530 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/03/18(金) 22:48:03.38 ID:LMy5gHpJ0 [2/2]
今朝、アメリカより電話があった。 娘の桐乃が、留学先で体調を崩しがちらしい。
もとより、桐乃の留学には反対していた。
言葉も食事も習慣も異なる異国の地。
日本人よりも体躯・身体能力に恵まれた外国人のライバル達。
それらの問題に相対するには、桐乃はまだ幼すぎる。 案の定、心配した事になってしまったではないか。
即刻、署の同僚に連絡し
急だが暫く有給休暇を取る事を告げると、桐乃の勧めで購入したパソコンにて、航空会社のホームページを開く。
幸いにして、今日の最終便の席を確保する事ができた。
(この時ばかりは、”インターネット”なる物の存在に感謝した。)
桐乃がアメリカに発ってから、少しずつ旅行の準備も進めていた。
このような事態に陥らずとも、娘の様子を見に行くのは親としては当然であるしな。
よって、最低限の身支度を整えるだけで、全てが事足りた。
あとは、時間を見て空港へ向かうだけ、なのだが―――
「 ただいま〜 ……って、なんで親父がいるんだ!? 」
時刻は四時を少し回った処。 そうか、もう京介が帰ってくる時間か。
確かに、驚くのも無理はなかろう。
平日のこのような時間に、家に俺がいるのだからな。
だが、京介に詳しく事情を話すほどの時間は―――
「 まあ、それなら丁度いい。 親父、大事な話があるんだ。 ……桐乃のことで。 」
「 …………どういう事だ。 」
まさか、ここで桐乃の名前が出てくるとはな。
だが、京介の目は将に真剣そのものだ。
その眼差しは、一年前に、桐乃のいかがわしい(と思い込んでいた)趣味の件で俺に詰め寄ってきた
あの時を思い起こさせる。
いいだろう。お前の話を聞こうではないか。
「 ……まずは、このメールを見てくれないか。 」
差出人は、当然ながら桐乃で、着信時刻は…… ほんの一時間前ではないか。
それで、肝心の内容は…………
「 ………………………どういう事だ、これは。 」
「 それを聞きたいのは俺のほうだよ、親父。
そもそも、親父にだって分かってるはずだろ? 桐乃が、どれほどあの趣味を大事にしているのかは。 」
それについては、言うまでもない事だ。
一年前、このようないかがわしい趣味は即刻止めろと命じた時、桐乃は泣きながら俺に掴みかかってきた。
京介に諌められ、渋々ながら認めた後もずっと俺なりに
あの趣味に関わる桐乃を見続けてきた。
そうして得た結論は――――
あの時、京介の言葉を聞き入れなかったら
俺は、桐乃の掛替えのない物を踏み躙る処だったのだ、という事だ。
「 あのオタクグッズのコレクションは、桐乃にとっては命よりも大切なものなんだよ。
ましてや、あの中には、俺と黒猫と沙織とあやせとであいつにあげたプレゼントだって含まれてるんだ。
そんな物を捨てろだなんて、そんな馬鹿なコトをあいつが言うなんて、絶対にありえねえんだ。」
「 ………………………… 」
「 思うに、コイツは桐乃からのサインなんだ。 あいつは、こんなトチ狂ったことをほざいちまう位に
向こうで追い詰められているんだよ! 」
「 ………………………… 」
「 あいつはアメリカに発ってから、誰とも一切連絡を絶っていた! あやせや黒猫や沙織とも!!
なのにあいつは、あやせでも黒猫でも沙織でもなく、この俺に話を持ちかけてきた!!
あやせは、桐乃の力になってあげてくれ、と言ってくれた!!
黒猫は、ぐずぐずしないで早く妹を助けに行け、と俺の尻を引っ叩いてくれた!! ――――だから、頼む親父!!!!
オレをアメリカに、桐乃の元に行かせてくれ!!
これはあいつからの人生相談なんだ! だから、俺はあいつの話を聞いてやらなきゃなんねぇんだよ!! 」
「 ………………………… 」
………………そういう事か。
今、桐乃は助けを必要としている。
それだけは確かな事だ。
だが、その助けになってやれるのは―――
俺でも学校の友人でもなく、京介だけだ、という事か。
ならば、俺が言える事はただ一つだ。
『 よし! 行ってこい! 』
京介は、中学の時の修学旅行でパスポートを作っていた筈だ。
旅行のための準備は、既に済ませてある。
『 必要なものはすべてその中に入っている。 遠慮なく持っていけ。 』
…………ふっ。 京介の奴、何を呆けた顔をしているのだ。
まあ、確かに色々と俺に尋ねたい気持ちは分かる。
何故、このような時間に俺が家にいるのか。
何故、旅行の準備が万全なのか。
だが、そのような事は瑣末な事だ。
今のお前は、ただ一つ、桐乃の事だけを考えていればいい。
だから―――――
『 ―――京介。 すべておまえに任せる。 頼むぞ。 』
………5巻P266に続く。
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最終更新:2011年03月20日 22:30