406 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/17(木) 23:20:56.70 ID:Jc2AAtydP [5/6]

天気のいい、ある朝。
俺は目の前でコトコトと煮詰まる液体をお玉で掬い、少し冷まして口に含んだ。

「うし。今日も出来は上々っと」

ん? 何してんだって? 味噌汁作ってるんだよ味噌汁。日本人って言ったらやっぱ朝は味噌汁だろ。
あん? そうじゃなくって何でお前がそんなもん作ってるんだって? それには深くも浅い、大きいがとても小さい事情があってだな――

ziririririri!!

キャー!――ナンデコンナ―コクチコク!!

ドタバタドタバタ

っと。どうやら起きたみたいだな。こっちも準備できたし丁度いい時間だな。
たぶんすっげえ焦った顔で下に下りてくるんだろうがそんなもんは全部織り込み済みだ。何せ原因は俺だし。
机に二人分の朝食を用意して待つこと数分。そいつは般若もかくやという表情をしてリビングに飛び込んできた

「ちょっとアンタ! 何で起こしてくれないわけ!? あたし今日早いって言ったじゃん!!」
「まあまあ、落ち着け桐乃」
「落ち着いていられるか! ってこんなことすらしてる暇すら惜しいのよ! あたしもう出るから!!」
「ちょ、待てって! 大丈夫だから! 時間余裕あるから! 時計見てみろって!」
「は!? アンタ何言って――何これ、どういうこと?」

怖い! すっげえ怖い! この冷めた視線昔のこいつを思い出すけど今はそんな場合じゃねえ!
うん、ここは素直に白状しよう。こうなった桐乃は下手に嘘つくと後が怖い。

「いや、ほら、お前もさっき自分で言ったけど、今日朝早いって言ってただろ?」
「そうね」
「でもほら、なんちゅーか……にもかかわらず俺達はハッスルしちゃったわけけで……」

ここまで言った時に桐乃の顔がカァァァっと赤くなる。
今まで何度もああいうことはしてきてるわけだが、桐乃はいまだにこの手の話題には初々しい反応を示す。
こういうところは素直に可愛いと思うんだけどね。言ったら真っ赤な顔して「キモイキモイ!」とか言いながら殴りかかってくるから言わないけどな。
エロゲの話は普通に出来るのになんでこれは駄目なのかいまだにわからん。二次元と三次元は云々〜がここにも適用されてるんだろうか?
閑話休題。話を戻そう。

「〜〜〜っ! そうよね! だから今あたしがこんなに慌ててたんだケド!」
「アレは俺も悪かったって! でだ。お前寝不足になると朝がてんで弱くなるだろ?」

これは一緒に寝るようになってからわかったことだが、桐乃はしっかり寝れた時とそうでない時の差が非常に激しい。
特に寝起き。寝不足のときは起きて20分ぐらいはぼーっとしてるんだよ。その間は理性がゆるくなってんのすっげえ欲望に忠実なんだが。
一度ほぼ半裸の状態で抱きつかれたときは焦った。朝からハッスルしないように理性を総動員しましたとも。

「そうなったら俺でもお前起こすの一苦労だしよ。どうしたらいいかと考えたんだよ。俺は早起きはもう慣れっこだしな」

こういうかたちで桐乃と過ごすようになってからはもっぱら家事全般が俺の仕事になっちまった。
だからどんなに遅く寝ようと俺は早起きが出来る体になっちまったわけである。
ま、桐乃はいまや引っ張りだこのスーパーモデルだし、こうなっても仕方ないしな。今更どうこういうこっちゃない。
俺は俺で仕事には特に影響されてないから問題ないし。

「そこで閃いたのが――」
「部屋の目覚ましの時間を「1時間」も早めることだったって?」
「そういうことだな」

桐乃は責任感が強い。だからこそどんなにつらくても仕事には手を抜かない。時間だってしっかり守る。
仕事モードに切り替わった桐乃は頭も一瞬でさえる。
だから悪いとは思いつつも、それを利用させてもらったのである。でも流石に悪いことをしたかと今更思ってしまう。

「わりいな。上手い手が思いつかなくてよ。そのかわりまだ時間はあるから少し落ち着けよ。ほい、朝飯」
「……ふぅ。納得は出来ないけど、わかった。でも今度からこんなこと絶対ごめんだかんね? 精神的にきつい。」
「了解。今日も遅いのか?」
「あ、うん。多分今日も遅くなる。なんかゴメンね。アンタにばっかり家のこと任せちゃってさ」
「いいんだよ。お前がこの仕事続けたいって言ったときから覚悟はしてたし。それに今更だろ?」
「それもそうね。……あの、さ」
「ん?どうした?」
「今度の週末、休みもらえたんだ。だから久しぶりに……」

ああ、そういうことね。確か最後に休みがもらえたのが一月ぐらい前だったか?
家でゆっくりしててもいいと思うがこいつは行きたいところがあるようでどこか期待した目でこっちを見てくる。
ここは応えてやるのが夫としての勤めかね。

「じゃあ、久しぶりに二人で出かけるか。じゃあどこに「秋葉! 秋葉行くわよ!」……へいへい。ったく、お前も変わらんな」

そう、こいつはいまだにエロゲに手を出し続けているのである。
好きなものは諦めない。それはこいつの尊敬できるスタンツだがここまで来ると感心するより呆れるというもんだ。

「わーったよ。じゃあそのかわり晩飯頼むぜ」
「え〜。普段仕事で忙しいあたしに楽をさせようって発想はないわけ?」
「仕事があるのは俺も一緒だっつの。いいじゃねーかたまにはよ」
「なんでよ?」 アンタのほうがずっと上手に作れるじゃん。別に全然悔しくなんかないケド」
「口を尖らせてそんなこと言っても説得力皆無だっつの。……俺だってたまには奥さんの手料理が食べたいんだよ」
「あ…」

こいつがつくる料理はお世辞にも上手いとはいえない。でもこれはそういう問題ではないのだ。
俺の気持ちの問題とでもいうべきか? ともかく俺は桐乃の料理が食べたかった。

「……しょ、しょうがないわね。そこまで言うんだったら作ってあげなくもないケド」
「おう。期待してるぜ?」
「ふんっ。絶対あんた唸らせてやるんだから」
「腹痛でか?」
「殺す」
「調子に乗りました。すいませんでした」

本気で言ってないのはわかるんだけど、プレッシャーだけは本物なだけに怖いったらありゃしない。

「……バーカ。さて、そろそろいい時間だから出るわ。戸締りよろしくね」
「あいよ。気をつけてな」
「うん」

玄関まで見送るのももはや恒例だ。

「じゃ、いってきます。…の前に」
「?」
「いつもありがとね、京介。愛してる」

ちゅ

「えへへ。じゃ、いってきます!」

バタン

……やられた。顔が熱いのがわかるから余計に照れくさい。あいつも出て行くとき耳まで真っ赤だったから今頃顔に手を当てて悶えてるだろう。
こりゃ顔洗わないと熱引きそうもないな。あいつもやってくれるわ

俺は洗面所に向かいつつ火照った顔を押さえながら、今日はいい日になりそうだと思ったのだった。



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最終更新:2011年03月20日 22:26